近畿地方北部における地殻活動異常と地震先行現象の関係の解明

課題番号:1811

(1)実施機関名:

京都大学 防災研究所

(2)研究課題名:

近畿地方北部における地殻活動異常と地震先行現象の関係の解明

(3)最も関連の深い建議の項目:

2(3)(3‐1)イ

(4)その他関連する建議の項目:

2(2)(2‐1)ウ

(5)平成20年度までの関連する研究成果(または観測実績)の概要:

  • 近畿地方中北部において、定常的な微小地震活動が2003年初頭に突然それまでの約7割に低下し、その推移を継続して監視している。この静穏化は丹波山地中央部から琵琶湖西岸にかけての地域を中心に起きていることがわかった。同様の静穏化は1995年兵庫県南部地震の前にも観測されていた。
  • 地震活動変化とほぼ同時期に地殻変動連続観測の伸縮計等のトレンドが変化したことを発見し、その推移を継続して監視している。また、同地域のGeoNet観測点間の基線長変化を解析し、やはり2003年初頭を境にトレンド変化を示す観測点の組合せが、丹波山地周辺の地域に限られていることを示した。同様の歪み速度変化は1995年兵庫県南部地震の前にも観測されていた。
  • 丹波山地を中心とする近畿地方北部は、定常的な微小地震活動が活発であるが、この活動は特定の活断層に沿うものではなく面的に広い範囲に広がっており、周囲には火山活動も全く存在しないなど、日本列島の他の地域では類例の無い特異な特徴を持っている。この地域において、京都大学防災研究所地震予知研究センターは阿武山観測所系観測網による30年以上にわたる微小地震活動データを蓄積している。また、数カ所の地殻変動連続観測のデータも蓄積されている。
  • 大大特における人工地震構造探査では、近畿地方を縦断する新宮舞鶴測線に沿って詳細な地殻・上部マントル反射イメージが得られ、丹波山地の下部地殻からモホ面付近には、顕著な散乱源が分布することがわかった。これは、過去に自然地震を用いて行われた反射波/散乱解析によって示されていた、下部地殻の反射面/散乱体に対応するものと考えられる。また、地震基盤観測網に基づく地震波走時トモグラフィの結果によれば、丹波山地下部地殻からモホ面付近は低速度異常を示すことがわかっている。
  • 丹波山地東縁に位置する花折・琵琶湖西岸断層の中部域で、広帯域MT観測を行い比抵抗構造の推定を行った。現時点までに得られた比抵抗構造では、花折断層を境にして、西側で深さ数kmまで比抵抗が低くなり、対照的に東側では高比抵抗であることが分かっている。上記観測において、大都市近傍であることから劣悪なノイズ環境ではあったが、西側つまり丹波山地内(北部)では、都市部から離れること、また、浅部に低比抵抗体が存在することによりノイズの影響が徐々に減ずることが確認された。電磁場の長周期観測が実現すれば、可探深度は地殻下部の地震波反射面深度程度に伸びるのではないかと考えられる。
  • 人工信源による比抵抗モニタリングに関しては、ダイポール・ダイポール法を拡張した高精度比抵抗変化計測システムの開発を実施してきた。このシステムでは、送波・受波をAC領域で行い、それぞれGPSによる時刻同期を実装することで、精密化を実現している。野島断層における注水実験では、注水による岩盤応力変化に起因する比抵抗変化の検出に成功している。
  • 最近の精度の高い間隙水圧観測の結果から、岩盤の変形と間隙水圧の力学的なカップリングを間隙弾性理論によって統一的に解釈できることがわかった。

(6)本課題の5ヶ年の到達目標:

 既往の研究により、近畿地方北部の地殻活動には、地震発生帯周辺に存在する流体が大きく関与していると予想される。地震学的な3次元速度構造・反射・散乱解析等に加え、電磁気学的な比抵抗構造解析によって地下流体の分布とその挙動を明らかにする。また、微小地震の発震機構、GPS・SARの解析nにより詳細な応力場とその時間変化を把握する。それらの結果と実際に観測されている微小地震活動や地殻変動に見られる変化との相関関係の解析から、当該地域における地殻活動変化をもたらすメカニズムの解明をめざす。異常地殻活動のみならず、本研究により丹波山地における定常的な地震活動の原因、すなわち地震活動の地域性は何によるものかといった長年の疑問に対しても一定の答えが得られるものと期待される。同時に、間隙水圧測定等により地殻応力をモニターする方法の確立をめざす。本計画で得られる知見は、近畿地方内陸部の地殻活動の基本的な理解だけでなく、南海トラフ巨大地震の発生予測や関連する内陸地震活動の予測研究にも重要であると考えられる。

(7)本課題の5ヵ年計画の概要:

[21年度]

  • 近畿地方中北部において次世代型地震・火山観測システムを用いる10点程度の観測点を選定し、観測に着手する。これを定常観測網や別途実施されている臨時観測のデータと統合し解析する体制を構築する。
  • これまで蓄積された地震データおよび稠密観測データを用いた反射波・散乱波解析により、近畿地方北部における地殻内の詳細な不均質構造の推定を行う。
  • 近畿地方北部山地において多点のMT観測を行う。
  • 地殻変動連続観測による歪み変化のモニターと、過去とくに兵庫県南部地震前後の地殻変動データの検討。
  • 地殻変動連続観測点(逢坂山,阿武山,屯鶴峯)における歪と地下水(水位,湧水量)の観測値を比較対照し,地殻歪の観測値への地下水変化の影響の大きさを見積る.
  • 神岡鉱山での間隙水圧測定を継続する。流量モニターのデータ取得を行う。

[22年度]

  • 次世代型地震・火山観測システムによる臨時観測点を約30箇所追加設置し観測を継続する。発震機構、反射・散乱構造の解析を行う。
  • 比抵抗観測(広帯域MT、長周期MT)および比抵抗構造の推定を行う。
  • 1995年兵庫県南部地震に至る地震・地殻変動データの収集を継続。データの再解析に着手する。
  • 神岡鉱山での間隙水圧測定・流量モニターを継続する。近畿の過去の地殻変動・地下水観測のデータ整理を行う。

[23年度]

  • 次世代型地震・火山観測システムによる地震観測・解析を継続する。トモグラフィ解析に着手する。
  • 比抵抗の補充調査および比抵抗モデルの高度化。3次元的比抵抗構造を把握する。
  • 1995年兵庫県南部地震前後の地殻活動変化のモデリング。
  • 神岡鉱山での間隙水圧測定・流量モニターを継続する。神岡鉱山・近畿の地殻変動・地下水観測の間隙弾性論による先行現象抽出手法の開発を行う。

[24年度]

  • 次世代型地震・火山観測システムによる地震観測・解析を継続する。レシーバ関数解析に着手する。地震関係解析結果をまとめる。
  • 地震・電磁気等多項目の観測結果の統合解析。
  • 神岡鉱山での間隙水圧測定・流量モニターを継続する。近畿地方で間隙水圧観測を開始する。神岡鉱山・近畿の地殻変動・地下水観測の間隙弾性論による先行現象抽出手法の開発を継続する。

[25年度]

  • 次世代型地震・火山観測システムによる地震観測・解析を継続する。
  • 現在進行中並びに1995年兵庫県南部地震前後の地殻活動変化の統一的なモデル化
  • 近畿地方神岡鉱山での間隙水圧測定・流量モニターを継続する。先行現象抽出手法のリアルタイム化を進める。

(8)実施機関の参加者氏名または部署等名:

担当者:片尾浩
参加者:飯尾能久、澁谷拓郎、西上欽也、大志万直人、吉村令慧、大谷文夫、森井亙、加納靖之、福島洋、柳谷俊ほか(京都大学防災研究所)約12名

他機関との共同研究の有無:なし

(9)公開時にホームページに掲載する問い合わせ先

部署等名:京都大学 防災研究所 地震予知研究センター
電話:電話:0774‐38‐4194
e‐mail:
URL:http://www.rcep.dpri.kyoto‐u.ac.jp/

お問合せ先

研究開発局地震・防災研究課

(研究開発局地震・防災研究課)

-- 登録:平成22年02月 --