3.地震・火山噴火の災害誘因予測のための研究

 災害の発生は,地震・火山噴火という自然現象が引き起こす地震動,津波,火山噴出物,斜面崩壊などの災害誘因が,自然や社会に潜在的に存在する脆弱性などの災害素因に働きかけることで引き起こされる。そのため,災害誘因を正確に予測することは,災害の軽減にとって重要である。災害誘因を事前に評価する手法及び大地震による災害リスク評価手法の高度化を進める。災害誘因のうち,地震動,津波,火山噴出物については発生後即時的かつ高精度に予測する手法を高度化する。災害誘因情報が情報の受け手側に配慮した災害情報として発信されない場合には,必ずしも防災対策に効果的に活用されない場合があるため,災害誘因情報を効果的に発信するために必要な研究を開始する。

(1)地震・火山噴火の災害誘因の事前評価手法の高度化

 断層運動の不確定性や,破壊の伝播効果などによる強震動の特性,断層のずれが地表に到達する場合に生成される強震動の特徴などを従来の強震動評価手法に取り込むことで,強震動の事前評価手法の高度化を行う。過去の巨大津波の知見とプレート境界の固着状態に関する情報を統合することで,津波の事前予測手法の高度化を進める。また,強震動,津波,地滑りなどに起因する災害リスクの評価手法の高度化に関する研究を実施する。地震動や火山活動に伴い発生する斜面崩壊については,地球物理的観測や地質調査,数値シミュレーション等により,その発生ポテンシャルの評価手法を開発する。さらに,噴火に先行する事象に基づいて火砕流の発生を事前に予測する手法や,火山灰堆積分布量から火山泥流(土石流)発生ポテンシャルを評価する手法を開発する。

ア.強震動の事前評価手法

○大学は,短周期から長周期までの広帯域強震動予測の高度化のために,強震動の成因と影響を強震観測データに基づき把握し,プレート境界地震や地殻内・プレート内地震を対象に,断層運動の不確定性を考慮した震源断層モデル化手法に関する研究を行う。同時に,強震動の事前評価に使用されている既往の地下構造モデルに対して,中~大規模地震の実地震記録を対象とした地震動シミュレーションを行い,地下構造モデルの妥当性の検証と改善を進める。
○大学は,兵庫県南部地震時に確認された破壊伝播による大振幅地震波や,熊本地震時に観測された地震断層近傍における特異な長周期パルス波など,建物被害に直結する震源域での強震動特性を理解することで,将来発生する強震動の評価手法の高度化に向けた研究を進める。
○大学は,地表地震断層の滑り量・形状と浅部地盤構造を調査し,強震動の分布と被害分布との対応関係を明らかにすることで,断層のずれが地表に到達する場合の強震動生成モデルに関する研究を実施する。


イ.津波の事前評価手法

○大学,産業技術総合研究所及び海洋研究開発機構は,津波堆積物等に基づく過去の超巨大津波の知見とプレート境界の固着状態を統合した津波の事前評価手法を開発する。

ウ.大地震による災害リスク評価手法

○大学及び海洋研究開発機構は,震源・深部地下構造・浅部地盤構造・強震動予測・構造物被害・リスク評価・情報伝達までを一貫して扱った研究を推進し,地滑り,津波,火災などの二次災害も含めた災害リスク評価手法の高度化に関する研究を行う。また,断層運動の不確定性を考慮することで,評価結果に幅をもたせた災害リスク評価手法を確立する。
○大学は,人口密度が高く災害リスク評価において脆弱と捉えられている堆積平野・堆積盆地などを対象に,地震災害の素因と誘因の関係や災害発生機構を多面的に分析し,災害を軽減するための要件を明らかにする。
○大学は,地震被害想定の不確実性を低減するために,震源断層モデルや地下構造モデルの精緻化,地域固有の構造物被害・リスク評価の高度化を地域の自治体と連携して進める。また,想定結果を広く住民に伝える手法についても地域の自治体と共に検討する。
○北海道立総合研究機構は,積雪寒冷や暗夜条件下での津波による最大リスク評価手法に加えて,地域の人口や土地利用の経年変化を考慮した津波防災対策効果の評価手法を開発する。また,モデル地域において,住民や自治体と共に津波避難計画や津波防災地域づくり計画の作成に参画する。

エ.地震動や火山活動による斜面崩壊の事前評価手法

○大学は,大規模数値シミュレーションを活用し,短周期から長周期までの広帯域強震動による斜面崩壊等の自然環境への影響の事前評価手法を検討する。
○大学は,火山灰層内部に滑り面を持つ斜面崩壊が近年の地震で多く見られたことを踏まえ,既往崩壊地及び近傍未崩壊斜面において,物理探査,掘削試料の土質試験,掘削坑内での物理観測を実施する。
○大学は,地震動や火山活動などによる地滑り現象と地形・地質的要因の関連を,現地調査や室内試験,地震動観測などに基づいて明らかにし,地震動に伴う地滑り発生ポテンシャル評価と事前評価手法の高度化に関する研究を行う。

オ.火山噴出物による災害誘因の事前評価手法

○大学は,桜島等を対象として,噴火に前駆する地震及び地盤変動から火砕流発生予測,ならびにその規模を事前に評価する手法を開発する。また,遠隔観測及び地上観測から火山灰堆積分布量を推定して火山泥流(土石流)発生ポテンシャルを評価する手法を構築する。

(2)地震・火山噴火の災害誘因の即時予測手法の高度化

 大地震によって引き起こされる強震動・津波・長周期地震動などを,地震・測地・津波等の陸域及び海域における単独もしくは複数の観測量に基づいて,即時的かつ高精度に推定する手法を開発する。さらに,地震・火山噴火による斜面崩壊や山体崩壊による津波の即時予測手法の開発に向けた研究に着手する。また,火山の遠隔観測及び地上観測により,火山灰・火砕流・溶岩流・火山泥流・土石流を即時的に予測する技術を開発する。

ア.地震動の即時予測手法

○大学は,高密度に配置された自治体震度計のデータを用いて地震動即時予測手法を高度化し,防災実務での利活用方法について検討する。
○気象庁は,地震動の実況把握から地震動予測を行う時間発展型の手法の高度化を図り,強震動及び長周期地震動の即時予測の迅速化や精度向上のための研究を行う。

イ.津波の即時予測手法

○大学は,リアルタイムGNSSを用いて,断層滑りの不確実性を定量的に評価する断層即時推定手法の開発を行い,津波即時推定手法の高度化を進める。
○大学は,震源過程など地震学的描像を必要としないデータ同化手法に基づく津波伝播の状況把握から,地震やそれ以外の災害誘因による津波を,可能な限り即時的かつ高精度に推定する手法の開発を行う。
○気象庁及び海洋研究開発機構は,津波波源推定方法や海底・沿岸地形等のモデルの改良により,津波の発生・伝播・減衰に至る全過程を再現する津波モデルの高精度化を図るとともに,津波の実況監視に寄与するため,津波の発生・伝播の状況を迅速に把握する手法の開発を進める。

ウ.火山噴出物による災害誘因の即時予測手法

○大学は,火山噴火に伴う溶岩流出や火山灰噴出などの地表現象を即時的に把握し,事象分岐判断に必要となる噴出量・噴出率などの物理パラメータを迅速かつ高精度に推定するための手法開発を行う。噴火が切迫している火山については,噴火現象の即時把握や噴出物データの迅速な取得を可能とする機動的観測手法を検討し,実際の噴火発生の際には適用を試みる。
○大学は,桜島等を対象として,火山地形と局所的気象要素を考慮することで,火山灰の堆積分布をより迅速かつ高精度に予測する手法を開発する。また,河川近傍の地球物理・水文観測に基づき,土石流量を即時的に把握する技術を開発する。
○気象庁は,気象レーダーや衛星観測の高度利用に基づいて,大気中への火山灰供給源モデルの改善や火山灰輸送予測の精度向上,噴煙の構造や火山灰などの物理パラメータを活用した火山灰データ同化システムと移流拡散モデルに基づく解析・予報サイクルのシステム導入のための研究を行う。
○防災科学技術研究所は,関係機関と協力し,噴火時の火山灰分布・噴出量を現地調査により迅速に把握し,降灰の各種インフラへの影響に関する実験結果等と組み合わせることで,事前評価と即時把握結果を災害情報として活用する方策の研究を実施する。

(3)地震・火山噴火の災害誘因予測を災害情報につなげる研究

 大地震や火山噴火の予測結果は確率で表されるが,往々にして誤差が大きく数値自体が小さいためにリスクが小さいという印象を与えがちである。また,大地震に先行する地殻活動の発現など,大地震の発生可能性が相対的に高まっていることを示す情報が得られたとしても,災害発生の切迫性を社会に的確に伝える方法はいまだ確立していない。一方,噴火の危険性が十分に理解されないまま火口や噴気地帯に観光客が近付くことにより,小規模な噴火が大きな被害に繋がりかねない観光地も少なくない。本質的に不確実性を含む災害誘因予測が,気象庁の防災情報等として適切に伝えられることで少しでも災害の軽減に生かされるよう,受け手側に配慮した地震・火山噴火情報のあり方を検討すると共に,防災担当者による火山噴火情報の活用を支援する方法に関する研究も進める。
○大学は,地震・火山噴火の予測情報に対する,住民・企業・地方公共団体などのユーザのニーズや活用実態の調査を通じて,被害軽減に繋がる地震・火山噴火情報のあり方に関する研究を行う。
○大学は,火山噴火活動について,火山噴火が切迫した段階や噴火中に刻々と変化する地殻変動をリアルタイムで把握するための自動処理システムを開発し,そこから得られる情報を準リアルタイム火山情報表示システムに組み込むための開発研究を行う。また,これらの情報を,地元の自治体や防災担当者が活用するための方策を検討する。
○大学は,火山噴火に関連して発生する土石流について,事前評価と即時予測結果を災害情報として活用する方策を検討する。さらに,災害情報に基づく避難行動や災害復旧に関する意思決定を支援するシステムを試作し,地域への効果的な情報伝達方法を検討する。

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研究開発局地震・防災研究課

(研究開発局地震・防災研究課)