3.平成21年度の成果の概要

3‐1.地震・火山現象予測のための観測研究の推進

(1)地震・火山現象のモニタリングシステムの高度化

 地震現象と火山噴火現象の理解を深め、それらの予測精度を向上させるために、日本列島全域には稠密な地震・地殻変動等の観測網が、全国の火山周辺には地震・地殻変動・重力・全磁力等の火山活動観測網が着実に整備・強化されつつある。また、地震活動・火山活動の高い地域では、観測データのリアルタイム処理システムの開発や整備などのモニタリングシステムの高度化を行い、地震予知や火山噴火予知のためのデータベースの構築や、地殻活動予測シミュレーションへのデータ提供の検討を開始した。現在最も巨大地震発生の切迫度の高い東海・東南海・南海地域では、プレート間滑りに関連するスロースリップの検出が重要課題であるが、その検出の高度化に関する研究を進めている。

・日本列島域

 即時的震源情報の提供とそれによる地殻活動・火山現象モニタリングの手法の開発・高度化を行い、少数の広帯域地震計記録から超低周波地震等を検出する解析法や継続期間が数日程度のスロースリップの自動検出システムを開発した。
 また、これまで整備が遅れてきた火山観測網の整備を進めた。複数の機関が協力して、全国の47火山にボアホール型高感度地震計、GPS、傾斜計、広帯域地震計、空振計、火口監視カメラ等の整備を進めた。これにより、火山監視の強化と火山噴火予知研究の推進が大いに期待できる。

・地震発生・火山噴火の可能性の高い地域

 宮城県沖では、自動処理により抽出した繰り返し小地震の発生状況及びプレート間の非地震性滑り状況のモニタリングを行った。最近4年間では、福島県、茨城県のはるか沖合で2008年以降非地震性滑りの加速が顕著であること、この滑りの大部分は2008年5月の茨城県沖の地震(マグニチュード7.0)後に発生していること、2009年末頃においても同領域の滑り速度は以前よりも速い状況が続いていることなどを明らかにした。

・東海・東南海・南海地域

 新たな地殻変動検出手法として、干渉SAR時系列解析手法を近畿地方に適用した。陸域観測技術衛星「だいち」によるSAR干渉画像とGPSデータを統合処理し長波長ノイズを除去することで、広範囲で微小な地殻変動を検出するのに有効であることがわかった(図4)。この手法を用いることにより、アスペリティ周辺で発生するスロースリップや低周波微動等に伴う微小地殻変動を精度よくモニタリングできる。

(2)地震・火山現象に関する予測システムの構築

(2‐1)地震発生予測システム

 地震発生とその準備過程の物理学的理解に基づいて構築された地殻活動予測シミュレーションモデルと、モニタリングシステムから得られる観測データを統合した地震発生予測システムを開発し、それに基づいて「地震がいつ、どこで、どの程度の規模で発生するか」の定量的な予測を目指している。現実的なシミュレーションモデルの開発には、観測データを取り込み、現実の現象を再現するデータ同化が必要がある。このため、データ同化の手法の開発を行った。また、従来のシュミレーションモデルでは考慮されていなかった物理過程を取り込んだ高度なシミュレーションの手法を開発した。さらに、地震活動を確率論を用いて予測する手法の検証を進めた。

・地殻活動予測シミュレーションとデータ同化

 プレート境界における応力や滑りの時間変化を計算するための地殻活動予測シミュレーションは、これまでは現実の観測データを定性的にしか再現できず、定量的評価ができなかった。そこで、観測データから得た情報を初期条件としたシミュレーションを行うことや、シミュレーションに観測データを直接取り込むデータ同化手法の開発を行った。図5にその例を示す。最初に、西南日本のGPSデータを解析して東南海・南海地震の震源域を含むユーラシアプレートとフィリピン海プレートの境界面における滑り遅れ(固着の程度)の分布を推定した。次に、この滑り遅れ分布から求めた応力分布を初期条件として、破壊伝播のシミュレーションを行った。その結果、東南海地震・南海地震の発生を再現することに成功した。
 また、データ同化手法の開発については、GPSにより観測された余効滑りデータを利用して、地殻活動予測シミュレーションモデルに必要な摩擦パラメータを推定する手法を開発した。これを平成15年(2003年)十勝沖地震の余効滑りのデータに適用し、現実のプレート境界面上での摩擦パラメータを推定することに成功した。

・地殻活動予測シミュレーションの高度化

 より現実的なシミュレーションモデルの構築を目指して、従来考慮されていなかった摩擦発熱や間隙流体圧の時間変化などの物理過程を考慮したシミュレーション研究を行った。地震発生時の摩擦発熱を考慮すると、考慮しない場合に比べて地震の繰り返し発生間隔が長くなることを明らかにした。また、摩擦発熱、間隙流体の移動等と断層滑りの相互作用についての理論的研究から、地震時の高速な断層滑りとスロースリップが統一的に理解できることを明らかにした。

・地震活動評価に基づく地震発生予測

 これまで、地震活動を確率論的に予測するための統計モデルが開発されてきたが、予測能力の比較・検証は十分に行なってこなかった。そこで、モデルを統一的に評価・検証するために、国際研究プロジェクトCSEPと連携して地震活動予測検証実験を開始した。

(2‐2)火山噴火予測システム

 ある程度観測体制が整備された火山では噴火の前兆を観測から捉えることができるが、一旦始まった噴火の規模や様式、推移の予測は、その火山の直近の噴火例を重視しがちで、大きくはずれる例もあった。これらの予測を成功させるには、過去の噴火履歴や火山観測例に基づいて、将来起こりうる噴火の先行現象や噴火の推移をすべて網羅した噴火事象系統樹を作成しておくことが重要である。また、これを用いて噴火活動の時系列を推定する噴火シナリオを実際に活動している火山に適用し、噴火シナリオの有効性や不備などを評価することが必要である。噴火シナリオの作成と噴火シナリオに基づく噴火予測を5か年かけて試行する予定で、平成21年度は三宅島火山(東京都)の噴火シナリオを作成した。

・噴火シナリオの作成

 三宅島の過去の噴火の履歴と観測データから全ての噴火事象を抽出し、発生確率を付した噴火事象系統樹を作成した。これと、過去の噴火事例との対比により、ひとつの噴火事象から次の事象が発生するまでの時間や各現象の継続時間の範囲を知ることができる(2.平成21年度の代表的な成果を参照)。
 今後、三宅島で試作した噴火シナリオの高度化と、桜島等の噴火活動中の他の火山での新たな噴火シナリオの試作も行う。

・噴火シナリオに基づく噴火予測

 作成した噴火シナリオを現実の噴火活動に適用して噴火予測を行い、その有効性を検証するとともに、改善点を見つけ出すことが噴火予測の高度化に不可欠である。三宅島の火山活動が低調であったため、試作した三宅島の噴火シナリオを効果的に検証することはできなかった。次年度以降、現在活動中の桜島火山等の噴火シナリオを試作し、これを実際の噴火予測に試用することにより、噴火シナリオに基づく噴火予測の有効性を検証する。

(3)地震・火山現象に関するデータベースの構築

 地震や火山噴火現象を解明し、それらを予測するシミュレーションモデルを開発するためには、その基盤となるデータが利用しやすい形式で長期に保存されていることが必須である。地震や火山現象解明のために必要な観測データをまとめた「基礎データベース」を構築するとともに、予測シミュレーションモデルの開発のために、基礎データにこれまでの研究成果を付加した「統合データベース」も構築する必要がある。ひずみ計や傾斜計の基礎データベースの整備と、統合データベースのフォーマットを統一化し、利便性を図った。

・地震・火山現象の基礎データベース

 ひずみ計や傾斜計は、変動の周期が数日程度の地殻変動においてはGPSよりも高感度であり、地震発生に至るプレスリップやスロースリップの検出において大きな役割を果たすものと思われる。基盤的観測網として整備され、データの流通が進んでいる地震計データやGPSデータに比べると、ひずみ計や傾斜計データの流通やデータベース化は格段に遅れていた。ひずみ計と傾斜計に加え、重力計、水位計、気圧計などデータも含め、全国の50観測点データを一元的に管理し、試験的に流通させた。また、地震計データでは、高感度地震観測網、広帯域地震観測網、強震観測網の波形データをひとつにまとめ、日本周辺の地震について総合地震波形データベースを構築した。

・地震・火山現象に関する情報の統合化

 地殻の弾性層の厚さ、重力異常、地震発生域深度の上限・下限、GPSによって得られるひずみ速度、地震活動度、活断層、地温勾配、地磁気データ等の地殻内部の構造や現象に関する情報を集積し、統一フォーマットでのデータベース化と画像による表示方法を取り入れ、異種の物理量間の相関について系統的な調査を開始した。また、これまでに構築されている各機関のデータベースへのポータルサイトを構築し、従来は困難であった機関の壁を越えたデータベースの相互参照を可能にした。現状では個別データベースの羅列にとどまっているが、これを改善して統合データベースへと発展させる必要がある。

3‐2.地震・火山現象解明のための観測研究の推進

(1)日本列島及び周辺域の長期・広域の地震・火山現象

 日本で地震や火山噴火が発生するのは、プレートが日本列島下に沈み込んでいることが大きく関与しているが、プレートの沈み込みによって地震や火山噴火が生じる機構は完全には解明されていない。地震や火山噴火発生の基本的な仕組みを解明し、長期的に見たときに日本列島はどのような場にあるのかを明らかにすることは重要である。そのため、日本列島及びその周辺域で、長期的なプレート運動とそれに伴う応力場を明らかにし、上部マントルにおける水の供給・輸送過程とマグマの生成・上昇機構に関する理解を深め、これらの流体と地震発生との関係を解明することが重要である。また、水やマグマ等の流体の分布を含む広域の地殻・上部マントル構造を明らかにし、プレートの沈み込みによって発生するという共通の地学的背景を持つ地震活動と火山活動の相互作用に関する研究を推進する必要がある。さらに、地震現象の予測精度向上に不可欠な地震発生サイクルに関する理解を深めるために、アスペリティやセグメントの破壊様式についての過去の活動履歴を明らかにすると同時に、長期的な内陸の地殻ひずみの時空間分布を解明する必要がある。

・列島及び周辺域のプレート運動、広域応力場

 地震と火山噴火は広域的な応力場に影響を受けるため、日本及びその周辺の応力場を精度よく推定することは重要である。VLBI、SLR、GPS等の宇宙技術を用いた測地観測の進歩により、日本列島を含む広域の地殻変動、広域の応力場が明らかになった。データの蓄積により、毎年その精度が向上してきている。

・上部マントルとマグマの発生場

 日本列島の成因を知るには、島弧の発達過程の解明が重要である。伊豆弧に沿った地震波を用いた地下構造の大規模探査と、火山噴出物の分析から伊豆弧の発達過程を明らかにした。また、プレートの沈み込みで起こる脱水過程の深度を推定したところ、これまでの仮説よりも深い領域まで続いている可能性があることがわかった。

・広域の地殻構造と地殻流体の分布

 温度検層データを用いて関東地方の地殻熱流量の分布を推定したところ、北緯36度付近を境に北では高く、南では低いことがわかった。これを用いて温度分布を計算したところ、フィリピン海プレートの形状や地震活動度との相関が良いことがわかった。
 跡津川断層(岐阜県)域において広帯域MT観測とネットワークMT観測のデータを同時に用いて比抵抗構造の推定を行った。その結果、表層から上部マントルに至る広い深度の範囲で比抵抗構造が推定できた。新潟‐神戸ひずみ集中帯中軸部の3つの主要な断層(牛首断層、跡津川断層、高山・大原断層帯)深部の下部地殻に、上下に伸びた局在化した低比抵抗域が存在することがわかった(図6)。さらに、地震波速度構造と比較すると、これらの低比抵抗域は低速度域に概ね一致する。以上の結果より、3つの主要断層下には、透水性の高いせん断帯が局所的に発達しており、せん断帯内には流体が存在することが明らかとなった。この流体を含んだせん断帯の変形が進行することで、上部地殻内の断層面に応力が効率的に集中することが予想される。
 下部地殻より深い上部マントル内は、北側(牛首断層‐跡津川断層下)でやや高比抵抗、南側(高山・大原断層帯下)で低比抵抗となる強いコントラストが認められた。上部マントルの地震波速度構造によると、フィリピン海プレートの上盤側の深さ100kmから200kmにかけて低速度体が検出されており、上記の上部マントル内の比抵抗領域は地震波速度構造から得られるイメージと調和的である。すなわち、地殻だけでなく上部マントル内にも低比抵抗、かつ低速度の異常域が存在する可能性が高く、沈み込むプレートから放出された水、もしくはマグマの上昇経路を捉えていると考えられる。

・地震活動と火山活動の相互作用

 伊豆東部の群発地震活動の予測について、火山噴火予知研究の成果が、地震調査委員会の「伊豆東部の地震活動の予測手法」のまとめに際し、その科学的根拠を与えた(2.平成21年度の代表的な成果の項を参照)。
 また、南海トラフ巨大地震発生による富士山噴火連動性に関する研究に着手し、地震と火山の連動現象についての包括的な情報の整理(連動事例のデータベース化、連動をもたらすメカニズムの整理)を行った。また、地震波の通過により圧力が増したマグマ溜まりが、火口につながる火道内の気相と液相からなるマグマにどのような影響を及ぼすか評価した。

・地震発生サイクルと長期地殻ひずみ

 航空写真測量やLiDARによる地形計測の高度化により、新たな活断層の認定や、平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震(マグニチュード7.2)を引き起こしたと考えられる活断層を見出した。さらに、この技術により、いくつかの地域で地震断層に沿った詳細な滑り量の分布を明らかにし、従来の静的な活断層分布だけでなく、地震時の滑り分布等の情報を取り入れた断層モデルの構築を目指した研究に着手した。

(2)地震・火山噴火に至る準備過程

(2‐1)地震準備過程

 地震準備過程を解明するために、地殻とマントルで応力が特定の領域に集中し地震発生に至る過程を明らかにする観測研究を実施する必要がある。プレート境界で発生する地震については、プレート間の固着が強く大きな破壊をおこすと考えられているアスペリティ領域の実体を解明し、アスペリティが大きく関与する非地震性滑りの関連を明らかにする必要がある。また、内陸地震については広域の応力によって非弾性的な変形が進行してひずみ集中帯を形成し、その中で特定の震源断層に応力が集中する過程を定量的にモデル化することが不可欠である。さらに、スラブ内地震の発生機構を解明するためには、スラブ内の震源分布や地震波速度構造を詳細に明らかにするとともに、スラブ内に取り込まれた流体の地下深部における分布と挙動の解明が重要である。

・アスペリティの実体

 沈み込むプレート境界におけるアスペリティの実体は、断層面の形状、断層の反射係数から推定できる間隙流体圧等プレート境界の物理特性、あるいは上盤側の物質など、これまで様々な仮説が提出されている。過去にプレート境界型巨大地震の発生が知られていない東北日本‐千島弧の島弧会合部のプレート境界上盤側は、地震波が低速度の物質で占められているのに対して、隣接する2003年十勝沖地震や1968年十勝沖地震の震源域の上盤側は高速度の岩石であり、水を含まないかんらん岩で構成されたマントルと解釈される。また、宮城県沖地震の震源域においては、プレート境界上盤側に水を含む領域が存在し、その直下でのプレート境界における地震性滑りを抑制している可能性が示された。このように、プレート境界上盤側を構成する物質の差異が、プレート境界における固着強度に影響を与えている可能性を示した。

・非地震性滑りの時空間変化とアスペリティの相互作用

 深部低周波微動は、浅部側と深部側に2列の活動域があり、その二つの領域は異なる性質をもっていることがわかった(図7)。浅部側は短期的スロースリップの際などに数か月毎に活動するのに対して、深部側はより定常的に活動している。この深部低周波微動の2列分布は短期的スロースリップの発生領域を規定し、その下端部は安定滑り域との境界、上端部の一部は長期的スロースリップ域との境界を反映するものと考えられる。
 宮城県沖の海溝陸側斜面で海底地震計及び圧力計を用いた広帯域地殻変動観測を行い、プレート境界地震に先行する地殻変動と考えられる水深変化を検出した。

・ひずみ集中帯の成因と内陸地震発生の準備過程

 2008年岩手・宮城内陸地震の研究において、長期的な余効変動をGPS観測により検出した。この余効変動のデータから地殻の弾性層の厚さと粘性率を推定した。さらに、震源域直下及び火山(栗駒山・焼石岳鳴子・鬼首)周辺に地殻流体の存在を示唆する低速度域が存在することを見出した。また跡津川断層域では、地震発生域の下限より深いところで非弾性的な変形によって広域な応力が解消されているのと同様に、断層の両端においても非弾性的な変形が進行し、将来の地震発生域だけに応力の蓄積が進行していることをGPS観測データの解析により明らかした。

・スラブ内地震の発生機構

 太平洋スラブ内の二重地震面では、地震の発震機構は上面側が圧縮型で下面側は伸張型であることが知られている。そこで、発震機構を上面側から下面側へ詳細に調べることによって、圧縮型から伸張型へと変わる応力の中立面の位置の推定を行った。その結果、東北日本ではプレート表面より約23km、北海道では11kmを境に応力場が変わっていることがわかった(図8)。過去に発生したスラブ内大地震の破壊域の広がりは中立面を超えて広がることがなく、破壊域はスラブ内の応力場により規定されていることがわかった。

(2‐2)火山噴火準備過程

 火山噴火予知のためには、マグマ供給系を含む地下の構造を知り、マグマ上昇・蓄積過程の理解とマグマ溜まりにあるマグマの発達過程を解明し、火山噴火現象をモデル化する必要がある。また、モデル化を助けるために過去の噴火履歴を研究し、噴出物の変化の時間経過からマグマの発達過程を知ることは重要である。マグマ上昇過程やその蓄積過程については、これまでいくつかの火山で研究が進められてきた。しかしながら、マグマ蓄積過程と噴火規模、様式、推移との関連については、極めて重要な課題であるにもかかわらず未解明である。これを明らかにするため、火山活動が活発になりつつある桜島火山(鹿児島県)で観測研究を行った。また、いくつかの火山で噴火履歴とマグマ組成の時間変化について研究を進めた。

・マグマ上昇・蓄積過程

 桜島火山では、2006年6月に昭和火口における噴火活動が再開し、2009年には548回の爆発的噴火や320万トンの火山灰が放出されるなど、近年活発化の傾向にある。ここで地殻変動、地震、電磁気、火山ガスなどの多項目観測と火山体の地下構造の探査を実施した。桜島直下に蓄積されているマグマ量と、地下深部から供給された量は、2009年10月からともに顕著に増加していることがわかった。これ以降、火山灰の特徴より深部から供給された新たなマグマ物質の放出が始まったこと、マグマに先行して火山ガスが昭和火口直下のマグマ溜まりに上昇してきたこと、高温の火山ガスが地下水を周辺部に後退させたことなどがわかった(図9)。このように桜島では、火山体直下へのマグマ蓄積と、それに付随する現象の推移が明確に捉えられ、マグマ蓄積・上昇過程の詳細が明らかになりつつある。今後は、他の火山のマグマ蓄積・上昇過程と比較することにより、一層理解が進むと期待できる。

・噴火履歴とマグマ発達過程

 個々の火山の過去の噴出物を分析し、その火山のマグマの発達過程を研究することは、これから発生する火山噴火の様式を長期的に予測する上で重要である。地質学・物質科学的検討から、桜島火山では15世紀から新しいマグマ供給系による噴火が始まったこと、1914年の噴火からは新たに玄武岩質マグマが加わったことを明らかにした。また、764年と1471年噴火の間の西暦1000年頃に溶岩流出があったことを見出した。
 さらに、伊豆大島(東京都)の江戸時代の噴火履歴をまとめ、歴史時代の代表的噴出物について岩石学的特徴を調査した。蔵王火山(宮城・山形県)、十勝岳、雌阿寒岳、屈斜路火山(以上、北海道)、岩木山(青森県)について噴火履歴の精密化と物質科学的検討を行った。これらの調査から、これまで知られていなかった噴火活動もわかり、長期的な噴火予測に有用なデータを得た。

(3)地震発生先行・破壊過程と火山噴火過程

(3‐1)地震発生先行過程

 地震発生予測の時間精度を高め、短期予測を可能にするためには、地震発生の直前に発生する非可逆的な物理・化学過程(直前過程)を理解して、予測シミュレーションモデルにそれらを取りこみ、直前過程に伴う現象を的確に捉えて活動の推移を予測する必要がある。これまでの研究によれば、地震に先行して発生する現象は多種多様であり、地震発生準備過程から直前過程にまたがって発生する現象の理解を進める必要がある。このために、地震に先行する異常な地殻活動の諸現象を地震発生先行過程と位置付けて研究し、観測データから先行現象を評価するとともに、その発生機構を明らかにし、特定の先行過程が地震準備過程や直前過程のどの段階にあるかを評価することが重要である。

・観測データによる先行現象の評価

 南アフリカの大深度鉱山では、大規模な採掘により短期間で大きな応力変化がおこり、多数の地震が誘発される。そのような採掘部の近くに地震計やひずみ計を埋設して、至近距離で地震を観察している。過去の記録を精査した結果、2台のひずみ計から25m以内で発生したマグニチュード0.3の地震の6.5時間前から、顕著な非地震性の変化を見出した。現在は、広帯域地震計、加速度計、AEセンサーなどとともに、8~9台のひずみ計からなる総合観測網を、既存の断層の周囲に3次元配置で展開する準備を始めた。
 また、地震発生に先行して、地殻の弾性・非弾性構造が変化する可能性が指摘されている。これを観測データから検証するため、平成21年度は、雑微動を利用して大地震前後にその変化を検出することを試みた。
 さらに、地震の発生に先行してVHF帯の電波が異常に長距離まで伝播することが国内外で観測されている。これを観測データから検証するため、平成21年度から観測点を増設し、その現象を複数の観測点で捉えることに成功した。

・先行現象の発生機構の解明

 地震に先行する地下水中のラドン濃度は増加するだけでなく、減少する例もしばしば観測されている。これは、ラドン濃度変化が帯水層中での亀裂の生成により引き起こされるという、従来から考えられていたメカニズムだけでは説明がつかないことを意味する。帯水層中の状態の変化など様々な要因をモデルに組み込むことで、ラドン濃度の減少を定量的に説明することに成功した。先行現象では観測される異常の大きさが単純な物理的モデルからの推定されるものに比べて大きすぎることがしばしば問題とされるが、その点について定量的考察を行いながら研究を進めた。

(3‐2)地震破壊過程と強震動

 大地震発生に伴い生じる強震動や津波をより高精度に予測して災害軽減に役立てるためには、地震断層面の不均質性による複雑な地震破壊過程を理解し、地下構造モデルを高度化する必要がある。実際に発生した地震の地震破壊過程研究と強震動観測は、強震動予測の基盤となるものである。しかし、既存の震源断層モデルや地下構造モデルでは、強震動等の実際の観測記録を十分説明できないなど不十分な点が多い。このため、観測データ解析と数値計算の協調により両者を高度化し、震源解析及び震源物理に基づく破壊過程の研究を推進した。また、大地震発生による津波を高精度に推定する手法を開発し、津波波形を用いて震源過程を推定した。

・2009年の駿河湾の地震

 2009年8月11日に発生した駿河湾の地震(マグニチュード6.5)について、地震波形、GPSによる地殻変動記録、津波波形等を用いた逆解析により、震源破壊過程と津波発生メカニズムを調べた。その結果、この地震は沈み込むフィリピン海プレート内で発生し、南東傾斜と北東傾斜の二つの断層面を持つことが明らかになった。またリアルタイムで収集される強震記録を用いた、震源過程解析の自動化に向けた検討も進められた。

・地下構造モデルと強震動

 地震波の伝播に強い影響を与える不均質な地下構造の影響を取り入れるために、地下深くまで求められた地下構造モデルと別途高精度に求められた表層モデルを組み合わせることで、実際に観測された強震動波形を再現する手法の開発を行った。この手法を実際の大地震に適用して強震動波形を計算したところ、これまでの手法では再現出来なかった観測記録の特徴が再現でき、強震動波形推定の高精度化が検証できた(図10)。

・強震動・津波の生成過程

沿岸での津波予測のために、地震発生後、逐次更新される観測記録をリアルタイム解析する手法の開発を行った。沖合に設置された海底ケーブル津波記録計を用いて地震の破壊過程を解析し、地震波形記録からだけでは不十分であった2004年紀伊半島沖地震の発震機構や地震断層の広がりを精度よく推定できた。また、複雑な海底構造の影響を受けて伝播する津波と、不均質地下構造を伝播する地震波を高い精度で評価するために、地球シミュレータに適した数値シミュレーションのためのプログラム開発を行った。

(3‐3)火山噴火過程

 火山噴火予測のために、噴火機構の解明とそのモデル化及び噴火の推移と多様性を把握する研究を進め、それらの成果をあわせることにより、実用的な噴火シナリオを作成する手法を見つけることが重要である。平成21年度は、繰り返し噴火する火山を対象として多項目の地球物理学・物質科学的観測を行い、火道における発泡・脱ガス過程などのマグマの挙動を調べ、観測データをもとに噴火現象のモデル化を試みた。また、火山体浅部の熱水系や火道周辺構造と噴火の規模や様式との関係を調べた。さらに、多様な噴火形態やその推移の規則性や頻度を理解するために、三宅島のおける過去の噴火履歴を明らかにした。

・噴火機構の解明とモデル化

 諏訪之瀬島(鹿児島県)で頻繁に繰り返される小規模な爆発的な噴火過程を明らかにするため、火口から1km以内に複数の傾斜計を設置し、他の観測項目と比較しながら爆発的噴火に伴う傾斜変動を調べた。爆発的噴火に伴う山体の膨張は爆発の約1分前から起こり、火口から離れるに従って振幅は小さくなり、1km以遠で観測できなくなる。この特徴は、火道が常に開口している火山の爆発的噴火の特徴であると言える。
 一方、浅間山(長野・群馬県)で発生している長周期振動(VLP)の原因を明らかにする目的で、広帯域地震計を火口近傍に多数設置し、観測された地震波形の解析を行った。その結果、火道上部を占める高い空隙率の物質中に二つの割れ目があり、ガスの通過によってそれらが膨張・収縮するというモデルでVLPの発生をうまく説明できることがわかった。これらの割れ目より上部は、高エネルギー宇宙線ミュオンの観測から推定した低密度域と一致する。さらに、可搬型の紫外線カメラによる火山ガス観測では、VLPの規模と二酸化硫黄放出量には正の相関があることが明らかになった(図11)。
 これらの2火山の観測結果からは、火口近傍に傾斜計や広帯域地震計を適切に配置すれば小規模の噴火の先行現象が捉えられることが示された。観測の高度化によって、噴火規模や爆発性の程度も予測できる可能性がある。

・噴火の推移と多様性の把握

 有珠山(北海道)周辺の既存のボーリングデータを調べることによって1943~1945年噴火の際のマグマの上昇と噴火様式の推移の関係を明らかにした。マグマが地下の帯水層(50~120m深)に達すると水蒸気爆発が起こり、その後、より浅部の不透水層(水を通しにくい層)に達するとマグマ水蒸気爆発が発生することがわかった。この結果、噴火の推移を予測するには火山の地下浅部の構造を知ることが重要であることが明らかになった。
 また、噴火予測に必要な、噴火事象毎の発生確率の検討を行うため、噴火履歴が比較的よくわかっている三宅島火山の噴火様式の発生頻度、前兆地震の継続期間などを調べ、噴火シナリオ作成のための資料を提供した。

(4)地震発生・火山噴火素過程

 地震及び火山噴火に関与する機構は多方面にわたり、互いに複雑に作用しあっている。その中から、いくつかの重要な過程を取り出し、その本質を知ることは、地震火山現象を理解する上で重要である。ここでは、地殻・上部マントル構成物質の変形・破壊について、実験・理論的手法により、従来よりも広い条件範囲にわたって物理的・化学的素過程を明らかにした。また、地下深部の岩石の物性及び環境を観測により推定できるようにするため、可観測量との関係を様々な条件の下で定量的に求めた。さらに、室内実験で得られた知見を実際の自然現象に適用できるようにするため規模依存性を明らかにした。火山噴火のモデル化のために、マグマの分化・発泡・脱ガス過程を明らかにするとともに、それらを取り込んだマグマ上昇の数値モデルを作成することを目指した。

・岩石の変形・破壊の物理的・化学的素過程

 岩石の破壊や滑り特性は変形速度、温度、水の影響を強く受けることは知られているが、充分広い条件範囲にわたっては調べられていない。平成21年度は、摂氏1000度までの温度で数cm/s程度の中速度における滑り特性、塩化ナトリウムを含む水の滑り強度に対する影響などを明らかにした。また、内陸地震の発生は、断層深部延長の下部地殻での超塑性流動による上部地殻への応力集中が原動力となっていると考えられているが、これまで下部地殻の岩石が塑性流動するメカニズムはよくわかっていなかった。極細粒緻密な人工岩石を用いて大変形実験を行い、400%の伸び変形をした試料では伸び方向と直交した方向に粒子が再配列していることがわかり、塑性流動のメカニズム解明の手がかりを得た(図12)。

・地殻・上部マントルの物性の環境依存性

 観測から求められる地震波の速度や減衰定数から、岩石の種類、温度や流体の存在を推定するために、室内実験を行った。沈み込んだスラブ上盤側と境界付近の主要構成鉱物は、蛇紋岩の一種のアンチゴライトであると考えられている。地震学的観測からアンチゴライトの存在を確認するために、地震波速度の異方性を岩石組織と対応づけた。また、アナログ物質を用いた測定により、地震波の減衰定数に対する、流体(メルト)や温度の影響を調べた。

・摩擦・破壊現象の規模依存性

 室内実験により岩石の詳細な摩擦・破壊構成則が明らかになってきているが、10cm程度の岩石試料を用いて得られた結果が、自然地震に適用できるかはよくわかっていない。南アフリカ大深度金鉱山の地下3.3kmにおいて発生したマグニチュード1.9の地震を詳細に調べ、長さ100mに及ぶ断層面の傾きが、室内実験で見いだされた破壊則で説明できることを明らかにした。

・マグマの分化・発泡・脱ガス過程

 火山噴火過程の多様性を支配する要因を明らかにし、噴火の推移を正確に予測することを目指し、マグマ溜まりと火道を持つ系を想定した実験を行った。その結果、微動の特徴的周波数の低下から噴出の短期予測ができる可能性があること、噴出量と噴出様式は圧力変動から確率予想できる可能性があることなどがわかった。

3‐3.新たな観測技術の開発

(1)海底における観測技術の開発と高度化

 東海・東南海・南海地震、三陸沖、十勝沖など日本周辺の大地震の多くは、海域でのプレートの沈み込みによって発生するため、海底においても陸上と同程度の地震及び地殻変動等の観測データが取得できることが理想である。これを実現するため開発研究を推進した。
 海底地殻変動は、変動を測るべき地点に海底局(観測点)を設置し、GPSで位置のわかっている観測船やブイからの音波の往復時間を計測して求められる。この計測方法による誤差を軽減するため、観測船の音波発生源を船底に固定する方法の開発、海底局と観測船の配置を工夫した水中音速分布推定方法の高度化を行った。これにより、海底地殻変動の測定精度が向上し、プレート間結合度の地域による違いを求められるようになってきた(図13)。また、海底での上下変動を計測する海底圧力計を開発するとともに、海洋変動予測モデルによる海底圧力変動を考慮に入れた解析手法を開発し、海底での上下変動も計測できる見通しが立った。
 東南海地震に備えて、熊野灘に設置する地震・津波観測監視システム(DONET)の開発を進め、三重県尾鷲沖にケーブル式海底地震計のための基幹ケーブルを敷設した。また、製造コスト、敷設コストを下げ、しかも高い信頼性を持つ次世代のケーブル式海底地震計による観測システムを開発し、評価試験でその性能を確認した。広帯域海底地震計の開発では、地震計センサーとデータ収録部を分離して設置することにより、約10秒より長周期では陸上地震観測点に匹敵する品質の地震記録を取得できた。

(2)宇宙技術等の利用の高度化

 GPSやSAR等の人工衛星を利用した観測技術は、地震及び火山活動の観測手段として重要な役割を果たしてきており、その解析技術の高度化を一層図ることにより、様々な地震や火山活動をより高い精度で把握することが可能になる。
 GPSによる観測では、大気の荷重による地盤変形効果を補正し、観測点における大気鉛直分布の季節変化を考慮する解析手法を開発した。これにより地殻変動の上下成分の精度が向上した。また、火山研究において極めて重要な、高い時間分解能で地殻変動を推定する手法の開発をした。
 通常の干渉SARの解析では、その性質上数メートルを超える変動をとらえることは困難で、大地震により狭い領域で大きな地殻変動があったとき、変動量を正確に推定することは困難であった。地震前後のSAR強度画像から変動を計測する手法で、2008年岩手・宮城内陸地震及び四川地震の震源付近における大変形の空間分布を推定することに成功し、その有用性を示した。
 また、人工衛星や航空機による火山噴火活動のモニタリング手法では、衛星画像解析から2009年浅間山噴火の噴煙や、2009年サリチェフ火山(千島列島)の噴煙が観測された。航空機による赤外線観測データの解析手法を開発し、桜島の南岳及び昭和火口付近において、二酸化硫黄ガスの分布を推定した。

(3)観測技術の継続的高度化

 地震及び火山観測においては、地下の状態を把握する新たな観測技術を開発して、研究の推進に役立てることと同時に、従来の観測手法の継続的高度化も必要である。
 地下状態をモニタリングする手法として、ミュオンによる観測、人工震動源の一種であるアクロスを用いた観測を行った。火口近傍を高エネルギー宇宙線で透視するミュオンによる観測は、火山活動の進行に伴う火道の変化を捉えることが期待でき、火山噴火予測に重要な道具になる可能性がある。従来型と比べて消費電力を1/1000以下にした観測機器を開発し、商用電力の利用が困難な火山近傍でも計測できる機器を作製し、桜島浅部における火道の可視化に成功した。また、東海地域の3か所で稼働しているアクロスからの信号の解析を継続して進めた。火山等のモニタリングのため、低周波数の信号を効率的に送信できるアクロスの改良を行った。
 火山噴火の際に、安全に火口近傍での観測を実施するため、産業用小型無人ヘリコプターを用いた地磁気観測、地震観測を試みた。また、火山周辺で稠密な観測を実現するため、携帯電話網を利用した観測データの伝送方式の試験を行った。機動型のGPS火山変動リモート観測装置の開発では、発電効率を向上させ、GPS以外のデータを含めた複合的なデータ通信システムを開発した。火山観測に有用な小型の絶対重力計を開発では、長周期加速度計を組み込むことにより高精度化が図れることがわかった。
 大深度観測井での地震観測を実現するため、レーザー計測方式の広帯域地震計の実用化を目指した開発を行った。既存の地表設置型の広帯域地震計と比較したところ、ほぼ同等の性能を有することがわかり、大深度広帯域地震観測の可能性が検証できた。また、大深度観測では避けられない高温環境でも使用できる加速度計を開発し、摂氏200度にて自然地震の加速度記録が正常に得られることを検証した。 

図4.地殻変動モニタリングの高度化

図4.地殻変動モニタリングの高度化

 干渉SARとGPSのデータを統合解析することにより、広範囲で微小な地殻変動の検出を可能にする手法を開発し、近畿地方での地殻変動検出に適用してその有効性を検証した。広域で微小な地殻変動の検出が可能になったことで、プレート境界での地震発生予測に必要なアスペリティの場所の推定、スロースリップの発生やプレート境界の固着状態のモニタリングの高度化が期待できる。

図5.地殻活動予測シミュレーション

図5.地殻活動予測シミュレーション

 観測データを取り入れてプレート境界地震の発生を再現した例。GPSの観測データより推定した南海・東南海地震想定震源域における滑り遅れ分布(左上)を用いて、応力分布(右上)を推定した。これを初期値とし、プレート境界の一部で破壊が始まったと仮定した場合の、南海地震想定域での最終的な滑り分布(左下)と東南海地震想定震源域での滑り分布(右下)を計算した。このようなシミュレーションにより南海地震、東南海地震が再現できた。

 図6.「新潟  神戸ひずみ集中帯」に位置する跡津川断層域(岐阜県)における比抵抗構造とその解釈

図6.「新潟-神戸 ひずみ集中帯」に位置する跡津川断層域(岐阜県)における比抵抗構造とその解釈

 跡津川断層域における地下構造の模式図(上図)。3つの断層の地下には透水性の高いせん断帯が存在し、ひずみがその上部の断層域に集中するため、内陸地震が発生すると考えられている。上図のモデルの科学的な根拠となったMT観測によって推定された跡津川断層域の地下比抵抗構造(下図)では、断層深部で比抵抗の小さな領域があることがわかった。これは地下水が多いか透水性が高いことを示している。

 図7.プレート境界での滑り特性の空間分布

図7.プレート境界での滑り特性の空間分布

 プレートの沈み込みに伴い発生する巨大地震、長期的スロースリップ、深部低周波微動の発生場所の違いを示した模式図。深部低周波微動のうち浅部で発生するもの(赤星)は短期的スロースリップの際に発生し、長期的スロースリップ域と接している場所では、それによって誘発される微動活動(黄星)がみられる。一方、深部で発生するもの(黄星)は、ほぼ定常的に発生している。これはプレートの固着状態が深さとともに変化していることを示唆している。このように、プレート境界の滑り特性には深さ方向に違いがあることが明らかになり、プレート境界地震の発生予測のために重要な知見が得られた。

 スラブ内の応力中立面

図8.スラブ内の応力中立面

 沈み込む太平洋プレート境界付近では圧縮型地震が、それより深いところでは伸張型地震が起こる。この二つの発生様式の異なる地震を用いてプレート内の応力場が求められた(右下図)。地震の発生様式から応力場の変化する中立面が推定でき、プレート境界から中立面までの厚さは場所により異なることがわかった。中立面までの厚さがそれぞれの地域の地震の規模の上限や余震の拡がりを決める可能性が高い。

 図9.桜島火山の噴火準備過程

図9.桜島火山の噴火準備過程

 桜島火山では、様々な観測から今後噴火活動が一層活発になることを示す観測データが蓄積されている。例えば、地殻変動観測より山頂直下のマグマ溜まりでのマグマ蓄積量の増加がわかり、それと火山灰噴出量の計測値を加えた量からマグマ供給量の増加が推定できた。また、火口から噴出する火山ガスの成分から、桜島火山直下の地下水がマグマ溜まりの放熱により火道から後退していることが推定できた。このような諸現象を理解することにより、火山噴火に至るまでの物理・化学過程の解明を目指している。

図10.3次元地下構造モデルの高度化による強震動波形の高精度化

図10.3次元地下構造モデルの高度化による強震動波形の高精度化

 地下深くまで求められた複雑な地下構造モデルを使用して、地震動を数値計算で再現したが、実際の観測と合わなかった(左下図)。これに、別途高精度に求められた表層地盤の構造を組み合わせたことで、地震動波形が精度よく再現できるようになった(右下図)。これにより、強震動予測の高精度化が期待できる。

図11.浅間山火口直下の構造と超長周期振動

図11.浅間山火口直下の構造と超長周期振動

 浅間山では火口近くの地震計で超長周期の振動が観測され、それが火口直下の二つの割れ目(クラック)の振動により発生していることがわかった。また、この振動源と思われる領域は、高エネルギー宇宙線ミュオンの解析によれば、密度が小さく、多数のクラックが存在し、地盤が破砕されていると推定される。ここで示した火口浅部の構造の特徴が、噴火の様式に大きく影響を与えている可能性が高く、噴火様式の予測のために重要な知見を得た。

図12.岩石の塑性流動のメカニズム

図12.岩石の塑性流動のメカニズム

左図:摂氏1450度の条件下、約10時間かけて引っ張った人工岩石試料。上:元の試料、下:引っ張り後の試料。元の資料から400%の伸び変形をした。右図:400%伸張後の微細構造。矢印は引っ張り方向。緑色と赤色は異なる結晶粒子。伸び方向と直交した方向に粒子が再配列している様子が見られる。内陸地震発生の原因の一つである震源域直下での塑性流動のメカニズムを知る手がかりが得られた。

図13.海底地殻変動観測技術の開発

図13.海底地殻変動観測技術の開発

 GPSで位置のわかっている観測船またはブイから海底局(観測点)までの距離を音波で計測することにより、海底での地殻変動を計測する。音波発生源・受信装置を観測船の船底に固定する方法や水中音速の3次元分布推定法の高度化などにより、海底地殻変動の測定精度が向上した。海底の地殻変動観測の精度が向上すれば、主として海底下で発生するプレート境界地震のプレスリップの検出や、地震後の余効滑り分布の推定精度が高くなり、地震発生予測に有用な情報が得られる。

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研究開発局地震・防災研究課

(研究開発局地震・防災研究課)