先端計測分析技術・機器開発小委員会(第17回) 議事録

1.日時

平成19年7月10日(火曜日) 14時~16時

2.場所

三田共用会議所 第三特別会議室(3階)(東京都港区三田二丁目1番8号)

3.議題

  1. JST先端計測分析技術・機器開発事業 平成19年度実施状況について JST戦略的創造事業本部先端計測技術推進部長 相馬融
  2. JST先端計測分析技術・機器開発事業 平成20年度事業に関する有識者からの発表について
  3. その他

4.出席者

委員

 石田委員、上野委員、長我部委員、近藤委員、志水委員、杉浦委員、田中委員、二瓶委員、中村委員、原委員、森川委員、山科委員

(説明者)
 鈴木慶応義塾大学教授、瀬藤自然科学研究機構准教授

文部科学省

 藤木大臣官房審議官、磯谷学術研究助成課長、佐野研究環境・産業連携課長、井出研究環境・産業連携課課長補佐、都筑研究環境・産業連携課科学技術・学術行政調査員

オブザーバー

本河独立行政法人科学技術振興機構開発総括
 相馬独立行政法人科学技術振興機構先端計測技術推進部長

5.議事録

(1)JST先端計測分析技術・機器開発事業 平成19年度実施状況について

<JST先端計測分析技術・機器開発事業 平成19年度実施状況について報告>

【委員等】
 先端計測分析技術・機器開発事業の開発成果を「分析展」で発表するというのは、非常にマッチしたいい機会だと思う。これからどういう新しいものが生まれてくるかを紹介することにより、夢を持っていただくという、参加する人にも有益であり、実際に発表される方にも何か新しいつながり、今まで大学単独とかでは出会えなかったような方と出会える機会があると思う。

(2)JST先端計測分析技術・機器開発事業 平成20年度事業に関する有識者からの発表について

(2‐1)「NISTレポートに関する報告」 株式会社日立製作所 基礎研究所長 長我部信行

 アメリカの計測に関する取り組みに関して、今年2月にNISTから2,000ページぐらいの報告書が出された。日本の先端計測の動きも多分意識していると思うが、米国として力を入れているという動きが如実に出てきた。
 今まで計測システムというのは、SIや、その国の重量・計量システムという、かなり限られたところで作られていたが、今回のアセスメントの特徴は、 USMS(米国計測システム)は、計測技術を開発する人や、供給、利用などすべて束ねて、狭い範囲の計量標準化ということだけではなく、全体を捉えるという問題の設定の仕方をしている。そのため、民間団体、政府機関、それから大学等の研究活動をやるところ、こういった科学研究コミュニティー全てを含んだアセスメントということになっている。
 背景としては、スタートが2006年2月にブッシュ政権が出した米国競争力イニシアティブであるが、この中で米国が今後10年間で予算を倍増すべきであると計画したのが3つあり、NSF、DOE、それからNISTが入っている。この3つを今後10年で予算を倍増するといっている合計額は、2006年は約 1兆円だったのを、2016年には約2兆円にするという計画をACIの中で謳っている。
 NISTは計量技術、計測技術をやっているが、イノベーションを促進する計測技術、計量標準を開発していくということに対して、NISTの予算では、 2006年約400億円だったのを2010年で倍増、800億円、来年2008年には500~600億円まで持っていくということで、計測を今後10年で非常に必要な技術という位置づけを2006年にしたというのがトリガーになっているということで、今回NISTでアセスメントをまとめた。
 調査に基づいたレポートであるが、目的は新産業あるいは成熟産業で非常に高度な計測技術への要求が高まっているが、既存の計測システムはニーズに対応できているかどうか不明ということで、新産業イノベーションに必要な計測、あるいは既存の産業をエンハンスするような計測システム、その課題を抽出しようということである。
 対象は11の産業分野について調査されている。方法としては2つあり、ロードマップの分析ということで、164の技術ロードマップを解析。それから、ケーススタディーとして15のワークショップを特別召集して、そのほか計測関係の識者のインタビューや、産業界から資料を提出してもらい、120以上の関連機関とコンタクトして、1,000人以上が調査に協力して行われた。
 結果のまとめ方としては、それぞれ11の分野における技術イノベーションに対して、このような計測が障害になっていてイノベーションが進まない、逆に言えば、こういう計測があればイノベーションが進むということがまとめられている。
 また、米国の計測システムの課題ということについては、大きく3つ挙げている。
 1つ目は、根本的に新しい計測技術が必要である。2つ目に工業プロセスや、ものづくりの現場において、リアルタイム観測や環境制御、センサーがないということ。3つ目はシステムサイドだが、新しい技術が生まれたときに、そのための標準、基準、単位系、実施要綱などがないということが指摘されている。
 例えば、1つ目は医療、半導体のようなエレクトロニクス、情報、通信、ナノテクなどの分野で深刻である。2つ目は、ものづくりの現場等の非常に過酷な環境下で頑強にセンシングできるようなもの、ケミストリー、エネルギー、電力、材料、自動車、金属加工などの分野で深刻であるという。3つ目のシステム面に関しては、国防関係、安全保障、医療等々において、ソフト・ハードの性能と相互運用性の標準化、性能基準の技術の進歩が遅れている。
 今後の可能性ということで、次のステップをどうするべきかが7つにまとめられている。(1)計測ニーズがあるということを社会的に認知させる必要がある。(2)こうした計測に対してアイデアや技術を持つ人が連携する必要がある。(3)根本的に新しい計測が必要な分野もあるため、ブレークスルーを促進する新しいコラボレーションが必要である。(4)リソースアロケーションのためにニーズの優先順位を決定することが必要である。(5)産業競争力という観点で、産業界の具体的な課題を解決するための支援が必要である。(6)産学共通で、研究、事業、ものづくりに共通する計測ニーズの分析をして、相乗効果を促進する。(7)でき上がった計測技術をどうやって商業ベースに乗せていくか、ということが提言されている。
 解決策として、計測インフラの構築ということで、おそらくNISTのインフラを強化、あるいは拠点をつくるということとも思われるが、計測技術を開発するインフラを構築するとある。あるいはシステムレイヤー、ネットワークということも含まれているかもしれない。それから産学官の協創、コラボレーションということで、グローバルに協力してスタンダードをつくっていこうということが書かれている。国際協調というのは、これはどちらかというと米国がイニシアティブをとって、標準化で米国がリーダーシップをとる。この3つの具体的な形で、7つの提言を活かしていくと書かれている。
 かなりこの委員会で議論している内容ともかぶるところがあり、日本を意識した内容になっていると思うが、我々としてもこういう動きがあるということを認識して、これに負けない、ある意味では協力するようなことが必要とも思う。

【委員等】
 国際協調や国際協力という話があったが、この委員会で議論している計測技術というのは、純粋な日本の技術開発を目指していると思う。しかし、具体的な提案などの段階で国際協力の要素は入り得るものか。

【主査】
 ご指摘の点については、よく考えないといけない点だと思う。どちらかといえば、我が国における計測分析技術、その重要性に対する認識が浅いのではないかというところから、この事業をスタートした。従って、ご指摘のように技術優先で、どちらかというと国際協調があまり表に出てこないように進んできている。
 ただ、国際的な協調というアメリカの姿勢は、ある意味で今までのアドバンテージを意識して、かつ、それに則ってさらに世界のリーダーシップをとりたいという雰囲気がにじみ出ている。もちろん、そういうところで日本が負けてはいけないが、アメリカのレベルと日本のレベルとは、いろいろな局面で相当開きがあるため、これをまず埋めていかなければいけないということも事実だと思う。
 これは議論があるところで、外国製品と言われている製品の中に、実は日本の製品がたくさん入っていると、これを外国製品として分類して議論するのが適切かというご指摘がある。グローバリゼーションは、確かにご指摘のようにいろいろな面で起こっているため、あまり単純な切り口で物事を議論してはいけない、ケース・バイ・ケースでしっかりと物事の本質を見極めないとといけない。

【委員等】
 官の研究所から、計測ニーズをウェブ上で公開し、アクセスできるようにしているが、それはただ門を開いているだけで、アピールするというにはまだ欠けている。
 先般、京都の産学官連携推進会議が開催されていたが、民間側からするとあまり魅力がないと指摘されているように、産学官の連携がなかなか進んでいないことによって開発が進まないという問題がある。

【主査】
 先ほどの「分析展」の場をかりてこの事業の成果を見てもらうことも、大変大事な一つの場、あるいはチャンスをつくることにつながると思うが、いろいろ関連する組織に対して呼びかけをしつつ、効果的な仕組みを考える必要があるのではないか。

【委員等】
 産総研の計量部門が同じような計測関係についての調査報告、アンケート調査のレポートを出している。それとNISTのレポートを比較して見ると、大変いいと思う。
 NISTが本当にきちんとした構造改革というか、それをやる覚悟があるのだろうか。NISTが面目一新してというような方向に行くのであれば、これはこれで非常に大きなインパクトを与える。

【委員等】
 NISTは、2006年から少し予算が増加して、マネジメントもいろいろ変わってきているようである。実際にどうなっているかというのはまだわからないので、今度機会があったら、現実にマネジャーにどのように改革しているか聞いてみたいと思っている。

(2‐2)「環境・医療分野等における計測分析技術・機器に対するニーズ」 慶応義塾大学理工学部 教授 鈴木孝治

 スクリーニング技術というのは非常に幅広く考えることができる。完全検査に当たるようなものをハイスループットで行う技術、また簡便なキットを含むその場計測のスクリーニング技術と幅広く捉えている。つまり大型機器から小型機器、さらにはベッドサイドに近いPOCT機器を含めたものをスクリーニングと定義し、片方は先端材料開発のシーズに応えていく、もう一方は生活のサポートとして衣食住を含めたものをサポートするような分析技術として発展させていく、この両方が必要であろうと考えている。
 今後のスクリーニング対象としては、バイオメトロニクス検査、爆発物、鮮度、テロ、安全・安心に期するものや、成人病、感染症、ストレスなどに関連したものが必要になってきており、特に食品、バイオ医療、健康管理、セキュリティー、これについてのスクリーニング技術というのは、ますます期待が高まっている。
 具体的な機器開発への要望ということでは、ハンディーなモバイル分析機器、超多検体の迅速処理装置、安全・安心を保障できる迅速装置、データベースなどの解析が簡便にできる装置、1検体当たりのコストが安い機器、人為的なミスのない分析機器、データ処理から二次的な情報が得られる装置、専門家と同等な結果が得られる装置、定量性をある程度持った簡便で安価で迅速なセンサー、完全メンテナンスフリーの装置、健康なエレクトロニクス機器につながる装置、インターネット情報を利用することができる装置、解析を自動で行って解析結果から総合的なガイドまで行える装置、こういう要望がある。
 開発の具体例としては、健康モニター、オールプリントでつくられる科学センサー、バイオセンサー、ソフト・ハードの融合型センサー、外部周辺機器としてのマイクロチップ、モバイル分析機器、モバイル大気ステーション、LANの端末や情報端末とインターネットのセンシング、リモートセンシング技術、多項目の車内とか室内モニター、細菌とかがんのスクリーニングのセンサー、高選択性の臭いセンサー、ロボット用の人工舌とか人工鼻、土壌診断センサー、人工細胞センサー、食品検査、鮮度検査の機器、残留農薬モニターなど。
 私どもの研究室では、このようなスクリーニングに関する提案として、科学と病院の医師、それから医療機器メーカーが合体して考えていこうということで、具体的には家庭、クリニック、総合病院レベルということを分けながら、新しい材料開発からセンサーデバイス開発、そしてそれをシステム機器に組み上げるということを行っている。
 環境汚染物質や健診、創薬、食品など、安全・安心のために判定ができる新たなスクリーニング検査機器というまとめ方ができるのではないか。その場での環境診断や健康維持のためのチェック、あるいは費用のかかる診断に移る前の前検査や救急医療検査、効率的な医療検査、創薬などの効率的な探査、それから食品や農薬などの迅速検査などのスクリーニング分析機器がニーズとして提案する。
 スクリーニングの中にも、細胞アレイのような大型な装置であり、創薬のスクリーニングだと大きなものになる。例えば蛍光を網羅的に使ったような解析技術、細胞やファージディスプレイのような創薬のスクリーニング、健康・医療に関しても、多項目を一度に解析するということになると、比較的大型な装置がイメージできる。

【委員等】
 地震予知の観点からすると、最近ではほとんど防災の方向へ動いてきた。医療も、いわゆる治療から、実際には予防、予知へ動いてきた。どんな治療を施しても、生きている人間は必ず死ぬわけで、それをどのようにきちんと早い時期に確認していけるかということは、社会基盤としての考え方がライフサイエンスの中にも入ってきていると思う。計測機器を発展させていく方向性をどのようにつくっていくのか。

【委員等】
 極限計測がどう活きてくるのかということと生活の壁はすごくある。片方では、生活の質や健康に関するものであれば、我々が病院や健康維持をどのように考えて、どうサポートする機器が成り立つのかと。新しい材料から革新的なものを生み出したり、またはそれを見る技術、それから生活を支えてくれるような機器など両方必要である。

【主査】
 一つの新しい原理が、幾つか共通するセンサーの基本原理になって、そのあるバリアーが突破できると、何十種類もの項目のセンシング技術が格段に進歩するというように、学術的な意味でも社会的な意味でも重要なテーマになると思われる。どのように道筋をつくればよいか、開発する側、シーズ側のヒント、考えをお聞きしたい。

【委員等】
 新しい材料や分子などを生み出すことが、要素技術に当たるかもしれないが、最終的には新しい機器を生むと考える。ニーズに合わせたものでも、実際にはでき上がっていないということがある。例えば救急医療検査でも、確実に全部の項目に合ったようなものはなく、食に関しても非常に低次元のものでしかない。分析技術としては、1つは革新的なものをつくるには新しい材料からということが大事だと思うし、もう1つは、やはりニーズに合ったものをつくるということが大事だと思う。

【委員等】
 環境分野では、ダイオキシンやPCBを質量分析でやると高くて時間がかかるため、バイオチップや簡単にモニターできれば、非常に世の中の役に立つ。具体的に今後の計画、優先課題については、どのようなものがあるか。

【委員等】
 環境分野においては、1つには地球規模のセンシングに寄与するようなもの、それから有害物質のモニターなど、なるべく簡易になるような機器、ダイオキシンについては、今GCMSでやっているようなものを、例えば抗体、抗原のようなものでさらに感度を上げていく、あるいは発光分析のようなものでさらに感度を上げていくとか、いろいろアイデアはあると思う。また臭いなどに対応するような機器なども挙げられる。

(2‐3)「顕微質量分析装置の開発状況と今後のプロトタイプの開発・改良について」 自然科学研究機構 岡崎統合バイオサイエンスセンター 准教授 瀬藤光利

 先端計測事業で実施している顕微質量分析装置の開発は、今3年目である。現在の進捗状況としては、既存のQITという島津の装置である質量分析を用いてイメージングするものをつくってテストしている。真空型のものは、既に市場にも出回っている。
 2006年には、IT‐TOFをベースにした大気圧型をつくった。去年、それにイオントラップをデジタルイオントラップに入れかえたものをつくり、今年マルチターンTOFをつくり、来年それにのせかえることを予定している。
 私はもともと医者で、そういう意味ではニーズから入っている。シーズとしては、MALDIで飛んでくるレーザーを当てたところからイオン化するという技術。それと出会ったときに、私は顕微鏡で患者さんの、もしくは正常の体の中を見るということを職業にしていたため、この2つが融合すれば非常に大きな未来があると考えたわけである。
 私がターゲットにしようとしているのは統合失調症。人口の1パーセント近く起きており、実際、大変大きな社会問題となっているが、多くの場合、病院に閉じ込められたりしているので、あまり認識されていないが、これは経済的な損失という意味では非常に大きいと思うが、それがちゃんとわかって病気がなくなるとすればお金で計れない価値がある。
 研究していると製薬会社の方々から、薬物動態、要するに薬はどこにいったのか、薬を投与した後の生体の反応、例えばストレスによる反応にも応用できるのではということで、思いがけない使い方が出てきている。真空型のもので見ると、例えば海馬の領域で2つの1544と1572のものは分布が違うということが見えてくる。
 癌は多くの場合、もともと生まれた大腸なら大腸の性質を持っている。今のところ、医者が目で見て、何となく大腸っぽいということで決めたりしている。それで相当なレベルで当たるが、もう少し定量的に、物質レベルでしっかりと決めたい。そうしたことを考えて、癌研と一緒に同定する研究をしている。
 「質量顕微鏡」という名前をつけて言い始めたときには、我々のホームページにしかこの言葉はなかったが、今調べると27万件以上使われている。お陰様で、いろいろ表彰していただき、特許にもなり、真空型は既に販売している。
 特にうれしかったのは、「ネイチャー」が日本のイメージングで注目すべき3つのイノベーションがあると。1つは柳田先生、船津先生らの1分子の観察。もう1つが、この瀬藤と島津製作所の質量イメージングだと。もう1つが、PETのすぐれた研究だと紹介していただいた。
 まだまだ改善、改良するべきところはあり、まず今の装置、真空型だと、揮発性の高い脂質や、また真空に持っていく段階において、代謝で変化するようなもの、早く変化してしまうようなものについては扱いが非常に難しくなってしまうため、大気圧型のものを今つくっている。また、表示や解析の部分のツールは、まだまだ改善、改良しないといけない部分がたくさんある。
 技術的な直近の課題としては、デジタルイオントラップを今のせたので、それをきちんとネガティブ、ポジティブ両方で動くようにして同定ができるようにし、マルチターン化する。
 現場からお願いしたいこととしては、データがとれると、そのデータを解釈するに当たっては、例えばGM1ならGM1がどういうパターンになるかということのデータベースが、まだ非常にプアなものしかない。またプロティオームでは、米国のある会社のデータベースが一般に使われているが、そのような分野が日本は非常に遅れている。こういう最先端の装置を使うと、実際に起こっていることだが、データベースにないようなもの、新しいものがたくさん見えてくる、見つかってくる。そのときにデータベースを充実していくということを同時にやっていく必要がある。また、一人の研究者が、この1544は何だということがわかったとすると、世界中の人がその知恵を使えるが、共通のデータベースがないと、毎回同じような問題を各地で解くということになってしまうため非常に無駄である。これらのデータベースや、特に初期の段階には、ノウハウの共有化ということが非常に大事と考える。

【委員等】
 現在、面分解能、解像力はどのぐらいあり、それをさらに小さく、例えばミトコンドリア1個というオーダーに持っていくためには、どういう技術が革新される必要があるのか。

【委員等】
 レーザー径を10ミクロン以下まで絞り、これを10ミクロンごとに撮れば10ミクロンの解像度となる。それで、10ミクロン以下をどう実現するかは、1 つの方法としてレーザーをもっと絞っていくことも可能。ただ、その場合は感度的に、エリアが小さくなってくるため、もっと高感度化を達成する必要がある。もう1つは、今これはマトリックスを使っており、マトリックスの大きさが数ミクロンになってくると、マトリックス自体のパターンを見てしまうということがあるため、ナノマトリックスを合成することによってもう少しブレークスルーがあろうかと思う。
 ソフトウェアの海外との競合ということを考えた場合、日本のものづくりというのは非常にレベルが高いが、ヒューマンインターフェース、ソフトウェアが余りフレンドリーじゃない、評判がよくないと思う。人員としても厚みが余りないと思う。
 一方で、ある海外のメーカーでは、ソフトウェア技術者がドイツに100人、さらにインドに外駐している。そうすると、ハードの性能としてはこっちのほうがずっといいが、使いにくいために敬遠されるということが実際によく起こっている。欧米に比べると知恵に対してのリスペクトが余りないのでは。やはり具体的事物に対しては尊敬するが、知識やノウハウといったものに対するあこがれというものがもう少し培われなければいけないのでは。
 この装置は将来もっとよくなる。そのときには、この装置を改善、改良していくことになるが、その間は使うことができない。実際、このプロトタイプにマルチターンをのせようとすると、その間、半年程使えず、研究はストップしてしまう。例えば我々の岡崎に置いて研究に使う一方、機器メーカーでさらに高分解能、高感度のものをつくるための改善、改良を行う。そのようなときには、やはり2台は最低必要だろうと、そうしないとスムーズに進まないと思う。

(2‐4)「先端計測分析技術・機器開発事業を通して計測分析研究者からのニーズ」 財団法人国際高等研究所 上席研究員 志水隆一

 先端計測分析技術・機器開発事業は、3年を経過し、私も評価委員会で公募申請に携わってきた。特に、今年度の申請書については130件全部に目を通すことができ、その過程でいろいろ思うところがあり、それを振り返ってお話しさせていただく。
 ワシントンポストの6月3日に載ったコラムに、ペンタゴンのダーパが、これからどのように進めたらいいか検討するために、ブリリアントプロフェッサーとディフェンスオフィサー、アナリストが集まって、数日間、極めて熱い議論を展開したと書かれている。そこで「U.S. losing its edge in scientific studies」というタイトルが出ている。
 ご承知のように、ダーパというのはインターネットを立ち上げたすばらしいプロジェクトエージェンシーであり、特に戦略目標が明確であること、それから展開する規模が非常に大きいということで、私どもはいつも注目してきた。そこが一体どうして危機感を抱いているのか、私にとっては大変興味のあることであった。
 さて、本年度の公募申請書をずっと読ませていただいたが、一番痛感したことは、大学におけるものづくり基盤が枯渇しかけているのではないか。まさに「losing」という言葉になると思う。本来このような機器開発事業というのは、大学に広い基盤があって、ものづくりがなされていて、その中からシーズが生まれ、そのシーズと民間の高度の技術とが融合して新しい先端機器を開発するというのが本来のあるべき姿であろう。
 どうしてこのような状況になったのか、それは幾つかその原因があると思う。まず、大学、研究所の工作室いわゆるワークショップと言われるものが、公務員の定員削減をうけて昭和50年から60年代にかけて縮小され、あるいは廃止されたことはご承知のとおりである。また、民間企業においては、昭和60年代の後半に国が進めた黒字減らしというバイアメリカン施策のために、特に先端計測機器メーカーは壊滅的な打撃を受けて、その後、国産先端計測機器は市場から消えていった。それに追い打ちをかけたのが、金融バブル崩壊後の失われた10年であったのかと思う。
 もう1つ、科研費の試験研究がいかにすばらしいものであったか申し上げたい。名古屋工業大学名誉教授の後藤敬典先生がつくられた世界で唯一の絶対測定できるオージェ電子分光装置でとったスペクトルが世界のオージェ分光スペクトルのスタンダードになろうとしている。実は、これは20年掛かって作られた装置で、最初の10年でこの装置の原型をつくったのは、まさに科研費の試験研究だった。ところが、平成8年度に試験研究がなくなり、その後、営々と科研費に申請したがついに採択されなかった。そのため国際標準化活動の補助金がありささやかな支援ではあったが、それでつくり上げた装置である。このように、恵まれない研究環境の中で、ものづくりを育ていくことが難しくなった一つの要因ではないかと思っている。
 このようなものづくりを若い世代に浸透させるためには、地方の大学や私学でコツコツとものを作っている人たちを発掘・支援し、シーズとして取り上げる目利き人の存在が必要だと思う。大学の中で長年に亘ってものづくりに携わってこられた方をその目利きとなる人材育成コーディネーターとして任用していただきたい。
 また、二瓶先生や我々にとって極めて慙愧の念に耐えないことであるが、既存の日本の幾つかの学会、特にものづくりにかかわる学会は、その使命をどこかに忘れてきたような気がする。学会というのは、次を背負う人材をどのように育てるか、あるいはそのために一体どういう使命を持って、どういう戦略目標を立てるのかということをもっと議論し発信しなくてはいけなかった。今からでも関連学会が協力しあって「ものづくり」基盤育成に取り組んでいかなければならないと思う。
 これは先程のコラムの中で、ダーバのチーフオフィサーのジョン・ヤングが強調していた中に、ロングターム・サイエンスとショートターム・タスクとがバランスというか、融合しているところがないとだめということで、ダーバにはそれが欠けているのではという指摘をしていた。言ってみれば、科研費はショートターム・タスクだろうと思う。それで、科研費の試験研究のようなものから、さきがけやCRESTを通してロングターム・サイエンスにつながっていくような、そういう道筋が見えれば、私は日本のものづくりは心配ないと言えるようになると思う。
 アメリカでは「TEAM」というのを立ち上げて、収差補正レンズが開く世界がどんなに大きなインパクトがあるかということを3年かけて検討を進めた。我々が「TEAM」に学ばねばいけないのは、予算を取ってきて収差補正電子顕微鏡を自分の研究室に置くことでなく、こういう顕微鏡をつくることで、一体どの分野でどんな新しい展開ができるか、またそれを担う人材がいるのか、どうしてそのような人材を育てていくのか、に英知を結集して取り組んでいくことにあると思う。
 今後の新しい研究領域についても、2つ提示させていただきたい。
 まずは、ある地点の定点観測として、高感度で何が起こっているかということを分析、解析するというような方法はこれまでも数多く開発されまた提案されてきた。しかしここにきて、世界は多次元の計測、つまり3次元空間と時間軸という4次元の空間における計測をねらった新しいネットワーク構築を始めている。
 イラク戦争が始まったときに、アメリカの国防省がイラクの戦場に行く兵士にマッチ箱大の小型センサーを付けさせた。これは単三電池2個で動作し、ここから彼がいる地点の温度と湿度と気圧、それを測定して、無線通信で信号を送って、親機がそれを全部とらえて、そして解析する。兵士は何千人も展開しているわけだから、それぞれの場所がどういう温度、湿度、それから爆風を受けているかということが、3次元のマッピングで全部勾配が出てくる。そして、もう1つ大事なことは、例えば1時間後にそれがどこへ移るかという未来予測ができる。
 カリフォルニア州がこれをすぐに導入して、山火事のときにヘリコプターから撒き、各地点のデータをとれば、いわゆるファイアーフロントがどのように広がって、何時間後にどこに到達するかというのを的確に予知することができる。このセンサーはもう市販されており、ハードは日本でも製造できるが、その情報を全部集めて解析をして、そして未来予測まで的確にもっていけるだけの学問のベースというのは、それは容易ではない。流体力学の知識も要るし、いろいろな相関相互作用の知識も要る。
 もう1つ、世界は、もうフェムト秒の世界に入りつつある。タンパク質にフェムト秒レーザーを当てても結晶がちゃんと見える。ところが、ピコ秒では結晶は全然見えなくなってしまう。昨年のローレンス・リバモア研究所の報告によれば、電子顕微鏡というより、むしろレーザーの最先端技術と加速器工学とが融合したものだと思う。4次元の世界でもって我々は高密度の電子線パルスをどう制御して、どういう情報をとるかというのは、まさしく先端機器のチャレンジではなかろうか。
 もっと広い視野で新しい研究分野を、異分野の人たちが集まってそれぞれの英知を結集して新しい先端機器開発に挑戦するということも今後必要ではないか。それがまた新しいものづくりのモーチブフォースになってくると思う。
 最後に、日本は先端計測機器で「losing」しないように英知を集めて、ものづくりの基盤から培っていくような広い視野の展開をぜひ考えていただきたいと思う。

【委員等】
 先端計測を振り返って、新しい分野を切り開いたのがなかったのか。

【委員等】
 切り開いたのは幾つもあると思う。ただし、異分野と融合しながら新しい世界を目指すような提案申請書は、少なかった。例えば、電子顕微鏡でいえば、バイオ電顕というのは、液体ヘリウム温度まで冷やして、それで生体の組織が崩れる前に何とかして写真を撮りたいが、現状では限界と言われている。しかし、フェムト秒レーザー顕微鏡は、壊れる前にちゃんとディフラクションがとれる可能性を秘めている。ローレンス・リバモアでは、レーザーのエキスパートと加速器のエキスパートが、いろいろ検討しながらやっている。だから、異分野の融合を目指すような視点を持つうえで非常に学ぶとところがあるのではないかと思う。

【委員等】
 今、産業界では、本来リスクテークしなければいけない製造業が、一部商社化している現状がある。営業上そういうことにならざるをえないかもしれないが、人材育成という人づくりという点において、今この先端計測分析を扱っている産業界、大学、全体においてどういう状況が起きているのか。

【委員等】
 最近の応募の中には、中堅中小企業と組んだ非常にユニークなものが多い。また大企業がキャパシティーオーバーになったせいか、大企業がパートナーとして出てくるというのが非常に減ってきた。それはアイデアがないわけではなく、大企業がもう既に自分たちのキャパシティーオーバーだと、あるいは今の技術では大変だと判断しているのかもしれない。プログラムオフィサーのような産学コーディネーターが、大学のシーズをもって、中堅中小企業と組ませるようなコーディネーターの役割をもってもらうようにする。先端計測機器がここに来てまた新しい展開をするならば、中堅中小企業が果たす役割は大きいと思う。また、そういう研究を通して中堅中小企業の持っているよさを若い人たちが見て、ああいう会社に行ったら、こんなおもしろいことをやらせてくれるのか、じゃ行こうかなというようになってくれたらいいと思う。

【委員等】
 最近の学生たちは、手を汚す研究室には行きたがらないということはあるが、現実にドクターコースまで行くと、やるようになり、余り心配していない。
 ただ、旋盤も触らない人が増えているというのも事実だが、やらせればやるはずである。今の大学のやり方は、学生に迎合しているところがあると思う。例えば入試の科目数を減らしたり、理系でも物理をとらない学生がいっぱい来るとか、あるいは生物をとらないで医学部に行くとかある。カリキュラムを組むときも、学生がたくさん集まるような内容の講義の先生の方がいいというようになってきている。
 あまり学生に迎合しないで、学生実験で旋盤やガラス細工などの世界があるということを知って、どんどん成長していかなくてはいけないのでは。いきなり1 年生から、先端の話だけ聞かされて、大学院に行っても自分で何もやらず、文献を読んでその解釈だけしているというのは問題があると思う。

【委員等】
 京都のある大学の工学部でドクターコースに行かなくなっている、またオーバードクターのように就職が難しいということで、大学のシステムとして何とかしようと企業と積極的に交流する動きが有る。また、昔は大学で電子工作室のようなものがあって、いろいろ機器開発もできたという感じがした。

【委員等】
 ナノの加工では電子描画装置が大変重要なテクノロジーになっている。最先端レベルでは、5ナノメートルで加工ができる世界一の装置が日本の中小企業で開発されている。
 今までアメリカはゲノム、バイオにかなり力を入れて世界を席巻したが、いよいよナノ加工にも力を入れ始めて、ハーバード大学、デューク大学、ペンシルバニア大学等に、日本発の世界一の電子描画装置が導入されている。また、台湾大学、精華大学、交通大学、シンガポール大学、韓国にも2つの大学に入っていると聞いている。日本はナノ加工分野では先頭を走っていたが、大きな遅れを来す恐れがあると思う。
 中小企業は、卒業研究、修論の場の提供、インターンシップ、研修、見学の受け入れなど積極的に取り組んでいる。大学だけでなく、工業高校にも進めようとしている。
 また中小企業でもドクターを中途採用することが増加してきており、先端の加工、計測という分野では、中小企業の役割が増えてきていると認識している。

お問合せ先

研究振興局研究環境・産業連携課

(研究振興局研究環境・産業連携課)