用語解説

アスペリティ

 プレート境界や断層面の固着の強さが特に大きい領域のこと。この領域が地震時に滑ると、滑り量が周りよりも大きくなり、大振幅の地震波を放出する。

アナログ物質

 研究対象とする物質に性質や構造がよく似ている物質のことをいう。研究対象の物質を用いた実験が困難であるとき、性質や構造がよく似ている物質であるアナログ物質を用いて実験を行う。

異方性

 一般には方向によって物性が異なることをいうが、ここでは地震波速度の異方性のこと。振動方向や伝播方向によって地震波の伝播速度が異なること。

応力

 物体内部での力のかかり具合を示す、物体内部に考えた仮想的な面を通して及ぼされる単位面積当たりの力。震源域の応力が破壊強度より高くなったときに地震が発生すると考えられている。三次元の物質中の任意の応力状態は互いに直交する三つの軸に平行な圧縮と引っ張りで表すことができるが、この三つの軸を応力の主軸と呼ぶ。

温度検層

 観測井などで深さ方向に温度を測定し、鉛直方向での温度の変化(温度勾配)を測定すること。この温度勾配により、地表付近での地下からの地殻熱流量が推定できる。

活断層

 地質時代でいう第四紀後期(数十万年前~現在)に繰り返し地震を発生させ、地表近傍まで食い違いを生じさせてきた断層。今後も同様の地震を発生させると考えられる。

火道

 地下のマグマ溜まりから地表へ至るまでのマグマの上昇経路のこと。火道でのマグマの脱ガスや上昇の仕方が噴火の様式を左右する。

間隙流体圧

 土や岩石中の空隙を占めている流体の圧力。

観測井

 観測機器を孔底に設置した井戸や地下水、地下水温等の観測を行っている井戸。このうち、特に深いもの(通常深さ1000m以上)を大深度観測井という。

貫入(マグマの貫入)

 地殻内でマグマ圧力の急増等によりマグマが周辺岩体を破砕して経路を作り移動すること。

規模依存性

 現象の規模によって、物理量などがどのように変わるかを記述する法則。例えば、断層の長さや滑り量が地震の規模にどのように依存するかを記述する法則。

逆解析

 観測データから、それを生じさせる原因となる現象や物質の性質等を推定する解析手法。

強震観測網

 被害を起こすような強い揺れの地震波形を、振り切れることなく確実に記録できる強震計で構成された観測網。これらの観測網のデータ等は、地震ハザード・被害リスク評価などに役立てられている。防災科学技術研究所のK‐NET、KiK‐netは全国規模の強震観測網であり、約1000の観測点からなる。

空振

 噴火に伴って火山ガス等が火口から大気中に放出されるために発生する空気振動のこと。桜島や浅間山などで発生するブルカノ式噴火では、空振によって火口から10km以上も離れた家屋の窓ガラスが破壊されることがある。

ケーブル式海底地震計

 海底での地震観測を行う一方式。複数の地震計を海底ケーブルでつなぎ、地震計からのデータは海底ケーブルにより陸上局まで伝送され、リアルタイムのデータ取得ができる。

高感度地震観測網

 人が感じない極めて微弱な地面の揺れまでを記録するために、微動の影響を避けるために設置した高感度地震計で構成される観測網。この記録は詳細な震源分布の把握や日本列島周辺の地下構造推定など広く地震研究に活用されている。例えば、独立行政法人防災科学技術研究所のHi‐netは全国規模の高感度地震観測網であり、約800の観測点からなる。

広帯域地震観測網

 広帯域地震計で構成された地震観測網。例えば、独立行政法人 防災科学技術研究所のF‐netは様々な周期の揺れを正確に記録するために全国約70か所で横穴の奥に広帯域地震計を設置した観測網。日本列島周辺で発生した地震のメカニズム解の推定や地下構造の推定、火山周辺で発生する長周期振動、火山性微動の解析に用いられている。

広帯域地震計

 主として周期約100秒から0.1秒までの地面の振動を観測できる周波数帯域の広い地震計。周期数秒より長い地面の揺れに対しては他の地震計に比べて感度が高い。

雑微動

 地面は、海の波浪や風に揺れる木々や人工構造物、鉄道や道路を走る自動車などが振動源となり地震時でなくとも常に小さく揺れている。その振動は高感度の地震計で捉えることができ、それらを総称して雑微動(または常時微動)と呼ぶ。特に周期が数秒程度のものを脈動、周期1秒以下のものを微動と区別することもある。

地震調査研究推進本部地震調査委員会

 地震調査研究推進本部は行政施策に直結すべき地震に関する調査研究の責任体制を明らかにし、これを政府として一元的に推進するため、地震防災対策特別措置法に基づき政府の特別の機関として1995年7月に総理府(現在の所管は文部科学省)に設置された。地震調査委員会は、地震調査研究推進本部の下に設置され、関係行政機関(気象庁、国土地理院など)や大学等の調査結果を収集、整理、分析し、これに基づき地震活動に関して総合的な評価を行う。

地震発生サイクル

 地震発生後、断層面の強度が回復するとともに、プレート運動などによる広域応力により再びひずみエネルギーが蓄積され、次の地震が発生するまでの一連の過程。

シミュレーション

 実際の事象を、その事象を支配している法則に基づいてほぼ同様となるように組み立てた模擬空間で再現試行すること。コンピュータを用いた数値シミュレーションを指すことが多い。計画では、強震動や地震発生サイクル等のシミュレーションが行われる。

準備過程
(地震準備過程)

 地震発生直後から次の地震発生に至るひずみエネルギーの蓄積と応力集中の過程。

(火山噴火準備過程)

 火山噴火は、火口から溶岩や火山ガスが急激に地表に放出される現象である。その過程として、地下深部で発生したマグマが、マントルや地殻内を上昇し、地殻浅部にマグマ溜まりとして蓄積される。さらに、内部の圧力が高まる等の理由で、マグマが地表へ移動し溶岩や火山ガスとして噴出する。このように噴火に至るまでの一連のプロセスを意味する。

水蒸気爆発

 水が加熱されて起こる爆発的な噴火のこと。水蒸気と粉々になった岩石が火口から激しく放出される。水蒸気爆発では噴出物にマグマは含まれないが、引き続いてマグマを含む噴火に移行することがある。

スラブ

 マントル内部に沈み込んだ海洋プレート。このプレート内部で発生する地震をスラブ内地震と呼び、海溝の近くやプレート境界地震が起こらないような深部で大地震が起こる場合がある。

スロースリップ

 地震波を放射しない、断層面やプレート境界面でのゆっくりとした滑り。ここでは、継続時間が数か月以上のものを長期的スロースリップ、それ以下のものを短期的スロースリップと呼ぶ。ゆっくり滑りとも言う。

セグメント

 活断層は常にその全長にわたって破壊されるわけではなく、いくつかの区間に分かれて活動するが、それぞれの区間をセグメントという。

絶対重力/絶対重力計

 絶対重力とは、基準となる点からの重力差(相対重力)と対をなす概念。観測点における重力加速度そのものを指す。現在の絶対重力計は、真空中でプリズムなどの反射鏡からなる物体を、投げ上げもしくは自由落下により運動させて、加速度を計測する。測定精度・確度とも1マイクロガル(地上重力値の10億分の1)程度である。

全磁力

 地球磁場の大きさ。磁場の観測量として、その長期的安定性が最も高い。磁気を帯びた鉱物の帯磁は、温度や応力によって変化するので、全磁力の変化は地下の温度、応力状態の変動を示唆する。

せん断帯(地震のせん断帯)

 物体の平行に向き合う面において、逆の向きに力を受け平行に向き合う面の間に滑りを生ずるような変形を受けた領域を指す。

素過程

 地震現象や火山現象を理解する際に、それらの現象を支配する基本となる岩石の物性や物理現象のプロセスをさす。具体的には、室内実験や野外観測、あるいはシミュレーションを通して、摩擦・破壊現象や噴火現象について、岩石の性質や基本となる物理現象をもとに地震現象や火山現象の理解を深める。

塑性流動

 高温高圧下で結晶質の岩石におこる永久変形。巨視的な破壊を伴わないことが特徴で、流体の流動と見かけ上よく似ているが、メカニズムは流体の流動と異なる。塑性流動は、結晶中の転位の運動、原子の拡散、結晶粒界での滑りなどが原因で起こる。

「だいち」

 陸域観測技術衛星(ALOS)。地図作成、地域観測、災害状況把握、資源探査等を主目的とし、2006年1月に打ち上げられた国産衛星。地殻変動検出に適するLバンド(波長23.6cm)のSARセンサー及び2種の光学系センサーを搭載する。

弾性層(地殻の弾性層)

 地殻の上部は弾性的性質(力を加えると変形するが、力を加えることをやめれば元の状態に戻る性質)を持つが、深部になると粘弾性的性質(粘性と弾性の二つの性質を併せ持つこと)や塑性的性質(力を加えて変形させたとき、永久変形を生じる物質の性質)を持つ。地殻の弾性層とは、地殻のうち上部の弾性的性質をもつ領域。

脱ガス過程

 マグマが地表に近づいた際に、圧力の低下のために、マグマ中に溶解していた水や炭酸ガスなどの成分(揮発性成分)がマグマから火山ガスなどとして分離する過程。揮発成分の分離する割合や仕組みは噴火機構などを左右する重要な要素である。

地殻活動

 地震のほか、火山活動、断層の滑りや媒質の応力変化などを含めた地殻内での地学現象全般。

地殻熱流量

 地球内部から単位面積・時間当たりに地表に向けて流れてくる熱量。

低周波地震

 地震波の低周波成分が卓越し、高周波成分の地震波が相対的に少ない地震のこと。ここでは特に陸域の地殻深部やマントル最上部付近で発生する地震を指す。活火山ではしばしば低周波地震が観測され、マグマなどの火山流体の地下での移動や地表への噴出活動と密接に関連していると考えられている。

同化(データ同化)

 複雑な現象の高精度予測のために、数値シミュレーションの結果として得られる物理量が観測データをなるべく再現できるように、適切な初期値や境界値、各種パラメータを推定すること。

二重地震面

 沈み込んだ海洋プレートの内部では、プレートの沈み込む方向と平行に微小地震の震源が互いに30~50 km離れて二重に帯状に並ぶ。この二重の微小地震の帯を指す。

熱水系

 マグマから分離上昇した火山ガスが地下で凝縮したり、地下水と接触したりして生じる熱水の生成過程、移動経路などを含むシステム全体のこと。

発震機構(解)

 地震の起こり方。地震波の放射パターンなどから求められる震源断層の走向、傾斜角、滑り角を指す場合が多い。断層に働いていた力の方向を知る手がかりになる。

非地震性滑り

 断層やプレート境界における、地震波を放出しないゆっくりとした滑り。

ひずみ集中帯

 測地観測や地形から推定される地殻ひずみが大きい領域。新潟‐神戸ひずみ集中帯など。

比抵抗

 単位断面積、単位長さあたりの電気抵抗値。電気伝導度の逆数。

プレスリップ

 地震が発生する際に、本震に先駆けて起こるある程度の大きさをもつ滑り現象のことで、地震を伴わない滑り現象の場合もある。前駆滑り、前兆滑りとも言う。

プレート

 地球表面は、地殻と十分に冷却して固くなっている最上部マントルとを合わせた、厚さ100km程度の固い岩石の層で覆われている。この固い岩石の層は、いくつかのブロックに分割されている。それぞれの板状(球殻状)のブロックをプレートという。

噴火事象系統樹

 火山ごとに、可能性のある複数の噴火現象の時間的推移を分岐させて作成した、噴火の推移を示す系統樹。

噴火シナリオ

 火山ごとに、噴火で想定される現象の発生推移を時系列的に整理したもの。規模や現象発生パターンなどの分岐判断について示した系統樹を指すこともある。

噴火様式

 マグマが火砕物とガスとの混合物として噴出する場合、噴火の様子はマグマの性質や破砕の程度などによって異なり、いくつかのタイプに識別される。その異なる噴火の様子を噴火様式という。

ボアホール

 地下深部の情報を取得するために掘削される円筒状の穴。直径は10~20 cm程度のものが多いが、深いほど大きくするのが普通である。ボアホールは地下深部の岩石のサンプル(コア試料)を取得する目的のほか、地下深部での地震計やひずみ計、傾斜計などの計測機器の設置、地下水・応力測定などに利用される。

ボーリング

 地表からの掘削により柱状試料を採取する手法。トレンチ調査に比べはるかに長い活動時期の地質試料を入手することができる。ただし、掘削に当たっては櫓を組み、大量の水を必要とするなど大掛かりな作業が必要となる。

マグマ

 岩石物質の高温溶融体で地表付近にあるもの。溶岩ともいう。マグマが地下で結晶化したり、地殻物質を溶かしこんだりして、多様な組成のマグマができる(分化という)。マグマが上昇すると、マグマの中に溶解していた揮発性成分が気泡となり発泡する。火道での気泡の離脱(脱ガス)の仕方により噴火の激しさが変化する。

マグマ供給系

 地下深部から火口までマグマが供給されるマグマ溜まりや、火道を含むシステム全体のことを指す。

マグマ溜まり

 火山活動の源であるマグマが蓄積されているところ。火山やカルデラの直下にあると考えられているが、その正確な形状や内部構造は分かっていない。

摩擦・破壊構成則

 岩石の破壊強度や断層面上の摩擦を滑り変位や滑り速度などの関数として記述したもの。

摩擦パラメータ

 地震を不安定滑りの一種であると考え、滑り面に働く摩擦の速度依存性や時間依存性の強さを表すパラメータ。

ミュオン(宇宙線ミュオン)

 宇宙線が大気中の原子核と反応して生成される二次宇宙線の一つで、地上に絶え間なく降り注いでいる素粒子。透過する物質の密度差によってミュオンの減衰が異なることを利用して、X線の透視撮影のように地殻内部の密度分布を調べる試みがなされている。

余効滑り

 地震の後に震源域あるいはその周囲で発生するゆっくり滑り。

余効変動

 地震の後に震源域あるいはその周囲で発生する地殻変動。断層面やプレート境界でのスロースリップ(ゆっくり滑り)や媒質の粘弾性変形、流体の移動による変形などによって引き起こされる。

ラドン濃度

 放射性元素ラドンの濃度。地震の発生に先行した地下水中等のラドン濃度の変化が報告されている。

リモートセンシング

 遠隔観測手法の総称。様々な波長の電波や光を用いて、対象物の地形、温度、物質などを測定する。人工衛星や航空機から測定することによって広い範囲を速く測定できる。

AE

 アコースティックエミッション(Acoustic Emission)ともいう。岩石や金属などに応力や熱が加えられると、内部に応力が集中し、これによって微小破壊などの急激な運動が引き起こされる。このような急激な運動にともなって放射される高周波の弾性波をアコースティックエミッションまたはAEと呼ぶ。

CSEP

 Collaboratory for the Study of Earthquake Predictability の略。米国・欧州・ニュージーランド・日本を中心として実施している国際プロジェクトで、できるだけ統計学的に厳密な手法で地震発生の予測を行い、その結果を評価し、統計学的手法による地震発生予測可能性を検証して手法の確立を目指している。

GPS

 汎地球測位システム(Global Positioning System)の略。地上高約20,000kmの高度を航行するGPS衛星からの電波を地上で受信し、三次元的位置と時刻を正確に計測するシステム。地殻変動計測には干渉測位と呼ばれる電波の位相を用いた相対測位法が用いられる。

LiDAR

 Light Detection and Ranging、Laser Imaging Detection and Ranging の略。光を用いたリモートセンシング技術の一つで、パルス状に発光するレーザー照射に対する散乱光を測定し、遠距離にある対象までの距離やその対象の性質を分析するもの。

MT(法)

 MT(Magnetotelluric)法は、自然界の電磁場変動(例えば、太陽風や雷放電などによる地球磁場の擾乱)を利用して、地下の電気伝導度構造を探査する方法である。0.001Hzから1000Hzまでの周波数帯域を用いるものを、特に広帯域MT法と呼ぶ。また、ネットワークMT法とは、深さ100km程度までの深部電気伝導度構造を広域的に推定するため、通常自前で電線をはり電場を測定するところを、NTTのメタリック回線を用いて数kmから10km離れた2地点間を結び、長基線でかつ長期間電位差を測定する観測法。

SAR

 合成開口レーダー(Synthetic Aperture Radar)の略。人工衛星や航空機などに搭載されたレーダーの移動により大型アンテナと同等の高い分解能を実現したレーダーシステム。干渉SAR(Interferometric SAR、InSAR)は、2時期の観測データの差をとる(干渉させる)ことにより地表面の変動を詳細にとらえる手法である。

SLR

 人工衛星レーザー測距(Satellite Laser Ranging)の略。人工衛星に搭載した逆反射プリズム(コーナーキューブ)に対して、地上基地局からレーザー・パルスを発射し、そのパルスの往復時間から衛星までの距離を1cm程度若しくはそれより良い精度で求める技術。

VHF

 VHF(Very High Frequency)は超短波を意味し、30~300MHzまでの周波数の電波を指す。

VLBI

 超長基線電波干渉法(Very Long Baseline Interferometry)、または超長基線電波干渉計(Very Long Baseline Interferometer)の略。クエーサー(準恒星状天体)から放射される宇宙電波を数千km離れた複数の観測点で同時に受信し、その到達時間差から観測点間の距離や位置関係を測定する。

お問合せ先

研究開発局地震・防災研究課

(研究開発局地震・防災研究課)