2.地殻活動モニタリングシステム高度化のための観測研究の推進 (1)広域地殻活動モニタリングシステム

機関名略称: 国土地理院→地理院 防災科学研究所→防災科研 産業技術総合研究所→産総研 海上保安庁水路部→水路部 通信総合研究所→通総研

(1.1)具体的目標

(ア)広域地殻変動観測

(イ)広域地震観測

(ウ)活断層調査・古地震調査

(エ)地球電磁気観測等

(オ)地殻構造調査

(1.2)実施状況

(ア)広域地殻変動観測

(GPS連続観測)

  • 全国に設置された電子基準点等のGPS連続観測局を用いてGPS連続観測を行い、広域における地殻変動の監視を行った。観測網については、平成9年度に60点、10年度に26点(掛川-御前崎間の高精度比高観測点25点及び神津島1点)を増設したほか、平成11年度以降に19点増設した。(地理院)
  • 地殻変動が検出された事例:1997年3月の伊東市周辺の地殻変動、1998年4月21日から始まった伊豆半島東部の群発地震に伴う地殻変動、1998年4月26日の伊豆半島沖の地震に伴う地殻変動、1998年5月1日の伊豆半島東方沖の群発地震に伴う地殻変動、1998年9月3日の岩手県内陸北部の地震に伴う地殻変動、2000年6月26日から始まった三宅島から新島・神津島近海にかけての地震活動に伴う地殻変動、2000年10月6日の鳥取県西部地震に伴う地殻変動、2001年3月25日の安芸灘の地震に伴う地殻変動。鳥取県西部地震等については、GPS連続観測によって得られた地殻変動データから震源断層モデルの推定も行った。このほか、スロー地震を示す地殻変動も検出されている。(地理院)
  • 地殻変動が認められなかった事例:1999年2月26日の秋田県沖の地震、1999年8月21日の和歌山県北部の地震、2000年6月3日の千葉県北東部の地震、2000年6月7日の石川県西方沖の地震、2000年6月8日の熊本県熊本地方の地震、2000年7月21日の茨城県沖の地震、2001年1月4日の新潟県中越地方の地震、2001年4月3日の静岡県中部の地震。(地理院)

(GPS測量による繰り返し測量)

  • 電子基準点間を補う地域の地殻変動を掌握するために、GPSによる基準点の繰り返し観測(高度基準点測量)を実施した。観測データはその都度解析処理され、前回値との比較がなされた結果を変動ベクトルで示した。また、全国を一巡した平成9年段階で一括処理し、地殻変動や地殻歪を計算した。高度基準点測量は、平成9年度に65点、平成10年度に46点、平成11年度に71点、平成12年度に108点、平成13年度に74点実施した。(地理院)

(水準測量)

  • 全国の約20,000kmの水準路線を対象に約10年周期で繰り返し水準測量観測を実施した。地震予知連絡会が設定した特定観測地域、観測強化地域については、より高頻度の観測を実施した。平成12年度には、日本列島100年間の地殻上下変動を計算し、各改測回毎の地殻変動とともに、日本列島の長期的な地殻上下変動を解析する上での重要なデータを提供した。観測強化地域については、御前崎の経年的沈降と季節変動などを明らかにし、この地域のテクトニクス研究に関する重要な資料となった。実施された水準測量は以下のとおりである。平成9年度(合計2,735km)平成10年度(合計2,376km)平成11年度(合計2,919km)平成12年度(合計4,172km)平成13年度(小計3,324km、年度途中のため未確定分を除く年度内予定)。(地理院)

(潮位観測)

  • 定常潮位連続観測25か所及び機動潮位連続観測6か所(初島、真鶴、宇佐美、小浜港、西表2か所、ただし小浜港は平成13年10月まで)において潮位連続観測を行った。また、平成9年度より全国10か所の験潮場において高精度自動験潮儀の更新を行い、潮位観測・データ処理の高度化を図っている。平成12年6月からは、25か所の験潮場の潮位観測データ(毎時、日、月、年の各平均潮位データ)のインターネットによる公開・提供を開始した。(地理院)
  • 全国9か所の検潮所の遠隔自記検潮装置を更新し、より安定なデータの取得を可能とした。(気象庁)
    (離島・岩礁等においての定期的なGPS観測)
  • 横須賀、南伊豆、伊豆大島、三宅島、神津島においてGPS連続観測を、神子元島、大野原島(三宅島周辺)、恩馳島・祇苗島(神島津島周辺)、鵜渡根島・地内島(新島周辺)、銭洲の岩礁においてGPS定期的観測(年1~2回)を実施し、相模湾周辺・伊豆諸島間及び同海域の岩礁の海を隔てた地点間の地殻変動(水平・上下)を検出した。神津島の島内7測点の地殻変動観測を平成9年から平成13年にかけて年1回、計5回の観測を実施した。また、海上保安庁が航行援助用施設として運用するDGPS局28点からのデータを2次利用して、データの解析を行い、各点の地殻変動を検出している。観測結果は、地震予知連絡会及び地震調査委員会に報告したほか、水路部HP等により公表した。(水路部)

(潮位差連続観測とGPS連続観測)

  • 全国29か所の験潮所において、潮位の連続観測を行い平均水面等の変動を監視した。このデータを用いて、地殻変動の常時モニターのため、験潮所のテレメータ化を図った。さらに、平成11年6月に三宅島及び南伊豆、7月に神津島、8月に横須賀の各験潮所屋上にGPS受信機を設置し連続観測を開始した。同時に、海面水位連続観測データの処理を行い、毎月、毎年の平均水面を算出し地殻変動の監視を行った。これらの潮位データは、平成11年9月からは、最新3日間の数値情報(実測値、推算値)や潮位曲線としてインターネットにより提供した。(水路部)
  • 平成12年6月26日の三宅島噴火活動開始時には、地盤の沈降に先立ち、隆起が生じたことを示す観測データが、GPS及び験潮の両方で得られた。(水路部)
  • 神津島の験潮所の年平均潮位からは、平成2年ごろから平成9年ごろにかけて、神津島が、約50cm隆起していることを明らかにした。この隆起傾向を示す観測結果は、神津島における平成9年以降のGPS移動観測の結果と調和的であった。(水路部)

(イ)広域地震観測

  • 基盤的調査観測として、高感度地震観測、強震観測、広帯域観測を実施した。ノイズを軽減するため、深さ100m以上の観測井に地震計を設置し、24ビットのデジタルデータによってデータ流通を行っている。高精度、広ダイナミックレンジの観測データの流通が開始され、地震観測の基本的枠組みが達成されつつある。高感度地震観測網のエンベロープ波形を注意深く解析することにより、西南日本の地殻深部で、低周波微動が発生しており、それが、10km/日程度の速度で移動していること、周辺域での地震発生と微動発生とが関係していることなどが明らかになった。また、広帯域地震波形を用いたモーメントテンソルインバージョン解析により地震発生後速やかに地震のCMT情報を公開するシステムが整えられた。CMT解析により、これまで精度よく求められていなかった海域の地震のメカニズムも精度よく求められるようになった。強震動観測網では波形データの自動収集・処理システムの開発により地震後短時間で波形データがインターネット経由で公開されるようになった。(防災科研)
  • 地震監視・情報提供体制の強化のため、平成10年度に仙台、平成11年度に札幌、平成12年度に福岡、平成13年度に大阪のETOS(地震津波監視システム)の改良更新を行った。また、南西諸島における地震検知・震源決定能力の向上を図るため、平成12年度までに当該地域に3か所の津波地震早期検知網型地震観測点の増設を行った。(気象庁)
  • 気象庁が地震発生後すみやかに発表する震源に関する情報は、研究機関における広帯域地震計データを用いたCMT自動解析や、強震動波形データの自動収集処理の起動条件、処理パラメータ決定に活用され、調査研究の推進にも貢献した。(気象庁)
  • 平成9年10月に、気象庁は地震調査研究推進本部の決定に沿って、気象庁の地震観測データと大学等関係研究機関の地震観測データとを統合して震源決定を行う、「一元化処理」を開始した。海域における地震検知・震源決定能力の向上を図るため、海洋科学技術センター整備によるケーブル式海底地震計データを、平成10年から室戸沖、平成12年から釧路沖について一元化処理に取り込んでいる。南西諸島における地震検知・決定能力の向上を図るため、平成12年度までに当該地域に3か所の津波地震早期検知網型地震観測点の増設を行った。高感度地震観測網(Hi-net)データの一元化処理への取り込みを、平成12年3月から、大阪及び福岡管内ではじめ、順次、札幌及び仙台管内、東京管内で実施した。これらのために必要な一元化処理システムの増強を行った。一元化処理の開始により、地震検知・震源決定能力が飛躍的に向上するとともに、ほぼ最終震源に近い計算結果を、地震発生後2日以内で作成している。初動極性によるメカニズム解についても、一元化処理の開始及びHi-netデータの取り込みによって、決定精度及びマグニチュード毎の決定可能率が向上している。一元化処理開始以前の平成8年では、震源決定数が約3,000イベント/月であったのに対し、一元化処理開始後は約6,000イベント/月で推移していたが、平成12年10月から大阪及び福岡管内でHi-netデータの正式運用を開始した後は、同年有珠山噴火活動に伴う地震活動、三宅島~新島・神津島近海の地震活動、鳥取県西部地震の余震活動による影響もあるが、約10,000イベント/月に及んでいる。(気象庁)
  • 平成13年10月から、最新の制御震源地震学研究の成果等を利用した、より全国平均的な日本の地殻構造に相当する走時表と、震源距離に関して不連続を生じない観測点ウェイトを震源計算処理に採り入れた。これにより、特に内陸の地殻内に発生する地震について、より妥当な深さが求まり、かつリニアメントやクラスター分布がより明瞭になった。また、一元化処理の開始により、震源計算に必要な比較的震源に近い観測点についてのみ相発現時刻の検測値を生産することとしてきたが、同年同月からは、比較的大きな地震については、速度構造解析に必要な遠方の観測点についても、震源計算には用いないものの明瞭な相につき発現時刻の検測を行い、データとして公開することとした。(気象庁)
  • 地震防災対策強化地域判定会や地震調査委員会、地震予知連絡会等への高品質データの迅速提供が可能と成り、地震活動の迅速的確な評価が可能となるとともに、計算結果はただちに気象庁の一元化ftpサイトで関係する研究者に対して公開されるため、地震発生後すみやかに調査研究に活用可能となるなど、研究支援体制の強化が図られた。(気象庁)

(マグニチュード)

  • 津波地震早期検知網整備により一新された地震観測点によっても、それ以前と整合した気象庁変位マグニチュードを計算する手法につき検討を行った。過去の地震カタログとの一貫性を確保するため、1994年以降に発生した顕著な17地震について値の修正を行った。(気象庁)

(過去のデータの再解析)

  • 過去の地震資料につき、継続して地震記象紙のマイクロフィルム化、及び地震観測原簿の内容を計算機処理可能なようにデジタル化を進め、平成13年度からは、デジタル化されたデータを用いて、過去の気象庁地震月報を改訂するための再計算作業を開始した。従来気象庁地震カタログの収録期間が1926年1月以降であったものを、現存する最古の地震観測原簿に対応する1923年8月以降に延伸した。また、過去に遡った地震カタログ精度の改善を図ることで、現在の地震活動との比較評価がより高い信頼度を持つて行えるようになってきており、1923年関東地震の震源域と現在の南関東の地震活動域との関係等につき知見が得られた。(気象庁)

(低周波微小地震)

  • 四国から東海地方にかけての地殻下部で、低周波微小地震の発生が見られる帯状の領域が存在することを明らかにした。平成9年10月からの気象庁における一元的震源計算処理の開始及び平成12年3月からの基盤的地震観測網高感度地震データの一元的処理への取り込み開始により、従来火山帯周辺では存在が知られていた地殻下部の低周波地震が、火山から離れた地域の地殻下部でも発生していることがわかってきた。当該分野の研究推進に資するため、気象庁では震源ファイル内に低周波地震と識別可能なフラグを平成11年9月から設定することにより、研究者の利用のための便宜を図った。(気象庁)
  • 特定域における微小地震観測の整備に重点を置きつつも、広域観測にも不可欠な観測点については、基盤的調査観測に協力した。また、気象庁へのデータの一元化して、広域地震活動の把握に貢献した。(大学)
  • Hi-netのデータを解析して、四国から東海地方にかけての地殻下部で、低周波微小地震の発生が見られる帯状の領域に低周波微小地震を含む低周波微動が分布していることを発見した。微動の振幅は非常に微弱で、従来では人工的又は気象等による雑微動ノイズとの判別が困難であったが、Hi-netによる高密度、高感度地震観測データのエンベロープ波形記録を解析することにより、その検出が可能となった。微動の継続時間が数日~2、3週間であること、微動源が10km/日程度の速度で移動すること、微動発生が周囲の地震発生と関係していることなど、内陸の地震発生機構の解明に寄与する重要な知見が得られた。(防災科研)

(衛星通信による地震観測テレメ-タシステム)

  • 通信衛星による地震観測テレメータシステムを整備し、1997年以降、それまでは困難であるとされていたような機動的観測やデ-タ共同利用が行われるようになった。全国で200局ある送信局(超小型地球局)のうち、当初110局程度が既設定常観測点に設置され、残り90局程度が可搬観測局として確保された。衛星通信の機動性を生かした可搬観測局による観測研究としては、1997年6月の山口県北部の余震観測を皮切りに、1997~1999年の大規模な東北脊梁合同観測を行った。1999~2001年の北海道日高合同観測にそれぞれ約50観測点を展開するのに使用され、小規模には1999年三重県飯高町の、2001年和歌山県龍神村の群発地震活動観測等頻繁に活用されている。また2000年3月の有珠山噴火、同年6月の三宅島噴火の際には、気象庁からの要請に応じた衛星観測点の展開も行われ、地上回線を必要としない衛星通信の機動力が発揮された。(大学)
  • デ-タ流通の強化については、衛星配信系によって全国の研究者がすべてのデ-タをリアルタイムに共有することになったために、前記の東北や日高の合同観測におけるデ-タの共同利用が極めて効果的に行われたことは特筆すべき成果である。ほかに1997年の衛星システム本格運用とほぼ同時に気象庁とのデ-タ交換も開始され、ほぼ全国の気象庁観測網のデ-タも利用できることになった。2001年現在約800観測点のデ-タが研究者に配信されており、新JARRAYのような日本列島を1つの巨大な群列観測網に見立てた研究プロジェクトも可能になった。更に2001年度にはHi-netの500点以上のデ-タも加わる。地震研究所では衛星配信デ-タを利用した研究を促進するために、超小型の受信専用局を開発し、これを共同利用の一環として研究者に貸し出している。その結果、2001年現在、自前の観測網を持たない約12の研究機関が、衛星受信装置を使用して配信デ-タをリアルタイムに研究利用している。(大学)

(ウ)活断層調査・古地震調査

  • 主要活断層の活動履歴調査として、近畿三角地帯に分布する9つの活断層:敦賀断層、野坂断層、柳ヶ瀬断層、桑名断層、三方断層、三峠断層系、養老断層、木津川断層及び鳴門海峡の中央構造線のトレンチ調査やボーリング調査を実施した。また、濃尾平野西部で反射法地震探査及びボーリング調査を行った。山地・丘陵域及び平野縁辺部の活断層の危険度調査として、鈴鹿西縁断層帯、頓宮断層系、深谷断層系、武儀川断層、揖斐川断層、温見断層、関谷断層の7断層について、地形地質調査、反射法地震探査、ボーリング調査、トレンチ調査等を実施した。また、伏在活断層及び内湾-沿岸海域の活断層の危険度調査として、大阪湾断層並びにその分岐断層である和田岬断層、及び伊予灘の中央構造線の音波探査とボーリング調査を実施した。さらに、古地震による地震の再来確率と規模予測に関する研究では、道東地域の湖沼において、湖上ボーリングを実施し、また、紀伊水道の友ヶ島においてジオスライサーによる津波堆積物の調査を行った。(産総研)
  • 敦賀断層では、約1500年BP以降に最新活動を行ったことが判明し、野坂断層のトレンチ調査の結果、約1700年BP以降の最新活動が明らかとなった。このほか、各活断層について、第四紀における活動性、地震発生の切迫性、地震規模の評価等に有用な成果が得られた。また、濃尾平野西部の地震探査及びボーリング調査では、濃尾平野の沈降速度は50万年前ごろに約1.5倍に変化し、最近50万年間の養老断層の平均上下変位速度は約2m/千年に達することが判明した。(産総研)
  • 温見断層では、トレンチ調査の結果、約7000年前の鬼界アカホヤ火山灰層降下以降に、1891年の濃尾地震を含め複数回の断層活動があったことが判明した。また、関谷断層のトレンチ調査では、日光-沓掛テフラ(2万年~1.2万年)(トレンチ2では更に沼沢-沼沢湖テフラ(5千年前))以降、榛名山二ツ岳軽石(6世紀)以前に少なくとも1回、二ツ岳軽石以降に1回の変位が確認された。さらに、道東地域における津波堆積物調査の結果、津波による堆積環境変化が読みとれるとともに、霧多布湿原での津波イベントに加え、これまでに知られていなかった、より古い津波イベントの存在が明らかとなった。このほか、紀伊水道の友ヶ島における津波堆積物試料の詳細な観察及び解析の結果、5層準の津波イベントが確認され、その最下部のイベントは中央構造線の最新活動に対応する可能性が指摘された。(産総研)
  • 活断層の詳細な位置把握等のため地形解析による調査を行った。「1:25,000都市圏活断層図」(1面の面積、約400km2)を平成9~10年度に11面、11~13年度に33面公表し、7地区11面について調査中である。(地理院)
  • 平成9年度:銭洲海嶺南方海底地殻構造調査、駿河湾(海底地形等)調査、伊豆半島南東方(海底地形、地質構造等)調査、平成10年度:銭洲海嶺南東方海底地殻構造調査、伊豆半島南東方(海底地形、地質構造等)調査、駿河湾北部(海底地形等)調査を行った。平成11年度:駿河湾南方(海底地形等)調査、平成13年度:御前埼沖(海底地形等)調査を行った。マルチビーム音響測深機を用いた調査により、駿河湾から南海トラフ周辺において、詳細な海底の活構造が明らかになった。また、銭洲海嶺の変動地形を対象として、マルチチャンネル反射法音波探査を実施し、銭洲海嶺南方に存在する活構造を明らかにした。(水路部)
  • 比較的人口密度の高い、又は活動度の高い断層が存在すると想定される沿岸域において活断層の調査を行った。平成9年~13年は7つの海域について、スパーカーを音源とする音波探査及び3.5kHzを使用した表層音波探査を実施し(沿岸海域海底活断層調査)、断層・褶曲等の構造の分布を海底地質構造図として取りまとめ、地震予知連絡会等に提出し、関係機関に配布してきた。これらの活断層の調査結果は、ホームページにおいても公表している。各調査の具体的成果としては、「友ヶ島水道南方」及び「松山港周辺」の調査(平成9年)では概ね東西方向に断続する中央構造線系の断層を確認した。友ヶ島水道では、更新統までに変位を与えていること、中央構造線系以外の活断層が存在しないことが明らかになった。松山港周辺では、既に存在が知られていた伊予断層が海底にまで変位を及ぼしていること、その北部にも更新統に変位を及ぼしている断層が併走していることが明らかになった。函館湾付近の調査(平成10年)では、湾の西縁に西側隆起の逆断層が雁行状に配列しているのが認められ、これらが、函館平野で確認されている活断層、函館平野西縁断層の海域への延長部に相当することが明らかになった。「宇部南部」(平成10年度)及び「周防灘東部」(平成11年度)の調査では、これまで活断層の存在がほとんど知られていなかった周防灘において北東-南西走向の7群の断層を新たに発見した。「秋田-本荘沖」は平成12年・13年と2年間にわたって調査を実施し、特に沿岸部の断層分布が明らかに成りつつある。そのほかにも、沿岸海域の基本図等の既存資料の再検討作業を行っており、新たに活断層を見いだして論文として公表した。(水路部)
  • 断層分布調査が終了した海域については、断層の活動履歴を明らかにするために、断層を挟んで堆積物の柱状試料を採取し、解析を行った。広島湾(平成8年度調査済)では、岩国沖の甲島南断層(仮称)が、堆積物採取の結果、沖積層堆積中に2度活動していることが判明し(最新の活動時期:約4,480~5,130yBP、1つ前の活動時期:約8,000~10,000yBP)、活動間隔が約5,000年であることが推定された(平成11年)。福岡湾(平成8年度調査済)の大島沖断層は、沖積層基底面において1.5mの落差が確認され、最終活動時期が約10,000年前~7,500年前の間と推定された(平成12年)。また、「大阪湾」や「伊勢湾」等の堆積物調査の結果、活断層の詳細な活動履歴が判明し、論文や報告書としてまとめた。(水路部)
  • 日本周辺海域の地質図を作成するために、海底地質調査を順次進め、駿河湾から遠州灘(第7次の4年次以降)、日本海東縁北部及びオホーツク海の調査(新たな観測研究計画)を終了した。また、南海トラフ及び日本海東縁海域において、活断層評価のためのマルチチャンネル音波探査データ及び地震発生頻度を明らかにするための地震性堆積物の取得を行った。(産総研)
  • 海底地質図として、豊後水道南方の海底地質図を出版した。また日本海東縁域では、音波探査データの解釈に基づいて第四紀断層の分布を明らかにするとともに、100万年オーダーでの歪み集中帯が3-4列存在することを示した。さらに、同じような歪み集中帯を地震及び測地データでも定義することによって、時間スケール異なる歪みを客観的に比較することが可能であると提案し、日本海東縁の地震発生ポテンシャルの評価に貢献した。(産総研)
  • 海底地質図として、駿河湾、豊後水道南方、ゲンタツ瀬(福井県及び石川県沖)、塩屋崎沖(福島県沖)などの海底地質図を出版した。さらに、地震性堆積物を用いて南海トラフ及び日本海東縁で地震発生間隔の推定を試み、地震発生頻度を推定する手法として、ある程度信頼できる値が得られる可能性を示した。(産総研)

(エ)地球電磁気観測等

  • 国土地理院本院(つくば市)、鹿野山及び水沢両測地観測所、江刺観測場、及び全国11か所に設置した地磁気連続観測施設において地磁気絶対観測及び地磁気連続観測(全磁力、地磁気3成分)を実施し、鹿野山、水沢及び江刺のデータについてはホームページで公開した。全国の高度5,000mの航空磁気測量を実施し(昭和58年度~平成10年度)、全国の高度5,000mの航空磁気図を作成し(平成12年度)研究機関に配布した。(地理院)
  • 大学と協力して、可搬性の高い絶対重力計FG5の国内比較観測を実施した。また、絶対重力計及びラコスト重力計を用いて、全国の基準重力点等において繰り返し観測を実施した。また、大学及び研究機関と連携して、日本のブーゲー異常余色立体陰影図を作成し、関係機関に提供した。また、日本のジオイドを重力手法により精密に決定した(平成12年度)。御前崎では、絶対重力計により基準重力点の重力値の変化をとらえている。1998年には、岩手山周辺において、岩手県内陸北部の地震前後の重力値変化を検出した。(地理院、大学)
  • 地磁気永年変化精密観測の解析担当機関として、柿岡、女満別、鹿屋、いわき、北浦、阿蘇山麓等の自らの観測点において全磁力精密連続観測を行うとともに、大学等関係機関から提供される全国の地磁気永年変化データを一元的に収集・管理する体制を整え、解析を行った。大学等関係機関に提供する基準値の精度向上のため、平成9年に柿岡及び女満別の地磁気変化観測装置の更新を行い、また、基準値提供体制の高度化のため、平成11年に柿岡の地磁気観測総合処理装置の更新、平成13年に柿岡、女満別及び鹿屋の刻時装置の更新を行った。さらに、異常磁場変化の検出精度の向上に資するため、関係機関の協力の下に地磁気標準磁場モデル(全磁力)を作成した。また、伊豆半島東部において全磁力多点観測を行い、局所的な全磁力異常減少を確認した。(気象庁)
  • 水路部は、以下のような地磁気及び重力の測量を実施した。
    昭和54年~ 地磁気連続観測(八丈水路観測所)
    平成9年度 地磁気測量 伊豆大島
     重力測量 三宅島、大島、新島
    平成10年度 地磁気測量 三宅島
     重力測量 三宅島、大島、新島
    平成11年度 重力測量 三宅島、大島、神津島
    平成12年度 重力測量 三宅島
    平成9年~13年 陸上重力測量(伊豆大島ほか)
  • 地磁気観測については、精度0.1'又は1nTで、地磁気3成分(偏角、水平分力、鉛直分力)及び全磁力の時間平均値、地磁気擾乱指数、磁気嵐等特異現象等を記載している八丈水路観測所地磁気観測年報(各年)を作成し、公表している。また、伊豆大島(9年)、三宅島(10年)における地磁気測量の結果、島内の地磁気偏角及び伏角の分布図を作成した。平成12年には、焼尻ほか全国10か所の測点において地磁気観測を行い、地磁気偏角等の絶対値を測定した。この結果は、日本周辺磁針偏差図として平成14年に刊行する予定である。重力測量については、伊豆大島、三宅島、新島、神津島における各島内測点の経年変化をもとめ、水路部観測報告(天文測地編)第32号~第36号(平成14年3月)により、インターネットで公表している。(水路部)

(オ)地殻構造調査

  • 深谷断層及び立川断層の深部構造や延長部を確認するための反射法調査を行った。また、大阪湾断層に関するデータの解析・解釈を実施し、大阪湾断層の活動史を求めた。技術開発のためのテストフィールドとして、単純な構造が推定される、基盤深度が約1km程度までの沖積低地・洪積台地を選定し、S波速度構造推定に関する反射法基礎実験を行い、最適な探査・解析技術の開発を行った。また基盤深度が2kmを越える、速度構造が概ね分かっている地域や構造が複雑な地域で同様の基礎実験を行い、探査・解析技術の検証を試みている。またこれらを補足するための深部構造調査を行っている。(産総研)
  • 深谷断層の延長部と思われる地域において、深部までの構造をとらえることができた。これにより、深部から浅部に至る構造の類似性から、深谷断層が南東の吹上町・吉見町境界付近まで延長していることを確認し、更に南東の元荒川断層帯へと延長する可能性を指摘した。立川断層では、深度300-600m付近の堆積層は全体として約100mの北東側隆起を示し、基盤深度では北東側沈降を示す。すなわち断層運動のセンスは北東側沈降-活動休止-北東側隆起という歴史をたどったことが明らかとなった。現在の北東側隆起は約300m以浅の堆積物がたまり始めた頃から開始した。また大阪湾断層は全体で40kmにもおよぶことを示し、計17か所で過去百万年間の垂直変位速度を推定した。垂直変位速度は多くの地点で0.5-0.8m/千年であることが分かった。卓越するであろう横ずれ成分を考えると、少なくともその一部はA級の活動度を持つと考えられる。(産総研)
  • P-S変換波を使用すると、通常の調査より大きなオフセットが必要ではあるが、平野部の基盤までの構造イメージングが充分可能であることを示した。改良すべき点はまだあるが、P-S変換波から基盤に到るまでのS波速度値を求めることができた。(産総研)

お問合せ先

研究開発局地震調査研究課