「企業における技術者・技術士の現状・課題」と「高度な技術者に期待される役割」(西田委員)

平成24年11月5日
技術士分科会・委員
株式会社東芝 執行役常務 西田直人

1.はじめに

 平成24年6月27日開催の第22回 技術士分科会で、「技術士制度の在り方」について、以下の問題(1~3)が提起されている。
 1産業構造や技術者(エンジニア)と技術士制度との間でミスマッチが生じていないか
 2技術士資格の国際的同等性や通用性をどのように考えるか
 3技術士資格がより社会において評価され、その活用を促進するために何が必要か
 他方、「第4期科学技術基本計画」(平成23年8月閣議決定)の「4.基礎研究及び人材育成の強化」「 3.科学技術を担う人材の育成」における「推進方策」として、「国は、技術士など、技術者資格制度の普及、拡大と活用促進を図るとともに、制度の在り方についても、時代の要請に合わせて見直しを行う。また、産業界は、技術士を積極的に評価し、その活躍を促進していくことが期待される。」と述べている。
 これらの問題提起や国の基本計画等を踏まえ、「企業における技術者・技術士の現状・課題」と「高度な技術者に期待される役割」について、一企業の立場から現状・課題・意見等を述べる。

2.技術者・技術士(企業内技術士)の現状・課題

2.1 企業における技術者を巡る現状

 技術・ノウハウのある多くのベテラン技術者の退職、少子高齢化社会の到来、課題山積の社会状況、グローバル ビジネス展開や不断のイノベーションが求められるビジネス環境の到来等を迎えた時代における、企業の技術者を巡る現状は、以下のとおりと考えている。
 1技術・ノウハウのある、団塊世代以下の多くのベテラン技術者が退職の時代を迎えており、新人・若手技術者の技術力底上げ、ベテラン技術者の技術・ノウハウをスムーズに次世代に継承していく必要がある。
 2新規事業分野への早期参入やグローバル ビジネス展開のため、M & Aの展開、内外のキャリヤ技術者や留学生の採用等と併せ、所望の専門技術力をもつ、自律且つ自立した技術者の育成、企業内文化形成のため、企業内技術者教育は必須である。
 3社会インフラ系のビジネスでは、指名入札から提案型・公募型入札が増加傾向にあり、ソリューション(課題解決)提案能力のある技術者が求められている。
担当分野の専門技術力のみならず、関係法令・国際規格・異文化知識・各種マネジメント知識等を含む幅広い知識や技量、応用能力等が要求されるビジネス環境になっている。
他方、コンシューマ系のビジネスでは、顧客潜在ニーズを先取りしたタイムリーな製品開発・提供と併せ、発展途上国では現地の文化・慣習・顧客ニーズ・価格等に適合した製品開発・提供が求められるビジネス環境であり、これらに対応できる技術者が求められている。

2.2 企業内技術士の現状

(1) 企業内技術士と事業との関連

 企業として、技術士資格が役立っている部門は公的な社会インフラ系事業部門であり、その技術部門は、1電気電子部門、2上下水道部門、3機械部門等である。
 他方、デジタルプロダクツや家電製品等のコンシューマ系事業分野では、技術士の資格保有と製品設計等の良否の強い相関が余り感じられず、技術者における認知度も高くない。

(2)技術士に対する企業の認識・スタンス

 技術士は、学理開発の博士に対して、産業界における技術応用部門の最高ランクの権威ある・有用性のある資格と認識している。
 特に公的社会インフラ系の事業部門では、事業運営に関わる要素、技術士資格の有用性に鑑み、その資格取得を積極的に勧奨している。他方、コンシューマ系事業分野では、事業運営に関わる要素も強くないことから、その認知度は高いとは言えず、資格取得は積極的とは言えない。

(3)技術士資格の企業内での活用分野

 企業内では、技術士資格を以下のビジネスに関わる事業分野、特に公的な社会インフラ系の事業分野で活用しているが、その活用も一部であり、必ずしも十分に活用しているとは言えない。
◇全社:
 1国土交通省の「経営事項審査」の「技術力」における評点獲得対応
 2建設業法対応の営業所の専任技術者として技術士を配置(一部)
 3(特定)事業会社の事業登録要件対応
◇社会インフラ系事業部門:
 1入札参加資格要件(技術士のリストアップ)・照査技術者配置要求への対応(一部)
 2「品確法」対応の総合評価方式等における配置技術者の評価対応(一部)
 3建設業法の監理技術者資格取得対応で、技術士は講習受講により(複数の)資格取得
 4海外ビジネス展開で名刺肩書きの“PE.J”の有効活用(PE、CE等が主体の国以外)

(4)技術士の社内評価

 企業内では、技術士は以下の観点で評価されている。

  1. 技術士資格取得は、技術者として研鑽・努力した証しであり、自己技術レベルの客観的認定
  2. 技術士は課題解決の提案型(ソリューション提供)ビジネスにマッチした資格
  3. 技術士法の「技術士等の義務」(3大義務2責務)は、技術者倫理を担保するうえで有効
  4. 技術士の英文名称(PE.J)は、東南アジア等の海外ビジネスで有効な事例も
  5. 実績や経験の積み重ねがものを言う社会インフラ系の事業分野では、技術者としての実力は技術士個々人の資質・技量に依存

(5)技術士資格取得に当たって、ベテラン技術者にとってのハードル

 技術士第二次試験受験には第一次試験に合格(又はJABEEの認定コース修了)していることが必須要件であり、実力あるベテラン技術者にとっては、このハードルが意外と高く、資格取得が難しいという現実がある。

2.3 企業内技術者の課題

 2.1項記載の「技術者を巡る現状」を踏まえた、企業(技術者)の課題は以下のとおりである。

  1. ベテラン技術者の高齢化・退職に伴い失われやすい専門技術力・ノウハウの継承
  2. 会社の看板に依存しない、自律且つ自立できる、技術力のある技術者の育成
  3. イノベーション展開ができる技術者の育成・確保
  4. 課題設定・課題解決(ソリューション提供)ができる技術者の育成・確保
  5. グローバル ビジネス対応ができる技術者の育成・確保
  6. 技術経営ができるセンスをもつ技術者の育成・確保
  7. 社会インフラ系以外の事業部門における技術士資格の取得者拡大
  8. 建設業法の監理技術者資格取得対応で技術士資格取得

2.4 企業内技術士の課題

 技術者としての2.3項の「企業内技術者の課題」に加え、企業内技術士の課題は以下のとおりである。

  1. 社会インフラ系以外の事業部門における、技術士資格の企業内での認知度向上
  2. 技術士資格保持者の企業内外での有効活用
     官公庁・自治体等での活用分野が広がると、技術士有効活用が図れ、活躍の場が広がる。
  3. CPD(継続研鑽)による資質向上とCPD時間の確保
     資質向上に資すべく企業内研修・教育を充実させ対応しているが、CPDの企業内研修の申請可能時間(上限値)が以前より厳しくなり、外部研修・講習等が増える可能性がある。多忙な業務遂行の中でのCPD時間の確保が課題である。
  4. 高度な技術者に期待される役割も踏まえ、総合技術監理部門の技術士資格も取得

3.企業における高度な技術者に期待される役割

 倫理・公益の確保、自律且つ自立できることは当然として、事業分野にも依るが、高度な技術者に期待される役割は以下の事項と考える。

  1. 不断のイノベーションや先進的な研究開発を図り、ビジネス展開ができる。
  2. 関係事業・業務に関わる技術力の向上と技術基盤の整備が図れる。
  3. 関係する学会・協会等の活動に積極的に参画し、これらの活動をリードできる。
  4. 技術力・マネジメント力等と併せ幅広い教養を身に付け、企業内のみならず、顧客・学会・協会等社会から信頼される技術者となる。
  5. グローバル ビジネス対応ができる。
  6. IEC・ISO・ITU等の国際規格制定活動に参画し、戦略的に活動展開ができる。
  7. 経営的視点を持ち、技術開発・技術展開・新規事業展開等ができる。

4.提言

4.1 産業構造と技術者・技術士との間のミスマッチ対応

 現在のグローバル ビジネス環境・ICT環境では、技術者は専門分野の技術力のみならず、周辺技術・関係法令・国際規格・異文化知識・各種マネジメント力・語学力等多様な技量・知識が求められる時代であり、技術士制度においては試験制度・CPD(継続研鑽)の配慮等、また前述の技量・知識等を反映した試験問題の配慮等、今後検討する必要があると考える。
1資格を保有していない優秀なベテラン技術者に対する受験要件の緩和、受験機会の増加
  試験制度については、優秀なベテラン技術者がその実力に相応しい技術士資格を適切に取得できるように、受験要件の緩和(*)や受験機会増加(*)等の配慮の検討も必要であろう。
2技術部門・選択科目の統廃合・追加の検討
  技術部門については、国の科学技術ビジョン・科学技術政策・施策等も踏まえ、受験者の少ない技術部門・選択科目の統廃合、ニーズのある技術部門・選択科目の追加等を検討する。
3CPD(継続研鑽)時間の企業内研修時間の上限設定見直し、及び/又はCPD時間の緩和
  CPD時間については、企業内研修・教育の取り組み姿勢の実態を考慮して企業内研修時間の上限設定見直し、及び/又は海外の国際的資格制度も参考にCPD時間の緩和(例.20CPD・30CPD時間、特定条件を満たす場合免除)を検討しても良いのではないかと考える。

4.2 技術士資格の国際的同等性や通用性に対する認識

 グローバル ビジネス時代を迎え、技術士資格制度はその意図・目的とするところを再確認したうえで、国際的資格制度との同等性・整合性確保の観点での検討が必要であると考える。
 現在の技術士制度は、国際的同等性を確保するために、APECエンジニア制度の資格要件対応等で技術士法が2000年に改正され、併せて、技術士の英文名称も“Consulting Engineer”から “Professional Engineer.Japan”に改称された。また、EMF国際エンジニアの対象となる資格であることから、表面的には国際的同等性は確保していることになる。しかし、同等性・通用性については、実態的には以下に述べるような相違がある。
1CPD(継続研鑽)登録・運用の改善
  CPDに相当するものは、海外の資格制度では資格更新要件になっている。然るに、わが国では現在は責務であり、努力目標的な位置づけである。今後、実質的な「資質向上」に資するように、先ずはCPD登録の勧奨、(CPD認定会員を除き)CPD未達者に警告アナウンス、CPDの常態化、そして将来的には登録義務付け等も視野に、CPD運用の改善を考える。
2社会で活用・活躍できる若い年代で資格取得が可能な配慮
  海外の国際的技術者資格制度は大学における厳しい理工学教育と密接な関係をもっており、若い年代で資格を取得し、それを社会で活用するスタンスである。他方、わが国では、技術士合格率(平成23年度の例) は30代・40代・50代と大差なく、合格平均年齢は約42歳であり、実態として実績・経験の積み重ねが要求され る業務に適したようになっている。有用な資格制度であるから、社会で活用・活躍できる若い年代で資格を取 得できるような配慮も必要である。
 しかし、未資格の・実力あるベテラン技術者と若手技術士に実力のギャップがあるのも現実である。国際的技術者資格制度との同等性・整合性確保の観点も踏まえた議論が必要である。
3技術士資格の国際的通用性は以前より増したが、途上
  技術士の英文名称の変更により、東南アジア等の海外での通用性は以前より増したが、PEやCEを技術者資格とする国々においては、その通用性には未だ疑問のあるところである。

4.3 技術士資格の社会での評価向上と活用促進

1公的な事業・業務分野での活用範囲の拡大
  3項に記載の「高度な技術者に期待される役割」は大きい。これらの役割は企業内の研修・教育等でも確保できるように対応するも、これを社会での評価に繋げ、技術士の活用促進に結び付けるには、先ずは公的な事業・業務分野で活用範囲を広げることが有効であると考える。
2企業における活用促進
  企業においては、企業内における技術士の認知度の更なる向上を図り、デザインレビューでの第三者評価者や顧客提出資料の照査技術者として位置付ける等の仕組みも検討する。

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科学技術・学術政策局基盤政策課

(科学技術・学術政策局基盤政策課)

-- 登録:平成24年11月 --