科学技術・学術審議会技術・研究基盤部会
2002/08/07 議事録科学技術・学術審議会技術・研究基盤部会産学官連携推進委員会知的財産ワーキング・グループ(第5回)議事録 |
科学技術・学術審議会技術・研究基盤部会産学官連携推進委員会知的財産ワーキング・グループ
(第5回)議事録
1. | 日 時: | 平成14年8月7日(水)14:00〜16:00 |
2. | 場 所: | 文部科学省別館 大会議室 |
3. | 出席者: | |
委 員: | 伊藤(主査)、牛久、澤井、清水(勇)、須藤、隅藏、鶴尾、長井、新原 | |
事務局: | 坂田審議官、加藤研究環境・産業連携課長、小山技術移転推進室長、佐々木技術移転推進室長補佐 ほか | |
意見発表者: | 盛 誠吾 氏 (一橋大学大学院法学研究科教授) 興 直孝 氏 (科学技術振興事業団専務理事) 中村 卓爾 氏(関西TLO株式会社常務取締役) |
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4. | 議 題 | |
(1)特許化に関する大学法人と教員との関係 | ||
・盛氏から「法人化後の大学教員の発明の取扱に関する労働法上の論点」について意見発表。 | ||
(2)今後の技術移転の在り方について | ||
・興氏から「今後の技術移転の在り方」について意見発表。 | ||
・中村氏から「国立大学法人化に向けたTLO事業」について意見発表。 | ||
・その後、盛氏、興氏及び中村氏の意見発表の内容について質疑が行われた。 | ||
その内容は以下のとおり。 | ||
(◎・・・主査 ○・・・委員 □・・・意見発表者 △・・・事務局) |
○ | 非公務員型の独立行政法人になると、勤務条件の法定主義が適用されなくなり、労働基準法が基本的に適用になるという話があったが、3番目の労働条件の不利益変更のところで、いろいろな判例があると説明があった。このような判例は、もともと労働基準法の適用があるという前提のもとである。例えば非公務員型の独立行政法人になるということは、その前の状態は労働基準法の適用がなかったが、今度は適用されるということである。そうすると前提条件が違う場合でも、労働基準法のこうした考え方が基本的に適用されると考えてよろしいのか。 |
□ | 確かに厳密に言えば事情が違う。しかし、これまで判例が問題としてきたのは、既にあるものを変更するだけではなく、例えば就業規則を新たに作成することによって、新たな労働条件を導入するという問題についても取り上げられているので、基本的には同じように考えてよろしいのではないか。 |
○ | 2ページの不利益の程度と代償措置というところがあり、これは相当の対価の支払いに関する問題に還元されるようなことを言われていたが、特に大学の先生の場合には、相当の対価を個人的な収入として還元するやり方と、それから研究費として還元するやり方との二つがあると思われる。TLOでは両方に還元している例が多いように思われるが、ここで代償措置について考えた場合、研究費のほうではなく、個人の収入として還元されるものに限って考えるべきなのか、あるいは個人の収入ではなく研究費だけ還元すればいいと考えてもいいのか。 |
□ | 両方あり得るだろうと思われる。従来の労働条件変更の問題では、大体個人が裁判を起こして、個人の利益、不利益の問題として争われることが多かった。しかし、もともと就業規則変更というのは、最高裁も言っているように労働条件の集団的な処理というものが前提になっており、その必要性から特別の効力、要するに使用者が一方的に労働条件を変更するということが認められるという理屈になっている。したがって、本来は制度全体としての労働条件決定の仕組み、全体の合理性というものが前提になるはずである。発明の問題に関して言えば、御指摘のように、個人に対する報酬の還元のほかに、例えば共同研究をしているなど一定の組織等で行っている場合には、その全体に対して広い意味での報酬を支払うということの両方が考えられる。どちらかに限定する必要はないとい思われる。むしろ、全体としての制度の合理性がベースであるが、実際の紛争になれば、どうしても個人的な利益が問題とされざるをえないということだろうと思う。 |
○ | 特許を扱っている人間からいえば、原始的に特許を受ける権利というのは、組織ではなく発明者個人に帰属しており、それを会社側に渡すリターンとしてどうするのかという議論がほとんどである。ある企業の組織に属して、発明者がいろいろな研究開発を行って結果を出した場合、企業サイドで特にマネジメントをやっている人間と、発明者個人とのギャップがすごく大きい。今、先生が述べられたように、発明行為自体は個人がやるが、それを会社に帰属譲渡したときに、研究環境を整えるということも広い意味でのリターンに見られるという見解が労働法上あるのであれば、非常におもしろい観点だと思われる。 |
□ | 今の説明は必ずしも労働法上の見方というわけではなく、そういう制度としての合理性を考える場合には、単なる個人の報酬ということだけではなく、いろいろな要素を加味して考慮をすべきだろうという趣旨である。我々の仕事もそうであるが、本当に純然たる個人の仕事である場合とグループや組織で行っている場合があり、発明の成果についても会社側の寄与等いろいろな要素が入ってくるので単純に個人には分解できないのではないかと思った次第である。 |
○ | 大学のTLOをマネージしていると、学生の問題が一番悩ましい、デリケートな問題として出てくる。先生の話では、例えばプロジェクト研究みたいな、あらかじめ雇用関係や契約関係を決められるような研究の場合はいいということであった。大学においては、まだプロジェクトになっていないところの学生が研究の主体者になって、ある研究成果を出した場合、当然のことながら論文に書かれた事実と特許に書かれた発明者がそれぞれ食い違うと非常に複雑になるので、一貫性を持たせるための処置をとることがある。その際、いわゆる初めから担当していた人間だけではなく、契約外の学生が偶発的にかかわるという例が多々ある。教室の中で区分けするわけにいかないので、その場合、どのように区別をしているのか。アメリカなどはかなり細かく契約にサインさせられて、あらかじめ、アシスタントとして扱うので問題ない。日本では、独創性を育むために、特に大学院の学生はある意味でそうした教育の効果も考えて、なるべく実体験をさせるという目標があるので、その辺をどう折り合いをつけるかということが非常に難しい。 |
□ | 私の専門は労働法であり、学生のことまでは余り深く考えていなかったが、一つはなるべくきちんとした雇用形態、雇用関係に入るということが考えられる。また、職務発明の帰属問題について、個人的には、雇用関係の存否が果たして決定的な意味を有しているのか、むしろ、現代における雇用・就労形態の多様化や、研究・開発業務の実情を踏まえるならば、雇用関係の存否にこだわることが妥当かという疑問がある。先ほど述べた「従業者」という概念は、雇用関係が当然の前提になっているような理解が一般的であると思われるが、果たしてそうなのか。職務上の発明ということから、それは当然に雇用関係の存在が前提であり、会社なら従業員、大学なら教員というような理解だったのではないか。しかしながら、職務発明というのは、雇用関係の直接の有無は実は二の次の問題であり、例えば会社が提供した施設を利用したとか、あるいはさまざまな物的・人的な条件のもとで、業務の一環として発明が出てきたというところがむしろ重要であり、必ずしも雇用関係の有無というものにこだわる必要はないのではないかということが私の考え方である。むしろ労働関係では、形式的に契約を締結したかどうかということよりも、実際に会社の、使用者の命令に従って労働しているかどうかという実態が重視される。そういう意味では、ほんとうは特許法に「従業者」についての明確な定義規定を置くべきだと思われるが、例えば、会社なら会社、大学なら大学の業務に従事している者といった形で規定されれば、その辺はもっとすっきりするのではないか。実は、私のゼミの学生が卒業論文でこの問題を取り上げて、一緒に検討したことがあった。派遣会社からコンピューターのプログラマーがやってきて、業務上いろいろなノウハウを得た場合、一体その場合のノウハウというのは、実際に働いた派遣先の会社のものになるのか、それとも派遣会社のものなのかという問題であるが、結局これは個別に契約して処理せざるを得ないということになった。むしろこれも、そういう業務という概念を前提にして職務発明の帰属を構築できるならば、雇用関係の有無はもはや副次的なものであるという考え方もできるのではないかと思われる。 |
◎ | 本日の説明によれば、就業規則の合理性と、それから相当の対価がきちんとすれば、ある程度問題は解決できるのではないかという理解でよろしいか。 |
□ | 質問事項になかったので、ここでは触れていないが、職務発明の範囲そのものが紛争の種になる可能性があると思われる。どこまでが職務発明の範囲かということを規則上あらかじめ明確にするということも必要ではないかと思うので、付け加えさせていただく。 |
◎ | 実は我々の大学でも、機関帰属にしたときにどこまでが機関で、またどこからが個人だという話が必ず出てくる。一般に民間企業では企業の中において企業命令で行ったものは全部企業の所有であり、企業が要らないと言って初めて個人でどうしてもいいという考え方で多分動かれているのではないかと思う。一部の海外の大学では、そういう形できちんとやっている大学と、全く個人帰属であるとしている大学といった、全く対称的なものがたくさんある。大学という特殊な環境における職務発明の判断について職務なのかどうかという判断について、もしお考えであれば教えていただきたい。 |
□ | 民間企業と大学とではかなり性質が違うと思う。企業であれば、企業としてこういうテーマでいこうとか、こういうものをやれというふうな命令で動くのが基本だと思われる。一方、大学というのはむしろ個人、教員が自発的にテーマを選んで行う面がある。おそらく大学の発明というのはそのような自発的な取組に源があると思われる。そういう意味では、必ずしも職務として命令をされてやっているわけではない。ただし大学の教員も研究が職務であるので、広い意味での大学の命令というものは考えられると思われるが、個別具体的に命令をされて特定の分野の研究をしているわけではないので、そこのところを考慮して決める必要がある。例えば、大学の施設を利用したとか、研究費がどこから出ているか、研究者の専門分野との関連性といったものが考えられる。あるいは、ある程度広く職務発明というものをとらえた上で、例えば最終的な判断をそのための審査委員会に委ねるとか、特に大学が要らないと判断したものは個人に帰属させるとか、その辺のルールを大学の特殊性を考慮した上で各大学で定めるということも一つの方法ではないかと考えている。 |
○ | 大学の現場において、先ほどの学生の問題は、非常にポピュラーな問題である。今、研究費などに関しては、学生は研究者ではないということが文科省の立場である。特別研究員という例外があるが、科研費などの支援は学生は原則的に受けられない。学生をどのように扱うかということについては、文科省のほうで何か方針を作ってもらわないと、現場は非常に混乱すると思われる。我々が例えば特許を出す場合、学生を発明者に入れる場合がある。それはコントリビューション(貢献度)を見て考えているが、それでいいのかどうかもわからずに行っている。文科省において学生の立場を是非考えてもらう必要があるのではないか。 |
○ | 今まで、大学の先生の主な発明は個人帰属が非常に多かったが、もう既に個人帰属になっている特許権というものがある。法人化後に特許を受ける権利等を機関帰属にするために発明規則や就業規則を作ったとき、既に過去において個人帰属とされた特許権をどう扱うかという問題が多分あると思われる。新しく作った規則で遡及させて、それは機関帰属にしなさいということになった場合、先ほどの事情変更の問題と同じになるのか。あるいは別次元で考えないといけない問題なのかお伺いしたい。 |
□ | 権利の性質にもよるが、労働条件の不利益変更は原則として過去にさかのぼることはできない。過去にさかのぼって変更することは合理性を欠くという判断がむしろ主流である。例えば、定年を一気に5歳引き下げて、なおかつ退職金を2割減額したという例についても合理性がないというふうに判断されている。他にも、組合との間の労働協約に基づいて過去にさかのぼって退職金を引き下げたという場合に、不利益変更の効力が否定された例がある。 |
○ | JST(科学技術振興事業団。以下「JST」。)のTLO支援というのは非常に心強い提案である。大学における知的財産権の確保というのは、かなり初歩クラスというか、いわゆる戦略と呼べるようなものがなく、もともと実施機関ではないためでもあるが、基盤になるような目的と、新しい産業を起こすような特許を確立するにはまだまだ学習期間があると思われる。今、JSTのほうから提案された形は、どちらかといえばTLOの活動にある種の支援をしようということであるが、一歩進んで、20年の歴史と実績を持っているJSTに、現在の産業政策に極めて重要な戦略的な特許取得についてのすり合わせを受け持っていただき、TLOにブレークダウンしていただきたい。今後、種は当然大学から出てくるはずであり、それをどうしたら戦略的な知的財産権になるかについて、ただ資金を提供するだけでなく、本当に使えるプロのスキルについて実業界の方とすり合わせる指導的な立場、これは海外特許戦略も含めてであるが、そうした点でリーダーシップをとっていくという考えはないか。 |
□ | 今の話に対しては、まず前段の話については、JSTはもう少し視野を広げてやらなければいけないといった感じのメッセージであったと思われるので、その点はしかと反省しつつ対応していく必要がある。2番目の最後の点については、JSTが自分の業務として研究開発の成果のためにそれをさらに育成させていくといった、大学やTLOが期待するそうした役割に単にお金を出すということではなく、JSTが戦略的な研究開発成果をどうやって創出していくかということが重要であると思っているので、そういう機会を与えられるよう、あるいはJST自身がそういう役割を担うように努力していきたい。ちなみに、平成14年度からJST自身がTLO等に対する支援として、国内、海外出願関係の予算枠をいただいている。その施策の実施に当たって内部に知的所有権戦略室があり、知的所有権委員会が設けられている。単に海外出願を実効性あらしめるためだけの審議ではなく、本当にその特許が戦略的に意味ある特許になるのかという観点から審議を進めていきたいと考えており、これまでの委員会の体制を変えて、構成員の在り方についても現在見直しをしているところである。 |
○ | 参考資料2の14ページのところで、累積で実施料131億、売り上げ別で換算すれば4,300億と書いてあるが、これは何年間の累積の数値なのか。 |
□ | ここに上がっている4,370億円の市場効果というものは、JST発足以来の累積であり、その当時の価格でもって計算しているものも含まれているので、現在価値に直してみたらその変更を求められることが当然あるかと思われる。ここに上がっている実施料を実施料率平均3%として換算して、委託開発事業の3,463億、開発あっせんの907億円を足したものである。 |
○ | 我々企業からすれば、知的財産のセクションだけが、要するに独立会計みたいな感じのプロフィットセンターをやれと言われてもまずできない。TLOが直面している問題はそこであり、多分JSTは、いろいろな意味で資金投入があるので、アウトプットだけを見るとすごくよく見えるが、そこに至るまでにものすごい累積で資金が投入されているであろうと思われる。これからいろいろなIP(知的財産)の話が出てきたときに、大学でもその辺の投入に対するリターンを短期間で求められたとしたら、とてもではないが出るわけがない。IPだけ切り出して、そんなにいくわけがないという話もきちんと認識してもらうような形の機運を作らなければならない。知財だけ取り出せば、明日にでもすぐに物になるという認識では非常に困る。JSTについても、これは資料がないのでわからないが、多分このお金につながるまで、ある大きな技術を見ても、それが生まれてからリターンが入ってくるまでに、大きな技術であればあるほど10年単位ぐらいの時間はかかると思うので、戦略的に何か行う場合、やはりそれぐらい先を見てやっているというような話を今までの経験も踏まえて大学にアドバイスしていただきたい。これから大学でいろいろなことを期待されても、明日、明後日で出てくる話ではないということを言っていただけると、非常に実績ベースでいいのではないか。 |
□ | 確かに息の長い研究開発投資の回収であるので、今の点を踏まえつつ説明が必要だろうと思われる。ちなみに委託開発事業に、これまでに累計で投資した総額は1,276億円であるが、この委託開発事業では、開発成功と認定された場合、受託企業のほうから経費を全部戻してもらうことになっており、890億円は既に回収済みである。もちろんまだ1,276億円の中には途上のものもあるので、数値上は約400億円弱が直接支出されたわけであるが、実施料の累計としては資料のとおりの数字が出ている。一つ一つ取って見ると、確かに我々のほうが実施料としていただいているものは少ないわけであるが、品物そのものの価値に戻してみると、単位としては兆という単位になるものがあると思う。 |
◎ | 大学が法人化後に機関有で知財を管理していこうという方針でこの委員会も動いているわけである。これからは知財管理の透明性を確保しつつ、短期間で利益が得られるような特許だけではなく、息の長い重要な原理特許をどうやって国として取得していくかということが大学に求められており、それを実際に行うには大学だけのお金ではとてもできないのではないかと考えている。JSTのほうで、海外出願その他の知的財産権を新しい形でこれから動かそうということを言われた。私のイメージとしては、知的財産本部みたいなものが大学にできたとして、そこがまず一元的に知財の管理をして、そこから幾つかの出口を通じて出ていくことになると思われる。大学自体が処理するものとTLOが処理するもの、それからJSTに処理してもらうもの、民間との契約によって処理するものといろいろとあると思われる。職務発明に関する考え方と、それぞれの研究契約体制によるものからくる振り分けがあると思われるが、これまでのような、個人からJSTに行くというものではなく、機関からJST経由のルートというのもあってしかるべきではないかと思う。それに関しては、先ほどのように、JSTの委員会で十分審議されて、それを戦略的によりいい特許にしていくように、中途半端にファイルするのではなく、使えるような状態に高めて管理していくというやり方で、大学ができないところを補っていただくような役割分担が必要ではないかと思う。 |
○ | 参考資料3の4ページ目と5ページ目は、今後、国立大学が法人化した後に大学とTLOがどう連携していくかということについてのものであるが、4ページ目に、案1、案2、案3ということを提示いただいている。一方で5ページ目の「発掘」のところで、情報の一元化による効率化ということや、「評価」のところで出願案件が大幅に増加するとようなことが書かれているところから考えると、この案1を考えられているのかと思う。この案1の場合が一番いいのかもしれないが、扱う量が非常に増えてしまうということがある。案3のようなマーケティングだけを担っていくと、大ヒットにつながるような、そして新しい産業につながるような案件というのは非常に少なく、それをいかに取りこぼさずに育てていくかということが重要であり、大学のほうに特許出願するものを選ぶという機能、それから評価するという機能をきちんと置かないといけなくなる。特に広域型TLOの場合には、それぞれの大学ごとに評価能力が違ってくると思われる。この案1のように一括して最初のところから最後まで一つのTLOが扱えるようにしたら理論的にはいいのではないかと個人的には思う。しかし、その場合、そんなにたくさん扱えるのかというキャパシティーの問題が出てくるわけであり、その辺について意見を聞かせいただきたい。 |
□ | 我々としては案1に近い形を希望しているが、これを全部業務委託という形で受けた場合には、人もお金も随分必要となり、それをどうするかということについては、十分具体的な詰めができていないので、これからというところである。しかし、いずれにしても、今までこの事業をやってきて感じたことは、やはりどこか上流側で別人が評価するなり、発掘した案件を、マーケッティングするということになると、上流側でのいろいろな問題点を後のマーケッティング側が気づいてやりにくい場合が多々あるということである。これは企業でもよくあることであるが、物を開発し作るところと売るところが非常にうまくいかず、お互いの部署の仕事を非難して、なかなか事業が進まないということがあるので、できるだけ一貫して業務をやっていくことが望ましいと考えている。それから達成感といったものも、やはりこういう一貫した仕事から生まれてくるのではないかと思う。ただ、指摘があったように、果たしてそれが全部できるのかということがあるので、それぞれが得意分野をうまく分担してやっていかないとうまくこなせないのではないかと思われる。 |
○ | TLOの機能ということで今話があったと思うが、この中で非常に重要なステップがあると思われる。TLOについては日本全体がスタート当初の段階にあると思われる。大学の状況を見ていると、とにかく権利化しようということで出願が先行している。それで発明の発掘、出願、権利化、マーケティングというように進むと思われる。これはアメリカの例であるが、ライセンスというのは重要なステップではあるが、重要なゴールではなく、あくまで重要なゴールを達成するためのステップである。そのゴールは何かといえば、大学等で生まれた有用な技術をとにかく社会に生かすということである。そこまでに行き着くには、かなりの経験と年数がかかると思われる。日本が新しく参入し、大学においてTLOを本格化するに当たって、少なくともアメリカにおける経験を十分に生かしていくといいのではないか。一般に国研等を見ていると、アメリカにおいて1980年代に本格的にTLOをスタートした当時のやり方や考え方で行っているが、今から見るともうそれは20年前のアイデアであると思われる。その後いろいろ進化しており、今はどうなっているかといえば、特に大学においては、いろいろな技術を効果的、効率的に実施化するためにはどうしたらいいかという視点を常に持っている。例えば、ドイツのマックス・プランク研究所は実施化率が70%を超えており、非常に厳選して出していくというヨーロッパ的なやり方だと思われる。ただアメリカの場合には、トップクラスは実施化率3割を目指しており、3本に1本当たればいいというようなやり方で行っている。そうした数値目標は難しいかもしれないが、例えば今の日本がそういうところに参入するのであれば、実施化率5割を目指す、あるいは資金的な余裕ができてくれば3割に落としてもいいし、もっと落としてもいいと思うが、余裕のないうちは実施化率5割ぐらいを目指していくべきではないかと思う。その際にライセンスと対価を得ることよりも重要なことは、大学における有用な技術を社会に公表するシステムの構築である。今、世界的にそうした情報を交換する方法として、NCD(ノン・コンフィデンシャル・ディスクロージャー)という方式がある。ノン・コンフィデンシャルであるので重要な部分は出さないが、概要がわかるA4一枚ぐらいのものを最初にNCDにメールで流し、すぐNCDが返ってきて、それでどうするか判断するというシステムである。日本の場合は、そうしたものがまだあまりできていないと思われる。そうした情報の発信機能を強化することが非常に重要ではないかと思う。特に大学におけるTLOの場合、学外だけでなくて、学内の学生といった若手の方に情報を発信し、そこからプロジェクトアイデアを見出して、ビジネスプランにつなげるという非常に重要な機能に今なっている。そこのところがもっと強化されてもいいのではないかと思う。 |
△ | 本日指摘があった学生の問題については、もちろん我々も役所としての考え方を持たなければいけないと思うが、いずれにしても当ワーキング・グループの考え方としてきっちり整理していただくことがまず大事であり、基本的には我々もそれを尊重して対応したいと考えている。それから知財については、実際ものになるには結構時間がかかるという話があったが、まさにそのとおりであり、むしろ変に誤解を受けないためにも、このワーキング・グループの報告書の中にもそうしたことをしっかりと書き込んでいただくことがよろしいのではないかと思われる。本日の議論では、戦略的な取組という本質的な問題についても言及があったが、これについては残り4回の間でも議論していただいても、すべて解決しないと思われるので、さらなる重要な検討項目として、問題提起の形で報告書の中に書いていただき、それをこのグループで継続的に秋以降も議論していただくことも必要ではないかと思う。他方で、この場を離れて、当事者であるTLOとJST、あるいは企業の方との間での現場レベルのコミュニケーションをもっとしっかりやっていただき、当事者間でお互いにどのような役割を果たしていくのかということについて話し合いをしていただきたいと思う。ここの議論を受けて動くという部分もあるかもしれないが、そんなことに遠慮せず、ぜひ当事者間で本日出た重要な問題を先取りするような形で話を進めていっていただければ大変ありがたい。 |
5. | 今後の日程 |
次回は9月上旬に開催する予定とし、各委員との日程調整の上、事務局から改めて連絡することとされた。 |
(文責:研究振興局研究環境・産業連携課技術移転推進室)
(研究振興局研究環境・産業連携課技術移転推進室)