知的基盤整備委員会(第7回) 議事録

1.日時

平成16年6月30日(水曜日) 15時~17時

2.場所

丸ビル コンファレンススクウェア Room2

3.出席者

委員

 澤岡、井戸、岩田、岩渕、岡、河盛、小原、齋藤(宗)、二瓶各委員

文部科学省

 丸山研究振興局審議官、田中研究環境・産業連携課長、鎌田研究環境・産業連携課課長補佐、青木研究環境・産業連携課専門官

オブザーバー

 徳増経済産業省産業技術環境局知的基盤課長
有識者
 五條堀国立遺伝学研究所教授
 安達国立情報学研究所教授
 芦野東洋大学教授

4.議事録

(◎:主査 ○:委員等 △:事務局の発言)

(1)利用者ニーズを踏まえた知的基盤(データベース)の整備について

「DDBJ:日本DNAデータバンク-利用者ニーズを生かしたデータベースを目指して-」

 国立遺伝学研究所 生命情報DDBJ研究センター長 五條堀孝氏

委員
 DDBJ、DNA Data Bank of Japanは、DNAの塩基配列のデータベースをヨーロッパのEMBLとアメリカのGen Bankと3極で共同して構築し、そして世界の研究者に発信している。
 DNAデータは、DDBJ、EMBL、Gen Bankのどこかに登録しなければ学術雑誌には受理されないというシステムになっているので、研究者はすぐに登録し、研究者からデータが入ってくると、3極はそれを処理し実質的に即日データを更新する。同時に、特許等においては、特にアメリカでは先発明主義をとっているので、ここにいつ登録されたかということが特にアメリカでは重要になっている。
 現在データベースには総数で約400億塩基、生物種にすると1万生物種を超える情報が入っており、かつ、年率1.8倍から2.5倍という非常な勢いで増えており、今後さらに増加するものと思われる。エントリー数は、日本が現在約500万エントリー、ヨーロッパが約350万エントリー、アメリカは1桁多い約2500万エントリーであり、国別の塩基数は、日本が約35億塩基でヨーロッパに比べてやや少なく、アメリカと比べて非常に少ない。
 DNAデータベースは、塩基データだけを入れるわけではなく、そこにはどういう生物のどのような組織からとられたのか、それはどういう機能を持っているのか、あるいはそれはどのような遺伝子構造を持っているのかということも情報として分かる限り入れる。また、最近ではCIBEXという国際的な取り決めで決めた遺伝子の発現のデータベースもDDBJにはある。
 2001年にヒトゲノムの概略配列が出たが、遺伝研のDDBJはこれにも貢献した。遺伝研のDDBJの存在意義を考えると、人類共通の知的資産としてDNA情報を世界で共有している点が挙げられる。
 今後、DNA情報が特定の国家や機関に独占化されたり、高額な有料化が行われたりすることを避ける必要があり、そのためには、我が国はできるだけ国際応分の貢献をする必要がある。
 例えばGen BankやEMBLに情報を入れると、ネイチャー、サイエンス等の有名な雑誌にあたかも出版したようで、DDBJに情報を入れると国内のインパクトの小さい雑誌に出版したように誤解している方も時々あるが、実際はGen Bankの中にはDDBJのデータがきちんと入っているので、我が国の研究者はできればGen Bankに直接情報を入れることなく、DDBJを通して入れたほうが日本の貢献がわかりやすくなって良い面がある。
 遺伝研は大学共同利用機関という使命を負っており、本質的にサービス機能があり、それも日本語で対応するので、日本の研究者の場合だときめの細かなサービスができる。
 DDBJと今現在走っているミレニアムプロジェクトの一環として、生物情報解析研究センターと共同で全長cDNAのアノテーション、つまり付加的な情報をつけて統合データベースを構築した。その中で、どのように利用者ニーズを把握して反映しているかというと、データベースのコンテンツの充実こそ最大のサービスであるという考えから、そのデータベースが有用であること、正確で信頼性があること、できるだけ先進的であること、利便性があることなどに心がけている。その一つの反映として情報局という利用者対応の専門のグループを作って、電話やメールによる利用者サービスを行っている。
 またDDBJingという名前で、東京周辺だけではなく、北海道や九州、四国などに年に4回ぐらい出向いて講習会を開催したり、寺子屋という形で講習会を行い生命情報科学の普及に努めたり、「ゲノムひろば」や「バイオJAPAN」といったイベントにDDBJの展示や資料配布を行ったりしている。
 約2年前には調査会社を活用してDDBJの利用者へのアンケートを実施した。また、毎週1回の教官会議と実務担当者会議、月1回のDDBJ全体会議、年4回のSEの方々も含めた会議を行ったりするとともに、年1回のDNAデータ利用委員会で利用状況を報告し助言を受ける機会を設けたり、国際実務者会議や国際諮問委員会で国際的な利用者ニーズ、あるいは運営の仕方を監督してもらったりして、利用者ニーズの把握をきめ細やかに行っている。
 苦心した点としては、法人化により年間事業費が毎年1.4億円しかなくそれも年々減少しており、運営費用が決定的に不足している点、専門教官やアノテータの慢性的な不足、システムエンジニアの人件費の高さ、コンピュータのリース期間が5年から6年に延長されたりしたため、その間機械の変更ができない点等が挙げられる。

「データベースの品質と使いやすさ」

 国立情報学研究所 教授 安達淳氏

委員
 10年ほど前にアメリカのあるオンラインユーザーグループが、データベースの品質を決める10項目を挙げたが、それは、1.データ項目等の一貫性、2.スコープ・内容の範囲(網羅性)、3.適時性、4.エラーレート・正確性、5.利用の容易さ・アクセシビリティ、6.統合性・ハーモナイゼーション、7.出力(データ圧縮など)、8.ドキュメンテーション、9.カスタマーサポート、トレーニング、10.費用対効果、である。別のグループがこの報告をベースにアンケート調査をして、ユーザーとして一番何が重要か点数をつけたところ、1番高いのは網羅性であった。
 システムデザインの観点から見ると、多少機能が悪くてもとにかく早いレスポンスタイムを出すということが設計するときの一つのポイントである。遅いシステムは利用者からそっぽを向かれるという苦い経験を何度もしてきた。
 この10年間で一番大きいインパクトは、WWWの普及によるコンテンツの多様化であり、このために、品質を維持するということが、なかなか難しくなってきている。
 目録データベースは比較的伝統的なイメージのデータベースで、専門家がデータベースを作ってきちんと維持し、中央でコーディネートしている人たちでデータ品質維持のための業務をし、データ入力者の教育、訓練をきちんとし、データベース利用者のフィードバックを常に受け入れるというような形で丁寧にデータベースを維持している例であり、特徴としては、圧倒的なデータ量と網羅性がある。
 学術コンテンツポータルは、学術的なデータベースを幾つか集めてきて、性格の異なるものに対してデータマイニング技術を適用して、同定を行ったり類似性を判定したり分類を行ったりしてデータベースを維持していくというのが一つの特徴であり、今はもうデジタルコンテンツができてくるスピードの方が早いので、それをいかに統合していくかという技術が重要になってくる。
 科学技術文献、新聞、特許、Webページ等の幾つかのジャンルのコンテンツを用意して、さまざまな技術の目標を設定してコンペティティブに成果を競うという共同研究があり、日本語検索、言語横断、つまり複数の言語の検索、特許の検索、Webの検索、テキスト要約等の課題を設定して、国内外の多くのチームに対して共通の課題を与えて、そのシステムの性能を問うということを、1年半を期間として繰り返してやっている。
 研究開発とシステム技術と人が絡むシステムをつくるということによって、データベースの品質を維持し、利用者からのニーズに合うような形に持っていこうと努力している。

「国内外データベースの現状と今後の方向性」

  東洋大学 国際地域学部 教授 芦野俊宏氏

委員
 データベースの現状ということで、どこに何件あるかなどということは数えることも不可能というような状態であり、どんどんふえる一方である。また、どこまで含めるかも重要で、材料メーカーが自分の会社の材料のデータシートをどんどんインターネットで公開するというようなこともあるので、そういうものもデータベースとしてみなすと、非常にたくさんのデータベースがどんどん出てきており、しかも大体が最近ではインターネットで利用可能な状態である。
 最近一部、出口がはっきりしているものに関しては、徐々に情報サービスというような形、あるいはそれに関連したコンサルティングサービスというような形で、ビジネスの方向に展開をしつつある現状である。
 データベースの作成に当たり特に重要なのは適切な目標設定であり、これがあいまいだと、プロジェクトでデータベースがたくさんできたが、最終的に全部のデータベースのリストをバインダーで綴じるだけで終わって、全体として一つのつながったデータベースにならない場合がある。また、コアになるデータベースも重要で、コアになるデータベースがよくできていると、全体として見通しのいい利用ができる。
 これからは、単一のデータベースのフロントエンドから、そのバックエンドにある複数のデータベースに動的に検索しに行って、結果を取りまとめて返してくれるというような方向に向かっていくだろう。また、データベースだけあると点が並ぶだけだが、これからどうなりますかとか、間にどういうことがあり得ますかというような予測をしていくとなると、シミュレーション、理論式とか知識といったものが必要になるが、そういったものとデータベースを連携させていく方向に向かうのではないか。
 仮想天文台という考え方が最近の天文学界にあり、望遠鏡からのデジタルデータをどんどんデータベースにため込んでいって、海外のバーチャルオブザベートリとの間でデータを国際的に取りまとめる組織も今はできており、世界に点在する天文台の全てのデータをどこかにアクセスしに行けば見ることができる。
 生物多様性データベースというものがあり、生物のサンプル、つまりラベルに、学名や分類などが書いてあるものをデータベース化して、それを核として、地理状況、その地域の気候変動の情報、あるいはその生物の遺伝子の情報等のデータベースをリンクしていくことで、例えばある種を保護するためにはどういう区域に保護区域を設定すればよいのかというようなことを予測することができる。
 技術的には、高速インターネットの普及、データのインターオペラビリティ、つまり、異なったデータベースにあるデータをどういうふうに比較できるか、あるいはつなげることができるか、データの表現形式、データ構造などを規定するメタデータ記述の標準化、データ検索言語の標準化ができてきた。
 データベース整備における問題点としては、小規模・短期のプロジェクトによるデータベースが多く、データ構造に関する十分な検討や持続的な運用・更新が困難である点、欧米では公的資金を用いて構築されたデータベースは無償公開が原則だが、日本には明確な基準がなく、金を取って売らなければいけないというような議論が出てきたり、実際に表に出すときにデータ提供の形式が限定されたりする場合が見られる点、研究者の評価は研究に対する論文がメインになるので、データベース作成とか、アーカイブをするというようなことに対する評価が低い点が挙げられる。

(3名の発表の後、前回の議論について事務局から説明があり、その後自由討論。)

委員
 アノテータが慢性的に不足していると、今後ゲノム等のデータ分析がふえてきても、その機能的な部分が追いつかないのではないかと思われるが、その辺は今後どういうふうにして解決しようとしているのか、お考えがあれば聞かせていただきたい。

委員
 基本的に、私どもは新しい人を入れて、最低3カ月の教育を施す。そして、その後大体6カ月から1年のインターンを経て、大体2年目ぐらいから実際に稼働するので、やはり何らかの専門的な組織が基本的には要るように思う。恐らく、学問的にはもう幾つかの大学にバイオマティックスの大学院等もつくられてきているから、そういう方々がアノテータになっていただける。大学等ではアノテータという職種が、技官やテクニシャンでもないし、教官でもない。そういった方々の位置づけ、その評価の問題、それから、こういった方々をどういう形で雇用していくのかという対応の問題があるが、基本的には何か専門的な組織が要るというふうに考えている。

委員
 利用者ニーズの変化というふうに書いてあるが、一体どういった変化が顕著に出ているかを教えていただきたい。

委員
 基本的には、相同性検索法といって、利用者が自分で出した塩基配列、あるいはその他から入手した塩基配列と、データベースの中で似ているものがあるのかどうか、つまり、既にやられているのかどうかとか、似ていることによって、その次の機能的な解析をどうしたらいいのかということを調べる方法がよく使われた。一方で、ブリットといって幾つかの試験研究をしながらコンピュータ資源を確保するということも考えているが、相同性検索だけではなく、例えば単発の立体構造を予測してみたいとか、あるいはRNAという、DNAとはまた違う分子の2次構造をどうつくるのかとか、さらに医学的には、それとの文献情報はどういうふうに関連しているのかといったニーズが非常にふえてきて、ある意味では多様化してきたというふうに思われる。

委員
 DNAデータベースは費用対効率から見て日本にとって非常に割のいい投資ということなので、ぜひ問題点を解決して、前向きに国際貢献をすべきではないかと思う。スコープを道具に使うという考えになるが、非常に膨大な道具を持っているわけだから、例えば単発・単独インターアクションとか、生体ジェネデックスみたいな化合物との関係等が製薬企業から見れば一番メインの関心事だと思うので、そういうことに取り組んでいく考え方は、国際的にはもう既にある方向が示されているのか。

委員
 一つは、遺伝子間の相互作用、あるいは単発と単独での相互作用、いわゆるネットワーク等に対する情報をどうするかということだが、米国では「Nコード」というプロジェクトが、昨年から2年のパイロット研究ということで出発しており、ここにはアメリカのNCBI、EBI等も一部参加している。日本の場合は、理化学研究所を中心に今年からまさにゲノムネットワークが進められようとしており、データ管理については遺伝研のDDBJが担当するということで準備に入っている。これは国際協調というよりは、むしろ国際競争という状況になろうと思う。今一部が文科省より公募されているが、ゲノムネットワークについては、民間の方々も入ってもらうという格好になるかと思う。
 もう一つは、3極では、一昨年からTPAというものを受けつけるということになっている。TPAというのは、サード・パーティ・アノテーションといい、ある実験機関が、他のデータも含めて、そこにアノテーションを施したもの全体をデータバンクの方に登録してもらうことで、この登録の仕方も3極で決まっており、遺伝研の方はまだ1件ぐらいしか出ていないと思うが、アメリカの方ではかなりそれが出てきている。
 そのアノテーションの中に、単発間の相互作用、あるいは遺伝子間の相互作用等の情報がかなり入ってきており、これらについては3極で即日交換するので、直ちに見られる状況になる。

主査
 ごく最近新聞に取り上げられていた本を探すシステムで、適当なキーワードを入れて絞り込んでいくと探している本に行き当たるシステムを、情報研究所の方で開発されたそうだが、その仕事と先生の仕事は、全く別々のチームが行っているのか。

委員
 この検索技術は、最後のテストコレクションのような検索性能向上の研究成果を実用化していったものだ。私どもには、研究者の組織と、データベースやネットワークのシステムを提供していく事業部門が一緒に仕事をする場があり、そこで研究成果の中で使えるものをうまく移転していくということを常時行っている。ものによっては時間がかかるものもあるし、途中で中断するものもあるのだが、質問のような例は、研究成果がうまく使われるようになったという例のご指摘である。

主査
 質問の意味は、一般の方がちょっとした検索をしたいとか、本を探したいというときに、気楽にアクセスして使う。実はそれは、学術的な検索システムの中のいろいろな成果を利用したほんの一部であるということがいろいろな形で広報されると、納税者にとって、税金を納める説明が十分つく仕事として、広報にも十分使えるという気がしたのでお伺いした。

委員
 そのような形でうまく技術が実用化に持っていけるような努力をしている。役立つということをアピールしていきたいと思っている。

委員
 DNAデータバンクの場合も、昔はそれぞれが論文に書いたものを、実は五條堀先生のところで一生懸命コピーして入力をするということをしていたのが、そのうちに、発表するときには必ず3極どこかで登録していないといけないという申し合わせができて、大量のものが逆に出てきたわけだが、さまざまなデータが統一した基準によって分類されるようなシステムができれば、データベースはもっとうまくいくと思うが、今でも図書館の方は入力しているというのは非常に大変な作業だから、もうちょっと何とかなるのかと思ったが、そういう努力はないのか。

委員
 アメリカでは、組織化が進んでおり、アメリカで出る本の表紙の裏側を見ると、CIP、カタログ・イン・プロセスというものが記述されており、著者名で、分野分類など、図書目録に相当するものが印刷されている。
 この情報がライブラリ・オブ・コングレスのデータベースに全部入っているので、洋書の場合、アメリカで出る本については、そのデータベースを用いて買った本が同じかどうか見ることにより、図書館に簡単に入れることができる。しかし、和書に関してはまだそうはなっていない。
 洋書については参考用のデータベースを見ることで早くなっているが、最近の図書館の努力は、中国、韓国、アラビア語等の難しい領域で頑張ろうという方向で、多言語のデータベースに広がっている。雑誌に関しては、電子ジャーナルに移行していけば大部分は機械化されるわけだが、全部の出版社への扱いを一つのやり方で行うという形になっているとはいえない。物理の研究者の書く引用の仕方と、バイオメディカルの先生方のやり方と、エンジニアのやり方は全然違う。物理の先生方は、ほとんどタイトル等を書かないし、非常に短い書き方をする。そういうことをうまくやっていくということは生やさしいことではない。そこで、データマイニング技術といったことを援用せざるを得ないというのが現状である。

委員
 原子力においても膨大な科学技術の体系があって、そのエッセンスをどういうふうに次の世代に継承し、活用していくかというところで、国として、今持っている知的基盤を再度リファインし、次に伝達していくということを試す場と、それから実際にそれを実行する場というものを、どういうふうに設定したらいいのかということに関して、NIIではどんなふうに考えているのか。それと、例えば10年後、20年後にどういう知的基盤があるべきで、それに対してNIIでどういう戦略を考えているのかを教えていただきたい。

委員
 我が方でつくってきたデータベースは、まず最初は図書館ネットワークを作ることから始め、目録をつくってきたり、書誌的なデータベース、論文情報等をデータベース上で学会と連携してやってきたり、研究の結果できてくるデータベースをサポートするということへと展開してきたが、どれも当初の状況と比べて急激に状況が変わってきた中で、システムのデザイン自体を変えなければいけないという状況になっている。図書目録のシステムについては、図書というもの以外の新しいコンテンツに持っていかなければならない。今大学では、インスティテューショナル・レポジトリということで、大学でできたいろいろな学術的な成果、それは、主として論文情報になるが、それ以外にいろいろなデータベースとか情報資源をどのように外に見えるようにしていくかということを積極的に進めようという動きがある。例えばMITではDスペースということを行っているし、アメリカの幾つかの大学でそういう活動がある。我が国で、それができるかどうかはこれから見なければいけないが、研究者のいるところでコンテンツをつくって外に出していくということを横断するようなメカニズムを提供していくことが、今考えている一つのものである。大学が自らの持つリソースをどう外に出していくかということは研究機関等のこれからの課題になると思う。
 二つ目は、研究者が自分の研究と密着したところでデータベースをつくっていくことを支援することは非常に難しいということで、それを大きく育てていくことで成功した例は余りない。私どもとしては、個人の研究者の努力で始まってきたデータベースを、組織的に支えるという方向に持っていくことが大事で、組織がサポートするようになったものをもっと育てていく、あるいはそういうところと連携してやっていくというような形にするように進めてきた。そういう中で、残っているデータベースもあれば途中で維持が難しくなったデータベースもある。
 昔は、リソースが限られていたので、私どものようなところと連携してやっていく形が一つの形であったが、今は、大学や研究所の組織とうまく協調してやっていくという方向の方が柔軟性が高いのではないかと見ている。大学にあった情報処理センター等も新しい方向を探すことが必要とされているので、そういう動きとうまく連携していくこと。それから、大学の機関レポジトリといったような動きと連携していくこと等で、新しく学術的なコンテンツを継続的に提供していくというネットワークをつくろうというのが、今私の考えている戦略であり、具体的には、大学と連携してパイロットプロジェクトを進めている。

主査
 ワールドサミットの会議でいろいろ議論しているが、日本はうまくやっているのではないかということだが、うまくやればやるほど、国際的にはずるいのではないかという感じはしないかと思い、国際会議に出て、胸張ってやっていけるかということをお聞きしたい。

委員
 ワールドサミットは昨年12月にジュネーブで第1回があって、その後、南北格差も含めてキャパシティビルディングに関係したある種の情報格差を世界全体のレベルで解消しながら、本当の意味でのグローバルな統一性を確立していこうということで、各国の首相とか大統領とか大臣などが順番に同じようなことを発言していって、結局、これからは情報社会であるというようなことを議論していた。そういう中で、次に開発途上国に対してどうするかということで、来年チュニスで開かれる会議での話題というのは、セルフアーカイブみたいに、各研究者は自分の分野はもう簡単にデータベース化ができつくっていけるので、そういう動きがいろいろ出てきているし、研究所の活動としては、全科学技術分野をカバーしているようなところで、政府からの本格的なサポートのもとに、科学技術情報をきちっと記入化するということが進められているわけだが、それと並行して、政府が構築したデータをどこまでオープンにするかということと、そこにおける知的財産権をどこまで主張するかということで、これは非常に激しい戦いになるのだろうと思う。
 先週、米中が中心になって、アーカイブに対するシンポジウムが大臣も出席して行われたが、結局、日本で今進められている産学連携の中で、しがらみがどんどんふえていったときに、学問そのものの健全な発展にとってどういうことが障害になり、どういった情報については公共財としてキープすべきであり、どういったものについてはそれぞれのビジネスのインセンティブのもとに仕事をしていくかというような、いろいろな意図をうまく見据えながら、国力に合ったしっかりした方向性を出していかなければいけない時期だと思うので、単に、一つのデータベースを拡充するとかいう話ではなくて、もう少し日本全体の健全なデータベースの発展にとってのいいゲームができるような枠組みづくりというものを、こういう場できちっとしなければいけないと考えた。
 そういう議論があって初めて、国際的ないろいろな意見の戦わされる場で、日本の主張の仕方などが出てくると思うので、そういった意味での、日本としての戦略をいつも議論しているような、実施機関の活動に関する助言組織、むしろブレーンに相当するような組織をつくって情報戦略を立てていかないと、日本だけが何となく国の中で取引をやるという感じになってしまう恐れがあると思う。
 今みんなが大事だと思っていることを一生懸命やるのではなく、むしろ10年後、20年後、一体どうなるのかといういろいろなシナリオを考えた上で、そこで打つべき手を、だれが責任を持ってやるかということを考える大事な時期なのだろうと感じている。

(自由討論の後、先端的研究施設・設備活用の促進について事務局より説明。)

主査
 文部科学省のもとにある大型施設の今後のあり方について議論をする場は、ここが中心になると考えていいのか。

事務局等
 私どもとしては、そういうふうに思っている。

主査
 大型施設は非常に多岐にわたっており、それぞれ歴史があり委員会を持っていろいろ検討し、場合によっては評価部会が大型プロジェクトについて評価している。さらに、大学等の中古機器の市場も重要な問題で、こういうことをこの委員会で、時間的に幅広く議論できるのだろうかと思うが、どの辺までやっていくのか。

事務局等
 ここで議論してもらうのは、知的基盤という観点で見たときに、基本的な考え方や統一的なものが要るのではないかと思っているので、そこについて考えをまとめてほしいと思っている。

主査
 共用施設、費用の分担のあり方とか、そういう基本的な考え方を議論すればいいということか。

委員
 資料を見ると、いわゆる大学共同利用機関の超大型施設は一つも入っていない。大学共同機関の中で随分議論があり、特に使用料金を取るかどうかということに関しては、大変議論をしている。ここには大学共同利用機関が全く抜けているような感じがするが、いわゆる科技庁の分野のところを議論するということか。

事務局等
 お金を取る取らないといっても、基本的にこれらは全部、もとは、国費から出ている。ただ、料金の有料か無料かというのが本質ではなくて、利用者にどう使ってもらうのが一番その施設を有効利用できるかという観点から、どういうふうに費用を取ることが一番利用効率を上げる上でいいかというふうに問題をご認識いただきたい。
 もう一つは、物理の世界と、ゲノムなどの非常に特許に直結するような分野の、ものの考え方が全く同じでいいのかという問題があり、その辺も、基本的な考え方をご議論してほしいと思っている。

委員
 我が国で研究をしている中規模の共用施設があるが、非常に重要な基盤の情報である。これは大型施設と比べると規模が小さい中規模であり、いろいろな技術革新が必要だが、やらないわけにはいかない。
 もう一つは、人のノウハウが非常に重要で、機械をつなげればいいというものではない。そういうものをきちんと維持しているところが幾つかあり、そういうところを使わない手はないと思うので、その点も議論しておかないといけないと思う。

事務局等
 学術研究に絡んだ部分と、そうでない部分の話だが、問題意識を厳密に区別する必要はないと思っているが、学術研究はボトムアップであるのに対し、ここではどちらかというと、国が政策的につくってきた地球シミュレータやSPring-8などのトップダウンでつくられた潜在的に利用者が大勢いるものをどういうふうに有効活用していくかという点に、焦点を絞ってご議論をいただきたいと思う。中型のものはどうするのだということは、大型と中型の間に厳密に線があるわけでもないので、問題をハイライトするために、日本に1個しかなく世界でナンバーワンのもので、潜在的に利用者が多いものをどういうふうに利用したら一番いいかということを考えれば、おのずとその周辺の問題も見えてくるのではないかと事務局では考えている。

お問合せ先

研究振興局研究環境・産業連携課

(研究振興局研究環境・産業連携課)