科学技術・学術審議会技術・研究基盤部会
2002/06/21 議事録科学技術・学術審議会技術・研究基盤部会産学官連携推進委員会知的財産ワーキング・グループ(第2回)議事録 |
科学技術・学術審議会技術・研究基盤部会産学官連携推進委員会知的財産ワーキング・グループ
(第2回)議事録
1. | 日 時: | 平成14年6月21日(金)10:30〜12:30 |
2. | 場 所: | 経済産業省別館 1111号会議室 |
3. | 出席者: | |
委 員: | 伊藤(主査)、牛久、清水(啓)、須藤、隅藏、鶴尾、長井、中山、新原、本田、牧野 | |
事務局: | 遠藤振興局長、磯谷技術移転推進室長、佐々木技術移転推進室長補佐 ほか | |
意見発表者: | 角田 政芳 氏(東海大学法学部教授) |
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4. | 議 題 | |
海外の大学における知的財産ポリシー等について | ||
・ 資料1、2、3、4に基づき事務局から説明。 | ||
・ 角田氏から「海外の大学における知的財産ポリシー等(ドイツの事例)」について意見発表。 | ||
・ 須藤委員から「海外の大学における知的財産ポリシー等(米国の事例)」について意見発表。 | ||
・ その後、事務局の説明、角田氏、須藤委員の意見発表の内容について質疑が行われた。 | ||
その内容は以下のとおり。 | ||
(◎・・・主査 ○・・・委員 □・・・意見発表者 △・・・事務局) |
○ | ドイツでは、大学教授の特権以外についても、従業者発明法自体の改正の議論があると聞いている。従来、使用者の側がどの発明の承継を受けるかをクレーム(主張)することになっていたが、使用者が特にその発明を承継しないと言わない限り全部承継されるようになることや、どの時点でどのぐらいの補償金が渡されるかといったことを細かく定めた規定について、私の聞いたところでは秋ぐらいにかなり大幅な改正がなされるとのことである。そうすると、大学教授特権の廃止のところで説明があった利益の30%を教授に還元するというところは、改正後のシステムとの関係ではどうなるのか。また、第1項の公表前2カ月前の届出義務と、第2項の研究公表の自由により届出不要というところは、一般的に使用者は公表前2カ月には届出をしないといけないが、大学教授だけは第2項が適用されて届出不要という意味なのか。 |
□ | 利益の30%還元についてはそのままである。まだ詳細はわからないが、大改正がこの9月に行われる。法案は既にできているが、議会においてどうなるのかわからない状況である。ただ利益の30%については確保されるだろうという話である。公表前2カ月の届出義務は今回の2月7日以降の新規定によるものであり、使用者側にとっては権利を取得するかどうかを決定する期間が2カ月しかないということである。この第42条の規定については、2カ月から4カ月に次の改正で延ばされるということを確認している。第2項については、研究者の憲法上保障された研究公表の自由、学問・研究成果の公表の自由により届出が要らないということが維持されるだろうと聞いている。 |
◎ | この第42条の二つの項は矛盾しているように思える。本来公表は自由であるが、どういう研究成果だったら2カ月も前に届けなければならず、どういう研究成果であれば公表自由ということになるのか。 |
□ | これは職務であれ何であれ、発明者が、これは発明であると思った場合には届出をする義務が生じるということである。公表した場合、日本のようにグレース・ピリオド(新規制喪失の例外規定)がないので、特許化の道が閉ざされてしまうため、学会等で公表する前に、必ず2カ月前には届出をしなければならないということになっている。 |
○ | パブリック・ドメイン(公知)にしたいものについてはどうなのか。 |
□ | パブリック・ドメインを先にすると、特許化の道が閉ざされてしまい、大学で特許を取得できなくなる。資料の「公表の自由」という表現が短くまとめ過ぎたかもしれない。ドイツでは憲法上、公表の自由が保障されており、大学に届出をして特許を出願されるとオープンになるので、そのようなことをしたくないという場合には憲法上の理由に基づき届け出なくてもいいという規定になっている。 |
○ | 積極的に知的財産として保護していくよりも、もっとパブリックに置きたいという意味の「公表の自由」ではなく、公表しない自由ということか。 |
□ | ここは、むしろ公表しないという自由を確保してあるという意味である。 |
○ | これは職務発明として処理されるのか。つまり、研究は職務であるということが是認されて、こういう形になったというふうに理解してよろしいのか。 |
□ | 私もその点が大きな疑問点であり、ドイツの有識者に確認したところ、「全くそのとおりである」との回答を得た。教育・研究は二つとも職務であるという考えに基づき、このような制度にしたとのことである。 |
○ | 日本では「研究の自由」というものがあるため、自分が何の研究をやるかということは自分で決める問題であり、組織から言われて行う問題ではないという考えがある。研究をどういうふうに行うかということは研究者個人に与えられた、学問の自由であり、いわゆる職務というカテゴリー(分類)には入らないのではないかという主張が随分ある。今回の場合、その問題を解決するためには、職務発明を明確に適用する、または、組織対個人の契約という形で帰属を処理していくという二つの大きな道があると思われる。ドイツは、職務発明の明確化をとったという理解でよろしいか。 |
□ | そのとおりである。アメリカのような方法(契約による帰属の移転)をとるという道はなかったのかと、マックス・プランク(ドイツの著名な研究所社団法人)のシュトラウス先生に確認したところ、それは考えられず、職務発明であるという考えに基づいたとのことであった。 |
○ | 大学大綱法という法律があり、その第2条第7項に、大学の使命について、いわゆる研究成果の産業界への移転促進ということが明確にされているという話だったと思うが、この大学大綱法というのは、昔からこの条項があったのか。 |
□ | そのとおりである。 |
○ | そうであれば、大学の使命として研究成果の産業界への移転促進があるという考え方はずっと前からあり、方法としては、大学の先生の発明を自由発明とすることによって産業界への技術移転が促進されるだろうと考えていたが、それがうまくいかなかったので、大学の研究の自由を保障した上での別のアプローチを模索した結果、今回の改正となったと位置づけてよろしいか。 |
□ | その捉え方で結構である。今、大学大綱法について触れたが、これは州法レベルでほとんどの州が持っており、その中に、技術移転の使命を大学は担っているということや、産学連携によって技術移転を促進していかなければいけないということを明記した条文がある州法も幾つかあるという状況である。 |
○ | ドイツのシステム全体を見る場合、私はマックス・プランクを外すことはできないと思う。ドイツは連邦制をとっており、教育の権限はラント(州)にあり、連邦にはない。したがって、連邦政府としては、東大のような巨大な教育研究機関を作ることができないため、事実上の大学院大学的な作用を果たすものとして、マックス・プランクという社団法人を作った。このマックス・プランクというのは、実は大学の上に位する大学のような位置付けにある。現に戦前のカイザー・ヴィルヘルム研究所といわれた時代から世界のトップレベルの研究をしており、ノーベル賞受賞者も出している。マックス・プランクは大学ではないため、先ほどの従業者発明法第42条の適用はなく、自由に、職務発明法に従って特許を取り扱っていた。その結果、大学よりマックス・プランクの技術移転が成果を上げてしまい、その事実が今回の改正では大きな役割を果たしたのではないか。現在、我が国では大学で生じた発明を一体どちらに帰属させるかということを考えている最中であるが、細かいドイツの法律論は全然参考にならないと思われる。大筋として、マックス・プランクの方式が勝ったという事実が参考になるのではないか。 |
□ | マックス・プランクは、従来は基礎研究中心であり、90年代半ばに、ガルフィンという有限会社を作り、マックス・プランクの研究者のためのTLOのようなものを会社形式で設けた。その責任者に会ったところ、これから少しずつマックス・プランクからの技術移転をそちらの組織で進めていきたいというようなことを話していた。 |
○ | 従来、マックス・プランクは基礎研究もやっていたが、その中のチーグアの石炭化学研究所などは化学の世界の最先端であり、研究成果で大儲けをしてきており、マックス・プランクのかなりの資金はそこから出ているはずである。マックス・プランクは何十も研究所を持っているので、ある研究所では基礎研究を行う一方、別の研究所では儲けにつながる研究も行ってきた。その仕組みをもっと組織化したものが、今説明があった会社だと思われる。 |
○ | この大学教授特権の廃止という改正において、大学教授の職務発明と自由発明の区別は一般の会社の従業者の場合と同じなのか。それとも違うのか。 |
□ | その点については何の定めも新たに設けていない。一般の企業と同じような判断をしていく考えであることを、その立法担当者が言っていた。 |
◎ | 私は研究の面でドイツの大学の内部を少し知っているが、日本の大学の事情と違うのは、職員の数が非常に少なく、教授の権限が極めて大きくて、理工系の1研究室当たり、ちょうど日本の医学部のように大体100人ぐらいの研究者を抱えており、スタッフは教授以外、助教授、助手といった肩書がない場合が多いというところである。そのためか、大学教授特権廃止においても、「教授」という名前だけが出てきていると思われる。日本の場合、約100の国立大学に教授、助教授、助手など多くの職員がいる。日本と比較した場合、ドイツでの特許の取扱の改正の対象となったプロパー(固有)の職員の数が少ないことが今回の改正に何らかの影響を与えたのかといった調査はしたのか。 |
□ | ドイツでは、アシスタント・プロフェッサー(助教授)というものはなく、プロフェッサーが相当な権限を持っているといことはよく知られている。その職員が少ないということが今回の改正に影響を及ぼしていたかどうかについては調査していない。ただ、99年9月ぐらいから、このような改正を前提にして、ほとんどの大学の中に、TLOのためのスタッフあるいは事務局というものを配置する動きがあった。 |
◎ | 次に、アメリカの事例についての意見・質問等があればお願いしたい。 |
○ | バイ・ドール法に基づいて各大学がいろいろと取組をして、パテント・ポリシー(知的財産方針)を作ってきたという話であるが、このポリシーは何もないところから作り上げたものであるので、いろいろなステージ(段階)で、リバイス(時点修正)やブラッシュアップ(洗練)を行い、試行錯誤してきたと思われる。バイ・ドール法が施行されて20年の間に、例えば、代表的な大学では、このポリシーを修正するとか、ルールを改変するということをどのぐらい行ってきたのか、わかれば教えてほしい。 |
○ | スタンフォード大学などでは劇的に変化している。最初スタートしたときは、共同研究等の産学連携の形に合ったテクノロジー・トランスファー・プログラムというものを作っていた。ところが、80年代の中頃になると、社会情勢が変わり、共同研究も大事であるが、それプラス、インキュベーターへの参画、新会社スタートへの参画やリサーチパークの設置などが入ってきて、テクノロジー・トラスファー・プログラムをそれに合わせて変えてきた。今は、学生を中心としたアントレプレナーシップ(起業家教育)等いろいろなスクールがあるが、本当に大学内で実践する、あるいは社会で実践する現場というのは、まさにOTLがリエゾン(仲介者、調整者)としてサポートしなければならない。いろいろなスクールで学んだことを実際に動かすことにより、会社を興すことになるので、そのためのプログラムが充実しておく必要がある。理論だけ学ぶことも重要であるが、それプラス実践の場を提供していくことが大学に求められており、それに合わせたテクノロジー・トランスファー・プログラムを常にアメンド(改正)してきていると思われる。 |
○ | プログラムの動きに応じて、各大学が出しているパテント・ポリシー自体もやはり見直されてきているのか。 |
○ | 各大学が制定したポリシー自体はそれほど大きな変更はないと思われる。基本的な制度そのものは変わっていない。 |
○ | ベンチャーを作る動きの中心が学生であり、それを支援するシステムがいろいろあって結構うまく機能しているという話であるが、そうした大学で生まれた発明を学生が活用して云々という話と、もう一方、学生ではなくて、教授クラスが企業にライセンスして実施化していくという話があると思われる。特にアメリカは、教授等が民間にライセンスアウトして、相当の収入を得ている。我々が理解しているところでは、アメリカは私立大学が多いので資金を積極的に集める傾向があり、そのための副学長がいて、手段の一つとしてパテント・ライセンスを非常に重視している。大学のインカム(収入)もたくさん入ると思われるが、先生方個人にも高額のロイヤリティが入っているのではないか。 |
○ | インカムが入っても、大体TLOが15%ぐらいとり、残りを大学と学部と先生とに分けている。ところが、多くの発明の場合には研究者が複数いるので、更に分配することになるため、意外と先生個人のインカムは少ない。スタンフォード大学全体で見ても、例のコーエン・ボイヤーの特許が中心となってバイオテクノロジー関係の収入が8割ぐらいを占めている。医薬品やバイオテクノロジー分野の技術については、完成した技術でなくても、早くライセンスしたいという動きがあり、先行してライセンス・インカムを生み出す要因になっているが、他の技術分野では、製品ができてからということが多いので、思ったより少ない。そういう偏りがあるため、全体の金額は確かに1,000億を超えるということで大きいが、1億円を超える収入が毎年ある事例は125件しかないというような状況である。 |
○ | TLO等を各大学に設けたとき、スタートしてから数年間は経営が非常に大変な時期があり、その際にストックオプションによるクレジット(信用貸し)契約でその問題を解決したという話があったが、その辺のパーセンテージというのは大体どれぐらいか、わかれば教えてほしい。 |
○ | 今、具体的な数値は持ち合わせていないが、大学では、ほとんどの場合、そうしたクレジットを使わないと、すぐ収入に結びつかなかった。ただし、この場合、当時は8割方がライフサイエンス関係だったために、すぐ製品化に結びつかないという点もあった。 |
○ | 我々のTLOでは、スタンフォードのシステムを参考にして活動を行っている。基本的にライセンスを行うに当たって、初め無償でライセンスインして、ロイヤリティだけでの収入を考えていくと、収入があるのは5年、6年先になり、すぐに収入に結びつかないということがあるので、必ず一時金をもらうようなシステムをとっている。逆に一時金をこちらがもらうことによって、それを製品化しようという企業のインセンティブ(誘因)になっていくと思われる。弊社の例でいけば、9割方は必ず一時金などの何らかの収入が得られるような形をとっている。 |
◎ | 海外の例について議論してきたが、ここで、我が国大学の知的財産ポリシーをどうするかということについての議論の時間を設けたい。 |
○ | ドイツの例は勉強になった。これから日本が帰属を機関に一元化していくということになった場合、ドイツの公開2カ月前の届出義務のような、システムはすごく有効かと思われる。実際に社会に還元していけるような技術を見逃さないという意味でも、一たん何らかの届出をしてもらうというシステムはあったほうがよい。ただ、何をもって公表とするかを明確にしておかないと先生方は戸惑うのではないか。公表といっても、論文で公表するケースや、学会で途中段階のものを公表する先生方もいるので、その都度その都度公表するのか、ある程度発明としてまとまった段階で公表するのか、その辺の運用についても併せて明確にしておく必要があるのではないか。これはパテント・ポリシーとは違うかもしれないが、アメリカの事例の説明の中で、1億円プレーヤー(年収1億円を超える案件)というのはほんの0.6%に過ぎないという話があったかと思う。今、TLOを大学内部に設けるか、外部に設けるかという議論の中で、TLOのない大学にTLOを全部設置していくという方向が出てきたときに考えなくてはいけないのは、母数の問題である。各大学がTLOを持つことによって、結局、1TLO当たりが扱う発明の件数の母数が減っていくことになり、各TLOの収入になる特許件数も少なくなる。それで、TLOとして人材を派遣するための人件費等がペイできるのかどうかという問題がある。そういう意味でも、外部に、複数の大学を取り扱えるTLOを設置するということも考えていかなくてはならない。 |
○ | 今の大学には、TLOのようにコーディネーションや契約を履行する部署は何もなく、そうしたスペシャリストもいない。そこに、そうした組織を突然持ってくれば、必ずコストはかかると思われる。今、指摘があったように、そのコストをペイする形で考えていくのかどうかという問題がある。また、TLOがどういうファンクション(機能)を持つかということが重要だと思われる。共同研究のアレンジというのは、技術移転の問題と非常によく似ており、研究者と、それをコーディネーションする人とで、企業等との打ち合わせを行う。大学の場合、研究者だけがそれに携わっているという形であり、産業界から、大学の組織は非常に頼りにならないとか、組織的にどうなのかという苦言をいただいている。ただ、各大学がTLOにどういうファンクションを盛り込み、そのためにどういうコストを負う覚悟があるのかということが重点だと思う。インフラ(基礎設備)という方向をとるのであれば、それだけのコストを確保しなければならないし、先ほどの指摘があったビジネス面を強く出すのであれば、それこそいい研究成果、上澄みだけをすくい上げるというビジネスマインドで行っていくことになる。この点が、これから各大学で議論していくことではないかと思われる。 |
◎ | 米国の事例でOTLがただライセンシングするだけでなく、プロジェクトのマネージングをやっているように、TLOが共同研究のマネジメントをすることも考えられる。「知的財産本部」という構想は事務局から名称を提案してきたが、どうしてもその名称からは、無機的な知的財産の管理本部みたいなイメージを学内一般の人に与える。もう少し別の名称を検討してみてはどうか。 |
△ | 各大学の産学連携システムなりTLOのシステムが既にスタートしており、いろいろな特色を持っているので、我々としては、それらをできるだけ生かすような形で発展させていきたいと考えている。「知的財産本部」については、TLOの肩代わりをするようなイメージや、知的財産の管理だけするという意味ではなく、まさに研究戦略からTLOとの連携までを含めた組織として我々は考えている。法人化後の技術移転、産学連携の在り方も含めて、大学で議論をしていく場も必要であるし、研究者への知的財産に関する啓蒙普及も必要であるので、そうした機能を持った知的財産本部を是非整備していきたい。各大学にアンケート調査も行っており、これからの概算要求の作業の中で検討していきたいと考えている。 |
5. | 今後の日程 |
次回は7月上旬に開催する予定とし、各委員との日程調整の上、事務局から改めて連絡することとされた。 |
(文責:研究振興局研究環境・産業連携課技術移転推進室)
(研究振興局研究環境・産業連携課技術移転推進室)