4.実施状況、成果及び今後の展望 4.計画推進のための体制の整備

4.1.実施状況及び成果

(1)計画を一層効果的に推進する体制の整備

 平成16年度から、測地学分科会地震部会の下に、関係各機関からの委員で構成される観測研究計画推進委員会を設置し、研究上の連携を図っている。同委員会では、関係各機関における各年度の実施計画及び研究成果を取りまとめ、研究の評価を実施している。各年度の実施計画及び研究成果は、報告書としてまとめられ、文部科学省のホームページで公開されている。研究成果に係る報告書は、各機関の個別の成果をまとめた機関別報告書に加え、建議の計画に沿った成果を分かりやすくまとめた項目別報告書が作成されており、研究の評価だけでなく、国民に向けた研究成果の広報にも役立っている。また、成果を広く公開して議論をするため、関係各機関による地震予知研究の年次報告シンポジウムを毎年度末に開催している。
 一方、国立大学法人では、全国共同利用研究所である東京大学地震研究所に設置した地震予知研究協議会を中心として研究計画や予算を策定し、研究上の連携を強化している。同協議会には企画部が常設され、地震研究所の専任教員のほか、地震研究所に数年の任期で採用した教員及び客員教員を加え、全国的視野からの運営を行っている。さらに、同協議会に設置されている計画推進部会には、大学以外にも独立行政法人等の研究機関に委員を委嘱し、研究者レベルでの交流と研究推進の役割を果たしている。
 平成16年度からの国立大学の法人化後、各大学では、成果の積極的な公表を図るなど法人化の良い面が現れている。しかし、独立性の増した各大学法人であっても、連携して建議の研究計画を遂行する必要があり、そのための根拠として関係大学の部局間で協定を締結した。当面、特別教育研究経費として地震予知事業費は確保されているものの、各大学の観測施設経費は、各大学の運営費交付金の内数となり、大学内での予算削減が進みつつある。また、特別設備費が交付されないため、各大学の観測器機の老朽化・陳腐化が進み深刻な事態を迎えつつある。さらに、人員の削減も大きな問題となっている。

(2)地震調査研究推進本部との役割分担

 推進本部の役割は、政府として地震調査研究に関する総合的かつ基本的施策の立案、総合的調査観測計画の策定、地震活動の現状や将来に関する総合的な評価、評価結果の広報等を行うことにあり、地震現象の理解という基礎的な要素と被害の軽減を目指す防災的な要素の両面を持ち合わせている。一方、本計画では、ボトムアップ型の検討に基づいて地震発生に至る一連の過程を理解し、それを観測に基づいてモデル化し、定量的な地震発生予測の確度を逐次高めていくことを基本方針として、地震予知のための観測研究を組織的に進めることである。
 今期間中に、推進本部の基盤的調査観測計画により高感度地震計、広帯域地震計、GPS、強震計、活断層調査結果などの地震関係データの流通や処理、公開が更に進んだ。これらは、世界に類を見ない充実した観測網や調査結果であり、アクセスが容易になったことで、地震発生に至る一連の過程の理解やそれに基づくモデル化など、本計画の推進に大いに活用されている。この中で、大学の高感度地震観測については、基盤的調査観測との調和を図りながら、臨時的・機動的な観測へと重点を移しつつあり、これにより、大学における研究の高度化が進んでいる。
 また、本計画で得られた、プレート境界でのゆっくり滑りや深部低周波微動・地震などに関する新たな知見、さらに大地震直後の種々の解析結果は、逐次、推進本部に報告され、地震活動を評価する際や、地震調査・研究に関する政策決定の重要な資料となっている。
 なお、平成18年7月に推進本部から出された“「地震調査研究の推進について -地震に関する観測、測量、調査及び研究の推進についての総合的かつ基本的な施策-」の評価について”では、本計画と推進本部及び地震予知連絡会に関して、「これらの実態をよく見れば、相互の役割分担及び連携はなされているのであるが、外部からは、そのようなことがわかりにくい状況にある。」とまとめられているが、本計画と推進本部との役割の違いは前述のとおりであり、また、地震予知連絡会との関係は(3)に述べるとおりである。

(3)情報交換等の場としての地震予知連絡会の充実

 本計画にかかわる観測研究機関相互の連携のため、地震予知連絡会は、大学及び関係機関の委員によって地震予知研究に関する観測・研究情報を交換し、学術的に深く掘り下げた意見交換を定期的に行っている。このような学術的な意見交換は、新しい学術成果を地震防災に役立たせるためにも重要な役割を果たしている。特に最近は、その時々に注目されている地震予知観測研究に関する課題を選定して、掘り下げた議論をする時間が設けられており、この5年間で20件近くの話題に関する報告と討論を実施し、その充実が図られている。地震予知連絡会の議事は公開されており、議論のために提出された資料が地震予知連絡会報として刊行され、ホームページ上でも閲覧可能となるなど、情報を社会に発信することにも力が注がれている。

(4)人材の養成と確保

 大学では、大学院学生及び学部学生の教育を行い後継研究者と技術者の育成を行い、関係機関や民間企業等へ人材を供給している。さらに、高校生や学部学生に対し、研究所、関係センター、大学院研究科、学部研究室等の公開や出張授業を行うなど積極的な人材発掘を図っている。各機関は、地震関連の教育を受けた人材の採用や、職員に対する研修を実施するなど、観測研究に従事する人材の養成・確保に努めている。

(5)火山噴火予知研究等との連携

 2000年(平成12年)の三宅島・神津島付近の活動のように、活火山周辺では顕著な地震活動が見られるなど、地震活動と火山活動は相互に密接に関連した地殻現象である。したがって、地殻活動を総合的に把握し予測の確度を高める上で、地震予知研究と火山噴火予知研究の連携が不可欠である。
 本計画で得られた火山地域近傍での地震活動、地震波速度や異方性構造、地殻変動の解析とその結果を火山学会や全国共同利用研究所研究集会等で発表し、また火山噴火予知連絡会に提供するなど、火山噴火予知の研究者との連携強化を図っている。また、組織再編などを通して、地震と火山の研究分野の連携の強化が一層図られた。例えば、大学における地震予知研究と火山噴火予知研究の更なる連携を推進するため、地震予知研究協議会と火山噴火予知研究協議会を統合し、地震・火山噴火予知研究協議会が発足した。これにより、地震分野と火山分野の研究者が研究推進について議論する機会が増えている。
 さらに、工学や社会科学など関連学問分野との連携を進め、各地域の地震対策協議会などに参加することにより、防災対策など社会的要請に応じている。

(6)国際協力の推進

 今期間では、2003年イラン・バム地震(マグニチュード6.6:米国地質調査所による)、2004年インドネシア・スマトラ島沖大地震(マグニチュード9.0:米国地質調査所による)、2005年パキスタン北部地震(マグニチュード7.6:米国地質調査所による)、2006年インドネシア・ジャワ島ジョグジャカルタ付近の地震(マグニチュード6.3:米国地質調査所による)など、アジアでのプレート境界域周辺の大きな被害を伴う大地震がいくつも発生した。これらの地震に関して、科学研究費補助金(特別研究促進費)や科学技術振興調整費での緊急研究等が行われ、イラン、インド、インドネシア、パキスタン等の関係国との間で、観測データ交換、共同研究、研究交流の動きが活発化した。地球観測サミットの場では国際地球観測計画(GEOSS)の一環としてアジア太平洋地域における地震・地殻活動監視を目的とした観測網整備のために我が国が貢献する意志が示された。国全体としての組織化された国際協力体制が実現するには至っていないが、個別の課題においては、それぞれの大学、観測研究機関において広く共同研究が推進され、シンポジウム等での交流も行われた。
 地震観測データの交換については、気象庁により国際地震センター(ISC)、米国地質調査所(USGS)、包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)、韓国気象庁(KMA)との協力が行われており、防災科学技術研究所では、韓国気象庁、韓国地質資源研究院(KIGAM)、インドネシア気象庁(BMG)及び台湾の中央研究院地球科学研究所(IES)とのデータ交換も行っている。海洋底掘削調査に関しては、海洋研究開発機構が地殻活動・沈み込み帯のダイナミクス等の解明を目的とした統合国際深海掘削計画(IODP)を推進している。地殻活動監視については、国土地理院が国連アジア太平洋地域地図会議に参加している諸国との協力を進めている。
 大学においては、先進諸国との連携強化による地震・火山研究の国際的な展開と、アジア・太平洋地域諸国の研究レベルの向上に資するために、全国共同利用である東京大学地震研究所に、国際地震・火山研究推進室を整備し、地震・火山に関する国際的調査研究が進められている。
 人材育成の国際協力については、ODAベースによる地震研究のための研修コース等が実施されている。

(7)研究成果の社会への効果的伝達

 観測研究計画推進委員会は、各年度の実施計画及び研究成果を報告書としてまとめ、文部科学省のホームページに公開している。また、近年のインターネット環境の劇的な向上に対応し、ほとんどの機関がホームページによる観測結果や成果の公表、地震予知研究成果や科学的な知見に関する情報発信を行なっている。講演会・出前講座などを通じた普及活動も積極的に実施された。また、緊急時のみならず、平常時におけるマスメディアへの情報提供など地震防災の面でも積極的な活動が行われた。大学においてもアウトリーチのための組織を設置するなど、組織的な対応がなされている。
 このような、直接的な情報発信以外にも、政府の各種委員会等を通じて研究成果が社会に活かされている。例えば、地震予知の最新の成果は、中央防災会議の各専門委員会に取り入れられ、防災対策に生かされている。東海地方の長期的及び短期的ゆっくり滑りについては、地震防災対策強化地域判定会での審議に貢献し、東海地震予測精度の向上に寄与している。また、千島海溝沿いに発生した過去の巨大地震の発見は、北海道の津波対策に取り入れられている。このように研究成果は、直接的・間接的に社会に伝えられている。

4.2.今後の展望

(1)計画を一層効果的に推進する体制の整備

 観測研究計画推進委員会は、設置後3年目ではあるが、各機関の密接な協力・連携を図るという機能を十分に果たしている。このような機能は長期継続することにより、次第に綿密な連携がなされていくため、適切な委員の人選に留意しつつ、今後も継続的に運営していく必要がある。
 国立大学法人化後も、部局間協定などにより連携は強化されたものの、予算や人員面では厳しい状態が続いている。各大学内での予算や技術職員などの人員の更なる確保が必要であるとともに、急速な老朽化・陳腐化が懸念される観測設備の維持・更新充実が急務である。

(2)地震調査研究推進本部との役割分担

 今後とも、本計画と推進本部及び地震予知連絡会の相互の役割分担及び連携を進めていく必要がある。推進本部の基盤的調査観測計画によるデータは、これからも本計画を進める上で必要不可欠なものであり、特に今後は海域における充実に期待する。また、本計画の成果が、推進本部が行う施策等の立案に際して積極的に活用されることを期待する。
 大学の高感度地震観測については、基盤的調査観測との調和を図りながら、臨時的・機動的な観測へと、目的を絞った観測に重点を移すことを今後更に推進することが重要である。そのなかで、従来、大学が担ってきた最先端の研究・開発の重要性を再確認する必要がある。
 本計画と推進本部との役割分担については、外部からも見ても分りやすくしていく努力とともに、更なる役割整理も必要である。

(3)情報交換等の場としての地震予知連絡会の充実

 本計画に関わる観測研究機関の相互の連携の重要性に鑑み、地震予知連絡会のような定期的な情報交換の場は今後とも必要である。近年の観測研究の進展は速く、新しい学術成果を関係機関によって行われている地震予知研究に適切に反映させるためには、学会等の講演会や学術誌による成果の公表だけでは迅速性に欠ける。観測・解析の担当者がデータを説明し、研究者がそれらについて議論を行う機会が、定期的かつ組織的に設定されている地震予知連絡会の場は重要であり、今後とも継続する必要がある。
 地震予知研究に関わる連携体制は、これまでも基盤観測網の整備などの地震防災対策に係る基本的な施策の立案を推進本部が、研究の学術的な方向性に関わる提言を測地学分科会地震部会が行い、それらに基づいて行われている観測・研究の情報交換については地震予知連絡会が担うといった相互の役割分担が定着してきたところであるが、このような役割分担について、外部から見ても分りやすくしていく努力が更に必要である。

(4)人材の養成と確保

 大学においては、大学院生などの人材養成が積極的に行われているものの、十分な数の大学院生を確保できていない大学もある。また、学生が博士号を取得した後、任期制の研究職に就いても、その任期終了後に身分の安定した職を得ることが難しく、優秀な学生が博士課程への進学に躊躇する原因ともなっている。このように人材養成に関しては、大学院教育だけではなく、終了後の進路やキャリアパスの確保にも質と量のバランスを考慮する必要がある。

(5)火山噴火予知研究等との連携

 大学における地震予知研究と火山噴火予知研究の更なる連携を推進するため、二つの協議会を統合し、地震・火山噴火予知研究協議会が発足した。この統合された協議会を通して、地殻活動の総合的な把握と予測の精度向上の研究が、今後、更に推進されることが期待される。さらに、地震という自然現象をいろいろな角度から理解し、視野の広い研究を進めるためにも、工学や社会科学の関係者との連携を進めていく必要がある。研究成果を短期的に出すことを求められている現状において、いかに視野を広くする環境を整えるかが課題と言えよう。
 災害発生時ばかりでなく、普段からも地域における防災アドバイザーとしての防災対策に参画することが、ますます必要となってくる。個人の研究業績が強く求められている中で、地域の防災活動に積極的に参画していくための体制づくりが課題である。

(6)国際協力の推進

 地震予知研究における研究協力は、個別の研究機関間では進んだが、国際視野に立った組織的な連携・協力という観点からは、今後ますます積極的な取り組みが求められる。
 総合科学技術会議による「地球観測の推進戦略」では、地震防災に貢献する地球観測として高精細な観測ネットワーク等我が国が有する観測基盤技術をアジア諸国へ移転することを例として挙げ、アジア太平洋地域における地震・津波発生メカニズムの解明等を推進するために、関係府省・機関の緊密な連携・調整の下、地球観測の推進、地球観測体制の整備、国際的な貢献策等を内容とする具体的な実施方針を策定するべきであるとしている。その連携調整のために必要な統合的推進組織を整える必要性が述べられており、観測と研究の一体となった国際的な連携を進めるという意味において、地震予知に向けての国際協力推進も、このような動きと連動していくことが重要である。

(7)研究成果の社会への効果的伝達

 ホームページなどを通じた研究成果の社会への伝達は、各機関とも積極的に行われている。しかしながら、地震予知研究に関する認識は、最近の研究の急速な進展を必ずしも反映しておらず、地震雲など根拠の薄い前兆現象に関する間違った情報が流布しているのが現状である。なお一層、地震予知研究に関する正確で分かりやすい知見や情報の発信が重要である。本計画を通じて、組織的に実施することが必要である。

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科学技術・学術政策局政策課

(科学技術・学術政策局政策課)