知的基盤整備委員会(第2回) 議事録

1.日時

平成13年7月2日(月曜日) 10時~12時

2.場所

経済産業省 別館 8階 825会議室

3.出席者

委員

 澤岡主査、飯塚、井戸、岩田、岡、桂、黒木、小原、平石、大島、河盛、齊藤、二瓶、根岸、平木各委員

文部科学省

 坂田研究振興局審議官、中西研究環境・産業連携課長  他

4.議事録

(1)知的基盤整備計画(案)について

 資料2~4に基づき事務局より説明の後、自由討議が行われた。
 その内容は以下のとおり

【委員】
 計画案のところどころに「府省の連携」という言葉が入っているが、この特記されているものは府省の連携で行い、残りは文科省で主体的に行うということなのか。
 地球的規模の環境変化を考えると特に土壌、野生動物、昆虫、微生物等のインベントリーを今抑えておかなければならないが、ここにインベントリーの扱いが触れられていない。
 今回はそんなに余裕がないということで外されているのか、それとも、これは将来的に各府省でやっていくことだという位置づけなのか。その辺をどう考えていくのか。
 知的基盤整備はデータベースにせよ、資源にせよ、研究現場と同じ場所でなければならないという発想なのか、それとも、研究現場と違うところにそういう基盤を担う機関あるいは組織をつくるべきという立場で考えているのか。

【事務局】
 第1点目の府省の連携ですが、計画案で府省の連携を述べているのは、特にそれが重要であるからであって、述べていないところはやらなくてよいということではないし、ましてや、述べていないところでは文科省が全部やるという意味でもない。計画案参考資料の知的基盤の整備の現状というところを見ても、非常に多くの府省にまたがっており、別にそれを文科省に集めるという意図は全くない。それぞれでやっていただけたらよい。ただ、互いに関連した分野では、ばらばらにやるのではだめである。例えば環境の分野だと、幾つかの省庁が一緒にやらないといけないし、それから、有用微生物の分野もかかわっている省庁は2つ以上ある。
 3番目の研究現場と同じ場所でやるのかどうかという点に関しては、むしろ専門的なデータあるいは物そのものの供給機関と研究現場とは別々のところにあった方が専門的なサービスが提供できるのではないかと思っている。研究でつくられたものを供給機関で収集、保存し、提供する。そういったところを専門的にやるという方が効率的ではないか。
 大学の先生が常にいろいろな問い合わせに対して貴重な時間を割かれているような、状況等をもう少し改善していったらよいのではないかと思っている。しかし、分譲機関では研究は要らないのかというと、そうではなくて、やはり分類だとか同定だとか品質確保だとか、それから新種の開発だとか、そういった研究要素の研究機能が必要である。
 その研究機能を担う人材は、圧倒的に不足しているというのがアンケート調査の結果でもわかっており、そういったところをちゃんと10年間で体制の確保の中で解決していかなければいけないと考えている。
 それから、初めての言葉でいま一つぴんと来ないが、2番目の土壌とか野生植物等のインベントリーは、有用な植物を育てる上でも、また野生の特徴を有用植物に導入する上でも非常に重要な知的基盤の、さらに基盤といったものかと思いますが、そういったことに言及すると焦点がぼけるということもあり、有用な微生物というようななるべく重要な部分に絞って記述した。

【主査】
 総合科学技術会議でこの知的基盤についての方針が近々示され、それを受けて各省庁が具体的な整備計画を立てるということになると思うが、同じような計画がそれぞれ複数の省庁で現在検討されているのか。その辺の情報はどうか。

【事務局】
 知的基盤の整備については、総合科学技術会議の科学技術システム改革専門調査会で行われることになると思われるが、今、大学などの施設整備の5ヵ年計画と競争的資金の倍増計画について議論しており、それに加えて産学官連携が立ち上がろうとしている。そのような状況もあって、知的基盤は総合科学技術会議で今議論されるような状況にないということをまず1つご報告申し上げたい。
 経済産業省には、産業構造審議会・日本工業標準調査会合同会議知的基盤整備特別委員会があり、当該委員会は6月末に議論を終了し、一応の目標を提示している。
 それを全部取り入れた形でこの知的基盤整備計画ができている。経済産業省の知的基盤整備特別委員会での議論は、例えば生物遺伝資源では、有用微生物に焦点が絞られているように思う。また、ほかの分野も取り上げているが、それぞれ産業応力というのをにらみながらの計画になっており、すべてを網羅的に取り扱っているという性格のものではないというふうに承知している。

【主査】
 例えば農水省は土壌の問題などを取り上げるような知的基盤整備の計画がまだ具体的に作成されているわけではなく、ごく一部の省庁だけが今動き始めたというふうに考えてよろしいのか。

【事務局】
 よい。他の省庁での動きは残念ながら今知らない。ないと考えている。
 それから、知的基盤整備計画については、ほとんどの府省にまたがる事柄が取り扱われているため、事前に関係のある全部の府省に合議しており、合意の上で提出している。

【主査】
 直接的でないにしても、オールジャパンの方向を示す性格が一部にはあると考えてよいのか。

【事務局】
 オールジャパンのものとして唯一の計画である。

【委員】
 計画案本文の6ページで、計測機器関係の国内市場における国内外企業のシェア、特にバイオ関連機器のシェアが少ないので、この辺を考えなければいけないという話であるが、知的基盤の整備というところから考えると、計測機器で一番の問題は、分析機器から計量機器、試験機器、バイオ関連機器全部にわたって、もともとの計測がほとんど全部海外で出てきたものというところに一番の問題があり、シェアの問題ではないと常々感じている。
 計測機器というものだけ取り出してやることがいいのか、または試験方法の標準化というような形で取りまとめた方がいいのか。最先端の研究のところで、例えばバイオの分野だとバイオの人たちと機械、遺伝子の人たちが一体になった形で考えられた結果、本当に新しい必要な計測機器が生み出されるのではないかと想像をしているが、そのような体制を考えた方がいいのではないかと思う。

【委員】
 微生物資源、特に有用微生物とかそれに近いところの分野の体制であるが、なるべく早く散逸しそうな材料を集めるということを主眼にし、分類や何かの研究は後回しにしてよいのではないか。
 今DNAのレベルから分類するという新しい動きが出ている。その方法だと明瞭に分類され、誰がやっても同じ結果になる。したがって、ここで研究を無理にやる必要はなく、むしろ古い人たちをこんなところに入れない方がよい。別の言葉で言えば、5年ぐらいの時限で大学にそれに対応する研究室をつくって、後でその人材を吸収すればいいと思う。
 それから、生物遺伝資源全体については、前の委員会の説明では、説得性が非常に乏しかった思っている。昔やっていないことを補えればいいというだけであって、本当に攻撃的な、産業を伸ばすような手が非常に少ない。この中で唯一入っているのは、ミュータントマウスぐらいで、ポストゲノムと称しているが、何を具体的に考えているのか非常に不明瞭である。
 例えば、アメリカで、将来に役立てようという考えから、骨髄腫のような血液にかかわる疾患の患者の遺伝子パターンを分類して発表した時、それぞれの患者に対するインフォームドコンセントはどうなっているんだという質問があった。それに対する立派な答えに加えて、「これから一々とってやっていたら5年以上かかる、いかにバンクがあるということが大事か」というコメントがあった。
 それから、スコットランドのベンチャーの人たちが、自分らの新しい検査法をMRCにある、半年ごと500人ぐらいの人たちから採取した一種の血液バンクのサンプルに適用すると言っていた。それを用いると、例えば心臓病とかいろいろなものについてどういうふうに5年間で展開していったかというのがそのバンクの血液を解析するとすぐわかる。そういうものが用意されている国と用意されていない国でどれだけ産業の発展のスピードが違うかというのがすぐおわかりになると思う。そういう意味で、今後伸びていきそうな分野に目を向けた部分が少ないと感じている。

【委員】
 生物遺伝資源については、2段構えというか、今、緊急にやらないといけないものと、その先を見たものと両方が必要だと思う。
 例えばポストゲノムといっても、単にミュータントマウスで遺伝子を壊すというのは当然必要であるが、実は、その先のもっと多様なマウスとか、多様な生物を比較することが実は人間の健康を調べるために一番大事だということがだんだんわかってきた。人は遺伝子の数がそんなに多くないし、結局は遺伝子をどうやって使っているかということが生き物を理解する一番早道である。例えばDNAをDDBJに毎年6ギガベース、ファーミットとしようというのは、人を2人確保すればいいのかもしれないが、そうではなく、様々な野外にいる生物をやるということが実は一番早道だと思う。今大学などいろいろなところで持っている生物遺伝資源は、これまでは結構古かったが、これにかなり新しい光が当たっていると思う。そういうところは、順位が低いのかもしれないが、きちっとサポートしていく体制をつくらないと、その次がもうなくなってしまうんじゃないかと思う。知的基盤というからには、そういう両構えで進めていく体制をつくるべだと思う。
 それから、先ほど研究の現場と違う方がいいのかどうかという議論があったが、各研究が行われるところで引き続きやることが理想だと思う。これは問い合わせを受けた時に、教授がそれに対応するのは大変であるが、その情報が一番ユーザーにとっては正確でありがたいものだからである。しかし、一方それが結局は無理になり、またバックアップが必要であるので、これはやはり各研究現場に整備するということと、比較的大きなセンターをつくってバックアップなりいろいろなことをするという両構えが必要だろうと思っている。
 それから、結局は長期的な経費がどうなるのかということが一番心配である。OBも結構であるが、ある程度の長期的な経費があれば、若い人を育てていかなければいけないという場合に、人も育てることができる。
 当然、重点化ということなので有用という言葉がどうしてもつくが、有用というのも、今有用というのと、5年後有用、10年後有用という幾つかのスパンで考えたいと思っている。

【委員】
 計画案にある項目を見ると、医学的な観点というのがほとんどないと思う。生物学的に非常に重要な遺伝資源がいろいろ書いてあるが、現在、ヒトが一番いい生物材料であると認識している。それはなぜかというと、あらゆる生物の中で人間がよく観察されていて、ちょっとした異常が何かよくわかっているということと、それからもう一つは、PCRなどの技術で、ほんの少ししかない材料でも、それを分析することができるようになったからである。したがって、人間の材料というのをきちんと集めるということが、これからは非常に重要になると思う。そのときには、例えばインフォームドコンセントなどにもきちんと取り組まなければならない。また恐らく厚生労働省で既に様々なガン細胞などの材料を集めており、そういうところとの連携を図る必要があると思う。

【委員】
 計画案で想定される知的基盤の整備の現状は、数年前の現状みたいな感じがする。
 ここ二、三年というのは、例えばデータベースと計測機器がかなりきちっとリンクをして、データ生産性も非常にドラスチックに変わっていて、いろいろな物質の数にしても、ここ二、三年で数のふえ方がその前とは隔世の感がある。
 情報の生産性そのものが本当に変わってしまったので、それに合わせた適切な戦略とならない限り、2010年というのはとても見えないというような感じする。
 現状についての調査とともに、むしろ、新しい未来をつくっていくという観点からの知的基盤の整備というような、そういう観点も必要である。
 フロントラインにある先端というのは、相当に変わってきているというのがここ二、三年の現状だと思うので、そのあたりのことを置きとめておいておいた方が良いと思う。

【委員】
 計画案概要の1ページの一番下の、生物資源の問題で、国際的には発展途上国における生物多様性条約下での取引ルールが明確でないという記載がされているが、開発途上国だけじゃなくて、先進国側も含めて取り扱いルールをやっているので、国際的なルールという表現の方が良いのではないかと思う。例えば食料に関する資源に関しては、今まさにホットなところで、G7とEUの連合軍、それからアメリカを中心とした新大陸、その真ん中に日本が入って、血みどろのやり合いをしている最中である。
 それから、こういう問題が今後非常に大きく、特に微生物資源では知的所有権と絡んで非常に複雑な状況になっていくと思うので、この部分は特記して取り扱い方を検討して、どういう方向でもっていくのかということを出した方が、むしろ明確になるのではないかと思う。
 先ほど産業から見て重要な分野を集中的にやっていけばよいのではないかというご指摘があったが、やはり知的基盤というのは相当長いスパンで見る必要がある。例えば、植物だとか動物だとか微生物の資源を国際的に集めているが、いただいた以上は永久に保存するという立場をとっている。したがって、永久にやるのかどうかという点を検討していただいて、やる以上は、永久とは言わなくても50年なり100年なりやるという覚悟を示す必要がある。それをどういう形で表現していけば良いのかを考えている。

【委員】
 計量標準についてですが、一次標準は国ないし国にかわる機関が整備し、二次標準の供給については民間能力の活用とはっきり分けているが、一次から二次へのトランスファーをどうするかということが大きな問題で、最近では通信を使って遠隔校正をやるということが先進国では非常に大きな課題になっているので、そういうトランスファーのことについてもぜひ入れていただきたいと思う。
 それから、計量標準の整備における各機関との連携ですが、その整備には新しい標準の開発も含んでいるのかどうか、ぜひ開発と整備と両方入れておくべきではないかと思う。
 それから、国際的な取り組みについては、相互承認等云々ということしか書いていない。実は、非常に大きな問題は、途上国との協力がネットワークを通じて非常に強く求められているにもかかわらず、日本はこれに対してJICAの研修程度しかやっていない。しかも、JICAの研修をやっても、研修を受けた人のネットワークがその後保たれないので、一方的にただ資金を流すだけという情けない状況にある。ぜひこの辺を戦略的にもう少し進めていただきたいと思っている。
 それから、計測機器の問題では、アイディアが日本から全く出ていないということが問題ではないかと思う。現状のシェアだけを問題にするのは確かにおかしくて、輸入する機器があったらどんどん輸入していいと思う。計画の中で、非常に懸念しているのは、単にこういうものが測れればいいという研究だとテーマとしてつくり上げるのは非常に楽であるため、そういう提案がごまんと出てきてしまうのではないかという点である。計測の研究というのは、何の目的のためにやるかということが一番大きな問題である。したがって、めり張りをつけて重点的な選択をする必要がある。
 例えばデータベースの整備だと、本当に必要なデータベースの整備のためなのかをもうちょっとシビアに選択する必要があるのではないか。
 最近フロンティアで非常に問題が深くなってきているというのは、まさにそこは資金がたくさんあって、こういう計測についても出来るからであるが、一度知的基盤という中で計測の問題をやるということになると、ほかのテーマとの比較がどうしても重要になると思う。そういう意味で、この部分はかなり戦略的かつ選択的な態度で強化を図るということをぜひお願いしたいと思う。

【委員】
 生物資源で、ポストゲノムをにらんだ生物多様性を考えたこのような計画は非常に大事だと思っている。もう一方で、日本の中にある特徴的なもの、外国に余りないようなもので国際的に認められているようなところを応援することも必要なのではないか。
 生物資源の関係では、例えば線虫のコレクションをやっておられた先生、メダカを一生懸命集めておられた先生、カエルを研究されている先生、それから厚生労働省の関係の研究所で筋ジストロフィー患者の筋バンクをつくっておられたような方がいる。また糖尿病や高血圧のマウスは日本で生まれたが、実際に日本では供給を全然していなくて、むしろ輸入に頼っているというような話も耳にする。日本で育っているそういうところを強くしていくような視点もあっていいのではないかと思う。
 人材育成のところで、ちょっと気になったのは、企業のOB等を活用する点である。そういう方も当然必要だとは思う。大学院の学生から10年間大学にいたときに、先生がそういうデータベースなどについてきちんとした考えを持っておられたので、そういうものが価値あるものであるという理解を植えつけられたと思っている。やはり大学で人材育成をきちんと考えるような研究室も育てていく必要があるのではないか。

【委員】
 計画案概要3ページの下の研究用材料の欄の、新材料の括弧に、医療機材というのか体の中に埋め込むような材料が今回登場してきたように思うが、そのように理解してよいか。今までの話と異質であるという気がするが、これは各省庁から意見を伺った中から登場してきた話であるのか。それとも、最初の流れから出てきた話だったのか。

【事務局】
 これは最初から例示として入っていたものである。

【主査】
 悪いと言っているのではなく、例えば、計画案概要7ページのシロイヌナズナにしても、何かちょっと次元の違う、分類上からいくと章節の違いの内容がここで評価されているのは、どこかのご意見が強く出てきたからか。

【事務局】
 最初から入れている。特に解説はしていないが、シロイヌナズナは、植物における標準的な遺伝資源である。

【主査】
 報告書になったときに、ちょっと次元が違うとそういう誤解を与えかねないので、表現の方法を整理して欲しい。

【事務局】
 継続的な取り組みが非常に重要であり、長く続くような取り組みに対する姿勢を明確にしないと、良い計画にはならないというのはおっしゃるとおりであるので、もう少し強調したいと思う。
 それから、計測機器に関しては、確かに最先端の研究と表裏一体であり、副産物として新しい計測方法が出現するというのは確かにあると思う。計測機器は、そういったものをターゲットとして決めてどこまで持っていくかというような議論をするときに、なかなかなじみにくいところが悩みの種である。
 また、「計測だけが研究の内容、提案であれば、幾らでも申し込みができる」、「計測機器を知的基盤の中に含めること自身どうか」というような疑問を呈するようなお言葉もあった。計測手段が日本国内にちゃんと存在していないと、機動的な研究や最先端の研究の実施に支障を来すので、必要なものは、国内でも確保しておく必要があると思う。しかし、何でも計測できれば、それが研究テーマになるかというと、やはりそれはまずいと思うので、今回の計画の中では4項目を挙げて、特にその中で今おくれていると思われるライフサイエンス関係の機器の高度化というものを掲げて、そこにいろいろと重点化と選択性を持ち込んだつもりである。
 あと、データベースとの関係でご指摘があったのは「フロンティアが前へ進んでいて、記述が古い」という点である。ここで取り扱っているのは、実際に収集されたデータ全体ではなくて、収集され、それがちゃんと構造化され、体系化されて、そして外部に対して電子的に提供されているものを集めて議論している。データのところも全部そういうもので統一されており、例えば、遺伝研にはヒトに関するcDNAなんかはもっと何万種類もあると思う。そういったものは、必ずしも研究室に存在するだけで、複製し、提供するという機能をまだ持っていないので、そういったものは取り上げていない。
 データベースでも同じであり、ただ単にコンピューター上に蓄えられたデータベースは、世の中に発信されないと、存在さえ見えないというわけで、そういったものは今回の計画づくりの対象とはなっていない。
 それから、国際的な競争の話とか取り組みの強化についてもっと具体的にちゃんと書くべきだというのは、おっしゃるとおりで、書き込んでいきたいと思う。

【委員】
 かなりの物を持っていて、かつデータベースとされるのは進んでいる機関であると思う。ただ、大学等で、どうしてもそこまでは手が回らないところがたくさんあるので、遺伝研としてお手伝いをしている。データベース化してしまうと、世界中から要求が来るが、分譲・配付する人手は全くないので研究に差し支えるといった、全く本末転倒の議論があったりする。データベース化すること自体はやればできるが、手当がないままだと研究現場が大混乱するという状況になるのをご理解いただきたい。
 例えば、他省庁に行き、遺伝研のDDBJの予算を言うと、こんなちょっとでやっているのかという反応がかえってくる。お金がたくさんあれば良いということではないが、ある程度、長期的な経費を確保してもらえば、かなりの大学では今すぐにできるということもご了解してもらいたいと思う。

【事務局】
 継続的な取り組みを担保する手段というのを準備していかなければならないと思っている。

【委員】
 先程の発言を誤解されないよう補足しておくが、現状では国内については非常によく収集され、整備されていると思うが、世界的な現状を申し上げると、きちっと体系化され、整備されていたものがこの二、三年ふえており、だれもが使えるものになっているということである。
 もう一つは、これをだれが使うか、だれがこういった整備された知的基盤から価値を生み出すかということである。比較的大きな組織、大企業等はそれなりの専門家を十分確保しているので、難しいデータベースも理解できる人もいる。しかし、既に方策が決まっているような作業領域あるいは研究領域ではなくて、ベンチャー的な、あるいは中小企業であらゆることをやりたいけれども、いろいろ障壁があって新しいことができないというようなときに、そういうユーザーが非常に貴重な知的基盤をしっかり利用できる体系が整備されているかというと、やはり、相当専門知識を持っていないと使えないようなひどく使いづらいシステムになっているかと思う。そういう意味では、日本全体がせっかくの知的基盤を大いに活用して新しい芽を出すためには、もう少しインターフェース等を改善し、しっかりと人に情報を渡すというサービスを相当しないといけないと感じる。

【委員】
 皆さんがおっしゃったようなことに共通すると思うが、知的基盤を整備する上で、人材の問題がある。日本では今主に分析機器の輸入の占める割合が多いという現状にあるが、それはなぜかというと、日本でつくられていないとか、あるいは外国製品の方がより性能がよいとか、そういう理由がある。よいものをつくるためには、教育の問題と、それからもう一つは技術者の待遇の改善が必要である。例えば、ドイツでもアメリカでも割合技術者の報酬がかなりよい。日本では、技術者というのは縁の下の力持ちみたいで割合冷遇していたところもあったので、それをやはり改めるということが必要。
 それから、教育に関していうと、最近、特にコンピューターが発達したせいで、エレクトロニクスの分野の大学教育がなおざりになっていて、エレクトロニクス分野の議論を取り交わしたり、あるいは研究機関へ送り出した後そこで新しい先端機器をつくっていけるのかといった問題がある。大変お寒い現状である。そのための教育として大学の大学院とか、あるいは大学のコースに新しい分野が必要である。今はエレクトロニクス、特にマイクロ波の分野が少しおくれていると思う。

【委員】
 データを生み出し、うまく利用するシステムということの重要性についての意見があったが、データを生み出す方と、それを実際にデータが利用できるようなシステムをつくる方、それを利用する方というのは、専門性が全く違う。特に、誰でも利用できるようなデータシステムをつくれる専門家が、残念ながら日本では非常に少な過ぎる。このデータベースそのもの、あるいは情報化そのものを専門に扱うアカデミーが非常に少ない。しかも、それをやっておられる方々がそれなりの尊敬を受けるかというと、そういうことでもない。
 実際の研究現場の担当の方の正直な話では、研究者の方でデータベースをつくってしまうと、この対応が大変であるということである。やはりデータを生み出すことと、それをうまくデータベースにしていくことをきちっと分離してできるような体制づくりということが何よりも必要だろうと思う。
 計測方法というところに標準化というのが出てきて安心したが、やはり世界中で標準化方法があるとないとでは非常に大きな違いがある。例えば標準化ということではISOとかOECDで企業のボランティアという形で非常に力を入れてやっている。日本の企業は標準化を非常に意識していて、例えばISOの年次大会があると、その3分の1から半分ぐらいが日本からの参加者である。しかも、それはみんなボランティアでやっている。
 標準化ということをうたう以上、いつまでも続けられるように、企業のボランティアだけに頼らず、継続的にISOやOECDで貢献できるような仕組みであってほしいと感じている。

【委員】
 ライフサイエンスの機器の重要性というのがかなり強調されている。確かに、今、例えばゲノム、遺伝子をやっている人たちにお金を注げばそれは全部ADRとかアメリカの会社のマイクロチップ、マイクロアレイといった企業に全部いってしまう。それでも日本のライフサイエンスの研究が進めばよいと思うが、その次を考えると、やはり何か新しい機器を開発しなければならない。我が国でも、この分野で非常に先を走っていたということがあって、実は1980年代に東大理学部の小野先生がエプソンと組んでDNAのシークエンサーをつくろうというのがネイチャーに出て、それがヒトゲノムのプロジェクトをアメリカで推進させた1つの影の力になっていた。しかし、日本では良い機器は結局出なかった。
 ここで2010年までにどんどん良いものをつくり、日本のシェアを増やそうとしているが、一体そのためにどうしたらいいかというストラテジーが自分自身もわからない。ライフサイエンスの機器の開発をよい研究者に任しておいても出てこないと思う。そういう問題意識を持っている人と、それから、工学部系の機械工学の人たちが手を組んで初めていいものが出てくるのではないかと思うが、そういう場というものが今はない。それから、アメリカでいろいろそういうものができた理由の1つには、ベンチャー企業が次の世代のテクノロジーをかけて競争したという理由があるが、日本にはそういうバックフィールドもない。そうすると、やはり、ここでうたわれている2010年に向けての新しいライフサイエンスの機器をつくるには、もう少し具体的な体制をどうするかということがないと、結局うたい文句だけに終わってしまうような危惧を持っている。

【委員】
 データベース上で何か調べようと思うと、いろいろなところを調べていかなければ見つからない。生物は余りよく知らないが、材料関係でも新しい材料というと、データベースでの表現のされ方がまちまちで、欲しい情報が必ずしも入っていない。とすると、データベースはこの部分は官、ここの部分は民といういう分け方が本当にできるのかどうか。全体的な構造がしっかりしたものが1つあって、それを今度登録していくガイドラインあるいは保持していくガイドラインというのも同時にないと、なかなかデータベースが恒久的にきちんとできてくる保障は非常に少ないのではないか。
 現在、何十万、例えば材料物性データベースですと60万件あるというが、このままデータをその上に乗せていってよい構造になっているのか、あるいは将来のことを考えて、構造そのものを見直す必要があるのか、その辺も1つ検討が要るのではないか。
 民間各社が持っているようなデータでも非常に貴重なものがあるのではないかと思うが、民間からデータベースにデータを登録するときに一番気にするのが知的所有権である。これは本当に知的所有権を主張できる価値があるのか、あるいはそうじゃないのか、その辺を調べようと思うと非常に時間がかかるので、結局面倒だから出さずに置いておくというケースが多い。それを何かサポートするような機関などがあると安心して情報を外に出せるというような気がする。

【主査】
 そういう仕組みがあるとないとでは、民間から出てくるものがとても違ってくるということか。

【委員】
 そのとおり。民間からの情報で学会などで出す、出さないというその境目は、やはり知的所有権が主張できるできない、あるいは競争しているしていない、というところにもあると思う。
 企業間の競争についてはちょっと記録がないが、知的所有権が主張できるかどうかということは、日本だけではなくて、アメリカ、ヨーロッパを調べなければならない。これには非常に手間がかかり、結局面倒だからやめてしまうというようなケースが多い。

【委員】
 生物資源の中で実験動物のことが書かれているが、生物資源についても、計測と同じような意味で国際標準化といったことがなされないと実際は使えない。実はマウスにも標準・規格があり、そうでないと、研究にも使えないし、国際的な研究成果も提供できない。計画案ではそれについても少し触れてほしい。
 それから、基本的な実験マウスの場合は、ほとんどが知的所有権、いわゆる特許等にかなりかかわっているので、それを考慮したシステムをしっかりしないと多分集まらないし、多分分譲もできない。結果として建物をつくっても仕方がないという感じにもなりかねないと思う。
 それから、計画案ではマウスとしかないが、実験動物はマウスだけではない。実験動物の世界で10年先はある程度わかるが、50年先を考えると、マウスだけではなく、猿、犬、猫、いろいろな種があり、さらに野生動物があって、そういうものは、当然これからは非常に大事になる。野生動物については、世界的に大分減ってきているので、これに関することをどこかに一言でもいいから入れてほしい。

【委員】
 先ほどからいろいろ議論されている知的所有権の問題というのは、すごく大きな問題だろうと思う。要するに、知的基盤と知的所有権が同居できるかという心配があり、本当に相反するところがどうしても出てくると思う。知的基盤というのは、いわば公の権利みたいなものになるし、一方知的所有権はいわば個人の権利みたいなもので、そこでぶつかってくるところがどうしても出てくると思う。
 実際に、データベースをつくるときに、データを例えば企業等に出してくれとお願いしてもなかなか出てこない。やはり企業の利益をクリアできないとか、いろいろな理屈をつけてくる。実際にデータベースをつくるときに、そのデータをいかに集めるか、それにはやはり何らかの仕組みが必要だと先ほどからいろいろ委員の方が述べているが全く同感である。
 計画案概要11ページの下に、その1つの打開策みたいなものも書いてある。国の金でやった研究、データは原則データベース整備機関への提供を義務づけるということである。ある意味では、知的所有権に一部制限をつけましょうというのだが、これは、ある意味では非常に画期的な提案かなと思っている。ただ、これが本当に、知的所有権法と整合しているかどうかも、やはりきちんと調べておいてもらいたいと思うし、実際にこういう何かの意味で一部知的所有権を制限しないと、本当の意味で知的基盤となり得るデータベースというのは、なかなか構築が難しいところだろうと思う。

【委員】
 計画案概要7ページで、生物資源あるいは情報の分譲機関への遅滞ない寄託・提供の義務づけというのがある。例えば植物関係であれば、国際的なジャーナルに発表したものについては、今度は組みかえ植物、趣旨まで含めて公的機関に寄託をしなさいという条件が付けられるようになってきており、預かったところは配付義務を持っている。
 したがって、例えばこれを国策としてやる場合には、だれがこれを担うのかということを明確にしないと、やはり非常に危険だと思う。やらなきゃならないというのは重々承知しているが、だれがこれを担うのかということを記載していただきたい。
 その下の5番目の戦略目標の考え方であるが、何を集めるのかということは、先ほどの論議でもあったように、大きな問題で、確かに10年で済むものもあれば100年のものもあることは承知している。例えば、現在、植物遺伝資源の30万は大学あるいは農水省が持っているもので重複も含まれているんだろうと思う。それを2010年までに90万、60万これを増やすということになると、ミュータントを集めても、なおかつ非常に大変で、特に海外から非常に集めにくくなってきている今、この中身が何なのかということがないと、この戦略目標が非常に危ないという感じがしているので、ぜひ内容の精査あるいはできる範囲を指定していただきたいと思う。
 微生物についても3倍増とあるが、配付できる数は非常に品質が保証されていなければならないし、生存も保証されていなければならない。これを含めて60万の微生物の配付というのが本当に展望できるんだろうか。どの程度の担い手によって展望されるのかということを、書き込むかどうかは別にしても、少なくともこの委員会には提出していただきたいと思う。

【委員】
 今まで既に出ている話かと思うが、実態として政策として展開するときに、どういう支援の方策をするのかというのが知的基盤では非常に難しいのではないか。研究計画であれば、研究資金を公募して配付するのだろうが、知的基盤は、材料なりデータなりを集めて組織化して使えるようにもっていこうということなので、いろいろな差があるのではないか思う。今まででも既にベンチャー企業云々というような言葉も出ていたが、国の支援の仕方としては、データベースの場合だと、データベースの準備金制度や税の減免制度改正とか、そういった形で民間での整備を促進する、あるいは、法律改正、ベンチャー企業の設立資金の貸し出し、等いろいろな方法がテーマ毎によって随分違ってくる。方法が実際にこの整備目標が達成できるかどうかということに非常に影響するのではないかと思う。いろいろな方法についてなおかつそういうところを書くのかどうか。計画案だと、ただ体制が必要とか目標とかいうだけである。データベースについても人材確保が必要だというのは昔から言われていて、今さらここで言ってどうするのかという話なので、もう少し踏み込んだ政策を議論して今後決めていかないと難しいという気がする。

【事務局】
 まさに60万株の配付の体制をどうやってつくり上げていくのか、それから、ベンチャーと直接関係するかどうかわからないが、長期的、安定的な資金の確保をどうするか、といったことが非常に重要だと考えており、そこがまず最初に今後手がけていかなければいけない一番大きな課題ではないかと認識している。そこまで書き込めればよいが、なかなかそういうこともしにくいので、そこを曖昧にしている。

【委員】
 生物の分類とか保存にかかわる人の認定試験制度というのがかなりはっきり書かれているので一言申し上げたいが、認定制度を設けるというのは、むしろ排除になる。だから、もしこれをおやりになるなら、給料が10万円高くなるなどメリットをつけないと、ほとんど無意味な制度というか、かえって障害になると思う。

【委員】
 その評価のことですが、評価体制をつくるというのは、結局給料が高くなるかとか安定したポジションであるかといったこととか、あるいは、研究コミュニティからのサポート、例えばいつも論文には必ずその人のやっていることが書かれるといったこと、がないといけない。こういう研究に密着した遺伝資源というのは、そういう研究コミュニティとの対応がきちんとできていないと、かえってクオリティーも落ちてくるし、アップデートもされないし古臭くなっていく面があると思う。認定制度と言われたらちょっと違うと思うが、そういう別のことが何かないといけないと思う。したがって、ぜひ研究コミュニティの意見というのも十分とり入れてやっていかないと、50年、100年といっても、多分ある時期になったら、もう生物は要らないということもあり得るし、DNA情報をもらったらそれでいいじゃないかということも極端を言えばあるかもしれない。でもやはりそうではなくて、生物が要るということがあるので、この計画案のフォローアップ、見直しで、適宜どういう方向に持っていけばいいのかということを見ていく必要がある。そのときに、技術がぱっと変わって、もう対応できなくなって結局何もできない技術者がたくさんいるといった状況になったらまたまずいので、やはり、ちゃんとそういうことがわかった柔軟に対応できるような能力を持った若い人を育てていかなければならない。

5.今後の日程

 次回は7月13日午後5時から文部科学省分館2階201会議室で開催することとした。

お問合せ先

研究振興局研究環境・産業連携課

(研究振興局研究環境・産業連携課)