1.前書き

我が国は、108の活火山が分布する世界有数の火山国である。先史には一部の地域の縄文文化を壊滅的に破壊するほどの巨大噴火が発生したこともあり、有史以来も度重なる噴火で、しばしば地域社会は甚大な災害を被り、多数の人命が失われてきた。
火山噴火予知に関する研究は、我が国に近代科学が導入された明治以降、研究者の関心事として推進されてきた。1972年(昭和47年)10月から桜島火山の噴火活動が激化したことなどを契機に、火山噴火予知についての社会的要請が急速に高まったことから、測地学審議会(現科学技術・学術審議会測地学分科会)は、昭和48年6月に内閣総理大臣及び関係大臣に対して「火山噴火予知計画の推進について」の建議を行った。これを受けて、昭和49年度から火山噴火予知計画が実施に移され、火山噴火予知連絡会が設置された。その後、同審議会で5年ごとに計画が策定され、実施されてきた。
平成15年には、科学技術・学術審議会が第7次計画を建議しており、平成16年~20年度の5か年にわたる計画として、現在なお進行中である。
これまで、雌阿寒岳、有珠山、浅間山、富士山、阿蘇山、桜島、口永良部島等の火山について本計画の実施によって進められた観測研究により、火山噴火予知に関する貴重な基礎資料が得られた。1983年(昭和58年)以来21年ぶりのマグマ噴火が発生した浅間山では、この噴火を機に、地下深部でのマグマの注入と地殻変動及び地震活動との関係やマグマの火口への上昇に伴う重力変化と地殻変動が明確にとらえられるなど、噴火前兆現象やマグマの挙動の把握に関して著しい進展が見られた。しかし、噴火開始直前に活動の高まりを把握して火山情報を発信したものの、明確な噴火時期の予測に至らないまま噴火が開始したほか、その後の火山活動の推移予測などについても、なお解決すべき多くの課題が残されている。2000年(平成12年)に始まる三宅島噴火では世界にも類を見ない多量の二酸化硫黄(SO2)ガスの長期噴出が継続し、住民は長期にわたる島外避難を余儀なくされた。その後の継続的な観測により、2004年(平成16年)ごろには最盛期に比べ大幅に減少したことを提示し、2005年(平成17年)2月に三宅島全住民に対する避難解除に役立てることができた。しかし、山頂カルデラの陥没などマグマ供給系が大きく変化したことから、中長期的な活動の推移の予測に関しては、解明すべき多くの課題が残っている。
この計画期間中はこれまでのところ噴火発生の事例も比較的少なく、住民避難などにつながるような社会的影響の大きな噴火は発生していない。しかし、我が国の火山活動の頻度からするとこのような静穏な状態が長く続くことは期待できない。これまでも活発な火山活動を続けてきた桜島では、姶良カルデラへのマグマ蓄積が着実に継続している中、58年ぶりに南岳火口の外側の昭和火口で噴火が発生するなど、新たな活動への展開の可能性もあり、住民にとって噴火推移の予測は重要な関心事である。また、住民の帰島が実現した三宅島でも、時折、小噴火が発生しており、火山ガスの観測を含めた火山活動状況の把握は依然として重要である。
このように噴火発生時期の予測だけでなく、噴火の推移も含めた火山噴火予知の実用化や火山噴火予知連絡会についての社会的要請は依然として強く、観測研究体制の強化は緊急の課題である。一方、第6次計画中の地質調査所、防災科学技術研究所など国立研究機関の独立行政法人化に続いて、基礎研究の重要な役割を担ってきた国立大学の法人化が行われ、火山噴火予知研究体制に大きな変化が生じつつある。
このような状況において、これまでの火山噴火予知計画による成果等を顧みつつ、第7次火山噴火予知計画の実施状況及び成果等を取りまとめ、今後に残された課題を検討することとした。

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