人文・社会科学の振興について-21世紀に期待される役割に応えるための当面の振興方策-(報告) 1.21世紀の人文・社会科学の使命

(1)人文・社会科学の批判的役割

 人文・社会科学には、人間の営みや様々な社会事象を省察し、あるいは批判を加えるという学問としての基本的及び固有の役割がある。このような役割が21世紀における人類社会の新たな発展にとって一層重要となることはいうまでもない。
 人文・社会科学が有するこのような批判的役割は、個人の価値観が多様になり、諸関係が複雑化した現代社会において、政策の実現に向けての社会的合意の形成や意思決定等を適切かつ有効に進めていく上で、とりわけ重要になっている。特に科学技術の発展に伴う負の側面が様々に顕在化している今日、科学技術と人間や社会との関係の在り方についての理解を深め、その知見を提示することが期待される。すなわち、人文・社会科学は、その役割である学問的な省察や批判を通じて、政策の妥当性の吟味、科学技術の在り方やその社会的浸透についてのモニタリング(批判的観察や情報の蓄積)などに貢献することが求められているのである。

(2)文化の継承と発展

 人文・社会科学の研究は、人間の精神生活の基盤を築くものとして、文化の継承と発展において重要な役割を担っている。心の不安など、私たちの身近な生活や生き方に深刻な問題が起きている今日、人文・社会科学、特に人文学の役割は一層重要となっている。それは、21世紀における人の豊かさ、望ましい人格とは何か、といったテーマでもある。人文学はこうした人々の現代に生きる意味について、これまで以上に深く受けとめ応えていく必要がある。
 これには例えば、古典を通して、現代における人の生きる意味や意義について、新たな問題提起を積極的に行うといったことが考えられよう。このような人文学の新たな課題への試みや方向付けは、社会科学はもとより、自然科学の新たな進展にも大きな影響を与える。
 また、グローバル化とボーダレス化が進展する今日、人文・社会科学においては、その学問的活動を一国にとどめることなく国際的に展開することによって、世界との相互理解を進め、また多様性の理解を深めることが不可欠であり、それを踏まえて、諸民族、諸国民社会、諸地域社会の共存・共生の道を拓いていくことが重要である。

(3)現代的諸問題の解決への貢献

 今日の社会は、(1)(2)に述べたような役割に立脚した人文・社会科学の研究成果が、世界及び我が国が直面している現代的諸問題を解決していくための人々の思索や行動の手がかりや拠り所として提供されることを強く要請している。
 こうした諸問題は、人類の叡知を結集して取り組まなければ克服と解決が困難であり、そのためにこれからの人文・社会科学は、問題の分析や解決方法をめぐる学問的対話や、研究成果に基づいた解決のための多様な素材の提供・提案という形で、責任ある関わり方(コミットメント)をするなど、諸問題の解決に向けて積極的に貢献していかなければならない。

(4)知の組み換え

 一国の諸学がその知的存在感を高めていくためには、国際的な研究に寄与するとともに、新たな分野の開拓や学問の融合など人文・社会科学自体における創造、さらには人文・社会科学に促された自然科学も含めた発展が必要である。
 現代的諸問題は、それぞれの固有の原因・要因が複合的に絡み合うとともに、一つの原因・要因の変動が同時に他の原因・要因をも変化させるという複雑性を著しく帯びている。これからの人文・社会科学は、このような諸問題の複雑性を視野に取り込まなければならない。そのため、このような諸問題の克服と解決に向けては、異なる分野・領域間の相互接触、協働、さらに課題によっては専門分野・領域を超えた学問の融合の試みも不可欠となる。
 このような取組を通して各分野・領域の学問が相互にぶつかり合い変容を遂げる中で、新たな知の枠組みが生まれるのである。

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