内陸地震断層およびセグメント境界での不均質構造とひずみ集中機構の解明

課題番号:2203

(1)実施機関名:

九州大学

(2)研究課題(または観測項目)名:

内陸地震断層およびセグメント境界での不均質構造とひずみ集中機構の解明

(3)最も関連の深い建議の項目:

2(2)(2‐1)ウ.ひずみ集中帯の成因と内陸地震発生の準備過程

(4)その他関連する建議の項目:

2(2)(2‐1)ア. アスペリティの実体
3(3‐2)ア. 断層面の不均質性と動的破壊特性

(5)平成20年度までの関連する研究成果(または観測実績)の概要:

 「地震予知のための新たな観測研究計画(第2次)」の5ヵ年の研究によって,福岡県西方沖地震発生域周辺では強い不均質構造の存在が明らかにされた.この地域では地震観測,GPS連続観測を行い詳細な構造が明らかになった.また,警固断層周辺の地震活動を精度よく把握するため,警固断層沿いの春日市に80mの観測井,海ノ中道に40mの観測井を設置.また,福岡市西公園でも15mボーリングによって地震計を設置した.
GPSのデータを解析した結果,本震近傍の観測点を中心に3ヶ月間で約3cmの余効変動が発生していることが分かった.観測された余効変動量を最もよく説明するように,最適な断層の幅や滑り量などを求めた.その結果,GPSで観測された余効すべりの動きは本震と同じように左横ずれであること,本震の破壊開始点(深さ10km)より浅部に広がるセグメント(余震領域)のうち,深さ2~5kmの部分で,3ヶ月間に32cmの左横ずれ成分の余効滑りがあったことがわかった.余効滑りのほとんどは浅部に限定され,深部および周辺では余効滑りが発生していない.

図1.福岡県西方沖地震断層の構造模式図.北西部と南東部にセグメント境界があり,強い不均質が存在すると考えられる.断層面上では高速度異常を示すアスペリティが見出された.

図1.福岡県西方沖地震断層の構造模式図.北西部と南東部にセグメント境界があり,強い不均質が存在すると考えられる.断層面上では高速度異常を示すアスペリティが見出された.

臨時地震観測網のデータを用いて,この地域の応力場を推定した.大局的な傾向としては,圧縮軸がほぼ東西,張力軸がほぼ南北を向くことがわかった.これらは九州の他の地域で得られている一般的な傾向と同一である.さらに詳細に見ると,本震震源域においてはほぼ本震断層の走向に沿った断層面を与える応力場が支配的である.一方,余震域の南端,および北端においては応力場が時計回りに回転していることがわかった.これらは余震分布が端の領域で屈曲している傾向と一致しており,応力場の不均質な様子が明らかになった.
速度構造はDDトモグラフィ法によって明らかにされた.すべりの大きなところ(アスペリティ)では高速度異常が見出された.また,警固断層とのセグメント境界では高速度と低速度が複雑に分布することも示された.1/Q構造推定法を開発し適用した結果,福岡県西方沖地震余震域下部と地震時すべりの大きかった領域では減衰係数が3倍程度下部の大きいことがわかった.また,余震域と警固断層とのセグメント境界においては,減衰が大きく不均質強度が強い.この領域ではマグニチュードの相対的に大きな地震(M4程度)が他の領域よりも多く発生し(b値が小さい),不均質構造のスペクトル特性との関連も考えられる.これらを模式的に図1に示した.

(6)本課題の5ヶ年の到達目標:

内陸地震発生過程を理解するためには断層にかかる応力の蓄積過程,断層上の強度分布を知ることが必要である.現在までに地震モーメント,発震機構解から広域の応力状態を推定する試みがなされている.また,地震発生時のすべり分布と速度構造との対応からアスペリティが高速度域と対応していることが示され,強度の不均質を間接的に示唆するものとして考えられている.しかしながら,個別の断層に対しての応力集中機構が明らかになっていないのとともに,断層上の推定されてきた不均質構造と強度を結びつける直接的な証拠は見出されていない.特に,地震発生準備過程や地震時に重要なアスペリティや断層端の状態は重要であるにもかかわらず,詳細な物理特性が明らかになっていない.そこで本研究では,福岡県西方沖地震断層―警固断層地域を中心とし,それ以外にも規模の大きな内陸地震発生域および将来発生が憂慮される断層において,応力集中機構の解明と断層上およびその周辺における詳細な媒質特性把握を目指す.さらに,地震観測網,地震計アレイ観測,GPS観測等によって推定される地殻活動や構造の結果を有機的に結合し,媒質の物理定数と強度との関連や非弾性変形に寄与する媒質特性の推定を試み,内陸地震発生のモデル構築を目指す.
本課題では下記の3つの項目において研究を進める.対象とする領域は2005年福岡県西方沖地震震源域および警固断層周辺域である.ただし,他の内陸地震発生域との比較研究や突発的な内陸地震が発生した場合は同様の研究をその地域でも進める.

  1. 断層上およびその周辺における詳細な媒質特性把握
  2. 媒質の物理定数と強度との関連や非弾性変形に寄与する媒質特性の推定
  3. 応力集中機構の解明およびモデル化

断層における応力集中機構は周囲の強い不均質,たとえば下部地殻や断層端近傍の弱面や非弾性媒質によって引き起こされうる.そのため,まずこれらの分布形態を明らかにする必要がある.これらを稠密地震観測網によってイメージングする.また,GPS観測や応力テンソルインバージョンによって断層の部分的すべりや局所的応力場の不均質を把握し,不均質構造との関連を見出す.この定性的対応関係からまずは第1近似的なモデル化を行う.さらに,地震計アレイ観測によって不均質構造の詳細分布や散乱特性を把握し,減衰構造,速度構造との定量的な関連を検討する.特にアスペリティや断層端にターゲットを絞って行うことで,より精度の高い構造モデル化を図る.この地震のアスペリティは玄界島の近傍に位置し,高速度域がほかの地域と異なり,地表付近にまで達している.ここでアレイ観測を行うことで低速度域に邪魔されることなく,より精度の高い不均質構造が検出可能である.また,断層端に位置する小呂島,志賀島においてもおこなう.これらの観測研究は,非弾性変形に寄与する媒質特性の把握を行う第1歩でありチャレンジングな試みである.非弾性変形の時間スケールは地震波動の周期スケールとは数オーダーの違いがあり,単純に減衰構造を非弾性変形のパラメータと同一視することができない.これを減衰構造や散乱構造のスケール依存性と地震時すべり量や特徴的な地震サイズなど地殻変動や地震活動との関係を見出す試みを行う.この広帯域不均質構造―動的な活動の関連性から,より定量的に強度との関係を考察する.また,稠密地震観測網によって,福岡県西方沖地震によって応力が増加した警固断層の地震活動を詳細に把握し,その発生可能性についての判断材料となる構造を詳細に推定する.
以上の結果に基づき,後半においてはFEMによる地震活動等地殻活動のモデル化を試みる.また,警固断層周辺の地震活動特性を臨時観測網の検知能力向上に取り組むことで,詳細に調べる.さらに,過去の内陸地震発生域等のデータを解析し,比較研究を行う.

(7)本課題の5ヵ年計画の概要:

平成21年度は稠密地震観測網展開,GPS観測,アレイ観測(玄海島)を実施し,地震活動特性の詳細把握,断層周辺不均質構造解明,アスペリティの特性把握のための基礎的データ蓄積を開始し,福岡県西方沖地震断層周辺の短波長不均質の分布特性解析を始める.
平成22年度は稠密地震観測,GPS観測を継続するとともに,アレイ観測(小呂島)を実施し断層端の不均質構造のためのデータを収集する.また,21年度得られたデータ解析を進め,断層周辺不均質構造(散乱体分布)を得る.また,内陸地震発生域での観測を機動的に行い,比較研究のためのデータ蓄積を行う.
平成23年度は稠密地震観測,GPS観測を継続し,データを蓄積する.また,アレイ観測(志賀島)を行い,福岡県西方沖地震断層南東端の断層不均質構造解明を行う.また,蓄積されたデータの解析を進め,この地域の応力場推定と減衰構造推定を行う.
平成24年度は稠密地震観測,GPS観測を継続し,データを蓄積する.また,地震発生が危惧されている警固断層地域でアレイ観測をおこない,短波長不均質構造解明のためのデータを蓄積する.また,他地域で得られているひずみ速度場,応力場と福岡県西方沖地震断層周辺での結果を比較し,非弾性変形と不均質構造の解明を目指す.
平成25年度は稠密地震観測,GPS観測を継続する.24年度までにアレイ観測や稠密地震,GPS観測から得られた不均質構造と活動様式から,この地域を有限要素法等によってのモデル化を試みる.また,他地域との比較研究を進める.

(8)実施機関の参加者氏名または部署等名:

九州大学大学院 理学研究院 地震火山観測研究センター

他機関との共同研究の有無:
なし  

(9)公開時にホームページに掲載する問い合わせ先

部署等名:九州大学大学院 理学研究院 地震火山観測研究センター
電話:0957‐62‐6621
e‐mail:webmaster@sevo.kyushu‐u.ac.jp
URL:www.sevo.kyushu‐u.ac.jp

お問合せ先

研究開発局地震・防災研究課

(研究開発局地震・防災研究課)

-- 登録:平成22年02月 --