知的基盤整備委員会(第6回) 議事録

1.日時

平成16年4月27日(火曜日) 17時~19時

2.場所

文部科学省ビル 10階 1、2会議室

3.出席者

委員

 澤岡、飯塚、井戸、岩田、岩渕、大島、小野、黒木、合志、齋藤(紘)、齋藤(宗)、二瓶、平木各委員

文部科学省

 丸山研究振興局審議官、田中研究環境・産業連携課長、米倉基礎基盤研究課長、鎌田研究環境・産業連携課課長補佐、杉江研究環境・産業連携課専門官

オブザーバー

 徳増経済産業省産業技術環境局知的基盤課長
有識者
 小幡独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンター基盤開発部長
 木村独立行政法人物質・材料研究機構グループリーダー

4.議事録

(◎:主査 ○:委員等 △:事務局の発言)

(1)利用者ニーズを踏まえた知的基盤の整備について

「理化学研究所バイオリソースセンターの現況」

 独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンター基盤開発部長小幡裕一氏

委員等
 信頼性・継続性・先導性をモットーに事業を展開しており、これらを確保するためには、ニーズの多い利用されるリソースを整備し、所在情報・特性情報検索機能ネットワーク対応も必要である。また、使われるためには品質管理も十分にしておく必要がある。特に国際対応の品質管理が必要であると考えている。
 私たちはナショナルバイオリソースで選定された25のリソースのうち、細胞材料、実験動物、実験植物、遺伝子材料、それからそれに付随する情報の5つのリソースを担当している。これらの情報を収集・保存・提供する事業に加え、新しい品質管理、技術開発、解析技術を付加する、また新しいリソースを作るというのも大きなミッションだと考え、開発事業も行っている。
 設立後3年をもち、世界で2~3番というスケールでそれぞれのリソースについて収集・保存・提供ができるまでになった。また、今年度の半ばより、微生物も収集して保存・提供するという運営にもかかわる予定である。
 センターはアーカイブ機能と先導的役割の両方を担っており、社会ニーズ、研究ニーズを常に把握しておく必要がある。例えば国内では、BT戦略会議、総合科学技術会議、科学技術・学術審議会、ライフサイエンスサミットでどういう議論がされているか。またコミュニティーからの意見集約など、学会等での情報収集、また国外の情報の収集も行っている。各リソースには産官学の有識者5名~8名からなるリソース検討委員会で毎年どういうリソースを整備すべきか、またどういうニーズがあるのかという意見を伺っている。業務推進アドバイザーという制度を設け、意見を収集している。また、様々な学会で広報活動を実施し、情報を収集している。
 国外の状況はNational Centerfor Research Resources、ジャクソン研究所、APCCなどのホームページで情報を収集している。
 新規リソースの収集は、学会雑誌を定期的に購読し、学会発表された方に寄託依頼をするが、成功率は約5~6%と低い。
 利用者にとっては安心して使えるリソースというのが望ましいと考えられる。そのために知的財産権MTAの整備、また、研究倫理、安全、動物倫理に関して透明性を確保してリソースを整備して提供するということを行っている。
 問題点として、1つは科研費、振興調整費などの国費で開発された生物遺伝子資源、いわゆる研究成果の確保の制度を確立する必要があるのではないかと思う。また、寄託した人へのメリットとして知的基盤への貢献を評価していただきたい。
 2番目は、開発者の権利の保護とアクセスのバランスをとる必要があるのではないかと考える。リーチスルー・ライトと派生物の権利、専有実施権に関するガイドラインの設定が必要だと考えている。
 3番目として、国際協調、国際イニシアチブの発揮、特に生物多様性条約の対象となるリソースの整備というのは重要な問題である。
 最後に、危機管理のためのリソース、例えば緊急性のあるリソース整備が必要になる。検出、治療、予防のためのリソースの整備が必要であり、機動性を持った体制の整備が必要なのではないかと考えている。

「計量標準の整備と利用者ニーズ」

 産業技術総合研究所研究コーディネーター(標準担当)小野晃委員

委員等
 利用者のベネフィットを最大にするような整備をしていくべきであろうと思っており、そのためには産業競争力を強めて国際市場を獲得していくということを念頭に置きながら標準の整備をすべきであろうと考えている。現時点で最も関心が強いものは、安心・安全な国民生活を確保するための計測、我が国でオリジナルに開発された技術、製品を評価していくための計測標準で、これを個別企業ではやり切れないという問題があり、知識基盤として国が提供していくという考え方である。
 標準の提供者と利用者の間のコミュニケーションというのは結構難しいもので、整備計画を提示したり、戦略的な情報交換をして、あるいは活用例を提示していただき、供給側は何が重要かということを把握していくということが重要なポイントになっている。具体的には、アンケート・インタビューによるニーズ把握を毎年テーマを決めてやっているところである。また、標準を一つ出すことによって、それが経済的にどれだけ還元されるのかといったことを把握したいが、なかなか調査手法が難しく、昨年度から着手しているところである。
 我が国の計量標準の整備は、2010年にはコアとなる部分では欧米にキャッチアップできると思っている。同時に日本独自の標準、あるいは先進国と競争していく標準というものをあわせて加速的に開発するということが私たちの課題になってきている。
 知的基盤はその量もさることながらクオリティーも非常に大事である。品質システムを国際基準で整備し、つくっていくということを掲げ、どの供給項目に関しても一種の品質管理システムをつくっている。さらに標準の国際比較を行い、国際相互承認をして、外国のものと同じ精度が出ているということを常に実験的に確認しながら相互に承認し合っていくというのが現在のところある。
 戦略的に計量標準を整備していくための研究というのが非常に重要である。この例としてナノテクのための計測基盤、ナノメートルの計測も含めた標準資料、バイオとメディカル分野の標準物質、遠隔校正技術がある。
 最後に幾つかの課題とポイントを述べると、基盤の整備というのは網羅性と品質ということであるが、その中で戦略的に重点化せざるを得ないという事情がある。我々供給側の問題と同時に、利用者の意識の問題もあり、十分情報を共有していかないといけないと思っている。2番目は、国内外への情報の発信、利用法の開拓ということで、これはユーザーとのコミュニケーションのところで非常に重要である。3番目は、国際的な競争と協調ということで、1990年代からのグローバル化で、現在はまさに大競争の時代に入ってきている。

「NIMSデータシートとデータベース-利用者ニーズを踏まえた知的基盤整備-」

 独立行政法人物質・材料研究機構材料基盤情報ステーションクリープ研究グループグループリーダー木村一弘氏

委員等
 NIMSで行っている知的基盤整備として、データシートとデータベースについて、特に利用者ニーズをどのように反映しているのかという観点を踏まえて発表させていただく。
 データシートとデータベースを担当しているのが材料基盤情報ステーションという組織で、この組織は社会が求める材料に対するソリューション獲得に役立つ研究の推進と情報の提供、さらには外部との協力活動の推進ということがミッションとして設定されている。
 社会との連携について、材料データシート、国際標準化、材料データベースと大きく3つの柱があるが、これらはいずれも、懇談会、検討会というものを設置し、外部の意見あるいは御指導をいただくという体制を整えている。利用者ニーズの調査としては、外部に調査を依頼し、報告を受けている。
 データシートとしては、クリープ、疲労が100冊あるいはそれ以上のものを出版しており、腐食と宇宙関連材料については、ここ2~3年発行を始めたばかりなので、冊数はまだ2冊、5冊であるが、今後この4つの柱についてデータシートを出版していくという予定である。2年前に、データシート、これに付随する受託試験、事故調査について、ISO9001の品質マネジメントシステムの認証を取得し、このISO9001にのっとってデータを生産、データシートを発行するということを行っている。
 データベースの構築については、昨年の4月からNIMS物質・材料データベースとして公開を開始している。この基本方針は、標準参照データの取得と発信、世界一のデータとシステム、高品質データ、そしてニーズの重視である。
 データベースのユーザー登録数について、毎月集計をとり、その動向等をチェックしており、どのようなデータベースにどの程度ユーザーがいるのかという統計をとっている。
 現在、イギリスのケンブリッジのグランタ・デザインというところが構築しているMatDB、Materials Database Networkというものにリンクを張ろうということを進めている。これにより、リンクが張られた世界中の材料データベースのどこにその目的とするデータがあるのかということがすべてわかるようになる。
 今後の方針として、データについては、ただ単に多ければいいわけではないと考えている。すなわち、データの意味とか使い方の説明もあわせてセットになる必要があるであろうと考えている。そのためには、データの由来、問題点などを明確に提示する必要があるであろうということで、その一つの取り組みとして、材料リスク情報プラットフォームといったプロジェクトも並行して進めている。もう一つ、データベースの構造や形式というものについては、基本的には私ども内部の研究の対象外で、どちらかというとデータの充実を最優先していきたい。さらにはシミュレーション研究との融合を推進させていくということを方針として進めている。

(3名の発表の後、自由討議が行われた。その内容は以下のとおり。)

委員等
 先日、一般の人が利用するあるデータベースのウェブページを見たところ、実によくできていた。ユーザーがどのような情報が欲しいかということをきちんと考え、しかも多くのユーザーが満足するであろうアクセスパスになっている。そういう意味からいうと科学技術のデータベースは、まだぎこちないような気がする。最終的にマーケットの中で勝ち残り、あるいは日本としてのそれなりの存在感、あるいはメードインジャパンのブランドを高めるような知的基盤の作り方ということについて、もう少し本気でいろいろなシナリオを考えて検討してもいいのかと思う。

主査
 国際的な連携の中で日本は応分の役割を果たしているとは認められると思うが、自分達も外国の良質のデータを使い、それとのクロスしてデータを出さなければいけないというワン・オブ・ゼムという考え方なのか、日本発のデータとして、世界に発信しリードしていくという意識なのか。

委員等
 ただいま御指摘の点が今非常に重大な問題となっている。クリープ、疲労について、私どもは30年以上の長い実績があり、このデータに関しては世界のどこを見てもほかには無い状況にある。海外との関係をどう考えるのかということであるが、実は私どもが出しているデータでアメリカにおいても、ヨーロッパにおいても規格というものが作られている。日本国内では残念ながら私どものデータが直接規格になることはなく、海外の規格を逆に輸入するということになっている。このことから、データを出すだけではなくて、そのデータを日本の規格にするということによって、本当の日本の国力というか、日本の産業に貢献するデータになってくるであろうと考えている。その規格を作るというところは私ども単独ではできないと思うので、オールジャパンでどのように考えていくのか、体制を作っていくのかということが重要であろうと思っている。その一助になるかと国内におけるいろいろな規格策定の活動には積極的に参加することを進めている。

委員等
 昨年様々な事故が連続して起こったが、そういうことが起こる原因というのが、例えばデータベースとか、あるいは様々な標準物質とか、そういう問題とどのように関係しているのか、あるいはそういう観点から解決策というのが見出されるのだろうか。

委員等
 確かに大事故というものが最近頻発しているけれども、メディアに載らないような小さな事故も含めると、毎年一般的にGNPの4%が事故による経済的損失だと言われている。これは、現在国内のGNPが500数十兆円であるので、20数兆円が経済的損失として失われていることになる。実はこの経済的損失のデータも国内にはなく、アメリカとヨーロッパで出ているだけである。このことから、新しい産業を創るということも大事であるけれども、実は事故等による経済的損失という観点からデータベース、知的基盤というものをしっかり見直すということが重要であろうと思っている。

委員等
 計量標準も、今まで品質管理であるとか、生産の現場においてクオリティーを高めるという意味で非常に大きな役割を果たすことがアメリカで実証されてきた。日本は別のTQCの道を通ってきたので余り実感はないが、生産の現場におけるクオリティーという意味では非常に着目されている。しかし、今の議論の事故とか、劣化であるとか、そういう方に計量標準を活用するという考え方はまだ非常に少ないと思っている。

委員等
 金属の分野で物質・材料研究機構が世界第一級の標準、基準データを蓄えているということは十分理解しているが、科学技術振興機構(JST)から移管したポリマーに関する整備の状況についてはいかがか。データベースをもとにしたシミュレーションもその開発の意向の中にあり、非常にユニークなポリマーに関するデータベースを構築しようという意気込みがあったということで理解しているが、その辺りの現状はいかがか。

委員等
 現状については、特別研究員2名で、データについては基本的に文献検索に基づいている。2名の特別研究員が外部の有識者にそれぞれ委託して、そのデータを収集してデータベースとしている。今後は、正規の職員としてポリマーの専門家を採用し、長期的にこのポリインフォデータベースのメンテナンス、さらには拡充というものを進めていきたいと考えている。

委員等
 私は実際にこういうデータベースを基にしてポリマーの開発という経験があり、その経験からいうとデータは多ければ多いほどいいと考えている。品質はそれを利用する人間が判断するものと考えている。データベースを利用して様々な物性を予測するシステムといったものもこのポリインフォの中に組み込むという意図も当初はあったと思うし、あるいはそのようなデータベースをもとにした物性予測システムといったものも民間では開発されているということであるので、そういうものの中に自分達が品質等も反映させるような形にして使いこなしていけば、いろいろな材料開発に十分に役立てることができると思っている。

委員等
 ただ単に多ければよいわけではないということについて説明不足であったので、若干補足させていただくと、例えばクリープのデータでは、同じスペックの材料でも10種類ぐらいデータを取得しているけれども、結構値にばらつきが出る。その場合に、ただ単にそれをばらつきとして見てしまうのではなく、製造条件とか熱処理条件、微量成分がどれだけ含まれているのか、そういった付随条件に基づいて強度の違いを検討することが必要である。ただ単にデータだけだと、ばらつきの統計的処理に終わってしまうので、そのプラスアルファの情報も一緒に含めることが重要であるということを意味したかったというわけであり、そういったものを含めれば、もちろんデータは多ければ多い方がいいと考えている。

委員等
 理化学研究所のバイオのゲノム研究センターで、DNAブックに取り組んでおり、単にマウスだけではなくて対象を広げていこうとしているが、その辺はリソースセンターとしてはどのように同じ理化学研究所の中でそれを活用しようとしているのか。ブックでもいいが、ルーズリーフ型で例えばファンクション別にするとか、いろいろ工夫も必要なのではないかと思っているが、いかがか。

委員等
 確かに御指摘のとおりで、私たちもそのところの検討は始めている。バイオリソースセンターは民間を圧迫してはいけないと考えており、ベンチャーで成り立つ限りは、そのまま進めていただきたいと考えている。ただし、それを途絶えないようにバイオリソースセンターに寄託していただくというスタンスでいる。

委員等
 日本として次にどういうホームランを打つかという話があったが、夢として何かホームランのような派手なことも必要だろうと思う。日本として何をやったらいいかということで、それぞれどんなことをねらっているのか聞かせていただきたい。

委員等
 アメリカにしても、ヨーロッパにしても、社会的に大きな課題に直面して、その一つの課題に対して計量標準を使って解決したということであった。アメリカの宇宙開発もそうであったし、ヨーロッパも、イギリスを中心としてどうして生産性を上げていくのかという中で出てきたものが大成功を収めてISO9000の設計になった。振り返ってみると、自分の問題を解決するために取り組んで成功したら、それが思わず世界に広がったというのが実態だと思っている。その意味では、目の前にある日本の課題を解決していくこと、そこで成功することこそが、多分王道だろうと思っている。そういう意味では、ナノテクであり、ITであり、バイオであり、今日本が国富をかけて取り組んでいるところでいかにこのツールを活用していくかというところに尽きるのではないかと思っている。

委員等
 私たちもほとんど同じ考えで、日本発の研究を支える生物資源を準備したいと考えている。その意味で私たちは単にアーカイブ機能だけではなくて先導性というのをうたっており、特に重要であると思うのは、健康問題、食糧問題、環境問題で日本国が直面する問題を、日本のリソースを使って解決する。そのためのリソース整備をするということが重要だと考えており、そういうものの情報収集、ニーズを収集して提供していき、先導性を確保したいと考えている。

委員等
 私どもは材料に関するデータベースであるので、究極の目標は安全・安心という社会を実現するということに貢献できるかということである。ハードウェアだけではなくて、私どものデータに基づいていわゆる日本独自の信頼ある規格というものに結びつける。さらにはそういった規格に基づいて日本で作られた製品、プラント等の性能、信頼性を高めることができ、世界に輸出なり、世界から信用を得るというところにつなげていくというのが、一番の目標だろうと考えている。

委員等
 発表直後のリソースの寄託を依頼して、成功率5~6%ということだが、今後これを上げるのにどういう方策が要るかというのは大変難しい問題ではあるが、例えば戦略的なテーマについては、特別な施策というのがないと、いつまでたっても5~6%で終わり、かえって少ない%になるのではないかと思う。その点今後どのように取り組んでいくのか。
 もう一点、物質・材料の分野について、今後の方針で、データの意味、使い方の説明が必要で、データの由来、問題点を明確にしていくということは使う側としては大変心強い。大体クリープとか低温脆性の問題というのは設計のときにまずざっと参考にして、非常に困って使うのはクレーム解析である。そのときには通り一遍のデータではなかなか核心に迫ることはできなくて、データの意味とか、あるいは由来、そういったものがデータシートかデータベースの中で触れられていると大変参考になるのではないかと思う。

委員等
 日本の研究者の社会にナショナルバイオリソースがどういう役割を持っているかということを認知してもらうために、広報活動をもっとすべきではないかと考えている。もう一つは、新しい価値のあるリソースを開発している人たちに個人ベースで親密になってお願いすると、寄託していただける場合が多い。従って、そういうアンテナを張って、共同開発、連携研究も含めて、新しい開発をしたところから入れていただくという努力をしている。また、ナショナルバイオリソース・プロジェクトでも、マウスに関しては開発機関を特別設置し、そこで開発したものをすぐリソースセンターに入れるというスキームを作り、新しいリソース、戦略的なリソースが確保できる仕組みも作ったので、大いに活用していきたいと考えている。

委員等
 アメリカあるいはヨーロッパの話は出たが、アジア、特に東南アジアの方のリソースというのは日本にないのも数多いのではないかと思う。これらの国をある程度仲間に引き込むという考えは特にないか。

委員等
 東南アジアは微生物分野、植物分野では非常に重要な諸国である。生物多様性条約が直接影響する部分であるので、国際協調をしながらリソースを共有していくというスキームを作る必要があると考えている。特に微生物では大事であり、理化学研究所だけでなく、産業技術総合研究所、製品評価技術基盤機構(NITE)にある微生物保存センターも、バイオリソースセンターも、そのようなスキームで行っていると思う。

委員等
 私どもはこれまでデータシートではどちらかというとファクトデータだけであったけれども、今後データブックということに集大成していこうと考えている。そこではなるべく材料に関する周辺の情報等を網羅するようなものを作っていきたい。データベース、特にウェブなどで公開しているデータベースでは、例えばどのような検索ができるかといったことがどちらかというと利便性として目立つけれども、検索だけを重点にすると、データに付随する情報等がどうしても欠落してしまうというおそれがある。従って、その2本立て、検索機能などの利便性プラス詳細なデータも含めたデータブック、もちろん電子化ということを念頭に置いて、データの集大成ということを考えていきたいと考えている。

委員等
 知的基盤を使う人の問題ということが抜けているのではないか。知的基盤が整備されても、それをどうやって使ったらいいかという指針がまず必要であり、あるいはもっと簡単なツールも必要だろうと考える。この委員会で考えている知的基盤の整備というスコープの中には、利用者がどのように利用すべきだという指針も入ってきて当然だろうと考えている。
 もう一点は、リソースの寄託率が数%ぐらいしかないということ、この知的基盤整備の最大の問題点というのはそこにあるのだろうと思う。データを提供する側に対するインセンティブをどうやってつけるかということが、この委員会が始まって以来ずっと底流にある課題だろうと思う。それをある程度具体的にこの委員会から何か提言という形で示し、データを提供する側へのインセンティブを与える方策というものは、この委員会で考える大きな目標の一つではないかということを申し上げておきたい。

主査
 データステーションの役割を果たす仕事をされている方がなかなか恵まれないということについて、どうやったらいいだろうかという議論は最近盛んに行われるようになったと思うが、今の御指摘も非常に重要で、データというのは高いものだということは、この委員会としてもう少し切り込む問題かもしれない。

委員等
 日本に24機関ぐらい微生物の遺伝子を持っている機関があって、結局それぞれが持っていても、お互いにどういうものを持っているかというのは、必ずしも情報がリンクしない。アクセスポイントを決めておいて、そこへアクセスすれば日本中にある微生物遺伝子機関がどういう微生物を持っているかというのがわかって、それを何らかの形で分譲ができることを促進しようという動きがある。そういう意味で、材料の場合のユーザーから見ると、外国のあるところへアクセスをすると、回り回って日本のデータベースにくるということがあるが、理化学研究所では、ワンストップショップということで動物とか植物のデータをリンクする動きは何かあるのか。

委員等
 理化学研究所だけではなくて、ナショナルバイオリソース・プロジェクト、遺伝学研究所を中心に検索機能を持ったデータベースセットを作ろうという動きがされている。また、微生物は理化学研究所も、6月からNITEと一緒に仕事をすることになると思う。私たちは、生物についての情報というのはリソースそのものだという考えを最近持ち始めた。特性情報、所在情報、利用情報も含めて、情報をきちんと提供すれば、それは非常に有用な情報で、それはリソースそのものであるということである。従って、それを何とか整備していきたいというところである。

委員等
 計量標準という考え方はバイオ・メディカルとか医学の中にほとんどなかったように思う。2003年からそういうことを整備するのに手をつけられるという話であったが、これはどういう観点から、まずどこを手がかりにしてバイオ・メディカル関係の計量標準というものを進めるのか。

委員等
 バイオ・メディカルに対するニーズが顕在化したのは世界的に見てもこの2年ぐらいである。化学の分野でも定量的な分析には限界があるというのがいわば常識であったが、1995年頃から化学の世界でも計量標準の手法を取り入れ、メートル条約の中で活動をしてみたところ、化学における定量分析が意外にできるということをこの10年間で分析化学者たちが確信した。現在バイオ・メディカルもその入り口に立っている状況だと思うが、これは化学よりも一段難しいかと思う。そういう中で、測定法、分析法の規格化だけにとどまらず、規格を決めて、その方法をとれば値が一致するというところまで持っていくことが必要になる。しかし、新しい方法が出て、同じものをはかっているけれどもデータが一致しないというようなことが、技術が進歩・拡大するにつれて必ず出てくる。そういうときに化学の人たちがこの10年で学んだことが非常に役に立つだろうと思っていて、バイオでも恐らく成功するだろうという希望を持っている。バイオでは、遺伝子の定量の問題とか、たんぱく質の定量の問題とか、非常に様々ではあるが、化学ではケミカルメトロロジーという用語もできて一分野ができてきたように、生物関係でもそのようなこと期待しているところである。

委員等
 非常にバイオロジカルな現象になってくると、測定方法一つ厳密にとっても、必ずばらつきが出る。個体差が出てくると、そういう個体差のばらつきの意味というのがまた非常に重要になってくるわけで、そのばらつきの意味を考える上でも、標準的な測定法というものを確立しなければならないということになるのではないかと思う。

委員等
 そのとおりで、今までは個体差で片づけていた問題であるけれども、個体差の意味がわかってくるわけである。まさにそこがポイントだと思っている。

委員等
 日本の場合、今まで標準を中心にした基盤は、世の中の進歩を一歩おくれて追いかけていくようなところが濃厚であった。そこを克服するためにはストラテジーを立てておくことが非常に必要だと思う。いろいろな分野で様相が違うと思うが、そのストラテジーをどうやって見つけていくかということについてお考えなり、方策をお持ちであれば、伺いたい。

委員等
 2つあると思っている。1つは非常に先端的なところ、新しく計測法が生まれつつあるところで、その計測の信頼性を確立していく。従って、卵のような状態をどうやって見つけていくか。それが十分伸びるのかどうかという見きわめ、そこが一つの大きな分野だろうと思っている。
 もう1つは、既に計測が行われ大量のデータが国内で出ているが、その信頼性が欠けて社会的に問題が起きているというところだろうと思っている。

委員等
 世間のいろいろな意見が一致し、それを盾にして予算を要求していくというスピードだと全然話にならない分野もある。何らかの組織的なある種の助言機関みたいなものをうまくオーガナイズしていくというのが一番大事ではないかと思う。

委員等
 限られた資源をどういうところに投入していくかということが、これからの時代に一番大事なところではないかと思う。今世の中が求めているのは、最先端で世界の市場を取ってくるという機能が求められている。そういうものを一体どう発掘していくのかということがこれからはキーになっていくのだろうと思う。日本のオリジナリティーとは何なのかというところをどういう場で議論して、どのように資源を投下していくのか、そういうメカニズムを考えていかなければいけない時代ではないかと思っている。

委員等
 知的基盤というのはそもそも人類にユニバーサルなものであって、余り国益というのを考えてはいけないものかもしれないが、しかし、税金をこれだけ投入し、また今後も投入しなければいけないということを考えると、やはり国益ということもあわせて考えなければいけないというジレンマを皆さんそれぞれお持ちだと思う。特にデータベースとバイオのリソースの両方については、先端研究に役立っているということをぜひ見せなければいけない。そのためにその分野のCOEと密接な関係を常にキープしていく方向を進め、それによって継続的にリソースを出していくことが可能になるのではないかと思っている。
 計量標準については、特にアジア近隣諸国に対してサービスをする体制がまだ極めて脆弱ではないかと思う。無償でサービスをしていいかという問題はあるが、サービスをすることによって日本の計測器産業あるいは標準物質の産業に対するインセンティブをかなり与えられるし、計測器産業を標準の分野から育てるということも視野の中に入れれば、若干回り道ではあるが、それは国益として返ってくるということを申し上げたい。

委員等
 バイオリソースセンターから出したものがいろいろな形で利用されているという意味で、理研の先端的な研究部署とバイオリソースセンターはよい関係にあり、もちろん国内の主要な研究機関とも競合せずよい関係にあるので、ハブの役割をしっかり担っていきたいと考えている。
 標準化の問題であるが、生物資源に関しても標準化ということが非常に叫ばれていて、OECDではグローバル・バイオリソース・ネットワークというものを作ろう、それで標準化をしよう、スタンダードを入れようということで動いており、今年の1月29日、30日に閣僚級会議が行われてサインされている。NITEの方も一緒に会議に出ており、生物資源も標準化、トレーサビリティー、それからバリデーションというのは非常に重要になってくる。そういうものにもバイオリソースセンターは貢献できるのではないかと考えている。

委員等
 標準化データベースを整理していくというところで戦略を立てるという話があったが、利用者への配慮というものは余り過度にはとらない方がよいのではないかと、私は利用者の立場から申し上げる。利用者の方は必要に応じてデータベースを利用するので、作る側の信じる方向の形で整備されていくのが本当ではないのかと思っている。特にこういうものは継続こそ力であって、途中で終わってしまって不完全なデータベースというのは利用する立場から言うと非常に残念である。個々のデータの品質というのは利用者が判断するので、整備されて数を増やすということが、利用する立場にとっては非常にありがたいと思っている。

主査
 同じ材料でも、高分子と金属分野の研究者では文化が違い、考え方も少し違うということで、NIMSが同じ感覚でデータベースを作っても、恐らくユーザーによって、利用しようと思うデータベースの作り方が変わってくるのではないかと思う。どのような形であれば利用されやすいのかというきめ細かさが、もう一つプラスアルファで必要かと感じた。
 本日の議論はこれで終了させていただき、次回このことについていろいろ御議論いただきたい。

お問合せ先

研究振興局研究環境・産業連携課

(研究振興局研究環境・産業連携課)