知的基盤整備委員会(第11回) 議事録

1.日時

平成16年11月4日(木曜日) 10時~12時

2.場所

文部科学省 10階 第1会議室

3.出席者

委員

 澤岡、飯塚、井戸、岡、小野、河盛、小原、齋藤(宗)、平木各委員

文部科学省

 根本研究環境・産業連携課長、室谷研究環境・産業連携課研究成果展開企画官、鎌田研究環境・産業連携課課長補佐、青木研究環境・産業連携課専門官、米倉基礎基盤研究課長、小島基礎基盤研究課大型放射光施設利用推進室長

オブザーバー

 徳増経済産業省産業技術環境局知的基盤課長

4.議事録

(◎:主査 ○:委員等 △:事務局の発言)

(1)知的基盤整備計画のフォローアップについて

(知的基盤整備計画のフォローアップにつき事務局より資料を基に説明の後、自由討論)

委員等
 できれば、研究用材料などを集めた数だけではなくて、リクエスト数もあると、どれだけ必要なものが集まっているかという指標になるかと思う。もう1つは、この収集された生物遺伝資源の株について、収集している中でどれだけ遺伝子解析がなされているのか。それを積極的に集めていく姿勢が必要ではないかと思う。

委員等
 ゲノム解析は、やはりお金がかかるので余り進んでいないと思う。ただ、これから特に微生物を中心に、遺伝子資源という意味でも非常に重要であるので、今後増えてくると思う。DDBJの登録数が記載されているが、毎年一定量についてきちんとやっているのだが目標が少し高いのではないか。特に2001年に最初に設定した目標は、多分ヒトゲノムのドラフト配列についてアメリカで非常にたくさん登録された時期なので、その辺りが反映されて高い目標となっているのだろう。これからは微生物を中心とした配列データがたくさん出てくるので、2010年の目標にかなり近づいていくのではないかと考えている。

主査
 ただいまの議論と、第3期科学技術基本計画に向けた議論とは非常に密接な関係があるので、後ほどの議論の中で参考に使っていただきたい。

(2)第3期科学技術基本計画に向けた知的基盤整備のあり方について

(第3期科学技術基本計画に向けた知的基盤のあり方につき事務局より資料を基に説明の後、自由討論)

主査
 皆様よく御存知かと思うが、文部科学省の委員会でありながらここに他省庁のデータがたくさん出ているというのは、旧科学技術庁の日本全体の調整を図るという機能が残っているからである。ここでは、文部科学省でありながらオールジャパンの知的基盤についての取り纏めの責任があるという立場から、省庁の枠を越えた議論をする大変重要な場だと理解しているので、よろしくご発言をお願いしたい。
特に、各機関が独立行政法人化することにより、運営費交付金が年々減少しているという中で、このままでは知的基盤関係の整備が負担になることを大変心配しているのだが、分野によって事情も違うとは思うが、特にご関係の方からご発言をお願いしたい。

委員等
 私は特に研究用材料・生物遺伝資源、関連するデータベース、という分野に近いので、その分野から申し上げる。データベースは磁気テープに入っているものだから乾いたものだが、生き物は、凍らせておくということも可能だが、継代培養、あるいは生かし続けることが必要である。そのためには特に人的側面は重要であり、これは作業ではあるが、非常に熟練した作業あるいは創意工夫ということも非常に必要であるため、作業をする人の評価がきちんとなされないといけない。今、ナショナルバイオリソースプロジェクトという5年間の画期的なプロジェクトがあるが、5年の先はどうなるかということを考えると、今やっている人達が非常に心配になっている。もちろん永久にということは有り得ないし、見直しも当然あるわけだが、折角始まったものが、確かに数は集まってきたものの、それを今後どのようにより有効活用するかということが最大の問題になると思う。
 また、先ほどの目標数値も、世界最高水準というものも、多分当時のアメリカを中心にしたところを日本でも独自にできるように、という意味で作られたのだと思うが、先ほど委員からも指摘があったように、数的なものに加えて、どのような使われ方をしているのかという質的なものを挙げていかないと、多分、外に対する説明は難しいと思う。そのような意味で、現在の基本計画の中にも、学問の進展に伴って新たな整備が必要なものは積極的に機動的にやれということも書いてあるのだから、技術的な進展に伴う見直しと新しい材料もどんどん加えていく、ということもしていかなければならないと思う。

委員等
 現在目標として掲げられている「2010年を目途に世界最高水準を目指す」という、世界最高水準というのは一体どのような意味なのだろうか。日本の知的基盤は非常に遅れていたという現実があったから、そこからどのような状態になることをもって世界最高水準であると言うのか。あるいは逆に、2010年以降は、世界最高水準をある意味で達成した後どのような展望を持つのか。ちょうど時間的には、第3期基本計画と2010年というのはほとんど一致しているので、恐らく第3期の目標というのは、世界最高水準を達成するという目標が妥当ではないかと思うが、達成して次はどうなるのか。少し早すぎるけれど、第4期というか、つまり先ほどの話にもあったように、データベースを作って、あるいは知的基盤を作った後にどうなるのか、といったことを少し考えながら第3期を考えていくべきかと思う。

委員等
 まず1点目に、この計画を立ててからかなり時間が経っているので、アイテム自身が正しい選択だったかどうか、更に追加すべきものがあるのではないか、という検討をすべきではないかと思う。
 それから2点目として、これからメンテナンスをしていかなければならない部分がかなりある。特に計量標準に関しては、扱いやすさということももう少し考えてもよいのではないか。確かに標準というものはできたかもしれないけれど、それを使いたいという外部からの要請にこたえられる体制が出来ていないのではないか。一部分かもしれないが、そこをもっと補強しないと、うまく動き出せないと思う。
 3点目に、新しい分野の追加をするときに、プロジェクトにアプライしてもらってそこから資金を得るという方法があるが、特にこのような知的基盤については、他のプロジェクトとパラレルに比較されると、どうしてもオリジナリティが少ないとかフロンティアでないとか、比較の上で不利になることが多いのではないか。ではどうするべきかというと、ある分野を切り分けて何%かは知的基盤に向ける、といった国の政策としてやっていただくのが1つの方法。あるいは、評価の段階で、標準やデータベースといった知的基盤の部分を1つの柱として常に立てておくことも1つの方法である。日本学術会議のほうでも私共はよく言っているのだが、評価の問題は、もう少し大きな柱として認識されないといけないと思う。
 最後に、これだけたくさんのデータベースや知的基盤のいろいろなものが出来たときに、総合的に国の政策としてこれをどう維持していくのか、あるいはどこが足りないか、ということの全体を検討する場というものが、恐らく文部科学省のこの場もその役割を果たすのだとは思うが、やはり総合科学技術会議の中でそのことをよく認識していただかなければならない。すなわち、総合科学技術会議の中にぜひ知的基盤のご担当をはっきりと立てて欲しい、これを第3期には実現していただきたいと、強く思っている。

委員等
 産総研では計量標準において世界最高水準というものをどう理解するかについて、内部で随分議論をしてきた。それで非常に荒っぽく一言で言えば、日本の産業界あるいは学術界の方々がその知的基盤を利用する時に、欧米やアメリカにいる研究者や企業の方と遜色ない環境を入手できる、すなわち日本に立地しているがゆえに知的基盤のサービスにおいて非常に劣悪な環境にあるということが避けられ、エンドユーザーから見ての価値・利用度が世界最高水準であり、仮に外国に取りに行けるものがあれば外国とシェアすればよい、という戦略になるかと思う。
 そのような意味で計量標準について言えば、NISTという非常に大きな組織がアメリカにあり、3,000人規模の研究所でやっている。国立の研究所として、産総研がそこと張り合うというのは、当面は現実問題としては有り得ないわけである。そこで、オールジャパンとして、あるいはエンドユーザーから見ての利便性という点で実質的な世界最高の環境というところを目指そうかという議論をしているところである。

委員等
 世界最高水準ということだが、生物遺伝資源の分野では、分野によって結構違う。基礎的な部分であればアメリカにあってもよくて外国とシェアをする。しかし日本で特に進んでいるところは日本で受け持って世界に貢献しよう、というものが増えれば最もよいと考えている。一方で、生き物も最近知的財産の対象となってきており、特にマウスなどについて囲い込みが始まっており、なかなかうまく日本に持ってこられない。勿論アメリカにもあるのだが日本に非常に大事なものがあって、これを完全にオープンにすると、我が国のいいものが全部流れてしまうということもあり、そのあたりを整理しないといけない。
 結局、我が国の研究者が外国に頼ることなく自由に使えて、且つ外国に貢献できるということが、多分世界最高水準になるのではないか。アメリカはこれまでそういうことを目指して戦略的に行ってきたので、我が国で現在の目標を決める際に、そういうレベルを数的、質的に達すればいい、という思いがあったのではないか。
 その中で我々が気をつけたいのは、基礎的な学術研究あるいは基礎科学に対してはなるべくオープンにしないといけないので、分野によってはむしろ公開のほうに重きを置くし、ある分野によっては知財を守るということに非常に重きを置かないといけない。バイオリソースでもかなり議論が行われているのだが、そこの切り分けを踏まえた上で今言ったようなことがおおよその世界水準ということの解釈かと思っている。

主査
 オールジャパンの話が出ているので、経産省としてのコメントがあればお願いしたい。

委員等
 現状について見れば、委員からもご発言があったとおり、総合科学技術会議の中にこのようなことを議論する場所がない。個々の分野ではそれぞれに重要性を認めていただけるが、それが総体としての声になっていないのが現状かと思う。このような中において、どの省庁がということではなく、皆でこのような形で議論する場は非常に重要だと思っており、総合科学技術会議の中にそのような場ができるということであればそれでもいいし、それがないとすれば、既存のこの会議がそういうことを兼ねて議論していくことは非常に重要なことであろうと思っている。現状では、総合科学技術会議に個々の分野では知的基盤の重要性を言っているけれども、総体として取り纏めたときに、個々の分野のプライオリティーが優先するということから、どうしてもこういった分野は忘れ去られがちになるということもあるので、現状ではこの会議を我々は大事にしていきたいと思っている。
 先ほど、運営費交付金が全体として減少する中、財源確保をどのようにするか、その中でプロジェクトタイプがどうかという話があったが、経済産業省において、産業技術総合研究所あるいは製品評価技術基盤機構という2つの独立行政法人において知的基盤の整備を進めている中で感じていることを申し上げたい。この運営費交付金というのは知的基盤整備に最も向いているのではないかと思っている。と言うのは、プロジェクトでこのようなものを開発することになると、その後どうするのかということが必ず問題になる。2001年のミレニアムプロジェクトで多様なデータベースの開発とかデータの取得というのをやったが、終わった後にどうやって引き継がれてメンテナンスされていくのかということは、非常に大きな問題である。そういった問題を起こさないためにも、交付金のスタイルは知的基盤整備には非常に向いていると思う。
 ただ、現状何が問題かと言うと、要するに同じ交付金の中で研究開発と知的基盤整備というものが共存して、同じマネジメントの中でそれが取り扱われるということが一番大きな問題であろうと思っている。研究開発の成果が知的財産、というのは非常に限られた分野でしかなくて、本当はこういう知的資源というものをそういう研究開発活動の中から蓄積してストックして利用に供していくことが、国としての研究開発の最も大きな出口ではないかと我々は考えている。そこで、できれば交付金の中である一定部分は知的資源のメンテナンスあるいは利用といったものに振り向けるべきだとする大きなガイドライン的なものがあり、交付金の中の例えば知的活動を8割としたら2割はその資源のメンテナンスとか普及に努めるべきだ、といったことを提言していくことでも意味があるのではないかと感じている。

主査
 確かに、ガイドラインがなく放っておけば大変なことになるという心配があるので、それを国のガイドラインとしてしっかり働きかけるかどうかというのは、今後のここの大きな課題だと思う。但し、大事だということは間違いないが、それぞれの独立行政法人によって考え方がかなり違うので、そうすることが各法人にとって迷惑になるかもしれないし、法人による考え方の問題でもあると思うのだが、個々の割合をどのくらいにするかというのは、非常に微妙な難しい問題かと思う。

委員等
 今の話にも関係するので紹介したいのだが、経済産業省でも研究開発関係は、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)というところを通じて行っている。近年は、単なる研究開発のやりっ放しではなくて、そこから出てくる様々な情報等をしっかり利用していくことが必要だということで、1つの出口として、研究開発を通じて得られる情報をベースにした標準化とか、そこから出てくる計量標準あるいは計測技術といったものは公共の財産として非常に大きな研究活動の成果の1つである、といった方向を目指すべきだという話をしている。研究開発プロジェクト全体を進めるかたわら、そういったこともあわせて進めるべきという標準化ポリシーというものを、資金供給団体であるNEDO及びその実施の課題を担っている産業技術総合研究所において作り、研究開発とともにそういったことが必要であるという価値観を研究者あるいは組織の中にも根付かせようと、現在取り組みを進めている。
 NEDO内においては、ある一定の額をプールして、研究開発の成果から出てくるものを標準化していくとかデータを整備していくということに対して、資金を別枠で確保するといった取り組みを始めたばかりである。今後どういう成果になるかは別だが、そういうものを始めているということを紹介させていただく。

主査
 それは、運営費交付金の中で枠を1つ作るということか。

委員等
 NEDOの場合には、プロジェクト経費全体の5%を別途プールする。成果が出てくる時間的なものも違うので、すべてのプロジェクトから5%を一旦プールし、それぞれのプロジェクトから出てきた成果を国際標準化するといった際に、そのプール財源から必要な経費を負担するといった取り組み、試みを今始めているところである。

委員等
 運営費交付金の中で、将来もう少し増額して知的基盤の分野に資金を投入してもらうということは、大変好ましい解決だと思うし、ぜひ進めていただきたいと思う。
 もう一方で、各省庁のいろいろなプロジェクトが独立してやっているのでは、特に知的基盤の場合には意味がないのであって、どうしても横断的に全体を俯瞰することが必要である。ただマップを書いてここがないから埋める、といったことではなく、やはり国の政策として俯瞰した上でやるべきである。その中の1つに、例えば最近話題になっている大陸棚のような地球環境的な問題がある。これなども日本は非常に遅れているそうなので、是非そういう俯瞰的なことをやっていただけたらと思っている。
 それから、計量標準については、トップの方で考えるルールが、実際の現場に近いところにもかなり及んでいるため、ある意味では非常にルールが厳しくなりすぎている面もある。そういう点で、もう少し使いやすいようにしていただけないか、特にソフト面でそういうことをお願いしたところである。

委員等
 データベースを整備していく上で、インディペンデントなデータかリレイティブなのかを考慮する必要がある。リレイティブなデータの場合、1ヶ所で変えると、それを参照している外のデータベースも同時に変えないと使えなくなる恐れがあるので、データベースマネジメントをきちんとやらないと、利用者も、そこへアクセスしても本当に最新のデータかどうかわからないため利用しなくなる。各機関で持っているデータベースがそれぞれ勝手なルールで動いているのでは管理しようがない。全国のデータベースがヒエラルキー的な構造を持ち、登録、管理するルール、データの質を管理する機関がないと利用しにくいし、また、メンテナンスを怠っていけば、形骸化していく恐れがある。先ほどから言われているように、戦略的にデータベース全体の構築を考えることと、しかるべく予算と使途もきちんと割り当てるのが望ましい。研究者がデータベースを作り管理していくということは、ほとんど無理ではないかと思う。1つは日本全体のデータベースシステムの統合化を図ること、もう1つは、そのための予算措置を講ずることを提言していただけるとよいのではないかと思う。

主査
 システムとしてはいろいろなご意見をいただいているが、資料6の総論で、本委員会の対象とするものとして、研究用材料、計量標準、計測・分析・試験・評価方法及びそれらに係る先端的機器、関連するデータベース、という守備範囲が決まっているが、今後もこの4つで進めていってよいか。大変基本的なところに戻ってしまうが、正直なところ、守備範囲が余りにも広く、それぞれの次元、見る視点がまったく違うので、非常に難しい仕事をしていると思う。第3期もこの4つの分類でよろしいか。

(委員一同了承)

委員等
 確かに、たくさんあるものの中からだとこのように4個に分類するしか仕方がないと思うが、その中で私が注目しているのは、計測・分析・試験・評価方法及びそれらに係る先端的機器である。多分この資料を集められる際に、研究用材料とか計量標準というものは、その道の専門家に聞かれて、比較的典型的なものを集められたのだと思う。そういう意味で、この計測・分析・試験・評価というものも、典型的なもの、それから重要性の高いもの、そういうことを基準に選ばれていると思うが、特に先端的機器というものはどんどん開発されて新しいものが出てくるし、重要性というものは、例えばNMRなどは結局タンパク質の構造解析という観点から重要視されているので、まず重要な事柄が先にあって、それに基づいて集められている。しかし本当は、これから何に使えるかということがあって、もっと先端的機器として新しいものを取り入れていくようなことが必要ではないかと思う。

主査
 このあたりについて、小委員会が開催されていると思うが、どのような状況にあるか教えてほしい。

事務局の発言
 先端機器に関しては、この知的基盤整備委員会の下に小委員会がある。そして、本年度から開始された予算で、世界に先駆けて唯一、そして世界で最も優れた機器を開発することを通じて、我が国の研究開発を世界最前線のレベルに持っていくという考え方で、機器に関する開発提案あるいはその機器に関する要素技術に関して提案を受けて、それに対して研究費をお渡しして成果を上げていただくというプロジェクトをやっている。これまでは、初めてのプロジェクトなので、領域の選定や具体的な募集要領あるいは具体的な選定について議論してきた。小委員会においても、単なる公募だけではなくて、今後具体的な戦略性だとか、あるいは本日ここで議論していただいているような、先端機器においては向こう10年でどういった開発方針を持っていくかといった政策論も、12月3日に開催予定の次回会合で議論していただく予定である。そういった内容については、次回の知的基盤整備委員会の場でご報告申し上げたいと考えている。

委員等
 全体の予算もかなり厳しい中で更にというのは非常に難しいことはわかっているのだが、この議論はライフサイエンスにおいても非常にいい時期である。例えばゲノムプロジェクトがあって、もう一方ではコンビケムといって材料や化合物を提供するテクニックが非常に発達して、もう1つスクリーニングの技術が高速化されているという組み合わせで、これだけのことをやれば必ずいい薬が短期間に出てくると思ったら、どうもそうはいっていないということで、どうも約束が実現していないという意味では反省時期が今なのである。だから、知的基盤整備の中で何かをやらないとこれは競争に負けてくるということである。
 マウスのバンクも細胞バンクも遺伝子バンクも微生物もそうだが、皆出口を創薬に向けているということが、かなり大きな励みになっていたはずなので、今それがつかえているというならば、何らかのレベルで支援しないといけない。そうしないと、全体でこれだけやってきて何をしたのだ、ということになりかねない。これが世界的な情勢である。
 そのための手段は幾つかあるが、知的基盤ということだけに限って言うと、やはり化合物バンクというものを充実させる必要がある。日本は幸い、天然物化学というものを昔からやっていて、各企業がものすごくストックを持っている。それをどうするかという話は別だが、何らかの形で有機合成の方たちの協力を得て、新しい発想を盛り込んだバンクを作る。これをやると、いろいろな意味で今研究されている方が使っていく。いきなり薬を生むのではなく、まずプローブというものが必要で、そのため、多様な化合物バンクを何らかの格好で整備していくというのは今の時期では非常に大切なことだ。

委員等
 質問を兼ねて伺いたいのだが、確かにこの問題提起の中に、知的基盤と知的財産権の問題の関係についてもう少しクリアにすべきではないかという議論があったと思うが、これは新しいデータなどを無償提供することが本当に国としていいのかどうか、といった問題もあるし、また国際協力という点ではできるだけオープンでないと意味がないということもある。恐らく個々のアイテムでかなり違うのではないかという気がするので、すべての知的基盤を1つのルールで括らないほうがよいと思うが、いずれにせよ、もう少し、知的財産権との関係というのは整理しておく必要があるかと思うが、今、どのような検討がされているのか伺いたい。

主査
 今のことに関して、文部科学省あるいはオールジャパンとして取り上げる場が必要だと思っているのは、研究開発においても特許化されたものを使用すると、アメリカあたりではもう裁判沙汰になっているということがベースにある。必ずしも生産や利益に結びつかない基礎研究においても、その手段として特許化されたものを使用することによって得られた成果に対して大変問題になるという出来事がアメリカで出てきているので、恐らく日本でも避けて通ることができないと思う。この知的基盤整備を通じて、そのあたりの戦略を国としてしっかり持つべき時期になっていると思うが、どこかでやらなければいけないことだと思っていた。

事務局の発言
 国の知的財産に関わる話だが、この場所以外には、もちろん総合科学技術会議もあるし、あるいは内閣に知的財産戦略本部というものがある。特許権の話はかなり注目を浴びるようになってきたが、そのほかの知的財産権として、有体物とかいろいろな問題が認識されるようになってきたので、我々も具体的な問題をより焦点を当てた形でいろいろな場で議論していただくことが重要かと思っている。現在のところは、特許権がそうであったように、ほかの知的財産権も各研究者それぞれがばらばらにやっていたという状況があったが、それを組織として取り組んでいくという流れがやっとできたところである。それをさらに具体的に組織としてどのように、というところからまずはじめ、それをさらに国全体としてどうするかという議論をしていくことが極めて重要かと思っている。

委員等
 これはリソースごとに全然様相が違う。法人化後、すべてのマテリアルが基本的に機関帰属ということになり、MTAを交わすときには非常にややこしいことが起こっている。国際的には基礎研究におけるルールというものがあり、論文を発表したらこれは自由に基礎研究のものであれば交換するということがあったが、それすら今では、書類を交わさないといけないとか、国内でも特殊法人の場合は分厚い書類が必要だし、共同研究契約も結ばないといけないとか、基礎科学にとっては非常に困った事態になっている。こういう状況で知的基盤を整備しようと思うと、当然寄託をしていただかなければならないが、そのときには当然、契約は必要である。それに関しても、これまでの学問とは違う違和感を持っているけれども、知財のことを言われたら反論もできないし、だんだんとややこしい決まりになっている。あとはケースバイケースで、例えば私の研究所などでは、3段階に分けて、国際的に将来化けるかもしれないけれども今はみんなで共有したほうがよいというものは、一切、送りましたというレターだけでやり取りをする。一方、マウスなどはどう化けるかわからないので、きちんとしたMTAを交わしてやる。そういう何段階かに分けて、面倒なことをしている。だから申し上げたいことは、いろいろな議論はあるだろうけれど、共有すべきであるという本当の意味の知的基盤という部分もあるので、これは日本の国の力でもあるので、まずは集めて、きちんと整備して、我が国の研究者あるいは世界の研究者が使えるのだというものを作ること自体が1つの知的基盤の目標であるから、そういう部分も1つあり、リソースによっては当然知財できちんと守って国益を確保する、という柔軟な議論をしていただきたい。原理原則を突き詰めていくと、すべてのものが知財にかかってくるので、これだけは避けていただきたい。そうしないと本当に学問が死んでしまう。

委員等
 知財の話が出たが、このような知的基盤と、いわゆる先端的研究開発と、それからもう1つ知的財産と、この3つはどのような関係にあるのかということを、第3期では述べたいと考えている。知財と知的基盤との関係は、先ほども出たように、かなり多様な関係があると思う。知財の係争において、この知的基盤をちゃんと使ったものが勝つという場面は必ず今後出てくると思う。それから、知財を知的基盤の中に取り込んで、知財の成果を標準化に取り込んでいくとか、そういう関係もあったり、非常に多様な絡み方をしていると思うので、そこを解き明かして技術開発全体の知的基盤のネットワークがあるのだ、お互いに助け合いながらあるいは影響しあいながらいるのだ、ということを述べると、多少理解を深めていただけるかという気がする。

委員等
 結局はお金のことになると思うので、先ほどの発言にあったように、運営費交付金の一部を知的支援にあてるということは、ある意味では魅力的な気もする。例えば京都議定書のように、そこの研究機関がやらなかったらお金を返すとか、そういうことも含めて、何かうまく知的基盤立国、知財立国ということで進めるのであればあり得るかと思う。かつて大学は特別会計ということで管理しており、それぞれの額は少ないし変化しないということが最大の問題であったが、逆に一定の額が確保されているのでリソースを管理するということもやっていた。それは結構やりやすくて、額は少ないから非常に問題ではあるが、技官の人などがずっと長年にわたって従事できるというシステムもあった。そのように一部を知的基盤に回すということをしないと、結局プロジェクトで立ち上げて取り合いになった場合に弱いし、言い方もだんだんと研究にシフトしたような言い方になる。また、プロジェクトの場合は、出口を非常に意識したことを言わないと通らないので、そうではない長期的なもの、しかも皆が合意できるような範囲で作っていくということが難しい。

委員等
 実例で言うと、経済産業省では知的基盤整備は、研究を主体とした産業技術総合研究所と、まさに知的基盤整備を目的とした製品評価技術基盤機構という2つの独立行政法人で行っている。計量標準については、産業技術総合研究所の中の主たる業務として位置付けられていて、その中心的予算は交付金において既に確保されている。従って、交付金になる前よりも交付金になった後のほうが、計量標準の整備は圧倒的に安定的に進んでいる。これは確実である。それまでは、すべてをプロジェクトに依存していたことから非常に不安定な形でしか進んでいなかった。
 独立行政法人についていろいろな問題点はあるが、研究型独立行政法人というものは他の独立行政法人と違う取扱をすべし、ということが総合科学技術会議の中でも議論され始めている。研究型独立行政法人について言えば、資金ソースは交付金以外にもプロジェクトに沿って例えば科学技術振興調整費とかいろいろな機会がある。資金ソースがプロジェクト単位と交付金ベースと2つあるとすれば、その交付金ベースのある一定部分については、自らの成果をマネジメントして普及していくところに向けるべき、といった1つのガイドラインは提言してよいのではないかと思う。
 但しその際には、まさに議論があったように、それがどのように我が国に役に立っているのか、あるいは役に立っていくのかということの戦略面と、どのように評価していくのかということの2面から主張していかないと、単にお金をそこに割り当てるというだけではいけない。それが戦略的に我が国の国益にどうつながり、それをどういう形で評価されるのかというところをセットで議論していけば、可能性はあるのではないかと思っている。

主査
 知的基盤整備の中で、大学がかなりの役割を果たしている分野があると思うが、それを国立大学法人に求めても、非常に馴染まないというか、別枠のお金が必要ということになるだろうし、その中でガイドラインを出しても難しいだろう。また、私立大学はとてもそんな余裕がないはずなので、どのように進めていくべきかという問題もあるかと思う。

委員等
 交付金の一部が使われるとしても、各データベースを持っている部門に薄くばらまいても意味がないと思う。だから、センター・オブ・データベースといった役割を特定の機関に指定して、そこが材料とかデータベースについての責任と権限を持って運営していくということにしないと、到底全体的なネットワークを作ってきちんと運営していくことは無理ではないかと思う。だからCOEのようなものも1つの考え方かと思う。

主査
 物質・材料研究機構では、少しそれを意識したような役割は果たしているように思われるが、それも機構に対して期待するということであり、外から強く、必ずここまで責任を持ってください、という状態にまではなっていないと思う。何となく過去の歴史を踏まえてここまでは責任を持つという流れで、ある程度の分担はしていただいていると思うが、そのポリシーはまだ明確にされていないと思う。

委員等
 資料6をざっと読んだが、資金的側面のところにあるデータは基本的に無償でよいかということだが、考え方としては、やはりフェーズによって、分野によって違うものだと思う。国が主導して種を育成していくときにはやはり無償ということであるが、知的基盤も社会に非常に根を張って、末端ではビジネスになるということもあり得る。そうすると自然にこれは無償ではなくなるわけで、末端では有償になる。そういう発展の段階があるので、それをちょっと意識してお書きいただいたらいかがかと思う。無償である時期は必ず必要だと思うので、そこはちゃんと書いたほうがよい。
 それから、人的側面の2番目に書かれている、知的基盤整備に貢献している研究者・技術者の評価システムは非常に重要で、今まで研究者がこういう道に入ってなかなか評価されない状況があるので、しかるべく評価され、しかるべく尊敬されるように、どのように現実のものにしていくかということが、なかなか難しいが、欠かせない項目だと思う。
 また、先ほどCOE化という話が出ていたが、コーディネーションとか全体の方針あるいは戦略を作る意味でのCOEは絶対必要だと思うのだが、先ほど寄託の話も出たように、データベースでもやはり広く研究者の中からデータをすくい上げて評価し、いいものはデータベースに取り入れる、という研究者全体を巻き込んだ運動も必要。COEへの集中化と同時に、裾野の拡大ということにも言及したい。

委員等
 平成7年当時の人材問題は、元の科学技術会議で検討したときに、女性研究者と高齢研究者と外国人研究者、これをもっと活用すべきだという議論をしていたのだが、実態としてはあまりそういう方向には向いていないと思う。特にメンテナンスなどをするときに、もう少し外国人の人を入れて、例えば5年契約などでトレーニングを兼ねてやっていただいたら非常にいい面もあるのではないかと、特に計量標準のことを念頭に置いて考えている。
 もう1つは、標準化の問題をどこかで言及していただきたい。特に、この4つのうちの計測・分析・試験・評価方法及びそれらに係る先端的機器というのは、必ず知的財産権と標準化と、この2つセットが裏表で、標準化でもっと世界的に広めていくか、あるいは知的財産権を主張していくか、多分このどちらか、あるいは場合によっては両方、そういう戦略が必要だと思うので、ぜひ言及していただきたい。

委員等
 センターオブ知的基盤というのはすごくよいと思うし、今バイオリソースなどではそういう意味で集中化ということも考えているのだが、リソースを1箇所に集めるということは不可能なのである。いろいろなものがあり、その専門家が当然いるので、その人ごとに集めなければならないし、やはり大学等に分散しているので、これをうまくコーディネートすることが最も必要である。大学共同利用機関法人というのは、そこで本当の役割を発揮しないといけないと思っているが、そういう分散型でコーディネーションという形をとり、その上で集めてセンター化できるものであれば集中化したほうが効率的であるという二段構えで大体は考えられている。そういう意味で、特に文科省の範囲内では、大学の貢献というものはとても大きいので、そこにわずかでもいいからお金を流してコーディネーションして、そこの存在価値も見えるという二段構えでお願いしたい。

事務局の発言
 人材については、第2期基本計画においても、事前の会議で何度も議論があり、そういった人たちの役割を各機関においてしっかり評価するようにといったことが実際の基本計画にも書かれているのだが、今その状況を調査中で、必ずしも多くの機関では人材の評価項目の中にちゃんと入っていない。我々としては少し限界を感じており、やはり基本計画で評価すべきだと書かれたものについては、基本的には機関でそれを受けてしかるべく対応すべきと考えているのだが、なかなか実行されていない。一見地味だけれども重要だと皆が言っているにもかかわらず、なぜ、ちゃんと各組織で評価されないのか、そのヒントなりを知りたいと思っているので、何かご意見をいただければと思う。

主査
 特に大学に限定すると、研究型の大学では、助教授から教授になるときに一番要求されるのは研究論文の数である。最近はインパクトファクターというものを非常に重要視しているので、そういう点で、データベースに関するものはほとんどインパクトファクターが高くないから、その辺の根本的なことを変えない限り難しいと思うし、その影響があらゆるところにあると思う。それぞれの研究機関の考え方が違うので一概に言えないが、基本的に大事だと言いながらこのままでは、そういう精神構造は5年経っても10年経っても変わらないのではないかと思う。

委員等
 企業においても似たような仕事もあるが、やはり、人には向き・不向きというものがある。どんどん研究を進め中間のデータ整理、登録はしないで目標だけを追いかける人と、割合中間の始末をきちんとしながら進めるもいる。大学とか研究機関ではどちらかというと非常に研究に優れた人を集めている。そういう人全員にデータベースの登録・管理をきちんとしなさいというのは到底無理な話であり、データベース管理に向いた人を雇用して、その人にある程度の権限を与えていかないと非常に難しいと思う。仮にデータの管理を評価項目に入れても、企業であればせいぜい全体の5%とかそれ以下で、あまり重視されることはなく、必要なら誰かがやればいいではないか、となってしまうケースが多い。データベースの構築には専門的な知識が必要であるから、然るべきシステムエンジニアの設計に基づいて、登録の手続きもきちんとしたデータが登録されるようにし、さらに点在するデータベースを統合化しマネジメントするソフトウェアをきちんと整備しないと、作るだけで、非常に使いにくい、あるいは更新しにくいものができる恐れがあると思う。交付金の一部を統合管理する部署に割り当てて、それに向いた人を雇用し、一定の権限などを与えてどう運営させるかということを検討しない限り、使いやすい情報システムを整備することは難しいと思う。

委員等
 生物遺伝資源の場合、どこかにあるものを集めるということではなく、研究の最前線から出てきているものが中心になる。研究するためには材料が必要なのでそれを共有しよう、というところに生物遺伝資源というものがある。だから、これを運営している人は、実は最も優れた人、最も先端を走っている人、その分野で最も人望があってあの人なら、という人、がやっているのが本当の姿だと思う。データベースに関しても、統合化ということが当然必要であり、さまざまなデータをクロスで見るということは、情報学ではチャレンジであり、実はまったく新しいことである。ネットワークにしろ、今あるものを料理する、あるいは全く新しいものを作るということがあれば、実はこういう知的基盤は最前線に来るはずのものだと思う。

主査
 本日欠席の委員の中にも、今のような、非常に積極的な意見を持っておられる方がいらっしゃると思うので、ぜひ一度意見をまとめる前に本日欠席の委員にもヒアリングに行ってほしい。それを整理した上で、また12月の委員会で議論することにしたい。

以上

お問合せ先

研究振興局研究環境・産業連携課

(研究振興局研究環境・産業連携課)