先端計測分析技術・機器開発小委員会(第8回) 議事録

1.日時

平成17年6月13日(月曜日) 16時~18時30分

2.場所

古河総合ビル 6階第 F1会議室

3.出席者

委員

 二瓶、小原、志水、中村、西野、原、松尾、森川各委員

文部科学省

 小田大臣官房審議官、根元研究環境・産業連携課長、室谷研究環境・産業連携課研究成果展開企画官、鎌田研究環境・産業連携課課長補佐

オブザーバー

(有識者)田村北海道大学教授、竹野株式会社東芝研究開発センター主任研究員、黒田大日本印刷株式会社技術開発センター主席研究員
 佐藤独立行政法人科学技術振興機構先端計測技術推進室長

4.議事録

(◎:主査 ○:委員等 △:事務局の発言)

(1)先端研究分野における計測分析技術・機器に対する研究者ニーズについて

(資料2に基づき、小委員会(第7回)において紹介された機器開発・要素開発の領域について説明。)

北海道大学電子科学研究所 教授 田村 守 氏

委員等
 現在、無侵襲の画像診断が非常に広く行われている。これは、私たちの体の臓器や組織の変化を主に見つける方法で、現在、X線CTやMRI、超音波、内視鏡、PETなどいろいろな方法がある。ただこれらは、病気になったときの細胞の形や組織を見るのに対して、現在は幾つかの病態の予測が可能になってきた。遺伝子の異常や機能の異常を、症状が出るはるか前に早く見つけようといった動きが、21世紀の今後の大きな流れとして生まれつつある。
 そこには、光イメージング、分子診断、分子イメージングといった方法がある。
 アメリカでは、2つの大きな学会が、それぞれ同時に1990年からバイオメディカル・オプティクスをスタートさせた。また、NIH(National Institute of Health)が 2002年に、光を使ったバイオメディカル・イメージング・エンジニアリングの研究所を作った。年間500億円程度の予算規模である。2003年には、NSF(National Science Foundation)がバイオフォトニクス・サイエンスという研究所を設立した。
 2003年にヒトゲノム・プロジェクトが終わり、今後10年の大型プロジェクトとして、2005年、つまり今年から、NIHに新しくMolecular Library and Imagingというプロジェクトがスタートした。これはNIHだけで年間約700億円もの規模である。このプロジェクトは、生体の中で1個の分子の機能を細胞の中で明らかにし、まったく新しいイメージング技術というものを作るという、非常に壮大な10年計画である。生体が営む多彩な機能を、光の技術を使って分子のレベルで生きたまま測定し、その成果を病態の診断、予測に生かすのである。
 日本では経済産業省のプロジェクトで光CTが完成した。これは世界に与えたインパクトは大きかった。ここから一斉に欧米でイメージングというものが始まった。それから現在、光を使った早期診断として、内視鏡を使ったプロジェクトが進んでいる。また、1個の分子を検出できるといった光の能力を利用した臨床検査方法のプロジェクトが進んでおり、BSEの超高感度自動診断を目指している。もう一つは、分子イメージング、光イメージングのフィジビリティーがスタートしている。
 この20年間で、私たちの体で光がどのように振る舞うかという理論が随分進んだが、現実的には、多重散乱系の分光計測という学問分野を開拓しなければならない。
 今後、三次元の光イメージングがどうしても必要である。光による三次元画像を作るときのキーポイントの一つは時間分解計測である。ピコ秒、フェムト秒の時間分解計測を使うという方向と、波長にして700ナノメートルから1.6ミクロンまでの近赤外領域の光の技術を利用すること、もう一つは数学的な三次元の再構成で、非常に複雑な問題を解く手法、これらがこれから要求される大きな分野ではないか。
 また、病院だと計測時間や計測の環境を一定にできない。それから、統計的に誤差が何パーセントということは、人に関しては無意味であり、統計的な計測は不可能である。そこをどう突破するかが重要である。
 そのために、光イメージング、近赤外領域、時間分解計測法、三次元の画像再構成、光造影剤の開発が必要になってくる。変調分光法、拡散波分光法、相関分光法は、諸外国では非常に大きく進んでいるが、日本ではまったく皆無である。この分野はいわば生体系を計測する特有の分光学として、非常におもしろい大きな分野になっていくだろう。
 最終目標は、生きた人の体の中で、その中の特定の、例えば心臓や肝臓といった臓器の、しかも細胞1個の中にある、遺伝子を検出し、診断し、その機能を明らかにする。そういったものが今後10年といった大きな目標の中で、最終の目標になっていくのではないか。
 (実例として、蛍光内視鏡を使ったがんの診断、造影剤を利用した脳腫瘍除去、時間分解計測を用いた脳機能計測、変調分光法による乳がん診断装置を紹介)

委員等
 長さの分解能は、どの程度まで見ているのか教えていただきたい。

委員等
 例えば最初に1個の乳がん細胞がどこかにできた。この位置をもしも厳密に決めるとすれば、細胞1個が10ミクロンであるので10ミクロンの分解能が必要となる。でも、医学的な立場から言うと、そんな必要は全くない。例えば1センチの分解能でもいいから、どこかに1つ生まれているということが検出できればいい。今、蛍光を出す造影剤があり、それがうまく細胞の中に取り込まれれば、1個であっても測定できる。特に早期の診断の場合には、分解能は高いことが必ずしも必要ではない。

委員等
 蛍光の場合、紫外線を当てることになると思うが、体の中にはどのように当てるのか。

委員等
 内視鏡が圧倒的に使われる。紫外から可視はどれだけ頑張っても3センチか4センチ以上は通らない。現在、最新の内視鏡で1.5ミリというのがあり、頚動脈から入れると脳の一番奥まで入れられる。そこから光を出すとかなりの奥まで見られる。もう一つは、肝臓の場合など、胃の方から光ファイバーで光らせて、肝臓を挟むようにして直接観察するという形で行っている。

委員等
 フェーズ・モジュレーションは、どのようにモジュレーションするのか。

委員等
 原理的にはCWの半導体レーザーを普通我々は使っている。半導体レーザーの上に、例えば200メガとか400メガで強度変調をかける。

委員等
 既に1985年くらいに、モジュレーション・スペクトルスコピーというのは光学の分野で確立された。日本では応用物理学会でももう20年来活発に発表がなされている。それはオプティクスの分野では完全に確立されている。また、タイムコリレーションは、原子核物理の分野では一番必須の技術。今のお話を聞いていると、余りにもほかの分野のことを配慮なさらずに、ご自身の仕事だけを取り上げているような印象を受ける。

委員等
 非常に惜しかったのは、変調分光はピコ秒が出る前はライフタイムをはかる場合にみんな使われていた。ところが、結局ピコ秒が出てきたため、ある面で使われなくなった。ところがこの方法が今もう一度、欧米含めてよみがえってきたのは、不均一散乱系で、光拡散方程式を解くというときの光源に、こういうモジュレーションというやり方を使うと解ける。ですから、新しいアプリケーションとして、むしろ医学の分野にこれが今、よみがえってきている。
 外国ではこれが今はルネサンスであるのに、日本では残念ながらルネサンスになっていない。あったことは知っているが、誰もこれを考慮しない。先ほどのコリレーションも同じで、分子の揺らぎのような1個1個の揺らぎのコリレーションを時間相関をとって、1個を見つけるという方法は、昔からやられている。しかしそれも使われ始めたのはメディカルである。特に私たちがやっているBSEの診断もそうであるが、その場合に結局、時間相関で局所のところの分子の動きを追うのは、世界の大きな流れである。でも、残念ながら、日本では私達しかいない。せっかく日本で最初にやられていて、その後日本ではなくなぜ外国がそれをやっているのかというのが、私の本当の真意である。

委員等
 我々計測をやっていると、新しいトライアルというのは不思議なことにバイオから来る。物理よりも先にバイオが手をつける。原理原則は物理が先であるが、こんな局面があったかという新しい展開はバイオのようにおもわれる。

委員等
 バイオの場合、条件を変えられないので、どうしても要求が先に来る。ですから、濁った系ではからなければならないという大前提がある。

委員等
 最後の最終目標のところに機能を明らかにするとあるが、どういう機能を想定されているのか。

委員等
 一番知りたいのは、やはりもともと遺伝子側から来ており、1個1個の遺伝子があるたんぱく質を決めているため、それが生きている細胞の中で、実際に何をやっているか、その働きを生きたままで調べたいというのが一番の目標である。

委員等
 こういう方法の場合に、SN比は何で決まるのか教えていただきたい。ディテクターの問題とバックグラウンドがあると思うが、人間の体の場合、例えば蛍光が出る試薬を使い、その後最初に強い光を当てれば、血管が強くなるのだろうと思う。そのくらいバックグラウンドがふえてしまうのではないかと思う。ノイズは何で決まるのか教えていただきたい。

委員等
 現在、脳の中のヘモグロビンの光の吸収をはかっている。一次的にまず決まるのは、光が我々の体の中を通ると非常に減衰し、3センチだと7桁程度光が落ちるので、そういう意味でいかに弱い光を検出できるかというのが一次的なSNになる。これはハードの問題である。二次的な問題は今度は体の側の問題で、私たちの体の中を血液が流れており、それがノイズとして信号に乗ってくる。これが二次的なノイズとなる。

委員等
 究極的に、細胞1個が癌になったときにそれを見つけるという場合のノイズはどういうものか。

委員等
 あるがん細胞の表面に、ある特定のたんぱく質と非常に強く結合するようなレセプターがふえているということが分かっている。そのレセプターに、蛍光なら蛍光、あるいはホタルの光る酵素を結合させたものを人工的に作って、それを体に入れると、その癌細胞のところだけ光でラベルができる。それを外側から蛍光ではかる。すると、後は装置のSNである。完全に検出器のSNで決まってしまう。現在、乳がんで1,000個程度で何とか見つけられるというところまで来ていて、計測の時間が約15分から20分なので、じっとしていてもらわなければならない。普通のマンモグラフィーではまったく見つからない。ただ、それがぼんやりと光るというところまでは今、来つつある。ですから、これは完全に装置の検出感度の勝負である。

株式会社東芝 研究開発センター LSI基盤技術ラボラトリー 主任研究員 竹野 史郎 氏

委員等
LSI開発のフィールドで望まれるものということで、お話しさせていただきたい。
まず初めに、今、LSI開発でどのような機器分析が使われているのか、また、シリコンのスケーリングについて話をして、次に具体的に将来、どんなことが必要なのかを3つ挙げたい。1つは微量不純物、そしてひずみ、それから結合状態、この3つについて、具体的に話をしたい。
半導体の研究開発において、どんな評価・計測手法が使われているのかを、キーワードで引っ張ったところ、SEM、XPS、TEMといったおなじみの手法が出てきた。現状では、形態を見たり、結晶の構造を含めた構造、それから組成と結合状態を見ている。
また、ロード・マップによると、DRAMのハーフピッチは、2010年には今の約半分程度になると考えられている。
次世代のトランジスタは、サイズを小さくする、消費電力を小さくする、早く動く、この3つを満たしつつ、しかも信頼性を確保しなければいけない。具体的には、ドーパントプロファイルの変更、素子デザインの変更、意識的なひずみの導入等が必要である。また設計の変更とあわせて材料と製造プロセスも変えないといけない。
次世代トランジスタの評価で本当に必要なものを3つピックアップすると、微量不純物がどこにどの程度あるか、ひずみはどの程度になっているのか、結合状態がどうなっているか、これらのことを三次元的に、しかも微視的に見ていく必要がある。
まず、微量不純物の計測には、SIMS法、アトムプローブ法、EBIC等がある。SIMS法では、深さ分解能をよくしようという試みがなされてきているが、サブナノメートル・オーダーを考えると、クラスターイオンビームの導入が期待される。アトムプローブは、現状ではアトムの数え落としが非常に多い。また、半導体や絶縁体では非常に難しい手法である。しかし圧倒的に欧米の方が技術開発は進んでおり、最近、米社のベンチャー企業がシリコン中のボロンを見ている。EBICは、どうやって空間分解能を上げていくかが大きな課題である。
次に、ひずみの計測、これは原子位置がどの程度弾性的に変化しているのかを見る技術で、透過電子顕微鏡を使ったCBEDや、SNOM-Ramanが有効である。しかしCBEDをLSIに応用した場合、試料を傾斜して計測することが必要となるため、数十から数百ナノメーターまで空間分解能が落ちてしまう。これをどうやって根本的に解決するかは大きな問題である。SNOM-Ramanは、透明な基板にサンプルを載せ下から光を入れる方法が主流と思われるが、LSIの場合、上から光を入れるかあるいはプローブの中に光を通すなどのやり方が必要になる。また、シリコンのひずみを見るという場合に、非常に弱いRaman光をいかに検出するかも、重要な課題である。
どの程度のひずみを測る必要があるかというと、1メガパスカル程度の検出限界と、5ナノメートル程度以下の空間分解能が欲しい。
結合状態計測はいろいろなアプローチがあるが、有望なのは、HX-PES、つまりハードX線を使ったXPSと、電子顕微鏡を使ったLow dose照射での電子分光(EELS)である。
HX-PESでは、20ナノメートル程度の深いところの情報も取り出せるようになるだろうということで、酸化膜とシリコン基板や電極の間の状態はどうなっているのか、非破壊のまま正確な情報が取れるのではないかと期待している。EELSについては、電子ビーム照射で酸化膜試料が還元されるようなことが起きるため、いかに低いdoseでロス電子をうまく検出するかが非常に大事になってくる。もし、Low doseの超高感度EELSが可能になれば、コアロスでのファインストラクチャーがとれ、例えばEXELFS解析への展開において、既存のXAFSのテクニックをそのまま電子顕微鏡で使えるため、非常に小さな領域で動径分布を求めることができるようになる。

委員等
 ひずみの測定というのは、あえてひずみを作って、それを制御したいという立場なのか。

委員等
 ひずみをわざと入れてモビリティーを上げるひずみ素子の場合、NチャンネルやPチャンネルのひずみがどの程度かということと、そのトランジスタのモビリティーとの相関をとりたいということがある。例えばシリコン・ゲルマを使って、かなり大きなひずみを入れるようなやり方である。一方、例えばSTIにて素子分離をすると、STIコーナーからディスロケーションがよく発生するが、それを抑えるようなプロセスを開発したい。そのとき、具体的にSTIコーナーには何メガパスカルため込まれているのかを知りたいという、2つの意味合いがある。

委員等
 今の技術からすれば、例えばRamanは、100倍くらい足りないのでは。

委員等
 今のSNOM-Ramanは、けた違いに波数分解能が足りない状態だと思う。ただ、今のマイクロラマンの精度は、恐らく100分の1カイザーの違いが、うまくいけば読めるだろう。それは応力として数メガパスカルの違いを読み込めることになるので、ここでいう1メガパスカル程度を見るという意味では、現状のマイクロラマンで恐らく行けるのかなという気がしている。ただし、現状のマイクロラマンでは空間分解能が不足している。

委員等
 一つ一つ納得のいく目標だと思う。ハイエナジーのX線を使って深いところが見えるというのは、確かにそのとおりである。今、アメリカのTEAMプロジェクトで、球面収差を除去した細い電子ビームで軟X線を出させて、それをマイクロカロリーメトリーで測るというのがある。面積は5ミリ角と非常に小さいが、結合状態が分かる。
 彼らは2年前からスタートしているが、ネックが1つだけある。何しろ小さいので、検出感度が低い。それをアレイにできれば、間違いなくオージェやXPSをはるかに越えて、いろいろな情報がとれるだろう。
 アレイを作るというのは、技術的にはほとんど可能である。独力でアメリカに負けないマイクロカロリーメトリーを作っている日本企業があるが、あとはどこかが発注して商品化できれば、アレイを作れると思う。そうすればアメリカに負けない。
 マイクロカロリーメトリーは非常に大事な技術で、表面分析が一変するのではないだろうか。アメリカはもう数年前からNISTが走っている。国が金を出さなければ、どこかのメーカーが発注して助けるしかない。ぜひそういう方向に半導体メーカーの方も目を向けてくださるとありがたい。

委員等
 ディテクターの開発もそうであるが、球面収差補正の技術も、ベンチャー企業が特にアメリカで頑張っている。そういうところで、非常にバイタリティーを感じる。

委員等
 先ほど出てきたスプリングエイトのような国の共同施設の利用と、経産省が支援している半導体コンソーシアムのような企業連合の中での共同利用というのは、半導体メーカーとしてどのようにお考えか。

委員等
 例えばスプリングエイトなら、自分のサンプルは自分が測りたいと、研究者本人は本音として持っていると思う。
 それに対して、ある一つのコンソーシアムの中で、ある一定のコンセンサスが得られたものに対して戦略的にやっていこうというところでは、計測を重要視する意識はまだ不十分という感じがする。コンソーシアムを作ったときに、どうしても、計測装置より製造装置を優先してしまう。

委員等
 スプリングエイトの場合、企業の研究者の方は限られた時間の中、2、3日徹夜でその枠を利用しないと利用できないような状況だと思う。それに対して、一企業だと、一企業の中で開発をしていかないといけない。その中間帯の必要性はお感じになっておられるのか。

委員等
 そういうものがあれば、非常にありがたい。

主査
 今のロード・マップを実現するための必要な評価技術という意味で、非常にきれいに整理されて、リアルな要望をきちっとお出しになっていただき感謝している。妥当なご指摘だと思う。
 ただ、ニーズという意味ではご指摘のとおりであるが、一方、こういう素子が本当に実現できるかというリミット、例えば発熱の問題や、本当に小さくできるかなどであるが、その点はどのようにお考えか。

委員等
 今のシリコンをベースにした素子開発の場合、非常に頑張っても2020年くらいで物理的な限界になるだろうと一般に指摘されている。現状のプレーナー型トランジスタの場合、例えばチャネルの長さが10ナノメートル以下になったときに、もはやそれをチャネルと呼べるかどうかという問題になる。ドーパントのディストリビューションについて、あるトランジスタはうまい具合にドーパントが必要な個数活性化していたが、隣のトランジスタを見たら活性化していなかった、というようなことも恐らく起きるだろう。今くらいのサイズだから何とか動いてくれている。ですから、もっと違う原理で動作する素子が必要になる。

大日本印刷株式会社 技術開発センター 生産総合研究所 主任研究員 黒田 孝二 氏

委員等
 印刷のインキが印刷版から基材に転移していく高速過程及び液体から固体に順次変化していく過程については、体系的な理解がほとんどされていない。印刷の網点は、1つ数十ミクロンから2百ミクロンほどであるが、その網点が紙に移る時間は1ミリ秒を切る。今、我々は12万コマの高速ビデオを持って、現場での材料の動きを追っている。この高速現象の理解を深めるために、ミルククラウンが15ミリ秒から20ミリ秒ででき上がる過程を高速ビデオで解析している。
(水系の赤インキの滴が無色透明な溶剤面に落下して出来る「赤いクラウン」の動画を紹介)
19世紀は人間の経験則で結果の出た世界である。20世紀は科学一辺倒で進んだ世界。これらが融合して、人間の感性と科学とがうまくコラボレーションできるような関係を作っていくのが21世紀ではないか。
我々は分析した現象をプロセスに役立てる。分析は診断にはとても役立つが、この症状に対してどうしたらいいかを提案できなければ現場の改善は図れない。印刷の川上、川下は評価技術があり、学会の歴史もある。しかし、その間は非常に多機能で、複雑系であるがために分析・計測の空白領域である。液体が完全に固体になって、表面とバルクと界面の機能が発現する場面でありながら、ほとんどアカデミック・サポートもない。我々は川上、川下の分析部門のコラボレーションで解決していく努力を続けている。
1万例の分析データの蓄積があるが、全部不良サンプルばかりだった。今必要なことは、実際に正常に物を作っている中での真の変動要因を見きわめて、このばらつきをシャープにすることである。これがものづくりのパワーを強化する原点である。
実際の現場で起こっている現象を見きわめるために、現場に高速ビデオを持って、先ほどの網点が1ミリ秒以下で基材に転移していくところを見きわめる。そうすると、オペレーターは食い入るように見つめ、分かったといって改善作業に入る。彼らは、サイエンスは知らなくても、経験的にこの辺の挙動を予測して、何かしら因果関係を感じている。その彼らとコミュニケーションをとれる方法論を我々が提供しなかったら、我々分析セクションの存在価値はない。
プロセスの課題解決とは、すぐ次に起きる挙動を予測して制御することである。このためには単にスタティックな状態ではなくて、ダイナミックに材料がどんなふうに動いているかということを見ないと分からない。熟練者は経験則から次の挙動を予測して制御している。20世紀の科学は平衡論である。このデータから起こりうるモデルは予測できるが、現実の複雑系の中でどの挙動が早く起きるかは予測できない。現実に役立てるためには、もうちょっとダイナミクスを取り込んで科学体系の何かを変えていかなければならない。
良品と不良品の数十ミクロン範囲の電子顕微鏡画像観察からは違いが把握できなかった事例で、この画像4百枚を床に並べて1ミリの範囲をマッピングして関係者全員で見たところ、明らかに違いがあることが分かった。たくさん画像を並べることによって、人間の持つノイズを無視して違いの特徴を抽出する特異な能力が発揮された事例である。20世紀に培った分析計測の技術と人間の感性をうまく繋ぎ合わせることによって、何か一つの方向性を見出す方法論が始められるのではないかと思う。
(メタノールとトルエンのクラウンの様子の違いを動画で紹介)
メタノールとトルエンでクラウンの様子が違うといった現象を見せると、現場の人たちはなるほどと言う。彼らが経験で感じていた両者の差が客観的に確認できたわけである。要するに人間の眼を科学の目と融合させて、新しい人間の感性を拓いていくといったことがこれからの科学の発展に必要だろう。
仮説をきちっと持っている人にとってみると、次に起こっている現象は仮説からの距離感という基準を持って見るので観察力が高まる。新たに発見した現象を仮説と対比することによってまた仮説がもう一つ高まった形にステップアップできる。こういった仮説を持つ観察力を持った人材を育成していくこと、そのために分析というものは、ターゲットとなる現象をきちっと人間の感性に伝える意味で、非常に重要な仕事になってくる。多くのデータが氾濫する時代に、科学者はそのデータの意味を的確にキーパーソンに伝えて的確な判断を引き出すような方法論を作っていかないといけない。そのひとつが動画であると思う。
非破壊分析を求める真の意味は、物が変化する前後の姿をそのままみたいという新知識への欲望の裏返しだと思う。人を知るように物を知ることが大切である。その分析機器、計測機器の中で物をもてあそんで、観察者が与えたエネルギーに呼応して動く材料の挙動を「手応え感覚」としてとらえて、ダイナミックな知恵を無意識に蓄積して、その知恵があるきっかけでぽんと思いついて役立たせるような、そういった発明の環境づくりがこれから重要なのではないか。
先端計測分析技術・機器開発事業のテーマとして、ものづくり、ものの姿を分子のレベルから機能体のレベルまで、うまく連続的に説明できるような体系を見出すことも、この中の一つのミッションではないか。今、生体系のテーマだけが原子、分子から臓器の機能まで階層的にうまくつながっていて、そのほかのところはつながりがあまりよくない。

主査
 原子、分子のレベルにこだわるだけでは、現実のものづくりの世界、あるいはプロセスを理解することはできないというご指摘である。現在はスタティックなイメージで原子、分子を見ようとしているが、生体系でないシステムも現実はいろいろなスケールで物事が起こっているという点、特にプロセスをダイナミックに見るという点が大事だというご指摘だと考えればよいか。

委員等
 我々のものづくりに対してサイエンスがすぐに役立つとは思っていない。我々は機能製品の解析をとりあえずナノメートルの表面分析から始めたが、それには半導体デバイスで培われた技術を使わせていただいた。今はバイオに注目しており、その理由はケミカルプロセスはバイオプロセスと非常に近いものがあるからである。ただ、明らかに違うのは、生体系は分子から集合体、組織、器官、生命体に至る各段階の挙動が生命維持という機能目的に統一された閉鎖系であって、分析・計測データのコンセンサスを得やすい系であるが、我々が扱っているモノづくりの材料挙動は目的が発散系であるため分子で起きたことと全体機能との間に何が起こるか分からない。生体系で起こっている事実を測定したデータは、生命維持など生体機能との対応関係が明確であるが、我々が扱うデータは100のうち1つ使えるかどうかである。先ほどの田村先生のお話にあった変調分光の活用の延長が、我々の世界にも役立つのではと期待している。

委員等
 ミルククラウンの解析はまだできていないのか。

委員等
 はい。既存の科学法則の組み合わせでは、予測できるまでの解析は困難ではないかと思う。

委員等
 国際高等研究所の研究会で、企業の方が、液晶を吸い上げるスピードが2倍になればすばらしく生産性が上がるが、経験則だけで全然アカデミックな立場からの指導理念がないと言っていた。そのような分野の流体力学の専門家の先生がいるので一度呼ぼうというので、その先生にご自身の仕事の説明をしていただいたら、企業の方が感激して共同研究になって非常にうまくいった。ですから、これだけのすばらしいデータをお持ちなら、きっとどこかに要望に答えるような学の方がいると思う。そういう方々にこういう問題をやらないかという要望を突きつけていただけると、また新しい進展があるのでは。

委員等
 そうですね。ミネソタ大の先生がこのミルククラウンの挙動は、今までのシミュレーションにのらないというお話をされていた。連続体のシミュレーションの世界から、その構成分子のディスクリートな挙動の世界との、ちょうど境界線の仕事のようで、一般的な連続体のシミュレーションでは、どうも説明がつかなくなってきているようである。我々も観測過程をずっとモニタリングしていると、あるところでぽんと不連続に変わると感じる現象が起こる。ぽんと形になる瞬間をコントロールすることから考えると、何かもう一つディスクリートなものと連続的なものとの、接点になるような何かが必要になる。
 そういった問題提起を我々が本来やっていくべきだというのが今回の趣旨である。我々としては、こんなことが実際に起こっているということをご理解いただき、これに対する回答を出していけるような形に学も方向付けていただけると、モノづくり発展の上でも非常にありがたい。

主査
 たいへん大事なご指摘だと思う。まさに境界のところに、まだまだ分からないことがたくさんある。それをもう少し解明するための計測分析技術・機器がいろいろあり得るというふうに受けとめさせていただければと思う。

委員等
 まだ我々の発明とか発見とかのリソースは、この辺にあるのだろうと思っている。素材を変えるとまったく違うものができ上がる。逆の視点で言うと、素材が違っていても、同じリズムで動いているものは、同じように扱えるかもしれない。その辺の現場の人たちが感覚的に思っているものを何とかサイエンスしていきたい。その接点にこういった計測分析技術があるだろうと思っている。

委員等
 鉄の融点の測定は、専門職の人が肉眼で見て正確に測定されると聞いている。光高温計をつかってもそこまでの精度は非常に難しい。

委員等
 そこに財宝はたくさん眠っているのではないか。そこを見きわめる方法論が出てくれば、また一つ先に進めることができるのではないか。

主査
 鉄鋼中の炭素は、グラインダーでぱっと火花が散るのを見て、これが何パーセントだと分かる。これは職人さんの世界で昔からやっており、きわめて正確に濃度を決めることができる。確かにそういう世界もある。

委員等
 柿右衛門の朱もきれいにナノレベルで粒子がそろっている。分析・計測のない時代にそれを達成した、そこに人間の眼が「見る」能力の秘密と財産があり、そこに何があるのかを解明するために、我々ものづくりの現場からも解明するヒントを提供していきたい。

主査
 ありがとうございました。
 それでは、資料4の平成18年度先端計測分析機器開発事業の開発領域についてのご説明をお願いします。

(2)平成18年度先端計測分技術・機器開発事業の開発領域について

(資料4に基づき、先端計測分析技術・機器開発事業の平成18年度開発領域についての考え方(案)について説明)

主査
 ありがとうございました。
 基本的には、18年度概算要求は5領域として出そうとお考えになっているのか。

事務局
 確かに去年は5領域とした。今年は必ずしも5でなければいけないとは思っていない。例えば今の時点で想定される領域が3しかなければ3だし、5以上本当に必要であれば、5以上出していかなければいけない。

主査
 昨年度は5領域を要求して、そのうちの2領域で実際走った。その経緯を考えると、18年度も5領域程度要求を出して、なるべく委員の皆様のご意見を取り込んだような要求項目を作るべきではないかと考えている。

委員等
 もともと印象としては、こういう新しい技術、機器が開発されることで新しい学問、あるいは開発分野ができるということをイメージしており、だから、直接何かに役に立つということではなく、新しい分野を開くというのができたらいいと思っている。そういう意味では、残っている3領域は適当。

委員等
 今年の採択が見えないというのは、非常に判断を苦しくしている気がする。初年度は、領域設定と似て非なる課題がいくつか採択されて、それにぴったりの課題がいくつか落ちていた。むしろ、落ちている方がもう一度チャレンジして欲しいというのが幾つかあった。今年、もし領域にふさわしくないものが採択されたとしたら、領域設定した意味がない。今年の採択はきわめて少ないはずだし、それを見て場合によっては再度、そういうチャンスを与えるようなことも配慮しないといけないと思うので、そこが非常に悩ましい。
 5領域程度にうまく絞り込めるような努力はすべき。あとは領域をどう設定するかというのは、今年の採択状況と昨年採択した課題の進行状態についての把握ができればいいと思っている。

主査
 今年の採択状況を見てというのは8月中旬ごろになるのでは。

事務局
 8月下旬に最終決定で、プレス発表の予定ということになっている。

委員等
 ヒアリングの前の段階での情報は入るのか。

事務局
 ヒアリングの前だと、書類で予定数の3倍程度は面接に持っていこうかと考えている。時期は7月中旬である。

主査
 確かに間に合えば、そういうことを勘案することは可能である。ただ、やはりなるべく7月中旬までの間に、優先順位をつけて5領域程度ラインナップを作り、要求をし、予算が決まり、その決まった段階でもう一回、本当にどれを候補にするかということを議論することが必要だという気がする。

委員等
 私も、5領域程度に絞るべきだという意見で同じである。高い競争率であったのは、具体的にどこの領域の競争率が高かったのか、また、その競争率が高かった理由が特に新領域創造とか、あるいは産業規模やインパクトの大きなものに関するところは、ピックアップした方がよい。

委員等
 基本的な考え方は同じである。設定された領域と必ずしも一致しないものが採択されているということについては、3年目の今回、重要な領域であれば、もう一度設定してもいいのでは。過去の状況も含めて3年目は、こういう意義のある設定ができたという結論が出れば、それでよろしいのではないか。
 先ほどアメリカで研究されているものが非公開だったという話があったが、あまり際どいテーマを設定すると、ややオープン気味になる。新しい分野を作っていこうというものには必ずしもなじまないので、やや取り組みやすいような領域設定にした方が、実質的には結果が出るのではないか。

委員等
 私も5領域程度に絞り込むことが重要と思う。新しい領域を多く設定しすぎて、その質が落ちるとは思わないが、既存の7領域で応募者側の関心が高いものについては、再度チャレンジしながら、質を高めていくという努力を応募側もしていると思うので、既存の領域の中でより質を高めていくという考え方もあるのではないかというふうに考えている。

委員等
 私も既存の領域からの敗者復活を考えてもいいと感じていた。特に幾つかまた新しい領域として挙がっているものも、既存の領域と多少オーバーラップしている感じなので、組み換えも含めて、過去にいい提案が寄せられていたものを拾い上げるようなことに賛成である。

委員等
 前回、今回と6人の先生方の話は、前に作っていただいた領域に、広い意味では含まれるのではないかと思う。いろいろな角度からちょっと違った見方はされていると思うが、最初の領域がしっかりとしているので、その中から十分選んでできるのではないか。

主査
 ありがとうございました。
 ご提案ですが、私と事務局で相談してたたき台を作り、それに加筆訂正をお願いするということでいかがか。
 最後に、既存領域の全体のバランスが比較的いいことから、従来の領域の復活もあり得るというご意見、また、モディファイをすれば、今回、伺った6人の方の意見を取り込むことができるのではないかというご意見、そのようなことを念頭に置きながら、原案を作らせていただきたくことでよろしいか。

(委員一同了承)

主査
 ありがとうございます。
 中間評価については、次回、集中的に審議をするということにさせていただきたい。

委員等
 初年度選ばれた課題について、我々は、詳細についてあまり知らない。やっている人と顔ぶれはおおよそ分かっているが、どういう提案があったのかというのは、実は我々は知らない。

事務局
 おのおの29課題の進捗状況を、次回、まずは研究統括4人にあらあら説明していただこうと考えている。その後も、この委員会でプレゼンテーションをしていただくような形で考えている。

委員等
 短時間だったが、当然人の名前とか個人情報がありますから、応募課題をざっと見せていただいたことはあった。それ以降、タイトルだけは知っているが通ったものがどういうもので何をねらっているのか知らない。

事務局
 おっしゃるイメージは1課題A4、1枚程度で、ねらいと現在の状況というのは簡単にお知らせしたい。今後JSTと協力して、向こう数か月の間に全部取りまとめて、ご報告申し上げたいと思っている。1か月か2か月程度時間をいただけたらと思う。

主査
 今走っているものがもう少し詳しい形でいただけるとありがたいというご指摘である。それは準備でき次第、お答えいただければありがたい。
 次回は、開発総括の方に現況をお伺いするということを含めて、中間評価のあり方を議論すると理解していいですか。

事務局
 はい。

主査
 以上で、本日の委員会を終わらせていただきます。
 どうもありがとうございました。

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研究振興局研究環境・産業連携課

(研究振興局研究環境・産業連携課)