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科学技術・学術審議会技術・研究基盤部会

2002/05/31 議事録
科学技術・学術審議会技術・研究基盤部会産学官連携推進委員会利益相反ワーキング・グループ(第1回)議事録

科学技術・学術審議会技術・研究基盤部会産学官連携推進委員会利益相反ワーキング・グループ
(第1回)議事録

 

1. 日   時 平成14年5月31日(金)14:00〜16:00
     
2. 場   所 経済産業省別館   825号会議室

3. 出席者
  委   員 安井(主査)、青柳、伊地知、今田、北地、小林、田中、中川、西尾、西澤、平井、古川、山本
  事務局 坂田審議官、加藤研究環境・産業連携課長、出澤人事課審査班主査、磯谷技術移転推進室長、佐々木技術移転推進室長補佐   ほか
  意見発表者 富岡   圭介   氏(日本政策投資銀行調査役)

4. 議   題
  (1) 主査代理の指名について
       安井主査の指名により、川崎委員が副主査となった。
  (2) 知的財産に関するこれまでの検討について
  (3) 知的財産ワーキング・グループの今後の検討課題について
   
  資料2、3、4、5、6、7、8、9に基づき事務局から説明。
  今田委員から「利益相反プロジェクトの経緯」について意見発表。
  富岡氏から「大学教官の利益相反問題」について意見発表。
  その後、事務局の説明、今田委員、富岡氏の意見発表の内容について質疑が行われた。
その内容は以下のとおり。
     
  (◎・・・主査   ○・・・委員   □・・・意見発表者   △・・・事務局)

 
 利益相反というのは考え方がすごく難しい。利益相反という問題を取り上げた場合に、いろいろなとらえ方をする人がいると思われる。今、発表のあった富岡さんの方向性というのは、それはそれでよくわかる。ただ、それは私の持っている方向性とは違うところがある。誤解があれば申し訳ないが、富岡さんの方向性は、産学連携の弊害に着目したシステムであると思われる。つまり、利害とは何か、利益とは何かという分析から、やってはいけないことを明確にしていこうというシステムの構築だと思われる。そうすると結局、刑法があり、倫理法があり、その上にまたもう一つルールができていくということに近い気がする。利益相反という言葉は,「利益」という言葉を使っているが、実は日本語でいう「利益」とは全然関係ないと思われる。日本語の「利益」というと、"profit"とか「稼ぎ」とかの感じがあるが、利益相反という概念の「利益」は"interest"であり、"interest"というのはどちらかというと「関わり合い」とか、「あるものと人間との関係」のことである。「これについて私は"interest"がある」とか、「この義務について"interest"である」といった関わり合いである。そうした関わり合いの"conflict"(衝突)があるだろうというのが、利益相反の概念である。利益相反という言葉から、大学の利益というものを持ってくるのは違うのではないか。やはり利益相反というのは今田委員の発表にもあったが、状況によって起きるものだというのが根底にあると思われる。何がしかの環境や状況や条件によって、人間社会、アカデミア、民間で必ず起きてくるものである。それを何かルールを使って制限するという問題ではなくて、それをどうマネジメント(処理)するかという仕組みの構築だと思われる。利益について分析することは評価基準をつくるときには結局必要であるが、あまり利益ということを分析するよりも、状況にはどのようなものがあるか、その状況にどう対処すればよいかという方向性から見たほうがいいのではないか。
   
 私のアプローチでは非常に偏っているという指摘については、それを認識した上で意見発表を行った。大学発ベンチャーが非常に重要であり、それを如何に円滑に素早くやるかという、問題解決論的なアプローチをしている。問題解決のためには、ある程度のルールにより、やってはいけないことが常にクリアであるということが非常にやりやすい。状況と条件にもよるという考えについても承知している。大学側がきちんとしたマネジメントを持っていて、各大学のあるべき姿をまず決めて、具体的な事象に応じて判断するということになるのではないか。基本的には、経済的な利益の問題と、大学のあるべき姿、公益性とか中立性などをある程度決めていかないと、産学連携の問題は解決しないのではないかと思われる。また、産学連携を推進するのであれば、ある程度明らかにしたほうがやりやすいというアプローチである。
   
 なるべく早くやらなければいけないというのは全くそのとおりである。目の前に多くの利益相反の事例があり、研究者は困っているため早く解決すべきである。ただ、例えばこの最後の解決の方向性で、「大学の利益・利害の明確化」と書いてあるが、大学の利益・利害の明確化というのは永遠にできないと思われる。うちは研究大学だから研究中心にいくとか、うちはもう少しベンチャー寄りにいくといった理念を議論するのは大切だと思われるが、仮にうちは研究大学として頑張りますという方向性を出したとしても、そのことから目の前の利益相反に関して直結する原理は出てこないと思われる。そういう議論をすることによって、例えばうちは研究大学だから、どちらかというとエクイティーについては消極的に考えていこうといった分析は、各組織で非常に重要ではあるが、それ自体は別に利益相反の核心ではないと思われる。
   
 我々も産学連携を始める前に欧米の事例を勉強したが、欧米では大学について、いわゆる「サード・ミッション(第三の使命)論」というものを結構きちっとやっている。研究、教育、プラス三番目のミッションがあり、そのミッションを全学的に確認をした上で実行していくと、ある種の異なる二つの立場を常に要求される状況が起こるため、これをうまくコントロールしなければサード・ミッションをきちんと果たせないといった議論を欧米では結構やっていた。欧米では、地域のためにという形である種のミッションが認められており、ある種のルールについて合意ができている。残念ながら日本の場合には、その辺の議論を跳ばして、技術移転や大学発ベンチャーなど現象面のほうが非常に先行してしまった。結果として、利益や配分ルールがどうだという議論が前面に出てしまい、もっと本質的な議論が不十分であったと思う。そのため、大学の利益とは何だ、もうけるために大学の施設を使ったらどうかという議論にいってしまいがちであると思われる。そうした議論の前にやっておくべきことがきちんとあり、それに照らして各大学がどういうふうにするのか判断すべきである。教育を主にする大学だったら、別に特許を出して移転することを必ずやる必然性はない。それは各大学が決めればいいことであり、そうした本質的な議論が抜けていたために、今ここへきて、現象面について富岡さんがおっしゃったような懸念が出てきている。これは各大学が、一体自分たちはどういうミッションを持つべきなのかということを改めて決めていかなければ、それぞれのクライテリア(判断基準)が決まってこないのではないか。ある大学では別に産学連携をやらないということがあっても当然なのであるが、その辺の議論を跳ばして日本の大学はみんな産学連携をやるという前提がある。この前提から問題点を解決しようとすると間違いを起こすのではないか。
   
 英語でconflict of interestというときは、interest は単数で扱われている。公の利益と私的な利益、二つのinterest(利益)のconflictであれば、conflict of interestsであるのに、conflicts of interestであるのは、非常に意味がある。利益相反のマネジメントというのは、安全弁という感覚より、前向きのナビゲーション(道案内)という感覚が非常に大事であり、ガイドラインを作るときもその辺を意識した。それから、大学の本分も体現できるものとして、自分もやってみよう、やらなくてはといったマネジメントが非常に理想的であり、一つの方向性ではないかと思う。
   
 最近、会計士として大学発ベンチャーをやりたいという話を伺うことが多い。その際に強く感じるのは、すごくやりたがる先生方と、それに対してあいつ何だという抑制的な先生方が二通りあり、ピラミッド(内部秩序)が強固な学部では、なじり合いに近いようなものにときどきお目にかかったことがあった。この利益相反に関するガイドラインをいろいろな大学の中に普及させていくのは、ものすごく難しいと思われる。例えば、私が、地方事務所の人や若手の会計士に、こういう問題があるのでこういうことに気をつけなさいと言うと、すぐに出てくる言葉が「チェックリストを作ってください」である。どの程度までオーケーかというのはチェックリストではわからない。後でルールができて、さかのぼってスケープゴートを作るようなことは絶対に避けなければならない。チェックリスト的な入り方をしてしまうと、問題が生じた際に、「だから言ったじゃないか派」と「あのときはよかった派」が出てきてしまう。そういうことにならないよう、自分たちで考えた結果、こういうふうに収束させていこうという形にしてほしい。
   
 基本的には、産と学が非常に離れていると国際競争に負けてしまうということが前提にあり、産と学が近づいてきているというのは事実だと思う。近づいてくると、やはりその境界を守るべきラインを作らなければいけないということが原則にある。学生が産学連携に参加するときも問題が起きる。本来学生というのは勉強するものであるが、大学院クラスになると研究というものが入ってくる。学生が研究者として研究を行うと、実用的な成果に結びつけたいという、研究者としてのインセンティブが出てくるはずである。学生を産学連携から全く離してしまうよりも、いい組み合わせができるよう、ガイドラインを設けて、プラスのファクターを考えないといけない。共同研究に学生を巻き込まないという話があったが、完全に学生を排除してしまうと損な面がある。リアルな問題に接するとか、産業界のタイトな研究開発のスケジュールを学ぶとか、ニーズ志向でものを考えるとか、プラスのファクターがものすごくある。ただし、学生には基本的に選択の自由を与え、共同研究への参加を強制するようなことがあっては絶対にいけない。日本はアメリカみたいにリサーチアシスタントという契約を結ばないで修士研究をやっているので、そのあたりはかなり議論を尽くしたほうがいい。
 最近、イギリスのグラスゴー大学の知的所有権関係の担当者を招いて、2週間ほどいろいろと勉強したときに、向こうでは学部生が発明した場合にはTLOと契約するという話があった。学生にどういう権利があり、それをどうするかということまで、リターンも含めて全部契約事項にしており、大学院生以上は教官と同じ扱いをするということであった。その根拠が、例えば大学院生の授業料がほとんど全部免除されているせいなのか、研究の資産を使うせいなのかというところを今聞いているところである。逆に、日本の場合、先生が教育指導している。学生は守秘義務契約を結んでいないので、例えば、先生が研究成果を特許にする前に、そのことは研究室では公示の事実だったということになると、学生がどこかの企業に就職して、その企業が主張すれば、それは公示の事実になってしまうという話を聞いたことがある。そうなると、今度は学生相手に守秘義務契約を結ばないといけないのかという問題になる。こうしたことを考えると、基本的に学生が参加していいようなルールを作って、そのメリットを生かすという方向に持っていかないといけないのではないか。もう一つ大事なことは、研究室という密室の中で教授と学生が接していると、どうしても強い立場の意見のほうが強くなってしまうので、共同研究センターやTLOなど第三者機関がその中をクリアに調整するということである。
   
 この場で何をやっていい、何をやってはいけないということを議論すると切りがない。最初に事務局が説明したが、要は大学で具体的に利益相反規定というか、それをコントロールする体制を考える上で、どういったことを考えるべきかというものをサジェスチョン(提案)する場がここである。具体的に学生を巻き込んでいい、巻き込んではいけないという話をしたら切りがなくなってしまう。ここは枠組みをはっきりさせるということ、利益の相反は常にある状態だということを前提で議論をすべきである。排除する云々の話になると、103、104条兼業を認めるときの話に戻ってしまうので、そこは前提で議論すべきではないかと思う。
   
 当方は私学なので、国立大学とは多少違うが、法人化後は非常に似たようなことになってくるのではないかと思う。我々のところでは、既にベンチャーをやっている先生が数名いるし、学生でベンチャーをやって何千万も儲けているという人間もいるので、今指摘があったように、いけない、いいの議論を今やっても仕方がない。我々の大学でも、ガイドラインが必要であるため、作成している途中であるが、議論百出でなかなか進んでいない。そのため、事実が先行しており、ベンチャーをやっている先生からはこういう形で私はやるからということで大学に届けて、大学トップはいいだろうということでスタートしている。その際には、講義など本来業務には差し支えない範囲でやるとか、非常に常識的な倫理関係であるが、そうした事実を積み重ねていくという信頼関係しかない。ただ、将来非常に大きな問題になると心配しているのは、TLOなどから個人や大学に還元されるお金の額が非常に大きくなってきた場合、明確なルールを持っていなければいけないということである。現在はそんなに大きい額ではないが、それでもいろいろとある。また、特許関係で企業とライセンスして係争関係が出てきたときに、ガイドラインはどうなっていたのか、責任問題はどうだったのかとさかのぼっていくことになるので、非常に重たい問題になると思われる。
 もう一つは学生の場合である。ベンチャーをやっている学生がおり、1,000万、2,000万ぐらい稼いでいるのではないかと思われる。我々はインキュベーションをやろうという立場であり、試験的にやっているということもあるので、これについても早急にガイドラインが必要である。ただし、学生が起業してはいけないということには絶対ならないようにしなければならない。特許関係でも学生が持ってきた特許については、我々のTLOでは先生方が持ってきた特許とは全然別の扱いにしている。学生の特許については自由発明という形で、その学生と契約をした形にしている。先生と共同で持ってくる場合には、先生に一応権利を移管するということについての承認を得た上持ってくるようにとか、双方が納得した上で行うということにしている。
   
 比較的早くから産学連携に携わっていた人間としての感想は、やはりこれまでの産学連携というのはどちらかというと、イケイケドンドンの人がいたら、その人の邪魔にならないようにルールを作ってきたと思われる。ルールを逸脱する人間が存在することはあまり考えないで、とにかく自由度を高くするようにということでやってきて、現時点に至っているような気がする。これから特に法人化ということが起きてくると、それぞれの大学はそれぞれの個性に応じて議論をして、ある種のガイドラインを各大学で作ることになると思われる。いずれにしても、先ほど委員から指摘があったように、そうしたときにどういうことを考えればいいのかということをここで議論していただきたい。
   
5. 今後の日程
     次回は6月中旬に開催する予定とし、各委員との日程調整の上、事務局から改めて連絡することとされた。
  (文責:研究振興局研究環境・産業連携課技術移転推進室)


(研究振興局研究環境・産業連携課技術移転推進室)

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