一.災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画の推進について(建議)の概要

○地震・火山噴火の現象を理解し,地震と火山噴火の予知を目指すこれまでの方針から,それらに加え,災害を引き起こす地震動・津波・火山灰や溶岩の噴出などの予測にも力を注ぎ,地震・火山災害の発生・推移を総合的に研究することにより,防災・減災に貢献する災害科学の一部として計画を推進する方針に転換。
○地震予知研究は昭和40年,火山噴火予知研究は昭和49年から,科学技術・学術審議会が建議する計画に沿って,全国の大学や関係機関が協力・連携して推進。平成21年度から両計画を統合して「地震及び火山噴火予知のための観測研究計画」を実施。平成23年東日本大震災を受け,平成24年に計画の見直しを実施。計画が平成25年度末で終了することから,平成24年に実施状況の総括的自己点検及び外部評価を実施。外部評価などの指摘を受けとめ,社会の要請を一層踏まえて計画を策定。
○低頻度・大規模な地震・火山現象の解明や,地震・火山災害の事例研究,発生機構の解明,地震動,津波,降灰,溶岩流の事前評価と即時予測,体系的な災害情報発表方法の研究を新たに開始。そのため,地震学・火山学を中核に工学,人文・社会科学等を含む総合的かつ学際的に研究計画を推進。

(一).現状認識と長期的な方針

1.地震及び火山噴火予知のための観測研究に関する現状認識

・我が国は世界有数の地震・火山国であり,これまで地震や火山噴火による災害が度々発生し,多数の被害を経験。
・東日本大震災(平成23年東北地方太平洋沖地震)について,その震源域でマグニチュード9に達する超巨大地震の発生の可能性を事前に追究できなかったことを反省し,計画の見直しを実施し,平成24年に建議。
・現行の計画が平成25年度までであることから,平成24年に実施状況について総括的自己点検評価,及び外部評価を実施。外部評価や「東日本大震災を踏まえた今後の科学技術・学術政策の在り方について(建議)」などの指摘を踏まえ,また,これまでの計画の経緯と成果を鑑み,研究計画を策定。
・従来は,自然現象としての地震・火山噴火の予知に基づいて災害軽減への貢献を追求。今後は,地震・火山噴火による災害の発生を,地震動,津波,火山灰や溶岩の噴出などの外力(災害誘因)の,人の暮らす社会・自然環境の脆弱(ぜいじゃく)性(災害素因)への作用との認識し,地震・火山噴火の発生から,災害発生やその推移までを念頭に災害誘因の予測を行い,地震・火山災害の軽減に貢献する方針に転換。

2.地震及び火山噴火予知のための観測研究のこれまでの経緯と成果

・地震予知研究は約50年間,火山噴火予知研究は約40年間,地震・火山噴火の災害軽減に資すべく継続的に実施。平成21年度から,両計画の統合的かつ効率的な進捗を目指して統合。これまでの成果は,以下のとおり。
・プレート境界での滑りの多様性を世界に先駆けて解明し,巨大地震の発生を含むプレート境界での滑り現象のシミュレーションの手掛かりを獲得。プレート境界の繰り返し地震の中で,発生時期・規模の予測が可能な事例を発見。
・高密度で多項目の観測や火山噴出物の高精度な解析より,噴火に至るまでの現象,マグマの移動,噴火発生や噴火後の過程の理解が進み,火山噴火機構の総合的理解が進展。噴火に先行する多数の観測事象が集積。
・これまでの計画で開発された三陸沖のケーブル式地震・津波計は,平成23年の三陸大津波の襲来20分前に巨大津波を観測。その技術は,政府が設置を進める津波観測網へ応用。
・これまでの成果に基づいた有珠山や三宅島などでの火山噴火予知の実践を踏まえ,住民の避難計画と連動した噴火警戒レベルを気象庁は順次運用開始。
・地震の発生予測や火山噴火の規模や様式,活動推移の予測手法は現時点では未確立であるが,予測につながる地震や火山現象に関する理解が一層深化した。

3.観測研究計画の長期的な方針

・地震や火山噴火による災害の発生を,地震動,津波,降灰,溶岩流などの災害誘因が外力となり,社会・自然環境の脆弱(ぜいじゃく)性である災害素因へ作用することと認識。災害誘因を予測して,それに備えることが地震・火山噴火の災害軽減の基本。
・災害の根本原因である自然現象である地震や火山噴火の発生から,災害誘因の予測,災害発生とその推移を含めて総合的に理解し,それを防災・減災に生かす災害科学の一部として計画を推進。災害に備えることを念頭に,地震や火山噴火の発生とそれに伴う災害誘因から災害を予め(あらかじめ)知り(災害の予知),それにより災害軽減に貢献することが目標。
・発生すると甚大な災害となる低頻度・大規模な地震・火山現象について,過去の事象や海外の事例を取り入れて研究を推進。歴史学・考古学・地質学などとの連携や国際共同研究を強化。
・成果を社会の防災・減災に効果的に役立てるため,政府の施策,行政機関との連携を強化。

(二).本計画の策定の基本的な考えと計画の概要

1.本計画の基本的な考え

・計画の目的が地震・火山災害の軽減への貢献であることを一層明確にし,地震や火山噴火の発生予測を目指す研究を継続しつつ,災害誘因予測研究を体系的・組織的に始め,国民の生命と暮らしを守る災害科学の一部として研究を推進。
・これまでよりも広い知の結集が必要であることから,地震学や火山学を中核とし,災害や防災に関連する理学,工学,人文・社会科学などの研究者も加わり,専門知を結集し,総合的かつ学際的な研究計画として推進。
・災害の根源である地震と火山噴火の仕組みを自然科学的に理解する「地震・火山現象の解明のための研究」,地震や火山噴火を科学的に予測する手法を研究する「地震・火山噴火の予測のための研究」,地震動,津波,火山灰や溶岩の噴出など災害の誘因となる自然現象の事前評価・即時予測を研究する「地震・火山噴火の災害誘因予測のための研究」を実施。長期的な取組で計画を推進し,成果が防災・減災に効果的に利活用される仕組みをつくるため「研究を推進するための体制の整備」を実施。
・東北地方太平洋沖地震,南海トラフの巨大地震,首都直下地震,桜島火山等の優先度の高い地震や火山の研究については,上記の区分を横断して,総合的に実施。

2.本計画の概要

本計画の基本的な考えに沿って,以下の研究を実施。

2-1.地震・火山現象の解明のための研究

地震や火山噴火を科学的に理解するための基礎的な観測研究を推進。特に,低頻度で大規模な現象の理解のため,史料,考古データ,地質データ等も活用。

《地震・火山現象に関する史料,考古データ,地質データ等の収集と整理》
古い年代の地震・火山噴火に関する史料の解読・解釈,考古学的な発掘痕跡の集約,地質調査データの調査・分析。その成果のデータベース化。

《低頻度大規模地震・火山現象の解明 》
観測データや史料,考古データ,地形・地質データの解析・分析から地震学・火山学の知見に基づき,低頻度・大規模の地震・火山現象解明の研究を推進。特に,東北地方太平洋沖地震,南海トラフ巨大地震の発生機構に関する観測研究を推進。

《地震・火山噴火の発生場の解明》
地震及び火山噴火の発生場の構造,ひずみ・応力の時空間分布と地震・火山活動の関連を研究。特に,東北地方太平洋沖地震とその余効変動による影響に注目。

《地震現象のモデル化》
日本列島域の構造モデル,複雑な破壊現象を表現できる断層の物理モデルを構築。両者を利用し,地震発生機構の定量的な理解やプレート境界での多様な滑りを再現する数値シミュレーション実験を推進。

《火山現象のモデル化》
多項目観測データや火山噴出物の解析から,噴火先行現象やそれに続く多様な火山現象の物理・化学過程を解明。マグマの発泡・脱ガス・破砕などに関する理論・実験研究の成果も取り入れ,火山現象の物理・化学過程のモデル化を推進。

2-2.地震・火山噴火の予測のための研究

地震や火山噴火現象の科学的理解を踏まえて,地震発生や火山噴火,地震活動や火山活動の予測研究を推進。

《地震発生長期評価手法の高度化》
数値シミュレーションなどを利用した地震発生の長期評価手法を開発し,史料,考古・地質データなどから推定された地震の発生履歴に基づき,地震発生の長期評価手法を高度化。

《モニタリングによる地震活動予測》
観測データと数値シミュレーションの結果を比較し,地殻内の応力やひずみなどの状態を評価し,地震発生や地殻活動の理解の深化を推進。地震活動の統計的性質に基づく地震活動の予測を行い,その性能を評価。

《地震先行現象に基づく地震活動予測》
地震の先行現象の捕捉のための観測を実施。先行現象と地震発生の関係を統計的に評価。統計的に有意な先行現象は,その発生機構の物理・化学的な根拠を探究。

《事象系統樹の高度化による火山噴火予測》
噴火履歴から,近い将来に噴火が懸念される火山の活動や噴火現象の時系列をまとめた噴火事象系統樹を作成。研究成果を利用して事象系統樹の分岐条件の導出とその判定法を探求し,火山噴火予測を試行。

2-3.地震・火山噴火の災害誘因予測のための研究

防災・減災に貢献するために,地震や火山噴火の発生から災害に至るまでの過程を史料,調査・観測記録から理解し,地震動,津波,降灰などの災害誘因の予測の研究を推進し,災害を予め(あらかじめ)知って対応できる(災害の予知)ことを目指した研究を推進。

《地震・火山噴火の災害事例の研究》
地震・火山噴火による災害の特性を,事例研究に基づいて把握。歴史記録から社会環境の時代的変化に留意して過去の地震・火山災害の特性を知り,地域特性も踏まえ,自然現象としての災害誘因と社会・自然環境としての災害素因を抽出。

《地震・火山噴火の災害発生機構の解明》
地震・火山噴火による災害誘因が,自然・社会環境の脆弱性などの災害素因に与える作用力,波及効果を解明し,災害発生機構を探究。二次災害の抑止,社会混乱の防止などの新たな災害研究の分野を複合学術領域で構築。

《地震・火山噴火の災害誘因の事前評価手法の高度化》
地震・火山噴火が引き起こす地震動,津波,地滑り,降灰,山体崩壊などの災害誘因の発生可能性を事前に評価する手法の高度化を目指す研究を推進。

《地震・火山噴火の災害誘因の即時予測手法の高度化》
地震・火山噴火が引き起こす災害誘因を,地震・火山噴火発生直後に即時的に高精度に予測するための観測データの利用法や解析手法の高度化を目指す研究を推進。

《地震・火山噴火の災害軽減のための情報の高度化》
確率表現の有無,確度の高低など様々な地震・火山噴火予測情報を,それに見合った活用法で災害軽減に役立てる方策を検討。災害啓発情報,災害予測情報,災害情報,災害関連情報などの高度化のための研究を推進。

2-4.研究を推進するための体制の整備

本計画を達成するための体制の整備。

《推進体制の整備》
国民の生命と暮らしを守る災害科学として計画を実施し,成果が効果的に防災・減災に役立つような計画推進体制を構築。地震・火山防災行政の中で,どのように貢献するべきかを踏まえ,地震調査研究推進本部など関連機関との連携を強化。
総合的かつ学際的に研究計画を推進することから,その進捗状況を把握,達成度の評価,問題点と今後の課題の整理などを行う計画推進体制を整備。

《研究基盤の開発・整備》
行政官庁,研究機関,全国の大学が協力し,地震・火山の活動評価や研究に必要な観測基盤,データを効率的に処理・流通するシステムを維持・拡充。
本計画で得られる成果をデータベース化し,研究者間で共有する仕組みを構築。
新たな観測技術の開発,地殻活動モニタリング手法高度化などの研究を推進。

《関連研究分野との連携の強化》
本計画が災害科学に貢献すべきという観点で,過去の地震・火山噴火の事例調査,災害の発生に至る過程の研究の推進のため,理学だけではなく工学,人文・社会科学などの関連研究分野との連携を強化。

《研究者・技術者・防災業務・防災対応に携わる人材の育成》
関連機関が協力して,若手の研究者,技術者,防災・減災に関わる行政・企業・教育機関などで活躍する人材を育成。

《社会との共通理解の醸成と災害教育》
関連機関が協力して,研究成果を社会にわかりやすく伝え,社会との共通理解の醸成のための取組を強化。地震・火山科学が社会に発信する情報を含め,災害情報の在り方について検討。

《国際共同研究・国際協力》
大規模な地震,津波,火山噴火の災害は世界各地で発生し,海外の事例を研究する必要から,国際共同研究を促進する体制を整備。
災害科学の先進国である我が国の責務として,開発途上国における地震・火山噴火災害の防止・軽減に貢献する体制を維持・整備。 

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研究開発局地震・防災研究課

(研究開発局地震・防災研究課)