知的基盤整備委員会(第13回) 議事録

1.日時

平成17年9月20日(火曜日) 16時~18時

2.場所

古河ビル6階 F2会議室

3.出席者

委員

 澤岡、岩田、漆原、岡、奥野、小野、久保田、黒木、小原、齋藤、豊則、二瓶(正)、二瓶(好)、根岸、藤田、松尾、御園生各委員

文部科学省

 藤田研究振興局審議官、根本研究環境・産業連携課長、青木研究環境・産業連携課専門官

4.議事録

(◎:主査 ○:委員等 △:事務局の発言)

(1)知的基盤整備計画のフォローアップについて

(知的基盤整備計画のフォローアップにつき事務局より資料を基に説明の後、自由討論)

委員等
 研究材料について、外からアクセスできるものとできないものに区別されて整備されているのか。

事務局
 資料5‐1では、個別の材料について、検索可能かどうかと、ホームページに掲載されているかどうかを丸印で示している。

委員等
 日本国内、海外を含めてこれらの材料は配布提供できるのか。

事務局
 配布については、資料5‐1の系統数の欄の括弧内の数字が提供可能数となっている。

委員等
 データベースについて、目標は件数なのか、データの量なのか、どちらなのか。

事務局
 件数である。

委員等
 どうしてゲノム配列データベースがこんなに少ないのだろうかと思って訊ねたのだが、そういうものは件数よりはデータのサイズにした方がいいのではないか。

事務局
 ゲノム配列のデータ数については、DDBJに登録される登録数を目標にしている。1年間に登録される数が6,000Mbps(メガビット・パー・セコンド)を目標にしているが、平成16年度の1年間は1,777Mbps(メガビット・パー・セコンド)だったということになり、データのサイズで考えている。

委員等
 遺伝子多型のデータベースはここに入っていないのか。理研がやっている日本人の遺伝子多型も随分整備されてきて、外からアクセスできるようになっているが。

事務局
 本計画で整備対象としているのは、例えばデータベースについては、ゲノム配列のデータベース、DDBJに1年間登録されるデータ数、タンパク質の構造解析データに関するデータベース、人間特性データベースや材料物性データベース、化学物質の安全性データベース等を整備の目標にしている。

委員等
 遺伝子の中に1塩基が違うSNPsという1塩基多型がたくさんあるが、それが人種によって随分違う。人によって個人差があるわけで、それを集中的に調べて、そのデータベースを完備しているわけだが、それは多分このプロジェクトの中には入っていないと思って確認した。

事務局
 この計画は5年前の時点でつくっているので、その後急激にその分野が進歩して、ある資料や情報のデータベースとしての必要性が高まってきたときに、十分対応し切れていなかったところがあると思う。次期の整備計画をまとめる際に、例えば5年間のうちに急激に変化した分野でデータベースなどを整備する必要が出てきた場合に、委員会として計画にどう反映し補足するか考える必要である。

委員等
 データベースの公開については、まだ整備が整わなくて出していないものと、病原性細菌みたいに、二、三年前に炭そ菌テロが問題になったことがあるので、そのために外に絶対出さないものと、×(ばつ)には2種類あると思う。それを区別した方がよいのではないか。

事務局
 資料5に挙げているものは掲載可能なもののみを載せており、アンケートの結果、掲載不可というふうに回答されているものについてはこの資料5に載せていない。

(2)知的基盤整備計画の見直しについて

(知的基盤整備計画の見直しにつき事務局より知的基盤に係る体制構築に関するアンケート及び論点ペーパーの資料を基に説明の後、自由討論)

主査
 資料7の最後のページの公的研究機関は、昨年は71%であったものが今年は59%になっている。これは悪くなったということなのか、それとも何か統計上の整理の方法が変わっただけなのか。

事務局
 この結果だけを見ると、割合的には減っているので、悪くなっていると言わざるを得ない。去年のアンケートと今年のアンケートの対象は同じだが、今年は回答数が多く、その関係で今年の方が正しい数字が反映されていると考えられる。

委員等
 アンケート対象については機関名が並んでいるが、例えば大学の場合、大学から代表して1つの答えが返ってきたということでよいか。

事務局
 基本的には、各機関から代表して1つの回答をいただくようにしているが、大学によっては学部ごとに進めているところと進めていないところがあり、そういうところからは結局複数の回答をいただいていることもある。

委員等
 このアンケート結果は、大学と研究機関とで集計しているが、知的基盤はたくさん種類がある。例えば、研究材料やデータベースなどのそれぞれの項目で何か特徴はあるのか。ある分野は非常に公開がおくれているけれども、ある分野は非常に進んでいるなど。

事務局
 数字で細かく一つ一つ検証しているわけではないが、資料3で話したように、各独立行政法人等だと、いろいろなプロジェクトでデータベースの整備等の予算がついているところがあるので、そういった分野では比較的整備が進んでいる状況であり、それが研究機関と大学とのアンケートの差に出てきているのではないかと思う。
 ただ、人材については委員の皆様方の意見をお伺いしたいが、人材の数が増えているところは多くはないので、そういう研究機関においては充足感は足りないのかなというふうに見ている。

委員等
 資料7全体を見て、体制をつくろう、利用ルールを明確化しようということは結構やられている感じがするが、最初のページの評価のところは利用ルールなどと比較すると、人材の確保や評価が追いついていないようにも思うのだが、何かそんなことはうかがわれなかったか。

事務局
 推測だが、こういった人材の確保の方へは余り予算が回せていないのだと思う。

委員等
 その人材の確保や評価に関してだが、先ほど知的基盤というのは地味な作業という説明があったが、例えば計量標準は、最先端の技術を使ってその数値を出していくことがあると思うので、そういう分野での人材の評価ということになると、また少しニュアンスが違うと思う。

事務局
 全くご指摘のとおりで、計量標準のところは、産業利用など、後を続くところがあったり、あるいは行政的にも専門の部署が対応することになっているので、比較的計画どおりに整備が進んでいる状況にある。
 いろいろなアンケートのなかで、どうしても知的基盤ということで全体をまとめてしまっているが、分野ごとに細かく見ていくことも必要かと思うので、ご指摘の点もふまえて、今後各分野についての基本計画をたてていくときに、どの部分で特にどういった点が課題になっているかということは明確にしてまとめていきたいと考えている。

委員等
 計測方法・機器のところについて、少し私見を述べたい。もともとこの大きなくくりで言うと、計測方法・機器のところは、いろいろな分野を含んでいると思うが、今、事務局の話があったように、従来の計画では、ライフサイエンス分野に重点が置かれていたというのは事実だと思う。
 ただ、資料5‐3のデータを見る限り、その他の分野でも研究が進んでいる状況にあるのは事実だ。特に重点4分野の数字だけを見ると、例えば情報通信のところの研究テーマの数だとか、研究員の数が伸びているという状況もあるので、ぜひそういったところを掘り起こす作業をすべきだというふうに感じている。
 資料9の見直し案では、依然としてライフサイエンス分野、あるいはバイオの分野に計測方法の重点が置かれているように思えるが、より分野横断的に利用できるような基盤技術の開発もぜひ含めていくべきではないかと思う。例としては、総務省の方で音頭をとっているテラヘルツの応用技術は、ライフサイエンス、情報、環境、すべての分野で広く応用が期待できるというふうに感じている。

委員等
 基本的な点で少し方向づけを聞きたい。知的基盤とはどのように定義されているのか。4年前につくられた知的基盤整備計画では知的創造活動の成果、それを知的資産として蓄え、かつ広く利用されるように整備するとある。これは大切であることに異論はない。ただし、今日の資料の中で述べられている戦略性、つまり限られた科学技術予算を活用して我が国の発展に寄与するという意味での戦略を考えるという論点に立てば、研究をさらに効果的に推進するために役に立つデータベースとは何かということを考えなくてはいけないのではないか。
 要するに、研究の成果をただ集めていくだけでは、これは戦略とはほど遠いものであると思う。むしろ、どういう知的基盤をつくっていけばいいのかという観点に立つ必要があるのではないか。最近、知的基盤に対する世の中の見方がすこし後ろ向きに捉えているのではないかという感じがする。
 このような意味で、場合によっては知的基盤化というのをやめて、知的創造基盤化というように「創造」の2文字を入れるような制度改正、そのくらいのスタンスで物を考えないといけないように思う。つまり、もう少し新しい発想を入れて検討するべきではないかと思う。このような論点をぜひご検討いただければと思う。

主査
 数を設定し、その数がクリアしたから良いとか、その次にはもうちょっと数値を増して、数だけ集めれば良いというものではないということですね。戦略に基づいた価値あるデータベースを目指す必要があるのではないか。しかも目的に合った、使い勝手のいいデータベースをどうやってつくるか。おっしゃるとおりだと思う。

委員等
 論点資料の中に「世界最高水準を目指して」と書いてあるが、今の話にもあったように、今までは数が増えるということを世界最高水準の一つの数値的な目標としてきたのかもしれないが、同時に質の問題をどうするのかということは、これから非常に重要になってくると思う。その例として計量標準の中の標準物質について話をしたいと思う。現在日本では250という特定の標準物質についての目標値を設定して、それを達成しようとしているが、例えばアメリカのNISTの場合、1,000何件という標準物質を持っているが、これでも実際には足りなくなってきている。
 というのは、環境ホルモン物質の測定や医療診断等において、新しい物質に対する標準のニーズが日に日に高まっているために、幾ら開発しても間に合わないからである。つまり、一つの国でそれを全部賄うということは不可能な事態になってきており、国際分担的なことが当然必要になってきている。日本が非常に得意な分野については、そういう部分で国際貢献をして、日本がそれほど得意でないところはアメリカのものなりドイツのものを使うなど、お互いにシェすることがないとやれない時代になってきている。
 そういうことから考えると、数を一つの目標にするのと同時に、標準物質の場合は値が問題なので、値の不確かさの小さいものをつくれるかどうか、言いかえれば非常に精度の高い、国際的に見ても最高級のものを、日本ではどの物質についてつくれるのか明らかにして、ほかの国ではできない分野について、日本が積極的に貢献していくという観点も同時に取り込むことが必要ではないか。

委員等
 今のような議論は、この委員会が始まった最初のころ、すごみのある知的基盤というような話があったと思う。数ですごみが出てきたのは、アメリカ、ロシアはそれなりのものがあるが、最近は、中国、インドで、質はともかく数でデータベースが圧倒的にすごみが出てきたという感じがするし、創造性という観点ではアメリカは相当すごみがあって、なかなか日本が勝てない。そういったときに、日本とアメリカの国力を比較しながら、日本が何をやらなければいけないか、あるいは何をやったら共通の税金を上手に使ったことになるか、国として何を知的基盤としてやらなければいけないかということと、それが産業にどういうふうに生かされるかというあたりのところのポジションペーバーみたいなものをしっかり書かなければいけないと思う。このアンケート調査に関しては、しっかりいろいろ調べられているが、それでも調べ尽くせないというのは、3年に倍増するという今のデータの状況、増加の割合を考えれば仕方がない。そういう状況の中でどういう全体のビジョンを書いて、次の10年後に向かって、よりしっかりした点を打っていくかというところを具体的に検討しなければいけない。各分野で具体的に提案し、それぞれしっかり検討しなければいけない時期だと思う。

委員等
 私どもの耳に知的基盤という言葉が入ってきた5年前や10年前は、非常に状況としては貧困で、先ほど知的創造基盤と言わなくてはいけないという話だったが、そういうレベルよりずっと下であった。だから、少なくともそれをあるレベルまで達するようにしなければいけないという課題が一つあったのだと思う。
 その後、もっと世界最高水準を目指すべきであるということで、ナショナルバイオリソースプロジェクトの方でも、ナンバーワンやオンリーワンというような言葉を使って、日本だけできるもの、アメリカに匹敵するものというようなことをねらっているが、そういうことを言っていたら、いつまでたっても追いつくことだけが目標になる。生物の遺伝子情報というのは大量に出てきたころに、これをいかにして整理していくか、そういう人材をどう養うかという議論が同時に出てくるぐらいでないと、もっと早く整備が進まない。根本的な基盤整備をするのだったら、人材教育なども絶対必要なので、今後競争力を持たせるべきものと言ったら教育、人材育成ということにならざるを得ないのではないか。

委員等
 知的基盤の整備というのは、そのまま放置しておくと、日本で蓄積してきたいろいろな研究用材料や情報が散逸してしまう可能性がある。だから、網羅的に広く、将来の利用に備えて、国としてきちっと整備して次の研究の資産にするという考え方も根底にはあると思う。
 もし整備計画の中で重点化して、一部については世界に抗して情報や材料をきちっと確保するということになると、今まで日本で整備してきた知的基盤の一部のみが将来にとって重要性を指摘されて残っていくという可能性がある。日本の今の段階で考えると、ナショナルバイオリソースプロジェクトが始まった背景もそうなのだと思うが、政策的に、体系的に我が国が自主的に整備してきた研究基盤をきちっと後に残していくという基本的な考え方であり、言ってみれば出発点ではないかと思う。
 出発点の段階は、あくまでも日本にある今表に出ていないような物を含めて表に出していくことで、その後色分けをして重点化して、次にはそれに付加価値をつけて、新しい次の研究のステップに利用するような形で公にしていくという過程がある。日本の知的基盤の全体的な考え方としては、とりあえずまず網羅的に押さえて、それを国として体系的に整備していこうという段階ではないかと思っている。

委員等
 原子力委員会で知的基盤に関する予算申請の項目があるのだが、年々そこへの応募が減っている。
 その最後のページにデータベースの今後の案として人間特性があるが、例えばJR西日本のこの間の事故を考えてみたときに、運転者に関する人間特性や、ヒューマンファクターというのは十分に整備されていなくて、今まではみんなが一生懸命頑張って日本の安全を保ってきたが、そういったものがどんどん崩れ始めてきている。原子力分野、あるいは航空宇宙分野などで今まで日本の守ってきた安全の質を保とうとしたときに、基礎となるデータが必ずしも十分になく、それに対してどういうふうに具体的な対策をとるかということに関しても十分そろっていないので、それぞれが目標を設定し、日本がこれまでしっかり整備してきた部分について、競争力を維持しながら、世界の見本になって例を示していく必要がある。しかし、意外とそれを組織的に、しかも世界に通用するような形で科学技術データとして提供するのは難しいというのが実感である。それは結局なぜかというと、知的基盤、例えば人間特性というものを本気で整備しようとしても、とても本気でやれるような体制が日本国内では組めないということが現実としてあると思う。だから、具体的にしっかりとしたものをつくるために、国として何をしなければいけないのかというところをちゃんと検討してみる必要があるのではないかと思う。
 具体的に作業をして、本当に「ウイナーズテイクオール」という言葉がちゃんと言えるような、世界でしっかり見本となるようなものをつくるには、どこまでやり抜かなければいけないかというところが、まだ本気でやっていないと思うので、そのあたりが特にこの委員会で検討すべき内容として欠落しているのかなという印象を持っている。

主査
 ここで事務局がたたき台としてつくったデータベースの人間特性というのは、精神的なもの、社会文化との関係から切り離した数値化された部分であると思う。先生が発言されたのは、社会や歴史や組織と直接関係する部分で、これを知的基盤として扱うのは、余りにつかみどころがないと思う。原子力の世界では原子力の安全性、宇宙だったら有人飛行の安全性などのような限定をすることによって、つかまえどころがあるものにすることができる。我々がどこまでここの委員会で議論するかということについて補足願いたい。

委員等
 具体的に何をやったかというと、今年に入ってから異分野交流フォーラムをやり、航空機事故と原子炉事故と医療事故のそれぞれの原因、あるいは体制のあり方、その他いろいろなことを議論した。結局、しっかりした共通知的基盤があるはずなのにないということがある種の結論になって、そこからは今までマニュアルをつくったりして、ひたすら過去の事例を例えば失敗データベースというような形でまとめた。しかし、まとめ上げたとしてもなかなか使えないので、もう少し生きた情報をしっかり把握して、それを分野横断的に統合化すると、新しい価値が出てくるのではないかという結論に達した。人間特性と言ったときも、多分小さな種はあちこちたくさんあるので、それをどうリンクするかというのがこういう委員会で議論する一番大事なことではないかという意味である。

委員等
 知的基盤を考えるときの一つの視点だと思うが、ビジネス、あるいはマーケットとの接続の程度があるように思っている。つまり知的基盤をつくっている大学、あるいは研究機関で、研究の営みの中でつくると同時にそれがビジネスになっていくということもあろうかと思う。
 そうなると、自然に、ビジネスの世界で定常的に回り、自分で拡大するといったような力も働くと思うが、そういうところは大学と研究機関だけで担える問題ではないだろうと思う。そうすると、産業界、ビジネスとどう連携し、どう接続し、彼らにどう受け渡していくかというところも重要だと思っている。
 計量標準の世界では、小さいながらも校正事業者があり、そこに連続的に接続していくようにしているわけだが、データベースでも恐らく非常に汎用なものはビジネスになり得る。

委員等
 我々のところは、いわゆる物質材料データベースを実際に提供している。そこで、今話したようなビジネスモデルをつくれるか、具体的に言うと、今我々が持っているデータを有料で売れるかどうかということを真剣に考えている。
 我々のところのデータベースは運営費交付金ベースでつくっている。これは、本来であれば外部資金、あるいは競争的資金であれば、やりやすいところもあるが、運営費交付金でしか今のところやれない。ご存じのように、独法の運営費交付金は年々減っていく。これは多分将来も増えることはないと見込んでいる。そういう中で、今後知的基盤を研究機関の努力だけで続けていけるのかというと、結構シビアなところが出てくる。あるところで判断せざるを得ないと、予算面からそういう状況が出てくるだろうと思っている。
 だから、これは以前からずっとお願いをしていることだが、知的基盤に絡む予算の仕組みをもっと根本から考えてもらえないのか。具体的には、例えば内局予算にして委託費として出すなど、予算面で何らかの面倒を見てもらわないと、いつか例えば我々のところで続けている知的基盤をつくることも、破綻するかもしれないというおそれを常に持っている。まだしばらくは続くだろうが、今の情勢だと非常に厳しい情勢にあるというのが1つだ。それと、もう1つは、多少提案にもなるが、いろいろなデータを委員会の方で集めて事務局の方で今日の資料として提案しているが、そういったものをインターネットに例えばポータルサイトのようなものをつくって、日本のどこにどういう知的基盤がありますよというサービスをもうそろそろ始めてもいいのではないかと思う。それによって、逆に知的基盤の重要性が国民に認知されることになるのではないかということから言っても、もうそろそろそういうことを始めてもいいのではないのかなと思っている。次回以降具体的にそのあたりを検討していただければ非常にありがたいと思っている。

主査
 事務局のたたき台の中に拠点という言葉が出てきたが、拠点をつくると、拠点だけが強くなり、逆にそれ以外の芽をつんでしまうということもマイナス面として心配な点である。拠点形成を交付金で行うのは難しいと思うが、このことについて具体的なたたき台を持っているか。

事務局
 予算面での検討はまだ進めていない。交付金制度の問題はあるので、どこかで例えば内局への移管があるかなど今後議論が必要かと思う。

委員等
 地理情報の件だが、インターネットの検索エンジンを提供しているある会社は勤務時間の20%は好きにやっていいという会社の体制になっていて、その20%を使って、全地球の地理情報を普通のPCで非常にダイナミックに見られるような状況を生んだ。これは、まさに地理情報に関するグローバルな知的基盤だと思うが、そういった知的基盤を準備すると、それを起点にしてどんどんビジネス提案が生まれてきて、20%むだな給料を払ったつもりだったのがかえって大きなリターンになって戻ってくるという上手な仕事のやり方をしている。結局人をどうやって本気で元気に働かせるかという仕組みを日本という国でつくれるかどうかというところにかかっているのかなという感じがする。

委員等
 前回の委員会のときに私が発言したり、ほかにも研究関係の方で希望している方があるので資料9の2ページ目に載せているのだと思うが、その他の研究材料として有機化合物がある。
ゲノムプロジェクト等かなり力を入れてやってきたが、その成果の目標としては病気の克服があったわけである。その手段としては、診断と治療、特に治療の中で一つの世界として創薬があって、会社としては大きな希望をかけてきたわけだが、はっきり言って余り思わしくいっていない。
 今創薬はいろいろな面で分析されているが、一つの薬をつくるのに、数百億も金がかかるというイメージとは裏腹に、意外と大学の研究者、あるいは小さなベンチャーが創薬をやっている。これはますますその方向に行く。というのは、大企業の方はある意味ではダイナミズムを失いつつあるというのが統計的にわかっている。
 そういう状況を考えたときに、これだけのいろいろな研究基盤が整備されてきて、それを創薬に結びつけるために、何が足りないのかというと、これは化合物バンクがないということがかなり決定的な影響を及ぼしているはずである。それを認識してNIHは1%くらいの大きな予算を投入して、それをなんとかしようとした。
 それをまねして、それらしいことをやらないと日本の創薬も難しくなるだろうということで私も少し発言したが、実際問題として、微生物みたいに簡単に増えないので、やるのだったら金額的にはかなりの覚悟が必要だと思う。化合物ライブラリーについては、ランダムにつくろうという動きが過去数年間あったが、それは失敗だった。それで、要するにフォーカスした、よくデザインされた化合物をつくらなくてはいけないという認識になっている。
 そういう意味で、もしこの計画が具体的に日本で動けば、有機化学者に対して後押しができて、おもしろい結果になる、相当創造力を刺激するというふうに私は思う。そういう観点も含めて、かなりの覚悟が要るというのが最大の欠点だが、ご検討いただければと思う。

委員等
 予算的な話についての質問だが、どのように知的基盤を見直していくかという議論であるが、何かそれに対する予算的な裏づけや戦略的な観点での議論は、この委員会の検討の議題に入るのか。

主査
 重点を絞り込んだ場合、そこに予算がつかないと意味がないわけだが、この委員会からどのような働きかけができるのか。ただ言って終わりでは、真剣な議論を行う意味がない。

事務局
 今、第3期基本計画を検討中で、それはもうすぐまとまると思うが、ちょうど知的基盤整備計画が第3期がまとまった後の最初の政府での答申になると思うので、いろいろなところに与えるインパクトはある。ただ、予算については、歩調を合わせて、魅力あるものに仕上げていかないとつかないので、そこは関係の課と連絡を密にして、例えば戦略的に取り組くむべきところ、それが国民経済的、あるいはいろいろな研究の基盤として非常に有用なものだということをうまくまとめていって、仕上げていきたと考えている。

主査
 本委員会のお墨つきがないと、それぞれのところから単独で出てきた要求は弱い立場にあるということが分かった。その意味でも本委員会の役割は重要である。

委員等
 その他の研究材料のところに、金属材料、セラミックというのがあるが、こういう物質の新しい材料というのはすごく進歩していて、こういうデータベースというのは必要だと思うが、今まではできていなかったのかというのが一つの質問。
 その次に、臓器と脳というのがあるが、アメリカなどでは、例えば肝臓やすい臓といったいろいろな組織標本は一つのプレートの上に乗っていて、それを商業的に売っていて、それを買うといろいろな実験ができるというものもあるが、一体この臓器、特に脳は脳科学の方からこういう要求があるのか。

事務局
 海外の方では、そういうふうに臓器や脳の提供がされているが、日本では倫理的な問題もありされていないので、そういったものの提供がされればいいというような意見もあったので、ここに上げた。

委員等
 確かに、人の肝臓をいっぱい集めて酵素をとれる状況にしておいて、それで薬物代謝を見るといったようなバンクがあると、いろいろな薬剤の開発に随分役に立つと思うが、倫理的なバリアがかなり大きいので、これはよほど慎重にしないと、かえって足を引っ張られることにもなりかねないと思う。

委員等
 臓器については、おそらく、日本の製薬会社はみんなアメリカから買っていると思うが。

委員等
 我が国でも厚労省の研究所で一時組織バンクというのがあったと思うが、倫理的な問題が難しくて少しおくれていると思う。ただ、これは非常に重要だから、多分要望としては強いのかなというふうには思っている。
 見直し案というところで、私は生物遺伝資源が担当だが、ざっと見て、乾き物と湿り物というか、その違いが実はあって、乾き物の方は途切れては困るが、少しは置いておけるという面があるが、生物はどうしても買い続ける人、あるいはクオリティを維持する人、両方が必要だ。そういう意味では、動物細胞というのは数が達したからということだけではなくて、多分高度化というか、さまざまな情報を付加して、よりよく使っていただけるという形にしないといけないのではないかと思う。
 だから、この見直し案は、これでいいのかどうか若干疑問ではあるが、知的基盤というのは広くだれもが使えるような形にするということがまず第1であり、ただその先の高度化、あるいは機能情報というのをつけ加えると、やはり研究が必要なわけだが、それを言うと、研究費がもともと少ないわけだから、そっちに変わってしまうということもあって、まずは数を集めてきちっとした質の高いものを集めるということが必要であるということになったのだと思う。
 ただ、2010年を目指してとなると、質ということを考えて、例えばゲノム情報にしても、さまざまな関係する性質を加えていかないといけないということがあるので、数が達成された上でもさらに整理をして、さらによく使えるものにしていくのが必要ではないかと思う。
 データベースに関しても、今、統合化ということがさまざまなところで言われており、動きがもう既にあるが、まずは集めるべきだ。しかし、データベース間の関係をつけていく、アノテーションをもっと増やしていくことが必要であり、5年たって転回点になると、質を上げていくための戦略が必要だろうと思う。

委員等
 今のお話とも関連すると思うが、数がそろいましたと、でもこれからは質ですと、そういったときに、例えば微生物なんかでも、いろいろな属のいろいろな種類がある。戦略というお話があったが、例えば、どういう微生物を日本では集めていく必要があるのか、研究者の方はどうお考えなのか、そういうニーズがあるのかどうかをどこかでとらえることができるのか、それを反映させることができるのか、そういうメカニズムのようなものがあるのか、そういうことを考えることもできるのではないか。

事務局
 具体的には、微生物の整備については、製品評価技術基盤機構の方でも中核的機関となって整備しており、そちらの方ではニーズを把握して、それを反映するといった取り組みも行われているので、今後もそういった中核的機関が中心になって、利用者ニーズを把握して、それを整備に反映していくということになるのではないかと思っている。

委員等
 物質系については、ケミカルアブストラクトは今3,000万から5,000万の間のレジストリをつくっていると思うので、物質系としてはそのくらいある。それで、年々500万件くらいふえているという状況なので、よほど的を絞って基礎的なデータを集めない限り、データベースとしてなかなか追いつかないというところがあり、無機材料、金属に関しては、むしろ見本となるようなデータベースをきちんとつくるということをやっている。
 これは物質材料研究機構がやっているし、それ以外に各社、あるいは国研その他で部分的にいろいろデータベースがつくられている。そういったデータベースをつなげるためのメタデータをどうしっかりつくるか、データベースをつなげるためのデータベースみたいなことをしっかりやるべきで、だれもがデータベースをつくる時代になってきたから、そういったものをどうつなげるかというところでいろいろな困難にぶつかっているのだろうと思う。
 そういった観点で見てみると、予算のつけ方で一番合理的だと思っているのはドイツの例で、研究費の中に何十%かをデータベース構築費、あるいは知的基盤構築費としてその予算の中に組み込んで、だれもが自分の成果を知的基盤として世の中に公開するという試みがマックスプランクを中心にして始まっているので、そういう抜本的な見直しというのをこの10年の経験の中でしっかりやらないといけないのではないかと思う。
 ただ単にいわゆる陳情合戦をやると、声の大きい人のところに予算がたくさん行って、結局全体として見たときに、大して大きな知的基盤にならないということがあるから、むしろ制度そのものの中に、ある種の知的基盤に関する基本的な哲学を考え直さないといけない時期だし、年間500万件ふえる物質の数を考えたときに、そのデータベースはそれぞれの現場で自然にできて、自然にできたデータベースが最終的に統合されて日本全体、あるいは世界全体の共通資産となっていくというような、そういう成長型のデータベースを考えてもいい時期なのかなというふうに考えている。

委員等
 ここにおられる方は多分研究主体で、その中で知的基盤をお考えだと思う。NITEは知的基盤を看板にしており、知的基盤自身が目的というところで、ここでのご議論は大変関係が深いという面がある。微生物資源もかなり集めており、それなりの悩みもある。標準に関しても、産総研をお手伝いしているような面もあるし、データベースで言えば化学物質に関しては一番すぐれており、国の行政をバックアップするような膨大な作業をやっている。
 生物遺伝資源で我々がやっているは微生物で、今日の話を聞きながらも感じているところだが、微生物に関しては我々は中核であるということを言われているが、悩みがある。国内、あるいは国際的に分担しないととてもやり切れない話だろうと思っているが、国内においても連携がもう少しうまくいくといいのではないかと思っている。
 例えばネットワークをどう張って、どこが中核かという役割が必ずしも明確ではなく、うまく機能していない。微生物は知られているのは全体のまだ1%しかないが、その1%の中で何が大事かという判断は大変難しいし、我々は経済省の組織なので、産業的な価値と言っても、もとが取れるような話ではもともとないわけで、集めていること自身が大事なんだけれども、その中身がいいものを集めているのか、そうじゃないのかというのは常に問われているので、そのあたりはもっとオールジャパンで考えて、役割分担をどうすべきかということを考えてもらうと大変ありがたい。特に今悩ましいのは、何を集めるかということだが、これについてはまた別途お知恵をいただきたいというふうに思っている。

委員等
 今のお話で、何を集めるかだが、どちらかと言えば、既に研究が先にある場合は、何が集まるか、何が大事かというのは実は決まっていて、それをどう持とうか、どうみんなで共有しようかという悩みの方が多い。先生のところはむしろ有用微生物だから、逆に言えば何を集めるかは決まってくると思う。つまり未知のものをとってきて、その中から有用な遺伝子を探すということが中心だと思うので、そうすると連携もなかなか難しくて、きちんとした役割分担ができない。それぞれ得意分野、あるいは目的が違うので、そこは当然オーバーラップがあったりする。
 今、生物遺伝資源に関しては、例えば農水の方も含めてオールジャパンでの話し合いの機関というのはもっている。例えば、ナショナルバイオリソースプロジェクトの中にもあるし、ホームページがあって、これに関してはどこに行けばいい、例えば農水に飛んだり、先生のところに飛んだりということもやっていて、それはメールでとなっている。ただ、くし刺しで何かぽんと入れたら、それに最もふさわしいリソースが出てくるかというと、まだそこまで行っていなくて、これはジーンオントロジーやオントロジーというものを整備しないと、それぞれの書き方自身が間違っているので、かなりの研究が必要かなというふうに思う。そういう意味で、得意分野があるので、そこを協議会や生物遺伝資源委員会というところで連携させてもらえばいいのかなと思っている。

委員等
 先ほどの質問は多分データベースというよりも、研究用材料として金属材料やセラミックスが必要なのかという質問だったのだと思うが、現実問題として、例えば鉄鋼連盟、あるいは鉄鋼会社、あるいは試験機メーカーでは、例えばかたさ標準や、あるいは焼き入れ組織の組織標準などがもうすでに世の中に広く商品として出回っている。
 ただ、ここで取り上げている研究用材料としては、金属材料でも最先端の材料、例えば大変形する超塑性材料やナノ材料みたいなもので、そういったものは、研究者が最先端の研究として扱っている材料であり、それを企業がくれないかと、あるいは使わせてくれないかというニーズが結構今出てきている。ただ、それは知財権と絡む話なので、結構微妙なところがある。最先端では、金属材料、あるいはセラミックス材料でもニーズはあるし、必要だろうと思っている。ただ、旧型の材料はもういいのかなという気はする。

委員等
 予算の面でも、それから我が国の活動の存在意義を高めるという意味にしても、何か明確なキャッチフレーズを持ち込むのがいいのではないかというふうに感じている。分野によって状況が違い、今この分野は粛々と集めるのが大事な時期だという分野もあり、そろそろ整理して重点化すべきだという分野もあると思う。しかし、知的基盤という言葉の持つ後ろ向きのイメージを払拭しないと、皆さんが期待しているような方向には行かないのではないか。
 今なぜ知的基盤が大事なのだということをもう一度世の中に問いかけなければならない。そのときに、何のために日本は何をやろうとし、そのために世界で重みのある知的基盤のネットワークをつくり、それを売り物にして、皆さんの研究成果を粛々とため込んでいく、そういう戦略的なシナリオが必要ではないかと考える。
 本当にデータベースづくりというのは大変だし、地味だし、一体これで何の役に立つのだろうと思いつつ進める部分がある。今はネットワークやコンピューターがあり、ずっと研究所や本人の負担は少なくなってきたと思うので、仕組みづくりが大事だと思う。それにしても何かもっと前向きで、世の中にもっと強く訴えかける部分をそろそろ強調しないと、知的基盤整備ということに対する世間の注目が時間とともにどんどん冷めてしまうような気がする。
 そこで、やはり創造のための基盤整備だということを徹底的に強調して、現在進めていることをもう少し束ねて方向づけをするという作業がこの委員会の一つの役割ではないか。

主査
 おっしゃる通りである。攻めの姿勢で積極的な方策についての議論を行いたい。

以上

お問合せ先

研究振興局研究環境・産業連携課

(研究振興局研究環境・産業連携課)