先端計測分析技術・機器開発小委員会(第7回) 議事録

1.日時

平成17年6月3日(金曜日) 14時~16時

2.場所

古河総合ビル 6階 第F1会議室

3.出席者

委員

 二瓶、北澤、小原、近藤、志水、原、松尾、森川各委員

文部科学省

 根元研究環境・産業連携課長、室谷研究環境・産業連携課研究成果展開企画官、鎌田研究環境・産業連携課課長補佐

オブザーバー

 佐藤独立行政法人科学技術振興機構先端計測技術推進室長
(有識者)
 合志独立行政法人国立環境研究所参与、長我部株式会社日立製作所基礎研究所長、夏目独立行政法人産業技術研究所生物情報解析研究センター研究チーム長

4.議事録

(◎:主査 ○:委員等 △:事務局の発言)

(1)先端計測分析技術・機器開発プロジェクト関連の最近の動向について

(資料2に基づき、第3期科学技術基本計画の重要政策(中間とりまとめ)について、資料3に基づき、先端計測分析技術・機器開発事業平成17年度応募状況について説明)

主査
 第3期科学技術基本計画の仕組みについて、この基本計画が最終的に決定するのが今年度末で、一方、この計画の実施期間は平成18年度からということになると、平成18年度の概算要求において、この基本計画の内容をどのように踏まえるのか、その考え方をご説明いただきたい。

事務局
 6月末に総合科学技術会議が1度、第3期基本計画の骨格の中間取りまとめをおこなうが、かなり具体的に、特に重点項目などは名を連ねることになる。この6月の報告書に記述がなされると、具体的な平成18年度の概算要求の方針にも反映されるという考え方である。

主査
 第3期基本計画は、現時点では既に文科省から離れており、総合科学技術会議の議論にゆだねられている。本日の資料の枠組みの中で、何かが抜け落ちるというようなことはないのか。

事務局
 6月の総合科学技術会議の中間とりまとめには、本日の資料の内容ほど多く書かれない。最終的な基本計画においてもここまでは詳しくないのではないか。
 一方、文部科学省が2001年8月に定めた知的基盤整備計画を、この中間とりまとめの中で見直すとうたっている。来年2006年の4月に基本計画ができた後、速やかに知的基盤整備計画を改定する予定である。その改定した知的基盤整備計画では、先端計測機器を含めたいろいろな知的基盤の具体的な進め方を明確化していく。
 そういった形で、2段構えで先端計測機器を含めた知的基盤整備を進めていきたい。

主査
 次の資料3で、平成17年度の応募件数が大変多い。昨年の採択率でも、通常の競争的研究費のアベレージから見るとかなり低い数字にとどまったということだが、昨年度の委員会でも話題になった。それを更に下回るというような状況になりつつある。この状況は、予算編成の上での制約に基づくもので、現時点ではやむを得ないものであるが、来年度ではこのような状況を少しでも改善したいというのが私の希望である。

委員等
 この競争率が非常に激しいときに、実際に応募された提案書が非常に優れているかどうかということを、審査の段階で少し調査して頂けるとありがたい。もし優れた件数が多ければただ単にそれは予算をふやせばいいということになると思う。何か判断基準とか、もし分かればお願いしたい。

事務局
 今の時点では承知していない。JSTと今後打ち合わせ、はたして本当に定量的にはかれるのかどうか相談しながら、可能な限りそういうデータを生かしていきたい。

委員等
 点をつけるときに、こちらからお願いしてわざと差が開くように審査していただいているので難しい。しかし、昨年はレベルとしては高い、とりたいものがたくさんあるという雰囲気だった。ただ、その中で必ずしも聞き開発が確実にできるか言えない面はあったかと思う。
 今年については審査委員に聞かないと分からない。

事務局
 書類を見ていただいている段階なので、まだその辺は聞いていない。今年出てきているのは、ずいぶん検討されているという感じがしている。

委員等
 前回もたしか議論があった。件数というのは当然1件あたりの予算を下げればたくさんとれる。特に要素技術プログラムは金額もいろいろばらつきがあるのではないか。採択件数のところに8件と書いてあるが、非常にいいもので、サポートすればかなり底上げになるようなものがあれば、柔軟に対応する必要があると思う。

事務局
 競争率を出すときに8件と仮置きした。実際は柔軟にやっていきたいと思っている。

(2)先端計測分析技術・機器開発プロジェクトの取り組みの現状について

(資料4に基づき、先端計測分析技術・機器開発プロジェクトの取り組みの現状について説明)

(3)先端研究分野における計測分析技術・機器に対する研究者ニーズについて

独立行政法人国立環境研究所 参与 合志 陽一 氏

委員等
 人間を取り巻く環境のデータ化、実時間モニタリング、それに使うセンサーとシステムの開発をするということが非常に効果的、有意義であろうというようなことでお話を進めたい。
 何をするかというと、人の近傍に存在する環境因子への曝露情報とその曝露によって生ずる生態情報を同時にモニタリングする。
 なぜ必要かというと、種々の環境因子の影響をより正確に評価して、好影響を増強し、悪影響を低減するためである。あえて環境という立場で付け加えさせていただくと、国民、市民が生き生きと活躍するため、安全・安心という状況を作っていくのが、我々のこれからの使命ではないかというふうに考えている。そのためには、よい環境を確保していく必要がある。
 これからの環境モニタリングは、さらに人間中心にしていくという視点が必要である。要するに、この部屋の中の環境がどうかということよりも、その人間が曝露されている環境はどうかというふうに見ていく。
 実時間とは十分な時間分解能ということである。ある時点での非常にシビアな状況を計測できる必要がある。
 それから、もう一つは個人単位の分解能が欲しいということであり、個人個人非常に違うわけであるので、それも含めた分解能のモニタリングが必要ではないか。この3つである。人間を中心とし、実世界、実時間と、そして、個人単位の分解能をしていく必要がある。
 まず、いつ、どこで、何に曝露されたかを知る、そのシステムというものが研究の内容ということであるが、もう一つは曝露に対して生体がどのように反応したかを知ることを対象としている。
 どんなことが必要かというと、センサーの高機能化と。それから、革新的な新電源の開発ということである。電源がしっかりしていないと、個人に装着するセンサーはほとんど機能しないので、そういうものを十分に生かした携帯型の環境システム開発の装置を作ろうということである。
 また、ネットワーク化により、個人レベルの曝露を把握したい。
 それからもう一つは、体温データの実時間、つまり準実時間である。環境の問題の中には本当の実時間ということはほとんど必要ないので、準実時間の処理システムとアーカイブシステムの構築が必要である。
 具体的には、一つは、携帯電話みたいなものにいろいろなセンサーをつけて、そのデータを送るという格好でシステムを作るということである。
 また、例えば人の細胞を使って、それに環境因子を照射して、その変化を見るというようなアプローチが考えられる。個別のスピーシーズを対象にし、もっと包括的なレスポンスをしたらどうかというふうに思っている。アレルゲンを認識するタンパクを組み込んだセンサーで、化学物質過敏症などの評価ができれば理想である。
 生体情報モニタリングでは、環境に対する応答が速い因子を計測し、可搬性のものにしてはどうかと考えている。
 人を取り巻く環境のデータ化、実時間モニタリングが可能なセンサーとそのシステム開発をやっていくのが、今後の一つの分野として重要ではないかということで提案する。

委員等
 今のお話、非常に興味深くお聞きした。今現有のテクノロジーで非常に難しい点は、センサーの精度だと思う。例えば人間が悪い環境にエクスポーズされたときにどういう影響が出るかとか、環境基準をどうしようかというときに必ず定量性が求められる。その辺が非常にたいへんなところではないか。

委員等
 本当に難しい問題だと思うが、ただ、ある程度の問題を絞り込み、それで可能な範囲をねらっていったらと思っている。

委員等
 コーホートにするためには、測定項目というのを絞らないといけない。そうすると、その前に人体実験ではないけれども、それに近いことはやらざるを得ない。で、もっと言えば、それをやるんだったら、それでもいいのではないかというふうに思う。何かおもしろいものが出るということは分かるが、コーホートしないといけない理由をはっきりしたい。人の生体反応とその環境因子との関係というのは、実験して許されるのであれば可能かなというふうに思うのだが。

委員等
 率直に表現をいたしますと、実験室で少なくとも見つける必要は十分あると思う。それについて、現実の世界でどのような状況になっているかという、そういう段階になると思う。

委員等
 人は多様ですから、その範囲を調べるという意味では、だから、測定項目を絞り込むというところは一番難しい。

委員等
 例えばEPAでやろうとしているナショナル・チルドレン・スタディというのがある。10万人規模でやろうとしているのであるが、その前に非常に小規模で何年かやってみて、それでこれはもうだめだとか、いろいろな議論をしている。こういうプロジェクトの場合には、そういうパイロット・スタディのようなことをよほど慎重にやって、それから取りかかった方がいいのではないかと思っている。

委員等
 一方で、腕時計型の血圧とかいろいろなデータを送ったりというものが実用化されている。ああいうのに少しつけ加えれば、協力する人は幾らでもいると思う。

委員等
 ポテンシャルとしては、日本の場合に非常に可能性が多いと思っている。ただ、音頭をとる組織がないとかなか動かないので、それにはこのプロジェクトが非常に有効ではないかという気がする。

委員等
 こういう比較的仮型の測定器のモニタリングと裏腹な非常にしっかりした技術があって、それと組にして簡易のモニターの位置づけをしていく必要があるのではないかと思う。

委員等
 おっしゃるとおり。非常に簡単でリライアブルなものは個人で持つようにできればよいが、そうでないものについては、固定型のもので観測せざるを得ないだろう。しかし、人間がどの位置にどのぐらいいるかということの情報は現在かなり自由にとれるようになっているので、GPSデータまでいくかどうか分からないが、そういうものと組み合わせてというような考えも出ている。特にパーティキュレートの分布というのは、10メートル離れても全然違う。これは本当に難しい測定になると思うが、おっしゃるようなことに対しては、複数のアプローチでやっていかないといけないだろう。

委員等
 たいへんおもしろい話で、個人単位の分解能ということに関して、生物的なそういうデータを、例えば持ち歩きでその血液を検査するとかは難しいかもしれないが、何かそういった情報との融合にも発展させていくことはあり得るのか。

委員等
 それは結局、ここでセンサーとシステム開発というようにした理由がその辺にある。個人個人の基本的なデータをまとめておき、これは個人情報の問題で難しいとは思うが、測定したものと必要なときにのみ照合して使えるようなシステムを作らなければいけないだろうというようなご指摘を多々いただいている。その辺は大事だと思っている。

株式会社日立製作所 基礎研究所 所長 長我部 信行 氏

委員等
 これまでの電子顕微鏡関連分野の歴史と、日本のレベルはどの程度かということ、それから、将来のニーズを申し上げたい。
 まず、この分野は非常にタイトな産学連携で始まった。1939年に、瀬藤 象二先生を委員長として、第37電子顕微鏡小委員会が発足し、産・官・学を挙げて、新しい分野を開こうと協力した結果、1941年、国産第1号の電子顕微鏡が完成した。
 また、電子顕微鏡を使う研究者も大きな成果を上げてきた。
 まず、飯島さんがカーボンナノチューブを発見した。これは学術インパクトにとどまらず、燃料電池など産業インパクトに変わろうとしている。この成果の背景は何かというと、飯島さんが装置開発、性能向上に携わって顕微鏡を熟知していたことだ。飯島さんの出身研究室の教授である東北大学の日比先生が非常にエネルギー幅の狭い電子を出すことを可能にした。その技術をもって飯島さんはアリゾナ州立大学に行き電子顕微鏡の分解能を一気に高め、世界で初めて原子構造を電子顕微鏡で見ることに成功した。発見できたのは飯島さんだけだったというのは、まさに装置開発、あるいは手法をやってきた飯島さんのバックボーンのゆえだと思う。
 それから、もう一つ学術インパクトという意味で、長い間証明できなくて困っていたアハラノフ・ボーム効果を、私どもの研究所の外村が電子顕微鏡を発展させた電子線ホログラフィという手法で実証に成功した。
 実はこういった成功は、装置の開発のおかげである。電界放出電子銃という技術で世界が変わった。電子源の革命の上に、先ほどの研究も成り立っている。
 それから、化学機器、先端計測機器は、産業インパクトも大きい。半導体回路のパターン検査で、測長SEMが使われているが、日本メーカの国際的シェアは70パーセントを越えている。市場は400億円以上である。
 なぜこういう強い製品になったかというと、産業ニーズが生じた際に先端計測装置として開発していた基盤技術があったため世界に先駆けて製品を世に出せたためだ。半導体の高集積化で、光を使った半導体のパターン検査装置では限界がきた。波長の短い電子線を使えばよい事は誰でもわかっていたが、先ほどの電界放出電子源と低加速電圧技術があって初めて機器開発に成功した。
 しかし、こうした測長SEMもスタート時は日本企業が100パーセントであったシェアがアメリカの企業の追い上げにより70パーセント強になっており、年々日本のシェアは減っている。その他検査SEM、レビューSEMはもとより、透過型電子顕微鏡、FIBでも、日本の会社は劣勢に立たされている。
 こういった伏線は、1つは欧米の戦略的な大型プロジェクトのような取り組みが日本で不足しているためではないか。アメリカには、TEAMという80億円規模の世界最高性能電子顕微鏡を作ろうという大型のプロジェクトがある。
 それから、これまでにない性能を持った電子顕微鏡を作る技術に収差補正の技術がある。これも残念ながらドイツから生まれ、ドイツで成長した。ドイツのベンチャーが世界中に収差補正の装置を輸出している。残念ながら日本の会社もそれを買って装着せざるを得ない状況である。
 将来の電子線の装置で必須な技術として、まず、一原子レベルでのキャラクタリゼーションするというニーズがある。
 バイオの分野では、膜タンパクは結晶ができないため、電子顕微鏡で構造解析せざるを得ない。そのため、新しい電子顕微鏡、新しいステージ、新しい高性能の検出器が求められている。
 半導体の加工スケールの微細化は依然として進みつつある。その検査・解析の分野で、残念ながらまだソリューションがない。これを我々がいち早く発見すれば、産業的にも非常に優位に立てる、あるいは研究としても優位に立てる。
 瀬藤先生の委員会、欧米のプロジェクトを考えると、ミッションタイプの大きなプロジェクトが必要なのではないか。また電子顕微鏡の分野に携わる人間としての反省は、分野の戦略的な目標立案の努力の不足があげられる。
 それから、要素技術も重要で、電子源が新しくなることで新しい発見と新しい装置が生まれてきた。まだ電子線分野にはチャレンジングな目標が幾つもある。究極の検出器として、電子を一つ一つ数えて情報を全く無駄にしないものも考えられる。収差補正の例のように、いろいろな機器をコンピューター制御で精密化することで、新しい世界が広がる。こういったところにも新しい種があるのではないか。
 最後に申し上げたいことは、大学で機器そのものをいじることが少なくなっており、それが電子顕微鏡を始めとする計測器関連産業力にも痛手となっている。今回のプログラムで機器研究を活性化していただければと思う。

委員等
 瀬藤先生が立派だったのは、全国の若い俊秀を集めて、企業も大学も問わずに全く対等にお金を配分されたことでしょう。産・学連携のお手本が電子顕微鏡の世界にあったことは誇らしいし、新しい形でそういうものが生まれなければいけないというのが1点。
 外村さんのお仕事でいつも痛感するのは、上司だった渡辺さんが、フィールドエミッションでないと、コヒーレントな現象は見えないとの信念から、フィールドエミッションに取り組まれた。他は全部つぶれていったのに、日立だけが最後まで頑張って電子銃として実用化をなしとげたのはすばらしい。また、アハラノフ・ボーム効果の実証は、単に電子顕微鏡の成果にとどまらず、実験物理の20世紀後半の白眉の仕事だと思う。
 ただ、瀬藤委員会から電子顕微鏡学会に変わり、そこから後は、あれだけのすばらしいミッションを組んだ後にふさわしい体制を作り上げられなかった。
 1週間ほど前、国際会議に二瓶先生と出ていたら、アーカンソー大のボイルという若い人が結晶中のアンチモンの単原子をちゃんと電顕観察している。これで収差補正を組み込んだ電子顕微鏡を使えば、もっときれいに見えるようになると言っていた。予算がつき、たぶんそれと取り組むだろう。悲しいかな、日本では本プロジェクトに対しても優れた申請書が出ているが、採択もされずにずっと看過されているという現状は、私はたいへん心配である。
 2点目は、大学のものづくりの基盤が揺らいでいるという、これが一番根底として大きいだろうと思うが、そのためには、要素技術をもう少し大学でやるようなバックアップがいいのではないか。
 アメリカは24センチかける24センチの照射領域の大きいCCDカメラを開発して、それを今バイオ電顕に投入している。片や藤吉先生らは、十数年も世界のトップの仕事をしているのに、フィルムでいまだにおやりになっている。この委員会が残念なのは、公募型でボトムアップでしか対応できないということである。公募型でどんな追いかけても、今海外で展開しているような研究に恐らく追いつけないだろうと思う。ブレークスルーを見つけるようなことをぜひ考えていただきたい。
 でも、非常に具体例を挙げていただいて、危機的状況にあるということが非常によく分かりました。ありがとうございました。

主査
 先ほど電子線の半導体計測装置の世界シェアの図で、測長SEMは日立が100パーセントのシェアでスタートされているが、その後、徐々にシェアを下げている。これはどこがポイントだとお考えか。

委員等
 1つは、追い上げている会社は、半導体プロセスに精通してユーザーの視点に立ったコントロール性や検査性の追求がうまかったということである。しかし、最近では基本的な分解能や、測長誤差といった基本性能でも追い上げられ、あるいは一部抜かれている。最初は使い勝手で負けてきたのかと思っていたが、最近は基本性能も上回りつつあるという状況である。

主査
 FIBは日本が100パーセントでスタートした。その後、シェアを落としてきた。それについてはどのようにお考えか。

委員等
 FIBは弊社でも研究しているが、痛切に感じるのは、メーカーの研究投資そのものの絶対量が負けているのではないかという事である。我々はそこに人を当てきれていないというところはある。
 もう一つ関連して、大学で機器開発のアクティビティが少ないので、会社に入り一人前になるには5年、10年かかる。それだけ長い年月、研究者を鍛えるのに必要で、研究リソースが弱くなってきてしまった。

委員等
 FIBについてですが、アメリカの場合には国が金を出した。開発者のHughes Research LaboratoryのSeligerに3年間国が研究費をつぎ込んだ。3年後にアメリカの国際会議で発表されたペーパーを追いかけて日本がスタートした。
 日本がスタートした場合には、日本の企業が自分の金で商品化をスタートする。恐らくメーカーとしては市場がどのくらいかということがあり、なかなかできない。ですから、そういう点で私は特に国のバックアップ体制というものも、機器開発には必ずきちんと考えておかなければいけない問題なのかなと思う。

委員等
 こういう機器開発には、一番最初の要素部分の原理の研究、これを1億円とすると、今度それを使ってシステムを実際に作ってみる。これが10億で、それをきちんと産業にしていくとなると100億円の投資が必要である。
 それで、今回このプロジェクトが始まるとき、このプロジェクトは100億の部分をやるプロジェクトではないということを最初にちょっと問題にしたことがある。
 このTEAMのプロジェクトというのは、100億といったプロジェクトの流れであるが、それをここでやるわけにはいかないということで、最初からその部分は切ったという気がしている。それで、ここでは1億のプロジェクトがたくさん出てきて、そういう中から芽が出て、それでこれは分析装置になるとなったら10億を投入する。そこまでこのプロジェクトでやる。そこから後は、もう産業政策に入っている部分であるという、そんな認識でやっていたように思う。さきほどのお話でくやしいと思っておられるところは、どうも100億の部分にあるのではないか。

委員等
 いや、違います、違います。1件当たり5億超えていないのはTEAMプロジェクトの中にもある。

委員等
 しかしTEAMは、電子顕微鏡だけを80億でやっている。

委員等
 100億なかったらできないのであれば、装置開発は日本からはつぶれていく。アメリカでもLehigh大のDave Williamのように、1億や7000万で収差補正コレクタを作って電子顕微鏡に組み上げて成果を出して、TEAMのすそ野を広げるから国家プロジェクトの意味がある。最初から、100億かかるからそういう機器開発ができないというのであれば、これは先端機器開発の根幹にかかわると思う。

委員等
 そこがポイントなんですけれども。

委員等
 1件100億なければ機器開発ができないというのではなくて、やっているところは1億でも、国家プロジェクトの中で個々の技術を生かしていく、それがまさにミッションだと思っている。

委員等
 国の中でいろいろなタイプのプロジェクトがあって、それぞれのタイプのプロジェクトのなかでやるべきことをやる事が大切だと思う。先ほどの収差補正はドイツでかなり細々とやっていた。そういった芽のところを大切に育てて、それを大きくするという意味では、そこは非常に大切だと思っている。1億でやったものを、次にいいものを拾い上げて大きくしていくということが大事だと思う。

主査
 長我部さんのご発表で、最後に大学における機器開発の研究を活性化しないといけないというご指摘、これは非常に大事なポイントで、そのために100億は要らない。数千万、1億あればもう十二分という研究がほとんどである。
 ご指摘のようにいろいろなフェーズがある。最後に行き着くところは企業で装置を市場に出す。そこでは相当な開発費がかかる。ただ、その芽を見出して、芽をもう少し苗に育てる部分、それをこの委員会は担うのではないかというふうに思っている。
 今のご指摘は全部関連しており、どれが欠けていても、実際には我々の目標としているところには到達できないが、やはり一番最初の段階を大事にしたい。まずは芽を出すところに狙いがあるということ、これは非常に大事なポイントではないかと思う。

独立行政法人産業技術総合研究所 生物情報解析研究センター 研究チーム長 夏目 徹 氏

委員等
 バイオの世界での先端計測の利用についての現場の話を前半させていただき、今後どのようにやっていけたらよいかお話しさせていただきたい。
 ポストゲノム研究で最も大きなインパクトは、ゲノムならゲノム、タンパク質ならタンパク質を1個1個研究していたものを、全部とらえて大規模に研究しようという発想が生まれてきたことではないか。
 ゲノム情報も高速のDNAシーケンサーがなければゲノムを読もうという気はだれも思わない。技術の方が常に先にあり、それに合わせて研究範囲が決まってくる。
 タンパク質は、非常にやっかいなものであるが、これも質量分析計のタンデムマススペクトロメトリーという方法で、アミノ酸の配列が読める。10年ほど前は、28アミノ酸を読むのに28時間かかった。ところが、これはたった1秒で読めて感度が数百倍高い。
 しかし、タンパク質はチューブの中で分解吸着して消えてしまう。質量分析計がどんなに最先端のものでも、質量分析計に入れる前に消えてしまえば測れない。
 そこで、我々は質量分析計の導入システムをとても小さくした。日本人の得意のミニチュアライゼーションを5年ほど前からとことんやった。これはすべて八王子の町工場の技術力で数年前に開発して、世界最高の質量分析計の感度を達成した。
 通常の環境では、空気中のケラチンが検出の邪魔をし、また、1ミクロン以下の導入部がほこりで詰まるため、次に必要になったのは、クラス1のスーパークリーンルームの中にすべてのファシリティを置いて、この中で作業するノウハウである。実験者は忍者姿で目もゴーグルで覆い実験する。さらに、測定を自動化するためロボットが必要であるが、普通のバイオ用ロボットはものすごい量のほこりを出すので、半導体工場で動いている製造ロボットのノウハウで作ったロボットが必要となった。日本は圧倒的に産業ロボットのレベルが高く、我々に必要なものが簡単に作れるのである。
 ここまでやって、タンパク質学者が一生のうち5、6個のタンパク質相互作用を決めればすばらしいと言われていたのが、1年間で数千の相互作用を決定することができるようになった。
 しかし実は、ハイテクとローテクがものすごくきちんと組み合わさらないと、こんな設備投資しても意味がない。タンパク質化学は匠のわざのようなものによって支えられている。いろいろな処理には、実は我々のノウハウが本当はあって、設備を作ってみると、これだけではうまくいかないことが分かる。
 我々が本当に次にやりたいことは、先端技術を高めていくことである。人間しかできないと思っている匠の部分をロボットを使ってできるようにならないかと思っている。
 計測技術そのもののレベルが上がれば、当然その周辺に要求される技術もそろってレベルが上がらないと、役に立たない。
 ロボットは大量高速に処理するという点だけ注目されているが、実はそうではない。タンパク質の結晶化ロボットがあるが、半導体のシリコンウエハの搬送の世界では常識である無振動ということに徹底的にこだわったロボットであるが、スループットも高い。そうすると、人間の作業では結晶が出ないような条件でも、この装置で結晶が出たりする。人間にはできないようなものすごく精度の高いことができる。
 また、最高の培養は煩雑で人間にしかできないと普通は思うが、実はロボットは非常に上手にできる。一番最適な条件で振る条件というのをロボットに決めさせれば、非常に再現性高く細胞培養ができて、神経細胞までも培養できるようになってきた。
 このロボットはベストセラーになった。しかし、このロボットは大きすぎるし、日本の技術から見たらたいした技術ではない。要するに、そういうところにニーズがあることに我々は気がついていないだけである。日本の産業ロボット技術を先端計測に応用すれば、もっとレベルの高い、精度の高いことをさせられる。さらにロボットに任せることで、人間は、本当に人間しかできないことにもっと専念でき、もっと精度の高いタンパク質化学ができるのではないかと確信的に思っている。
 また、このようなロボットが簡単にだれでも使えるようになると、研究の発想がものすごく変わると思う。人間がやっているので研究がこの程度なのである。本当はもっともっと奥深い領域がある。

委員等
 北澤さんにお願いですが、大学にはロボットを作っている研究室がいっぱいある。しかし目標がないのも少なくない。歌を歌えるとかダンスをするとかをやっているのもあるが、今のお話聞いたら、大学の学生にそういう計測分析ロボットの開発を何チームか競ってやれば、何かいい夢が育たないかと思います。ぜひ来年度ぐらいには要素技術の枠の中でも考えていただければ。

委員等
 日本の大学の研究室のベンチに必ずロボットが働いていて、日本がそういう国になれば、研究環境が全然違ってくる。基本的に研究者というのは、サイエンティフィックにロジックにものを考えているようでいながら、これは物理的に無理だとか、余りにたいへんだという発想で、研究の方向を決めている。我々はタンパク質化学の世界の常識を変えたと思っているが、それは一生の間に人間ができる実験の量の100倍、数千倍の実験をできるシステムを構築したからで、そうすればすべての条件検討を一からやり直そうかということを発想できた。そういうふうに変われば、すべての分野にものすごく大きく貢献するのではないかと思っている。

委員等
 私も先生のお話に共感した。多くの計測のスループットは、計測そのものの感度と速さよりも、前処理がいかに正確に速くできるかということである。FIBというのはTEMの前処理の装置で、それをさらにロボットを導入すれば早くなる。これは大事なポイントで、計測の前処理の高スループット化はすべての計測に非常に必要なものであると思う。

委員等
 全くそのとおり。技術が突出すると、その周辺が必ず立ちおくれる。ものすごく高感度で、そのすばらしいところだけ注目されるので、そこのところはみんな研究したがらない。それが一緒になって初めて本当に役に立つ。

委員等
 産業ロボットは圧倒的に日本が進んでいる。世界の50パーセントぐらいは日本が持っている。ところが、計測用のロボットはなぜか進んでいない。ただ、これは計測分野の人たちの怠慢であると思う。つまり、そのニーズを日本の優れたロボット業界にきちんと伝えて、そこの接点を作ってやれれば、ある特定な分野でこうやってやりたいというような、そういうプロジェクトであれば、ほぼ確実に成功すると思う。産業用ロボットの次のロボットは信頼性が低過ぎるから愛玩用のロボットになっているというレベルだと思う。だから、その中間にそういうものをどんどん入れていったらいいのではないか。

委員等
 ちょうどそのロボット技術とバイオで要求される技術がぴったりであると思う。バイオに産業ロボットの技術が普及し、それを土台にして、またロボット技術も発展するのではないかと思う。

主査
 計測分野もロボットは多く使われている。ただポイントは、それのインテグレーションである。特にバイオ分野では、人の手作業を直接自動化して大きなインパクトがあった。通常の計測はもうちょっとスマートなので、発展の段階が複雑性においてまだ低いところでとどまっていると思う。
 ご指摘のとおり、今の議論はたいへん大事で、計測の本体だけを考えているのはだめで、周りを考えなければいけない。実は日本の計測装置のシェアが落ちていく理由の1つに、そういう部分があるのではないかと思う。科学技術研究を格段に進歩させるために何が大事かという発想で物を考える、今のお話はまさにその点に触れていたと思う。

委員等
 ロボットがここまで応用されているかと、非常に感銘している。
 アメリカの半導体の製造装置メーカーがあるが、製造装置だけでなく検査装置もやる。そこの成功は、世の中でどこが一番優れているかという観点でイスラエルの会社を買収して、要素はそこで買ってしまった。
 彼らには研究所はなく、事業化ということを非常に明確にして、徹底的に短期間で買収も含めてやるという、企業としての事業戦略を明確にして、そのために資金を投入することで成功したのではないかと思う。
 文科省でいろいろとやられる際も、日本は国産の技術だけでいくのか、それとも、世界の中で常に一番いいものを持ってきてシステム化するのか。本当は日本はセンサーやロボットやインフラ要素技術はものすごく発達していると思う。そういうものと結びつけて、どういう方向にどれだけお金を使うか、しかももっとグローバルにいろいろな国のものも持ってきながら、日本としての強さをどう構築するかということが必要なのではないか。

(4)中間評価の実施方針について

(資料6に基づき、中間評価の実施方針について簡単に説明し、次回に議論する旨説明)

主査
 本日は、活発なご議論をいただきましたことに御礼申し上げまして、終わりとさせていただきます。
 ありがとうございました。

お問合せ先

研究振興局研究環境・産業連携課

(研究振興局研究環境・産業連携課)