先端計測分析技術・機器開発小委員会(第16回) 議事録

1.日時

平成19年6月5日(火曜日) 14時~16時

2.場所

丸の内仲通りビル 地下1階 K2会議室(東京都千代田区丸の内2-2-3)

3.議題

  1. 戦略的創造研究推進事業における先端計測分析関連課題の現状と課題について
  2. その他

4.出席者

委員

 上野委員、北澤委員、近藤委員、志水委員、杉浦委員、田中委員、二瓶委員、橋本委員、原委員、松尾委員、森川委員

文部科学省

 藤木大臣官房審議官、川上振興企画長、佐野研究環境・産業連携課長、大竹基礎基盤研究課長、上田研究環境・産業連携課課長補佐、木村大型放射光施設利用推進室長、都筑研究環境・産業連携課科学技術・学術行政調査員

オブザーバー

 本河独立行政法人科学技術振興機構開発総括、澤田独立行政法人科学技術振興機構開発総括、相馬独立行政法人科学技術振興機構先端計測技術推進部長                                                                                      

(説明者)                                                                                       
 田中東北大学名誉教授、柳田大阪大学大学院生命機能研究科教授、鈴木独立行政法人科学技術振興機構研究領域技術参事、森島立命館大学理工学部客員教授

5.議事録

(1)戦略的創造研究推進事業における先端計測分析関連課題の現状と課題について

(1‐1)「『物質現象の解明と応用に資する新しい計測・分析基盤技術』の現状と課題」

【田中通義東北大学名誉教授(CREST研究総括)】
 当方の領域は16年度から始まり、初年度は応募数が122で採択件数は6件、倍率は20倍強。応募件数に比例して非常にすぐれた研究が多く、採択できなかった課題もたくさんあった。2年目の応募件数は初年度の半分程度に減り、倍率としてはまだ14倍弱と高い競争倍率であった。一般的な傾向だが3年度目の応募はかなり減った。
 成果の指標としての論文数と特許数は、16年度には論文数は5、口頭発表は116、特許はゼロだったが、17年度にはそれぞれ48、182、5、18年度にはそれぞれ、102、382、11と原著論文、口頭発表、特許も増えており、客観的な指標として着実に成果が上がっていると考えている。
 採択課題については、結晶構造をテーマにしている課題と、電子状態をテーマにしているものとの比率は64程度。また、マイクロスコピー、スペクトロスコピー、ディフラクトメトリーに分けてみると、マイクロスコピーとスペクトロスコピーがほぼ拮抗しているという状況であった。可視化、高分解能化、高感度化、時間相関に分けてみると、可視化と高感度化が非常に多い。
 採択課題の専門分野としては、SPM3件、ESR、X線、電顕2件、軟X線レーザー、放射光メスバウアー、光電子分光、NMR、MS、テラヘルツ、原子、レーザー、少々異色なものとして水素の三次元分布の可視化というテーマが入っている。SPMついては、研究者が非常に多いため選ばれた数も多い。採択は広い分野を満遍なくカバーしている。
 このような取り組みにより、評価・分析法や装置の開発が直接的に加速された効果は非常に大きく、大変ありがたく感謝している。若い研究者がPD等で雇われる可能性が増え、育成できるという効果は非常に大きいものがある。
 当領域ではCREST採択後、研究代表者の助教授3名が教授に昇進され、CRESTの研究を始めたということもプロモーションに大きく寄与したと思っている。こういう若い教授がこれから10年あるいは15年、一つの研究分野を大学に確保することができたことは、その分野を発展させるために大変大きな効果があると思っている。
 こうした事業が短期的に終了してしまうと、せっかく活性化してきた分野が萎んでしまい、材料開発の研究者が外国の分析装置を買うということになってしまう。
 今後の課題としては、ナノとサブミクロンの間をつなぐ技術について明確なタイトルをつけて打ち上げてもいいのでは。電子線を使う技術の空間分解能は初めからナノだが、光の方は、エバネッセントウエーブとかもあるが、やはりサブミクロンにとどまる。電子技法と光の技法を積極的に融合するとか連携するとかして、空間分解能がナノとサブミクロンの間の評価、分析技法を開発することは意味があると思う。
 次の戦略目標の設定については、世界的な規模で客観的、系統的、総合的な調査を行って、それを分析した上で、戦略目標を考えていく必要があると思う。
 研究のニーズを持つ生物系と装置開発力を持つ材料系の先生方とをうまく結びつけていくことが非常に大事なことと思う。物性系、材料系、電気、機械、システムの研究者とも上手に連携が取れれば、急速に研究が進むという分野もある。異分野融合は、日本人は必ずしも得意ではないので、どのように促進させるかは重要な問題かと思う。いろいろ大きな問題から細かい問題まで、異分野の研究者が相互乗り入れをするような、あるいはできるような環境づくりが大切と思う。

(1‐2)「『生命現象の解明と応用に資する新しい計測・分析基盤技術』の現状と課題」

【柳田敏雄大阪大学大学院生命機能研究科教授(CREST研究総括)】
 今後の技術開発の戦略について、お話しさせていただく。
 現在は、生物系では細胞や分子などを対象とし機能に関して、いろいろな方法で精力的な研究が進められて、飛躍的な進歩を遂げている。今後、生物系、生命系では何をターゲットにすべきかについては、もう少し高次の発生分化、免疫、知覚、記憶、意識、心理、社会経済などが対象になってくると思っている。このような機能は当然、複雑なシステムで発現されており、それをどう計測していくかということになるかと思う。現在行っている研究は、目標(対象)がきちんと形を決める、動きを見る、反応を追うといった非常に明確なものを対象に計測をしている。
 ところが、これから生命系でやりたいと思っている高次な階層で起こる高次な機能の計測というのは何を測定していいかよくわからない。今、ソフトマター、自己組織等が相当注目を浴びているが、多要素が自己手法化したようなシステムの系を測定するとなると、これもまた多分生命系と一緒で、何をどう測定していいかわからないということになってくるのではと思う。だから、ここで、何を開発していいか私にもわからないし、世界中、誰もわからない。
 アメリカでは、ほとんどアシスタントプロフェッサーが中国人になっているなど、かなり中国が発展しているが、もうやれそうなことをやっていたのでは、多分人的、能力的にも勝てそうにないと思う。だから、これからは何をしていいかわからないというところを開発し、イニシアチブをとるという以外にないのではという気がする。
 20世紀の生命科学というのは主には試験管内の研究で飛躍的な進歩を遂げた。分子細胞生物学とか遺伝子工学等で飛躍的な進歩を遂げてきたが、実は余り役に立っていない。遺伝子治療が役に立ったという話は聞いたことがないし、ES細胞で何かできたという話は聞いたことがない。そのため個体レベルで今までやってきたような分子細胞生物学をやらなくてはいけない。
 例えば個体だと磁場を使う以外にない。また光も可能性があるかもしれない。それとプローブが非常に大切なので、分子・ナノプローブを使って個体レベルで分子細胞生物学をやろうというようなことをやっている。もう少し具体的にいうと、免疫というのは感染して自己免疫が起こって、その次に獲得免疫が起こって記憶免疫が起こる。これが体の中で起こっているわけだが、どの部分でどういうふうに、こういう免疫反応が起こっているかということを調べたいというのが免疫学者の夢である。
 脳の研究では、高次機能ということで大脳皮質の機能マッピングというのが非常に精力的に行われている。逆に、今、実は一番大切なのは古い脳の大脳皮質下のいわゆる情動であるとか記憶という内部情報と、外部のそういう情報が一緒になって処理されることによって人間らしさが出てくる。ところが、この大脳皮質下のイメージング法というのは今ない。例えばヨーロッパでは11テスラぐらいの人間のf MRIの装置をつくろう、ユーロスピンなんかは数百億、アメリカもやろうとしている。
 しかし、このような課題に関しては、何をどうしていいかわからない。それはもう計測学の学者だけがやっている世界ではなくて、その研究者と計測をやる人が一体となってこういう問題を解くために、どういう計測法が必要なのかというのを日夜議論しながら努力して、新しい計測法というのを創出する必要がある。計測法でイニシアチブをとれば、生命科学も日本もかなりいいところに行くのではと思う。
 最後に、どのように進めるかについては、金をかければいいというものではなく、特に生命分野では技術開発というのは割に合わない。時間がかかり、論文がほとんど出せず、成功する可能性が非常に低いため、そういうことをする人はいない。人生を棒に振るという可能性が非常に高い。成功したとしても縁の下の力持ちで終わってしまう。
 解決策としては、カリスマ性のある強力なリーダーのもと、この先生についていけば何とかなるんだという洗脳的なことをやって、ぐいぐい引っ張っていくという以外ないのではと思う。

【委員等】
 何かこうやろうという人たちが集まって始めたと思うが、その結果、悲惨なことになっているのか、それとも中にはこれはいいぞとリーダーが思えるような状況に現在なってきているか。

【委員等】
 リスキーな研究を国策としてやるべきではないか。相当腰を据えてやらないと、もう既に北京、上海に負けていて、インドにもそろそろ負ける。スペックを上げることはもちろん大切だが、それだけをやっていたのではとても勝てないのでは。

【主査】
 計測分析の研究支援という意味では、科研費、CREST・さきがけ、先端計測事業があるが、その役割分担に関してご意見を伺いたい。

【委員等】
 研究者とニーズをもっている人とが組むということでは、科研費ではなく、CRESTのシステムは非常にいい。実際、たくさんシーズがあり、非常によく機能していると思う。

【委員等】
 以前は科研費に試験研究という制度があった。科研費の中に試験研究のようなものを復活していただきたいと思う。シーズをつくるには、それ程大きなお金は多分要らない。例えばSTMにおいても、最初、スイスでできたときは、それ程お金をかけていたわけではないため、もっとベーシックな科研費でカバーしていただき、シーズのあるものはさらに続けて支援いただくというものにしていただきたい。

(1‐3)「『構造機能と計測分析』の現状と課題」

【鈴木次郎科学技術振興機構研究領域技術参事(寺部さきがけ研究総括代理)】
 本領域は、生体物質の構造や機能に関する分析技術や生命現象の計測技術、それから原子・分子レベルにおける物理・化学現象や物性及び表面・界面の構造や機能に関する計測・分析技術、それから環境や生体の計測・分析技術などに関して、新たな方法論の創出や技術展開の契機となるような研究、計測・分析技術に関してブレークスルーをもたらすことが期待される試料前処理、それから試薬、ソフトウエア等の重要な関連技術を対象としている。
 平成16年に502名が応募し、24名を採択。17年度が134名に対して7名、18年度が102名に対して9名、合計40名の研究テーマが現在進捗している。初年度の応募が多すぎたため、森島総括が担当されている生命現象を17年に発足した。そのため、16年度は生命系の人がかなり多く、18年度になると物理・化学系が非常に多い。
 物理は表面・界面の物性計測、化学はたんぱく質の分析、生命は生理活性物質の定量が現在多く行われている。研究内容としての効果は高感度化、高精細化をねらったものが多い。物理系では装置開発、生命・化学系では方法論開発が主体になる。
 研究成果の波及効果としては、短期間で実用化が期待できる課題は少ない。しかし、実用化されれば波及効果の大きい研究は多数ある。
 今後推進すべき研究、基礎研究の分野としては標的の計測法の開発のみでなく、方法論の開発研究が新規計測法の開発に発展する。例えば、ナノ空間に閉じ込められた液体分子の動態計測法、これは例えば100ナノメートルぐらいの狭い空間に入った水が壁と相互作用するとか、物理・化学的な性質が変わるということで、バルクの液体とは異なる物性になる。そのような細胞内の液体の動態にも関係してくるのではないか。
 液・液界面における物質移動の直接観測法については、固・気や固・液の界面においては非常にやりやすい観測法はいろいろあるが、液・液という部分についてはなかなか難しい。そのため、観測するということがサイエンスのスタート点として必要ではないか。化学系としては多成分混合物の一斉分離定量法。電気泳動などでまず分離することが計測の重要な位置づけになり、特にオミクス、DNAなどの研究にはハイスループットが必要であり、多成分混合物の一斉分離定量法が必要である。また遠隔測定法(テレケミストリー)として、衛星から地表を見たり、遠いところをリモートで分析するということも必要になってくる。生命系としては生体内の小分子、ホルモンあるいは神経伝達物質など分子量が100~200程度の可視化用プローブが必要になる。
 一方、開発的研究として推進すべきことは、新しい計測原理でなくても技術革新が必要である。例えば、環境、食品、臨床などの分野において、大型装置を必要としない簡易計測法を確立し、高速化、実用的にユビキタス化して小型化、使いやすさを向上させた可搬型小型計測装置。また、社会システム、新しい環境に優しい、あるいは健康とか安全とか、新しい社会に適応するようなものを提供することも一つの方向だと考える。

(1‐4)「『生命現象と計測分析』の現状と課題」

【森島績立命館大学理工学部客員教授(さきがけ研究総括)】
 生体分子のサイエンスから生命現象のサイエンス、構造生物学を超えて、次に来るべきものとしての生命、生命現象という領域で、先駆け的研究を支援しようというものである。具体的には細胞内におけるいろいろな化学過程、生命現象というのは複雑な化学過程のインテグレートされたものであるが、それのいろいろな切り口から計測する、見るという新規な方法を期待している。
 17年度は約18倍の倍率があったが、18年度は少し減ったものの、19年度は現在審査中であるが132件の応募があった。
 内容としては現在注目されている1分子計測が非常に多い。我々としてはシーズを探したい。原理にさかのぼって全く新しい計測方法あるいは計測対象を期待しているが、何を測定するのかということが極めて難しい。そういう意味では、厳しく言うと、挑戦的な研究内容は残念ながらまだ少ない。
 波及効果が高いと思われる例を挙げると、単粒子法解析というのがある。従来は結晶化しにくい生体分子、例えば末端束などのアトミックなレベルでの構造を明らかにしようというものである。低温の電子顕微鏡で立体構造を解析されてみえるが、その手法を飛躍的に上げようというものである。
 今後推進すべき研究としては、将来のシステムバイオロジーに向けて細胞内の動態をちょっとした兆候から測る、例えばアポトーシスという状態になっていることを迅速に計測するということに、若い人に挑戦してもらいたい。過渡的複合体の形成や、細胞間交信などに挑戦してもらいたい。
 新規分光技術開発や新規顕微鏡観察の技術開発、アルゴリズム、または新規プローブ物質の合成等がはやっている。また構造としては、細胞レベル、それから細胞間の相互作用とかに集中している。
 将来的には、個体レベルに向けての方向の測定を地道に押さえていく、そういう研究が必要ではないかと思う。

【委員等】
 6月1日閣議決定された「イノベーション25」には異分野融合、いわゆる融合という言葉が30件も出てきた。異分野融合という言葉自身がほとんど知られていなかった数年前の状況から比べると、ものすごいインフレを起こしている感じである。
 計測分析機器の開発は、自然に異分野融合が行える。例えそのプロジェクト自体が失敗しても、その取り組み自体が新しいことなので、次に活きる、人材を育てるということになる。分野の垣根を越えてコミュニケーションするということが、次の新しい発想を生み出すということにつながると思う。日本は異分野融合が下手と言われているが、日本なりの良さを活かしながら、お互いに切磋琢磨していくような方法で成果を出すことができると思う。先端的になればなるほど、誰もやっていないことをやればやるほど、100のうち1つ当たればいいと思う。人材を育てたなど、別の評価軸があればよい。

【委員等】
 プロジェクトが終わったときに最終評価するが、実はその後も追跡する必要があるのでは。関連論文をその人がずっと出しているかとか、もう少し長いインパクトがあるかもしれない。本当に価値のあるものだったら継続的にやることが大事ではないか。

【委員等】
 先週のワシントンポストにDARPA(米国防衛高等研究計画局)が招集した戦略会議の解説が出ている。これは国防省が肝いりで、研究者のトップとディフェンスデパートメントのオフィシャル、アナリストを集めて、数日間に亘りこれからのDARPAの戦略を徹底的に議論したと。その中で、現在のアメリカは転換期にあり、悲惨な状況を迎えようとしていると明確に書いてある。その理由の1つに、リスクを嫌うというのが蔓延してきたと。DARPAはインターネットをつくったすばらしいエージェンシーであり、そこが危機を抱えている。もう一つはそれぞれのテクノロジーを融合して一つのものに向かうということがなくなり、厳しい批判がなされている。
 バイオロジー、ナノテクノロジー、インフォメーションサイエンス、ロボティクスの4つを融合するということが必要であるが、ただ人が集まって、例えばバイオと電顕の先生が集まって何かを見るというものではない。それは相手の分野を理解して、その間を結びつけるブリッジになるような研究、人材育成をアメリカが今着手しないと、世界に負けるということが書かれている。何が欠けていたかというと、コンバージングとコンバイニングとエマージング。アメリカはそういうものにもう一度戻らないと、次のアメリカは見えないという危機感にあふれ、この数日間非常にすばらしかったと。
 新しい何かを計測をするということで、その俊秀を集め、夢を追うという何か新しいCRESTの方向もぜひ先生方に考えていただきたいと思う。

(1‐5)「先端計測分析技術・機器開発事業の視点から見た戦略的創造研究推進事業」

【本河光博科学技術振興機構開発総括】
 機器開発プログラムは企業と大学が連携するというのが条件になっており、小さい企業から大きな企業までいろいろある。要素技術プログラムは特に連携を規定していないが、現実には約半数が企業とタイアップしている。
 戦略的創造研究推進事業と先端計測分析技術・機器開発事業との大きな違いは、基盤技術創出を目的とする前者と、プロトタイプによる試作までを実施する後者というところにある。すなわち、研究者が何かのアイデアを出すということは無から有をつくりだし、それをCRESTやさきがけで芽にして、先端計測事業でモノにする、と同時に、このようなプロセスの間に若い人の人材育成につながる。
 現在の状況を見ると、金の切れ目が縁の切れ目というか、研究期間が終わると、その成果がどこにも行かずに死蔵されてしまうこともある。もちろん、多くはプロトタイプができて、その先生の研究あるいはその周辺先生方の研究に使われると思うが、このプロトタイプができて何か事業化されない限り、他の人たちも共通に使って何かやるという形にはなかなかならない。
 戦略的創造研究で出た芽をうまく先端計測につなげ、先端計測で育った若木をうまく成長させ、これをプロトタイプ実証など、あるいは企業でプロトタイプを事業化するというロードマップが必要である。それから、製造された装置を使ってもらうことまでが必要と思う。開発した人は自分の研究に使うことを目的としているが、本人だけが使っていたのでは、事業の目標が達成されたとはいえない。そこで、科研費やCREST等で、開発された装置を使う場合に補助金を出して、広く使ってもらうということも大事と思う。18年度で終了したテーマのうち、中国から引き合いがあり多くの製品を出荷しているが、日本ではほとんどない。パンフレットを作るだけではなく、それを使って研究できるような体制をつくらないと、いつまでたっても死蔵されたままになってしまう。
 以前、科研費に試験研究というのがあり、比較的少額で非常によかったと思う。それを例えばCRESTなどに新たな仕組みとして加えていただき、小型の無から有を生じるようなシステム、若い人にあまり成果を問わず、頑張って何か考えなさいというものがあってもいいのではと思う。
 アメリカで、バイオの先生がナノ粒子を細胞に入れて、レーザーを照射する研究の話しをされていたが、物理学者顔負けの講義をされていた。分野が違っていても物理というのは必須で、物理学者になるための物理じゃなく、初等的な電磁気学や古典力学、初級の量子力学ぐらいまでを理解していないといけない。そういうところから教育ということも含めて考えることが必要で、単に先端計測だけの責任で日本を将来背負っていくことは不可能である。

(1‐6)「戦略的創造研究推進事業における先端計測分析関連課題の現状と課題(総括)」

【北澤宏一科学技術振興機構理事】
 先端計測の事業で行われている現在の研究で、すばらしい成果がいくつか見えてきている。本プロジェクトは開始されてまだ2年半だが、始めるときに一つでもおもしろいものが出てくれば成功とかいうふうに言われていた割には、おもしろいものがいくつか現れてきている。
 CRESTでは長期的に機器メーカーとも組める時間は実質6年あるが、その間に資金が保証されているために機器メーカーと組むことができ、ある程度の資金がないと機器メーカーと仲良くできない。物質関係の研究では自ら機器開発をしないと先端的研究ができない、つまり、自分の研究のレベルを差別化するためには、自分たち自身で機器開発をしないと最先端の研究はできないという面がある。さらにCRESTは割とフレキシブルな運営をしているということもあり、本来、共同開発のようなものでも、機器としてメーカーの製品の中に番号をつけて、特注品として買うことができるという面があると思う。なぜそれが大事かというと、売り上げが立たないとメーカーとしてはやっていけないという面があり、特注品の番号がついて売り上げたということになることが、企業にとっては重要なことである。それとともに機器開発はユーザーとメーカーとの間で、不断にフィードバックをしていかなければならない。
一方、学生はユーザーでもあり、設計屋でもあり、さらにソフトウエアの開発者でもあるという意味で、ユーザーとして巻き込まれながら開発に従事できる。メーカーの設計をする人たちは自分自身がユーザーになっている暇がない。そのためにやはり大学の学生が巻き込まれるということは非常に重要である。
 以前、私が携わったCRESTのメンバーの一人がホログラフィー顕微鏡を作り、当時世界一の解像度を記録することとなり、世界中招待講演を行っていた。こういうことは、自分たちで機器開発をしていないと、国際会議のインバイティドスピーカーの定席を占めることはできない。
 先端機器開発で、今、問題になっているのは、プロトタイプの直前まで行くが、そこでもう一つバージョンアップした人が使えるようなタイプのものをつくらないと、売り物にまでつながらないということがある。日本には戦略調達というシステムがないために、アメリカで実施されている途中段階のものを製品として売り上げるということができにくい面がある。これWTOとの関係でなかなか難しい部分はあるが、機器開発プロジェクトで、考えていかなくてはいけない問題と思う。
 CRESTは研究期間5年終了後、日本がその分野でアメリカ、ヨーロッパと並んで三極体制の一極として強い軍団ができていることが必須条件で、それで成功と認めたい。世界のトップに立たないと、機器開発にしても何にしても一流のことはできない。CRESTは、それができたかできないかで成功しているかどうかを計らなくてはいけないのでは。ブレークスルーはその一流軍団から出てくるため、何か新しいことが基礎的な分野で起こったら、必ず特許はとれると思う。その意味で、CRESTは世界のトップを走る軍団をつくれるかどうかにかかっている。

【主査】
 前回の小委員会でも話題に上げたアメリカのNIST(米国立標準技術研究所)が、ブッシュ政権の米国の戦略的観点からの重要研究所あるいは研究分野に選ばれた。そこで、NISTがUSMS(米国メジャーメントシステム)に関して、どのような現状かというアセスメントを行ったが、その中に非常に重要な観点が幾つかある。
 1つに、イノベーションを推進するに当たり計測分析が極めて重要な分野であることを認めたこと。したがって、NISTが重点的研究所と認められたということになる。また、いろいろな産業や学問分野のメンバーに対して、何が重要なターゲットなのかということを調べた。イノベーションの促進には計量システムというのは極めて重要であり、イノベーションのバリアーになっている部分で計測システムにかかることが極めて多いと示されている。したがって、逆に言えば、計測システムの革新的な進歩がイノベーションを促進するのに、極めて役に立つということを言っている。
 これは実は私どもが前から申し上げてきたことであり、本委員会が発足したのも、もちろん田中委員のご尽力もあり、いろいろな方々のご協力をいただいた結果ではあるが、このような認識について日本は決して遅れていないと思う。そのおかげで4年目を迎え、計測分析システムの関連分野を総合的に推進するという政策を進めることができた。
 先端計測事業と戦略創造事業を合わせたもので、我が国はアメリカの認識に対抗するという、そういう構図になろうかと思う。そこで、イノベーションのバリアーを除くという意味での計測分析システムの分野を活性化する、促進するということの意義をこの際もう一度関係者の方々にPRしなければいけないと感じている。

【委員等】
 今の日本のポスドク世代の皆さんは、非常に不安を抱えて研究をしている現状がある。優れた能力を持つ人材を活かせるような、例えば人材のプロトタイプセンターのようなものを検討できたらと思う。

【委員等】
 計測機器に限らず、加工レーザー機器も、ドイツなどEUからの輸入が多い。国内業者の人たちはシステムのインテグレートが上手なため、それを使った加工技術は世界に負けていない。人工衛星にしろ、世界の宇宙ステーションにも、一部使われている。
 日本は、ナノテクノロジーを使った加工技術が本当に強いと思っているが、それと計測ということは不可欠である。

【委員等】
 計測機器においてアプリケーションの開発、応用が進むと、意外なところに使われたりするが、時間もコストもかかる。5年目で一度見直して、どうするか考えてもらうシステムがあってもいい。
 本当の要素技術の発展があって、何かのプロトシステムができると非常に強いものがある。要素技術も意外と時間がかかり、要素と最終的なプロトタイプのつながりをうまくやっていくことが必要。

【委員等】
 CRESTの研究成果の中には、企業から見て確実に使いたい技術がいくつかある。企業からも情報発信しないといけない、また、川上のあるところまで、少し入り込んでやらなくてはいけないと思う。無から有を出し、研究、開発してプロトタイプをつくるという流れも、もちろんあるが、逆に川下の方から川上の方に戻るようなルートがあってもいいと思う。双方向の情報のやりとりが必要と思う。

【委員等】
 複合化、より複雑系は要素技術の組み合わせでは解明できない。これからの機器開発の一つのあり方は、やはり複合系、複雑系をどう計測するのかと。今は答えがないかもしれないが、これからは複雑系に対してもっと真剣に取り組んでいく必要がある。

【主査】
 分野融合を通して何が測れるか、何を測るか、そこがまさに融合のレベルまで行かないと、何が必要なのかも見えてこないと思う。そこはまさにこれからのターゲットではないかと思う。

【委員等】
 日本の文化の中で、何かチャレンジングなことをできるようなシステムをつくらないと世界で勝てない。

【委員等】
 研究のレベルでいう以上に、教育のレベルでも例えばもっと基礎的な工学、理学、生物学などを融合したような教育を真剣にやらないと、これを測定することが大事とか、こういう視点で物をつくらないといけないというのが出てこないのでは。
 また、もっとユーザーサイドで作れば、早い段階から商品になる、なったということが多々あるため、もっと異分野、ユーザーとの融合が必要である。

【委員等】
 例えばお医者さんががんを治そうと思って、一生懸命外科手術をしても再発する、一体どうしたらいいのか悩み、医学以外のアプローチがあるのではということで別の分野に進展される。そうすると、今までわからなかったことがわかる、見えるという分析機器に到達し、今まで理論的に予想できなかったものが分かったりすることがあるため、それがまた新しい分野の開発につながっていくということがあると思う。

【主査】
 ライフサイエンスの分野はやることがたくさんある。必要としている道具も、これから開発すべき道具もたくさんあり、海外に依存度の一番高い分野である。だからこそ、この委員会としては重要なターゲットということになっている。
 今回のまとめとして、先端計測分析機器開発の分野を総合的に今後進めるためには、1つに分野融合の観点が重要。しかし単に融合ではなく、コンバージング、コンバイニング、エマージング、このレベルに持ち込むという意味での融合が重要である。これは分野だけではなく、ニーズとシーズ、または、ありとあらゆる意味でこの融合を進めるというのが一つの観点。あとは挑戦的、チャレンジングな分野をさらに進めるべきではないかというご指摘。それから、人材育成に寄与するような分野、方法、システムも重視すべきというご指摘があった。
 研究対象としては、高次生命現象の解明、システムバイオロジー、すなわち、複合を進めて、見るべきものを見つけるという観点。物質系でも高次複雑な階層システムを持った物質系あるいは機能を形づくる上での種々の要素の組み合わせ、これを要素還元的手法、アプローチよりはむしろホーリスチックというか、全体像をきちっと見つけるような計測システム。
 NISTの総括の中に、情報系の相互のコンビネーション、要するに今、分析装置は各機種全く独立しているが、それを情報としてコンバインしなければいけない、その部分が非常に遅れているということがあるため、システム・インテグレーションが可能な方向に持っていくことも大事である。
 このようなことを念頭に置きながら、今後、戦略的創造事業の枠組みにおいて、この分野の活性化を図るということを提案していきたい。

お問合せ先

研究振興局研究環境・産業連携課

(研究振興局研究環境・産業連携課)