第7次火山噴火予知計画の実施状況等のレビューについて(報告)【要旨】

平成19年1月15日

 我が国の火山噴火予知に関する研究は、平成15年7月に科学技術・学術審議会が建議した「第7次火山噴火予知計画の推進について」(以下「第7次計画」という。)により、平成16~20年度までの5か年計画として推進されている。
 108の活火山が分布する日本では、昭和47年10月に桜島火山の噴火活動が激化したことを契機に、火山災害対策に関しての社会的要請が急速に高まったことから、当時の測地学審議会(現科学技術・学術審議会測地学分科会)が第1次火山噴火予知計画として建議して以来、5年ごとに計画の見直しが行われている。
 本分科会では、次期計画の策定に向けて、第7次計画に係る観測研究の実施状況、成果を把握するとともに、今後の課題について以下のとおり取りまとめた。

1 前書き

○ この間、大災害を伴う噴火は生じていないが、2004年には浅間山で21年ぶりのマグマ噴火が発生。また、2006年には雌阿寒岳で小噴火が発生し、桜島では58年ぶりに南岳火口外からの噴火を観測。三宅島では2000年噴火以降、火山ガスの大量放出と時折火山性微動を伴う小噴火が継続発生。
○ これらの噴火では事前に兆候をとらえ、噴火開始後の継続的な観測により活動状況を把握し、防災に寄与。特に三宅島では、火山ガスの減少傾向を観測し、島民の避難解除判断に貢献。
○ しかし、いずれの噴火も、噴火開始直前の火山情報は発信したものの、明確な噴火時期の予測には至らず、噴火推移の予測も含め、火山噴火予知には依然として解決すべき課題が多い。

2 実施状況と成果

レビューにあたっては、第7次計画の主な項目ごとに次のとおり取りまとめた。

1.火山観測研究の強化

○ 機動的な連続観測や関係機関からの観測データを気象庁に集約することによって、火山監視の強化が着実に進展。
○ 全国に展開された電子基準点による地殻活動の解析はリアルタイム化のめどが立ちつつある。浅間山噴火では、地下へのマグマ貫入イベントの把握に成功するなど、火山活動評価の重要な手法であることを確認。
○ 広帯域地震計、傾斜計、GPS、重力、火山ガスなど多項目の観測網により、噴火に至る長期的な活動の変化や噴火直前の前駆的変動を把握できることを浅間山噴火などにより確認。

2.火山噴火予知高度化のための基礎研究の推進

○ 複数の火山で、火山流体の移動を物理的観測による把握が可能になった。地震や地殻変動の定常的観測データ等に基づいたマグマ供給系・熱水系のモデル化が進展した火山では、観測データから噴火に先立つ流体移動をとらえることも近い将来不可能ではない。
○ 掘削試料や噴出物の解析及び火山ガス組成測定により、マグマの上昇・脱ガスなどの噴火過程に関する理解が進展。
○ 人工地震探査を実施した火山では、浅部地震波速度構造が明らかになり、震源の決定精度が向上。人工地震と自然地震観測の併用により、深部から浅部にかけての地震波速度構造を把握。また、一部の火山では、地震波速度構造と電気比抵抗構造のデータ照合により火山直下の熱水等の流体分布を把握。
○ 組織的な地質調査、系統的な岩石の化学分析や年代測定が実施された火山では、長期予測と噴火ポテンシャル評価の基礎となる新たな知見を得た。但し、マグマ供給系モデルや経験則に基づき、中期的な観点から噴火の可能性を評価できるのは一部の活火山のみ。
○ 人工衛星や航空機によるリモートセンシング技術が、地殻変動観測、地磁気観測、熱やガス測定に有効であることが実証。

3.火山噴火予知体制の整備

○ 火山活動度レベルの導入によって火山情報が分かりやすくなり、登山規制等の実施を円滑にする上で効果があることが2004年浅間山噴火でも実証。
○ 「日本の火山ハザードマップ集」が刊行・配付され、また、噴出物の年代や化学分析値のデータベースが整備されつつあるなど、火山防災のための基礎資料が充実。
○ 地震予知観測網や基盤的調査観測網などの広域地震観測データを用いた地震波速度構造の研究により、島弧火山直下マントルでのマグマの移動・集積について重要な知見を得た。

3 今後の課題

1.火山観測研究の強化

○ 常時監視火山は40火山以下であり、さらに監視体制の十分でない火山も多いため、当面は中期的に監視すべき火山を選定し、それらの火山の重点的な監視体制の強化が必要。
○ 電子基準点が火山活動監視に有効であるため、設置されていない活火山周辺への新設も考慮し、既設の電子基準点の維持及び適切な更新が必要。
○ 広帯域地震計や傾斜計などによる観測が、噴火に前駆する現象把握などに有効であるため、大学等の観測網の更なる充実を図り、観測研究を強化することが必要。

2.火山噴火予知高度化のための基礎研究の推進

○ 過去に大規模噴火発生した静穏期の長い火山やカルデラでも、最近の噴火例からも災害が発生する可能性があるため、ボーリングやトレンチ調査を含む総合的な調査研究が必要。
○ 噴火ポテンシャル評価が可能な火山の数を増やすため、常時観測体制の整備と併せて、集中総合観測や火山体構造探査等の組織的な観測研究を実施することが必要。
○ マグマ溜りを含む深部の解像度を上げるため、自然地震の高密度観測に加え、人工震源の密度を格段に上げた反射法を活用するなど、更なる解析法の工夫や技術開発が不可欠。
○ 有効な地殻変動データを得るため、運用が開始された陸域観測技術衛星「だいち」や干渉合成開口レーダーとGPSデータの併用などによる観測研究手法の開発が重要。

3.火山噴火予知体制の整備

○ 大学においては研究者や技術者の増員が困難な状況にあり、火山噴火予知体制の機能強化は実現できていない。
○ 火山活動度レベルが防災対応と十分リンクしているとは言えず、火山情報については更なる検討が必要。
○ 火山活動の中長期的評価や活動の推移予測のためには、上部マントル内のマグマの火山浅部への移動経路の位置や形態について、地震の基盤的調査観測網も活用して定量的に明らかにすることが必要。
○ 地震の基盤的調査観測網については、活火山の近くには配置されていないことから、火山活動監視のための観測点については、別途、拡充強化を図ることが必要。

4 まとめ

○ 火山噴火予知に関する観測研究は順調に進展。例えば、富士山では、集中総合観測と火山体構造探査の連携などにより、浅部から深部に至る火山体の構造や詳細な火山活動史を解明。
また、三宅島の活動観測を通し、種々の新たな火山ガスの観測手法を開発。浅間山噴火では、多項目の観測により、噴火に至る長期的な活動の変化や噴火直前の前駆的変動を把握。
○ しかし、火山噴火予知の実用化は、研究者の増員を含めた観測研究の強化や、観測技術の改善など新たな投資がなければ実現不可能。現実には、国立研究機関や国立大学の法人化にともない、運営費交付金の年次的な削減、定常的な人件費削減などが進んでいることから、企業等からの外部資金の獲得が困難な火山観測研究の分野では、近い将来、観測研究の縮小が危惧される。火山噴火予知計画で整備された大学の観測網やデータ伝送装置の老朽化は著しく、更新のめども立たず、観測研究の強化は困難。
○ 一方、中央防災会議で火山情報が防災対策の起点として明確に位置付けられるなど、より高度で正確な火山情報への期待が増大。この情報を発信するためには、観測研究を強化し基礎研究の推進により火山噴火予知研究の更なる高度化が必要。
○ また、気象庁では、これまで観測点を整備するとともに、大学等から高品位データの提供を受けて、監視観測の強化を図っているが、今後も、大学における常時連続観測の維持・強化が困難な状況が継続した場合、現在の火山監視能力のレベル維持は困難。
○ このように大学等の法人化による火山噴火予知体制の弱体化が予想される状況では、監視観測を強化し、観測研究を含む基礎研究を推進するためには、観測やそれを取り巻く火山噴火予知体制の組織的・抜本的見直しが不可欠。今後はこれらの実現のため、より具体的な検討が必要。

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