火山研究の推進のために早期に取り組むべき課題について(提言)

令和2年8月14日
科学技術・学術審議会
測地学分科会
火山研究推進委員会

1.背景

 我が国の火山研究は、昭和49年から複数次の5か年計画である火山噴火予知計画[i]に基づいて推進され、その長年にわたる計画によって火山観測体制の整備がなされてきた。その間、火山噴火の発生機構など現象の理解が進み、観測網が整備された火山においては、噴火の時期や場所の予測はある程度可能となったが、噴火の規模や様式、推移の予測は依然として困難なものと考えられている。このような中、平成 26 年9月に発生した御嶽山の噴火等を契機に、平成28年からの10か年のプロジェクトとして「観測・予測・対策の一体的な火山研究及び火山観測データの一元的流通の促進」と「広く社会で活躍する火山研究人材の裾野を拡大するとともに、火山に関する広範な知識と高度な技能を有する火山研究者となる素養のある人材の育成」を目標とする次世代火山研究・人材育成総合プロジェクト(以下「火山プロジェクト」という。)が開始された。火山プロジェクトは、令和元年度に中間年度を終えて、当初目指していた火山研究の推進、火山観測データの一元的流通の促進、技術開発、人材の育成に一定の成果が得られている。同プロジェクトは5年後の令和7年度に終了することが予定されており、科学技術・学術審議会測地学分科会火山研究推進委員会(以下「本委員会」という。)は、その成果の継承に係る次のような中長期的課題を認識しており、今後、同プロジェクト終了時までにその検討を行う。

  • 過去からのデータの蓄積
  • 基盤的な技術の開発及び継承
  • 育成した人材の受皿
  • その他(定常観測の継続、活動度の高い火山をフィールドラボラトリとした観測研究体制の構築等)

2.検討の方向性、考え方

 火山プロジェクトによる研究開発が順調に進む中、本年5月より本委員会においては、今後の検討課題である上述のプロジェクト終了後における成果の円滑な承継を念頭に置きつつ、現行の火山プロジェクトと並行して早期に取り組むべき課題について議論を行った。本委員会としては、今後、中長期的課題を議論し、実施を目指す上で必要な基盤を成すものとして、機動観測体制の整備を「早期に取り組むべき課題」と位置付けた。
 機動観測については、噴火発生や前兆現象発現などの緊急時における火山活動推移の迅速な把握や、平時における火山内部構造・状態の把握など、噴火現象の理解を深める上で重要である一方、各大学・機関がそれぞれ独自に人員や観測機器を揃えて機動観測を実施する体制を整えることは難しい現状にあることが認識されている。現行の火山プロジェクトにおいては緊急時及び平時の機動観測に活用する機器及び観測・解析手法の研究開発に取り組んでおり、例えば火山内部構造・状態把握技術の開発により水蒸気噴火の発生機構への理解が深まったほか、新しい火山活動の把握技術の開発も進んでいることから、機動観測を通じた噴火切迫性評価の可能性が示されている。このことを踏まえ、開発されたそれらの機器や手法を実装するなど、定常観測とも連携した系統的な機動観測を実現するためには、機動観測体制の高度化とその早期の整備に取り組むことが必要である。
 さらに、国内火山のみでは噴火の事例数及び噴火様式の多様性が確保できないことから、海外での機動観測の機会を得ることが重要である。しかしながら、火山研究における国際的活動は、個々の研究者による研究協力に依っている現状にある。我が国を代表した国際的な窓口を整備し、海外火山研究機関との関係構築が必要である。
 加えて、このような機動観測体制においては、これまでの地震火山観測研究計画や火山プロジェクトの推進によって醸成された、地球物理学者と関連分野の研究者との連携をさらに強化することが重要である。

 

3.早期に取り組むべき課題

 高度化した機動観測体制を整備するためには、機動観測を円滑に実施するためのマネジメントを可能とする事務機能の構築が求められる。具体的には、観測計画の策定、機動観測に係る研究者の派遣及び機材の調達・維持管理を一元的に行うための高度人材の登用と共用資機材の配備が必要である。また、そのような一元的マネジメントを行うに当たっては、次に掲げるような個別具体的な取組について一つずつ大学や研究機関の間の協力を進めていくことで、多くの事項に関する重層的な連携を構築していくことが重要である。

(取組例)

  • 機動観測チームの構成員(データ収集班及び解析班)の検討
  • 複数の火山の比較研究を行う際の観測項目の検討
  • 観測手順の統一
  • 新しい手法の評価・開発
  • 許認可申請の一元化
  • 機材の一元管理・相互貸与
  • 国の機関との調整
  

 

 海外火山研究機関との関係構築においては、長期間の取組により相互の信頼関係を構築することが重要であり、国際対応の恒久的な窓口の整備が必要である。

(取組例)

  • 海外火山研究機関における国際的な研究協力の動向調査
  • 研究者の長期派遣・緊急派遣
  • 海外研究者・留学生・研修員の招聘
  • 学術交流協定・国際共同研究の推進
  • 外国政府の規制への対応
  
 

 

4.おわりに

 本委員会においては、これまでの地震火山観測研究計画の進展及び火山プロジェクトの成果とその継承を見据え、現行の火山プロジェクトと並行して早期に取り組むべき課題について議論を行ってきた。その結果、一元的な研究マネジメントと国際対応の恒久的な窓口のための事務機能の構築による機動観測体制の整備が必要であることを「早期に取り組むべき課題」として提言するものである。
 本委員会としては、今後、中長期的課題についての検討を進めていくこととなるが、この「早期に取り組むべき課題」を着実に推進させることにより、火山プロジェクトの成果を活用した機動観測に多分野からの研究者が参画することで、火山観測研究が継続的に進展するとともに新たに構築される体制がさらに発展し、中長期的課題の円滑な解決につながることを望むものである。

 


[i] 平成21年度の地震予知計画との統合を経て、令和2年現在は平成31年度からの5か年計画である「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画(第2次)」(平成31年1月30日建議)を推進している

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