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職務発明以外の発明についても届出義務を課すということは、法律上問題ないと考えてよろしいか。
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○ |
特許法上はいいとも悪いとも書いてないが、問題は公序良俗に反するかどうかということである。届出ぐらいならば問題ないだろうと普通は考えられているし、そう書いてある本も多い。多分、裁判所でも、届出だけであれば有効としてくれるのではないか。
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○ |
裁判所においても、それが公序良俗違反とは言わないだろうと思われる。
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○ |
学生の場合、学生に届出義務を課すということについてはどう考えればよいか。学生の発明も大学法人に帰属させるのであれば、届出がないと把握できない。その辺はどう考えればよいのか。
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○ |
それについては該当する条文がなく、従業者の場合と学生の場合が同じかどうかという議論になる。ただ、大学は学生に対して管理権を持っているので、届出に関しては少なくとも問題ないのではないかと思う。
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○ |
日本でベンチャーが非常に難しいのはベンチャーキャピタルのイグジットの方法が上場しかないということである。アメリカの場合は大半がM&Aである。日本はベンチャー企業を大企業が買収して、それに対して多額のメリットを与えるという仕組みがほとんど絶望的である。私は、数理経済学を教えており、上場が難しいようなベンチャー企業に投資するようなベンチャーキャピタルのスキームのビジネスモデル特許を取ろうと、学生と一緒に研究している。その場合、これは職務発明になるのか。また、学生についてはどうなるのか。自然科学の研究者の方々は、研究費をたくさん使っているので職務発明かどうかわかりやすいが、こうしたビジネスモデル特許は職務発明に当たるのかどうなのか。
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○ |
それはわからない。おそらく裁判をしてもらわなければわからないのではないか。個人的な意見であるが、数学の先生に関係のないベンチャー企業のイグジット方法について、しかも、そのビジネスメソッドの特許についてであるので、多分、職務にはならないと思う。
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○ |
そうしたビジネスモデル特許については、どうやって取り組んでいったらいいのかといったモディファイ(修正)が必要であり、特許の出願から全部個人で対応しなければならない。今後、ビジネスモデル特許みたいな形のものを大学の中で生み出していくということを考えると、TLOでは多分サポートしてもらえず、個人で全部やるしかないため、非職務の話になるのかと思うがいかがだろうか。
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○ |
ビジネスメソッド・パテントについては、大学だけでなく企業内でも非常に難しい問題である。従来と違ってセールスマンや銀行員が特許を取ったりすることができ、一般論としても難しい。まして大学においてはもっと難しい。今後の研究だと思われる。
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○ |
先生が指摘された、特許法第35条の問題は日本の雇用関係が今後どうなるかという問題であるという話は、まさにそのとおりだと思う。また、先生が指摘された学生の取扱いに関しても、雇用関係というよりも、その学生の研究環境が今後どうなっていくかということと密接に結びついている問題だと思われる。アメリカなどでは学生がプロジェクトの中で研究をした場合、給料をもらって研究をしているため、1人の研究スタッフの扱いとなり、研究成果がスムーズに大学帰属になっていると思われる。一方、日本のこれまでの大学の中では、教員と学生とが完全にクリアカットなものとして扱われていた印象がある。これからは特に理工系の場合には、研究プロジェクトを1つの企業と考えると、学生は特に給料はもらっていないがプロジェクトのメンバーとして被使用者という位置づけになる場合もあれば、現に企業に所属したまま研究室の中で研究している学生がいる場合もあり、その取扱いも非常に難しくなってくると思われる。学生のこれからの取扱いというのはどういうふうに考えていけばよいのか。
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○ |
アメリカの場合は私学がほとんどであるので、勝手にやればそれでいいわけであり、日本の私学も同様に、学生を雇用したければ雇用すればいいだけの話である。国の場合は、そう簡単に大学で学生を国の従業員(=公務員)にするわけにいかない。ただし、契約でやれば済む話である。別に公務員にする必要はないので、もし公務員になったときと同様の効果が欲しければ、公務員と同じような待遇の契約を作ればいいだけの話であり、あまり悩む必要はない。
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○ |
文科省への質問であるが、学生に給料を払うということ自体が今、問題となっていないか。
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△ |
例えば大学院のドクターの学生にプロジェクトに参加してもらうときに、共同研究経費や受託研究経費で、その時間に応じた給料を払うということは現行制度上は可能である。謝金のような形で払う場合もあれば、常勤的非常勤の職員という形で、その時間帯だけ働いてもらうなどいろいろな方法がある。多分、先生が心配されている問題というのは、そういうふうにお金をもらってプロジェクトに参加しているという形がはっきりしていれば、ある程度特許の問題も職務発明的な考え方が適用できるが、教育研究として参加しているのか、ある程度雇用関係の下に入っているのか、その辺がまだあいまいなままプロジェクトに参加し、お金をもらわないという場合の問題や、今後、その形態をどうするかという問題のことではないか。さらに言えば、法人化後と法人化前の取扱いの違いなども心配しているのではないか。それをどうすればいいかということについてはもちろん、先生方に議論していただきたいと思っている。参考までに申し上げると、利益相反に関するワーキング・グループを一方で設けており、その中で例えば学生が共同研究や受託研究にかかわる場合にどういう形でかかわるべきなのかという議論もしていただくことになっている。
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○ |
大学院生に謝金を払うのは可能であるが、その場合、特許法第35条の適用があるかどうかという難しい問題が出てくる。学生については契約で割り切ったほうがずっと簡単である。
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○ |
学生の問題については、TLOにおいてもかなり深刻な段階になってきている。基本的に、給料をもらう、もらわないも含めて、先生からある種の教育効果だと言われた場合、プロジェクトに参加する、しないを学生の立場からはそう簡単に否定はできない。学生が、私は月謝を払って自分の自由に勉強をしたいんだと言っても、それを選択する環境が今の日本の大学のヒエラルキー(階層構造)にはない。教育に関しては教官と学生とにはそれなりの教える側と教えられる側の服務規程があると思われる。教育と今のプロジェクト研究を同じ教官が両方やるわけであるので、ある意味で教官と学生は法律的に同格ではないような気がする。契約を作るときも含めて注意したほうがいいという法律的な立場からのサジェスチョン(提案)があれば教えてほしい。
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○ |
各国立大学では、勝手にやっていて全然環境が違うので、教授と学生の関係はよくわからないが、契約を作るとすれば、おそらく個別的なプロジェクトごとに契約内容を変えるということはなかなか難しいので、統一的なモデル契約みたいなものを作ることになるのではないか。そのときに一体何を考慮したらいいかというのは、これはまだはっきり言ってわからない。先ほど言ったように、補償金の額をどうするか、あるいはベンチャー企業を学生が起こす場合はどうするかなど、いろいろな要素を勘案して決めなければいけないが、多分、個々の教官が一々判断して、これは公序良俗に反するかどうかということを煩わせるのは無理だと思われる。何に注意したらいいかということは、これから検討しないとよくわからない。
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○ |
大学からの特許が個人有のほうに大幅に移動してきたのかということについての先生の説明は非常によく理解できた。ありがとうございました。私の場合を例に取ると、個人有の許可を頂いた後に企業との共願で、企業に申請費用を出してもらって申請する場合が多い。この場合、法律的には私も相手の企業もこの特許を自由に使えることになるが、大学で働く私がこの権利を行使することはほとんどないので、実際は全権利を企業の方に献上したことになり、常に違和感を持ちながらも、出願した特許は少なくとも共願した企業では生かされることになるはずと、自分自身を納得させてきた。同じような違和感を持っていた大学人は多いと思われ、法人化後のTLOの活躍でこの点が解消される事を期待する。しかし、このような事になると、TLOの行動次第では特許が有効に生かせなくなる(社会還元が今まで以上にうまくいかなくなる)可能性も生じるようにも思われ、その意味ではTLOのポリシーが非常に重要になりそうに思われる。それから、学生の問題についてであるが、我々も現実に悩んでおり、どう対応しているかと言えば、出願するときに共願する場合でも、私自身と学生とで話し合って、口約束に近い形で同意を得て出願している。それで何年後かに時々実施料が少し入ってくることがあるので、そのときはさかのぼって公平にみんなで分配するというシステムを作っているが、いろいろと問題が起こってきているので、その辺の学生に絡んだ特許をどうしていくかということについて明確にしていく必要があるように思われる。
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○ |
我々の大学でも学生が発明者として非常に多く出てきている。特に理工学部系がものすごく、教授とほぼ同数の学生が発明者となっている。特許に対しては初めから持ち分をちゃんと決めてから出してもらっている。1対1とか後でもめるのは嫌なので、持ち分を決めた上で譲渡書をもらっている。公序良俗に当てはまる限り職務発明であれば使用者が一方的に規則を決められるということが、先ほど先生から説明があったことだと思われる。
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○ |
いや、当てはまらなくともよい。
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○ |
当てはまらなくても決められるということか。
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○ |
はい。
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○ |
その場合、使用者は企業であれば、これは自ら実施してビジネスにするわけであり、対価を決めなければならない。ただ、国の場合、その管理や技術移転の努力を全然しなかった場合、問題があると思われる。帰属させた以上、管理、移転促進を積極的にやるということは1セットになるのではないか。
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○ |
それは難しい。企業だって使わない特許はいっぱいある。特許法第35条は使用者のほうに入った金を基に計算するとは書いていなく、条文の第4項で「使用者等が受けるべき利益の額を考慮する」と、「受けるべき」となっている。払うべき額が実際わからないので後払いということにして、ライセンスしたときに払っているが、本来は譲渡であるので、移転したときに額は決まっているはずである。譲渡の対価は国も払わなければならない。それは国が使用しようとしまいと関係なく、企業でも同じである。現在の法では少なくともそうなっている。
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○ |
職務発明の今の考えは先生が説明された解決が一番きれいではないかと思うが、ただ、ルールは作っても大学は何もしないということになると、今以上に悪くなるのではないかという懸念がある。
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○ |
それは先ほど私が述べた懸念と全く同じである。一元管理というものは口では簡単に言えるが、ものすごく難しいことであり、国がきちんとやらなければ、全員が損することになる。不満は残るし、金は損するし、我々は労力を使わなければならないし、ろくなことがない。だから、ちゃんとやるということが前提であり、文科省がちゃんとやってくれるということであれば、私は賛成である。やらないのであれば、全部個人が勝手に儲けてくれといったほうが社会のためになる。それは法律の問題ではなくて、やる気があるかどうかの問題である。
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◎ |
法律は全然わからないため質問するが、現在の教官はほとんどの特許を個人所有にできるという権利を持っているため、法人化後に機関有になるということにより一種の不利益変更が教官に起こるのではないかという議論が随分あるが、それに関してはいかがか。
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○ |
それは現在国が一方的に定めていることなので、一方的に変更すればいいだけであり、別に法人化とは関係なく、明日から決めてもいいことだと思われる。世の中の学者の多くは、これは契約だと考えているので、勝手に不利益変更していいのかというややこしい問題が出てくる。それは間違いだと私は思う。移転することを一方的に決めることができるということを認めた判決があったと思う。
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◎ |
先ほどの学生等の問題で心配しているのは、学生や研究員、ポスドクをはじめとして職員でない研究員が、大学の教官とともに発明委員会を通して出願する場合は問題ないと思うが、その人たちが単独でその特許を出してしまうというようなことが今の国立大学のように契約も何もない状態では起こり得るのではないかということである。米国の大学などでは、ドクターの学生もリサーチ・アシスタントとして登録されるので、そういう契約が取り交わせることができるが、同じように日本の大学でも契約を結べばクリアできると考えてよいか。
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○ |
契約の作り方は非常に難しいが、基本的にはそういう考えである。現在は契約がないので、学生は自由に出願できる。だから、出したものはしようがないといえる。教官の発明もほとんど個人帰属であり今までは問題がなかったが、これからは教官の発明も一元管理にするとすれば、やはり同じ職場で行っているので、学生の発明も一元管理を適用しないとまずいため、契約を結ぶ必要がある。契約の内容はこれから詰めていかなければならないことであり、問題は山積みである。
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○ |
大学における学生の発明に関わる契約の主体が誰になるのかということについて、どういう意見を持たれているのか伺いたい。例えば、国のあるプロジェクトに基づいて研究資金が出た場合には研究成果は国の権利となるが、学生がそのプロジェクトに入って研究する場合には、やはりプロジェクトに入るに当たって国との契約が必要になってくるのか。一律、機関帰属ということで大学に帰属させるということであれば、大学と学生との間の契約だけでそれはクリアできるのか。
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○ |
それは具体的状況を見ないと、そのプロジェクトの発注者というか、資金を提供するところが何を要求しているのかということはわからない。それが大学の規則に合うかどうかということについても、具体的なケースを見ないと、何とも答えようがない。しかし、おそらく、大学と契約をして、大学が金を受け入れ、契約は学生と大学との間で結ぶということになるのではないか。
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○ |
確かに、大学と一律に契約できるのであれば、契約関係は簡単になると思われる。ただ、そのプロジェクトごとに、学生にレジスター(登録)みたいなものが必要になってくると、契約関係が煩雑になるのではないかという印象を受けたのでお尋ねした。ある先生が何らかのプロジェクトに応募したときに、その学生もプロジェクトに参加させる場合、国との契約が必要になってくるのか、それとも、それは大学と学生との間の契約に基づいて処理できる問題であるかということである。公費に基づいた研究であれば大学との間だけで処理ができるとか、国のプロジェクトに基づいたときには国との契約が必要になるとかということがあると、すごく煩雑な感じがするので、権利も一元化できるのであれば、学生との契約も何か一元化できれば簡単なのではないかと思った次第である。
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今のプロジェクトの内容がよくわからない。そのプロジェクトの主である国と学生とはどういう契約関係になっているのか。単に教授がこの学生を使うだけではないか。そうであれば、学生は大学(国)と契約を結ぶということであり、法人化後であれば大学法人との契約ということになると思う。
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○ |
先ほど、先生が説明されたように、一元管理するとしても、企業の特許戦略と、国の特許戦略とは全く方向が反対である。企業の場合は人に使わせない、国の場合はいかに使わせるかということになる。また、文科省の話になると思うが、特許活用のノウハウの蓄積がないまま一元化したら、それこそ、死蔵させるだけになる可能性もあると思われる。それから、やり方もいろいろと注意しなければならない。例えば、ベンチャー企業に特許を出して特許料を取ると、ベンチャー企業はつぶれてしまうので、株との交換とかストックオプションで取るとか、いろいろな工夫をしていかなければ、何の役にも立たないのではないか。
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契約に基づく場合、一元化することがなかなか難しい点がある。アメリカの場合は、雇用契約で発明の取扱いの帰属をどうするかということをまず決める場合が多い。ところが、その雇用契約も、一般的な雇用契約と、ある個別的なプロジェクトに関する職務であるといった特別な雇用契約があり、非常に多様な雇用形態がある。個別的なプロジェクトの場合は、すぐアサイメント(譲渡)を求められるが、一般的な場合は、発明がなされてからどうするかということが結構多い。その場合に、アメリカでは、具体的な手続として、出願する権利は発明者にしかないので、出願した後に大学にアサイメントすることになるが、アサイン(譲渡)しない人が結構多い。結局、まず職務発明かどうかということも含めて、アサインすべきかどうかということについて、契約社会であるために紛争が多く、頻繁に裁判が起きることになる。つまり、契約中心にすると、蓄積された判例がなければ、いろいろなケースについて判断できないことになる。アメリカの場合にはいろいろな判例があるので、それに基づいて判断していく。契約するときに、むしろ、こういう判例があるから、あらかじめサインしてくれというようなことを日常業務的にしている。それに加えて、政府のファンドやスポンサーのファンドが入ってくると、その共同研究契約などがかぶってくるので、実務的には複雑になる。その複雑を回避するには、一元化していくということよりも、ケース・バイ・ケースで、そういう条件を提示して、マネジメントの問題で解決していこうということが必要になってくると思われる。それから、職務発明の問題では、先ほど指摘があったように、民間の場合と国の場合は、本質的に区別しなければならない。よくアメリカの法律実務家と話していると、日本は、どういうわけで職務発明の規程があるのかと聞かれることがある。実は、職務発明規程には非常にいいところもあると思われる。契約のみの場合、非常に紛争が多発して、それを解決することに非常に労力がかかることになるが、職務発明規程であれば、その問題がない。しかし、今では、個別的ではなくて一律的に規定されていることが問題になる。ただ、大学の場合は自己実施をしないので、対価の計算が民間の場合よりも非常にやりやすく、大学の職員の場合、契約にしても実質的には今とそんなに変わらないという感じがする。ところが、民間の場合に契約を適応すると対価の計算が難しい。つまり、製品を販売して、いろいろな営業努力も入ってくるし、そうしたものをどういうふうに発明者との関係で割り振るかということが非常に複雑である。大学の場合は、この点、国研もそうであるが、自己出資でないということから、全体のライセンスの例えば3割にするといった契約が有効になると思われる。最後になるが、先ほど学生の持ち分の帰属について、契約によるという話があったが、もし日本でそういうことが実現化すると、非常に画期的なことだと私は思う。アメリカでもイギリスでも大学院生からの発明というのが非常に多いが、実は、それは契約によってある程度の対価が得られるということが原因として大きいのではないかと思われる。
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私は、特許法第35条を考える場合には、実は比較法というのはあまり有効ではないと考えている。特許法自体については比較法が極めて重要であるが、特許法第35条、つまり職務発明に関しては、その国の労使関係に深く根ざしているからである。比較をしても、ドイツとアメリカとは全く違うし、アメリカやドイツの例を日本に持ってきてもうまくいかないと私は思う。アメリカには第35条(職務発明規程)がなく、根本的にシステムが違う。特に、アメリカは契約社会であるので、これを日本に持ってくることができない。日本の場合は、どちらかといえば、大陸法であるので、法や規則、あるいはモデル契約で決めたほうがほとんどの場合はうまくいくと思われる。また、アメリカの場合は発明者だけが出願できるという、世界でもまれに見る特殊なシステムをとっている。日本の場合は、おそらく、モデル契約を作り、それに準拠した契約のひな型を各大学で作れば、うまくいくのではないか。それから、大学は自ら実施しないライセンス型であり対価が決めやすいが、使いものにならない特許も多いので、ライセンス料が入ってこない場合、非常に難しい問題が出てくる。前回の議事録にもあるが、やはりビジネスというよりは、もっと違う目的で特許取得を行う要素が強くなるのではないか。
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学生の取扱いについて議論があったので、私見もあるかもしれないが、申し上げたい。先ほど委員の方から、最近は学生に対しても、研究プロジェクトの研究費の中から給料のようなものを出せるようになってきているが、その場合はどうなるのかという指摘があった。まず、先生の指摘では、雇用関係がなくても機関が一元管理していくのであれば、学生の発明もそういう方向でやっていくことが適当だろうということであった。私としては、一部でも雇用関係の部分が広がっていけば、なおさら、一元管理という方法が適当ではないかと思う。実は、13年度から科学研究費補助金では、それをもらった大学の先生については、ドクターの学生が研究スタッフとして係わるときは、給料に当たるものを科研費から出せるということになっている。その場合、ドクターの学生は非常勤職員としてその大学に雇われるという形になるので、その研究で学生が出した発明を職務発明として定義することも、おそらく可能ではないか。つまり、職員たる先生とほぼ同等の取扱いをすることが、個人の学生と大学との間で可能になるのではないか。この政策は必ずしも知的財産政策の一環ではないが、ドクターあるいはポスドクの学生の研究者としての経済的な自立を高めていく方向で、可能な限り、研究費から給料のようなものを出せるようにしている。この場合、知財の取扱いについては、繰り返しになるが、正規の大学の先生と同様にしたほうがいいのではないか。そのために、もしも一定の契約のひな型等が必要であり、参考になるものを我々国のほうで出すことが適当であれば、努力していくべきではないかと思う。
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機関帰属への転換は法律上は可能であるが、これまではそうしなかっただけであり、今から転換するのは法律上何も問題ないという先生の説明は非常に明快でわかりやすい。しかし、例えばこの委員会で答申をして、個人から帰属を機関に変えるとしたときに、前からできているものを急に変えるということには変わりないので、その点についての理由を明確にする必要があるのではないか。
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現在、一元化すべきだということがあちこちで議論されているが、それと全く同じであり、基本的には、国がちゃんとやってくれるのであれば、ごく一部の例外の教官は知らないが、ほとんどの教官にとっては、むしろそちらのほうがいいのではないか。今、個人有だといっても、実は、あまり利益がないという場合が多く、むしろ手間暇ばかりかかるし、金もかかるし、大変だという声のほうが圧倒的に多いと思われる。国がちゃんとやるという前提があれば、そのほうがむしろ、全体にとって効率的ではないか。あるいは、全体のウェルフェア(福祉)も向上するということが理由になるのではないか。実は、特許管理はものすごく難しい。企業は儲けるという目的があるので、きちんと管理するであろうが、国には儲けるという目的がない上に、教官も儲けるための一連の流れの中で発明をしているわけではないので、勝手な発明をポンポン出してくる。それらを統一的に管理するというのは至難のわざであるが、やると言っているから、それはやってもらうしかない。
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大学内にTLOを作って、大学内の一つの機関として実行している立場の先生にお聞きしたい。特許というのは管理が非常に難しく、費用対効果、その他、ある種のビジネスも考慮せざるを得ない。我々が危惧しているのは、国立大学がこれから機関管理に移っていく際、無限にある財政資源からやれれば構わないが、最近は特許も大学の個人評価の対象にするようにという問題が出てきているので、一挙に特許ブームなどが起きてしまった場合、どう管理するかということである。大学としても研究費の半分を特許に割くなどということはできない。本来、学術論文と特許は極めて異質なものであり、管理の仕方も非常に違う。もともと学術論文は、個人が管理して、個人の費用で出すのが前提であり、評価も個人が受けるということで確立している。特許の場合、TLOができたということは、大学のある種の将来の資産としてデポジット(供託)するということと、ロイヤリティー(実施料)その他シェアレート(配分率)はそれぞれ違うが、お金でその成果も評価しようということである。こうした議論を煮詰めていかないと、バースト(暴発)し、TLOは一遍につぶれるという事態が来るのではないか。例えば、この特許は出願するしないということについて特許を出す側である大学にすべて任せると、TLOはその奴隷になるだけである。この辺の問題についてはどういうふうに解決しているのか教えてほしい。
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当大学の場合、機関帰属を義務づけているものは本当にわずかであり、2割ぐらいである。あとのほとんどは、大学に譲渡するというものが大体8割を占めている。これは、当TLOのサービスが充実しているからではないかと自負しているが、これがどんどん今伸びており、譲渡の提案があったものが、今まで385件あり、出願したのが262件である。大体3分の2弱、今出しているのではないか。ただ、TLOでセレクトして、二つの点でいろいろコメントを加えている。まず一つは、インタビューに行って、一体どこが新しいのか、誰が発明にどういうコントリビューションをしたのかということを徹底的に相手に聞く。その過程で、研究者の方に先行する技術と差がないということを理解してもらえた上で、自主的に見送ってもらえるケースも出てくる。二番目は、一体何に使うのか、どういうふうに使われるのかということを研究者とよく話し合っている。ただ発明したというだけではしようがない。極端な例では、メダカを水槽に入れて鏡を置くと、メダカの挙動が解るので、これは脳の働きを調査するシステムに使えるのではないかという話であった。先生が3回も来られたが、最後にはわかってもらえた。非常に手間暇、エネルギーを使うが、最終的に決めるのはTLOである。ただ、TLOが出さないという案件を、先生個人で出した例もある。TLOで進める案件で、先生と一番もめるのが外国出願についてである。先生方皆さんが、自分の発明が世界的なものであるので、世界中に出したいと言われるが、それに応えていたら、大学はすぐつぶれてしまう。それで、国際出願する過程で、わかる範囲内で可能性を追いかけて、可能性がなければTLOでは手続をしないということにしている。それ以上、手続をしたい場合は、特許をその人に返還するということをやっている。こうしたケースも、実際、幾つか経験している。そんなにきれいに進むわけではないが、お互いに納得した形で動けているのではないかと思う。ただ、コーディネーションする人材が非常に大事であると私は思っている。
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今の話に関連してであるが、TLOについては、我々としても、これからもしっかり活動していただきたいと思っている。TLOは知的財産を介して大学側から見て一番市場に近いところにいるので、企業との間のいろいろなコミュニケーション、人的ネットワークもしっかり整備していただき、例えば、大学から生み出される知的財産について、本当にマーケタブル(市場向き)なものかどうかという観点からしっかり評価していただき、いいものはちゃんと移転していただくことが非常に大事だと思う。他方、大学側については、大学から生み出される知的財産をしっかり管理し、大学内の知的財産ポリシーをきちんと作って、全学的に関係部署と協力して、しっかり根づかせていく必要がある。大学はそうしたところが少し弱いので、これから強くしていかなければならない。それに関して、先般、我が省の知的財産に関する政策の一つとして、やる気のある大学に知的財産の本部のようなものを作ってもらうためのサポートをするといったことが説明されている。それはあくまでもTLOとしっかりした連携をとって、TLOには先ほど申し上げた役割を果たしていただくという前提で作っていきたいという考えである。そういう意味からすれば、今日説明のあった、慶應義塾大学の知的資産センターは、我々が考えている大学の知的財産の本部と、TLOを合体したような機能を持っているのではないかという印象を受けた。
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