2.各論

1)組織業務

1 産学官連携組織の在り方

  • 産学官連携に関する機能として、a)大学内外を橋渡しする(リエゾン)機能、b)契約交渉など法務・会計実務を担当する(契約)機能、c)特許等の取得、管理、ライセンス等により研究成果活用を支援する(TLO)機能、d)大学の成果や資源を活用して将来の起業に結びつける(初期段階のインキュベーション)機能などがあるが、こうした機能に基づく活動を「国立大学法人」が業務として実施できるようにすることが望ましい。
  • このうち、大学の多様な在り方や各大学の産学官連携への参加度合いにかんがみて、上記の四機能のどこまでを大学自らが行うか、あるいは、自ら実施する中での組織形態やアウトソーシングの在り方をどうするかについては、大学自らが判断して戦略的に取り組むべきである。ただし、大学が研究面での産学官連携活動に多少でも参加するのであれば、少なくともリエゾン機能と契約機能については、大学の主体的な取組が求められる。
  • 産学官連携を進めるに当たっては、少なくとも、企業等外部からの連携がとりやすく、また、大学内部の意欲ある個人が参加しやすいように、産学官連携の(相談)窓口の一本化あるいは、各学部等の関係部署が有機的に連携した仕組みが欠かせない。
  • さらに、大学の研究者の共同研究希望テーマ、特許・技術等の教育・研究関連情報に関してデータベース等も利用した効果的な発信、オープンハウス(公開事業)等の活動やそのための体制整備を行うことは、大学と社会とのコミュニケーションを促進するものもあり、あらゆる産学官連携活動の基礎として位置付けることが重要である。

2  技術移転事業の位置付け

  • 特許等研究成果の活用など技術移転事業については、「国立大学法人」がその業務の一環として内部に関連組織を置くことができるようにすべきである。しかし、技術移転事業については、ビジネスと直結する活動であり、また、知的所有権等の専門知識も要求されることから、大学がすべてを自ら行うことが難しいケースも考えられる。担当組織の一部業務を外部委託したり、大学との明確な契約関係の下で、外部の専門的な機関に業務を任せたりすることもできるようにすべきである。
  • その意味で、現在の承認TLOがそのままの設置形態を維持しつつ、法人化後の国立大学と業務委託関係等により事業を続ける方法も検討すべきである。
  • また、本来、大学が主体的に取り組むべきリエゾン機能と契約機能についても、これまでの国立大学事務局においてノウハウが十分に蓄積されていないなど、機動的な対応が困難なケースもあり得ることから、機能の一部(情報提供、技術相談、契約手続等)を外部のTLO組織等が請け負う方式も経過措置的な対応として考えられる。
  • さらに、技術シーズの育成や技術開発を含めた広い意味での技術移転やそのための人材育成等を行っている科学技術振興事業団(JST)とTLOとの連携促進により、我が国全体の技術移転の強化を図る等の必要もあろう。

3 大学内起業支援の在り方

  • 大学の成果や人的資源を基にベンチャー等を起業する文化を醸成することは、「知」の創造と活用が価値を持つ「知識型経済」におけるビジネスや技術の革新の基盤形成にとって有意義である。したがって、こうしたベンチャーや起業の文化を醸成するために、大学自らの主体的判断により、大学の成果を基に将来の起業を支援する仕組みを持つことも必要である。
  • その場合、起業前段階の支援を中心とした初期段階のインキュベーションについては、産学官連携活動に積極的な大学自らが主体的に、外部の人材やTLOその他の専門機関等を活用しつつ、キャンパス内で実施することも考えられる。一方、大学発ベンチャー企業そのものへの支援など起業後の本格的なインキュベーターやアクセレレーターの活動は、民間のベンチャーキャピタルによる投資やノウハウの導入などを必要とする。このような活動は、大学外の専門機関により、関係大学との連携の下に大学隣接のリサーチパーク等のキャンパスの外で実施されることが望ましい。

4 出資の可能性等

  • 民間的発想を取り入れて効率的な産学官連携を推進するため、また、「国立大学法人」の産学官連携支援において不足する点を補うためにも、TLOや研究支援機関等外部専門機関の活用が重要である。その際、財政的支援やより密接な関係を確保するため、こうした外部専門機関への出資や人材の派遣等ができる仕組みを検討すべきである。
  • 商法改正の状況も考慮しつつ、自らがTLOを有する大学の場合には、大学が、また、大学と密接に関係する財団法人型TLOの場合には、そのTLOが、ロイヤルティ収入以外にストックオプション等を直接または間接に管理できる体制を整備しておくことが望ましい。
  • 先に述べたように、産学官連携の成果が大学の教育研究活動に反映・還元される循環活動が、経済・社会、大学のそれぞれの発展にとって極めて有効である。一方、我が国ではベンチャー創業者が技術開発や創業のための資金を獲得し難い状況に置かれているので、大学の技術シーズ活用の一形態としてのベンチャー企業の設立に際しては、民間のベンチャーキャピタルとの連携、基金の活用等のほか、限定的な条件の下で、当該大学がストックオプション等の取得、施設の貸与等により支援できる道を開くことも検討する必要がある。

5 大学における意思決定の在り方

  • 産学官連携活動はビジネスとの直接的関連があり、また、契約・会計処理等組織的な対応が必要であることなどの理由により、大学における産学官連携活動の意思決定過程は、教学における意思決定過程とは区別する必要がある。経営方針の下での産学官連携活動には、トップダウン方式あるいは、専門委員会、担当部署レベルでの機動的な判断が求められる。もちろん、産学官連携活動が、教育研究活動全体に影響を与える可能性があるときは、教学との密接な連携をとることに留意する必要がある。

 例:産学官連携における活動の実施・契約の決定、特許取得の技術評価、利益相反問題等の審査、担当理事・副学長等産学官連携活動の責任者の明確化等

 研究面での産学官連携活動に積極的に取り組む大学においては、機動的な対応ができるよう、例えば、産学官連携担当の副学長の下にリエゾン機能と契約機能を有する部署を置くことなども考えられる。

6 産学官連携を支える専門的人材の育成・採用

  • 現在の国立大学のみならず我が国において、産学官連携を支える専門的人材が不足しているので、大学、TLO等の連携・協力により、全国的にコーディネーターの育成を推進し、また、大学院教育の充実、大学間の連携システムの確立等を通じて、法務・実務の専門家育成・確保の仕組みを導入する必要がある。さらに、中小企業と大学との連携を推進するためには、国の財政的支援等により、技術的課題のアドバイスや産学官の橋渡しができる人材を外部から中小企業が採用できるような措置を並行的に実施することが有効である(国、地方公共団体等の施策として実施)。

7 法人の施設・設備・人的資源を活用した各種事業の展開

  • 産学官連携活動の推進を図るため、各機関において教育・研究上有意義と認められる場合には、組織的なコンサルティング事業、技術者等による計測分析受託、企業等を対象とした最先端設備・機器の活用、産学官連携関連情報の収集等のための拠点の設置など施設・設備・人的資源を活用した各種事業を展開できるようにすべきである。

2)人事

1 兼業ルールの明確化等

  • 大学の判断により、週一日(平日)程度は定期的に兼業ができるルールを確立すべきである。また、人文社会系の経営相談ができるようにする等、兼業範囲の一層の拡大を図ることが望ましい。そのほか、長期ベンチャー休業等産学官間の流動性を促進する諸制度の導入も積極的に検討する必要がある。

2 責務相反や利益相反のルールの在り方

  • 法人化に伴い、各大学が責務相反や利益相反の問題のルールを確立しやすくするための方策を検討する必要がある(本委員会で検討)。

3 産学官連携活動に対応した人材の確保、スタッフの役割等

  • 産業界などから専門性の高い人材を受け入れるためには、各大学が職制と処遇(給与、任期制等)を工夫し、業績に応じた給与体系、任期付き教員の処遇改善等のインセンティブを設ける必要がある。
  • 従来のような、教員、事務・技術系職員といった職種以外に、各大学の判断により、広く人文社会から理工系分野の人材を対象に、産学官連携や研究戦略・管理・評価活動等に携わる専門的な職を新たに設け、新しいキャリアパスの機会を作ることが期待される。

4  流動性のある弾力的な人事制度

  • 産学官連携活動の自由度や産学官での流動性をより拡大させ、また産学官連携の効果的な推進を図る観点からは、現在の公務員制度改革の検討状況も考慮しつつ、非公務員型への移行の可能性を含めて、教職員の身分の在り方を積極的に検討すべきである。

3)財務会計

1 外部資金(受託研究、共同研究等)の扱い

  • 受託研究や共同研究等についても、寄附金と同様、自己収入として運営費交付金収入とは別会計で区分したり、受託研究においては間接経費を計上したりするなど、組織としてのインセンティブを確保すべきである。また、各大学においては間接経費を一層活用して、産学官連携組織・活動の充実を図ることが期待される。

2  柔軟な契約の実施

  • 共同研究・受託研究等の研究面やインターンシップ等の教育面の連携において、複数大学と複数企業とのコンソーシアム型研究プロジェクトや国際的な共同研究への参加・協力、契約における特許等の帰属、インターンシップや連携大学院における費用分担、施設設備の使用等については、大学の判断により柔軟な取扱いができるようにすべきである。(法人化前においても、文部科学省が、現行制度において可能なものを整理し、各大学が実施しやすいように措置することが望ましい。)

3 税制上の措置

  • 現在、国立大学に関して設けられている税制上の優遇措置(寄附金の法人税法上の全額損金扱い等)については、引き続き存続させるべきである。また、これに関連して、「中間報告」にあるように、私立大学への寄附金や受託研究などの税制上の扱いについても改善を図るべきである(注4)。これらによって、基金等による柔軟な資金運用の方法を確保することや個人や企業による大学への寄附を促進する環境を整えることなどを検討すべきである。

4)知的所有権等研究成果等の取扱い

  • 特許等は、発明者へ十分な対価を還元することに留意しつつ、「国立大学法人」有を原則とする方向で検討すべきである(本委員会で検討)。その際、特許実施料の還元率等知的所有権の取扱いに関する具体的な方針については、一律に定めるのではなく、各大学の責任において整備する必要がある。さらに、企業との共有特許において、企業が相当の期間、正当な理由なくして実施しない場合は大学が第三者への許諾をできるようにすることや企業が大学に対して不実施補償料を払うルールを確立することなどを当事者間で検討するなど、特許活用の促進のために企業の理解を得つつ、柔軟に対応することが望ましい。また、各大学がルールを整備しやすいよう、研究者・組織同士の材料、研究ツール等の移転等のルールを検討する必要がある(文部科学省で検討)。
  • 法人有・管理の特許等については海外特許等を含め、出願等の費用を研究費からも支出できるようにすべきである。また、産業活力再生特別措置法におけるいわゆる日本版バイ・ドール条項(注5)を「国立大学法人」に適用させるべきである。さらに、大学からより良い特許が出やすい環境整備等のために特許関連法令・運用の見直し等が必要である(関係省庁で検討)。

5)地域における産学官連携と「国立大学法人」の役割

 以下のような観点から地域の産学官連携における大学の積極的な役割、業務や制度改善を更に検討すべきである。

  1. 地方公共団体から「国立大学法人」への施設提供等
  2. 地域における「国立大学法人」と公私立大学との連携
  3. 「国立大学法人」と産業界、地方公共団体との日常的ネットワークの形成

(注4)「新しい「国立大学法人」像について」(平成13年9月27日) P42「税制上の取り扱い」参照。

(注5)「産業活力再生特別措置法」(平成11年法律第131号) 第30条参照。

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研究振興局 研究環境・産業連携課

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