南アフリカ大深度金鉱山における応力パラメタの先行変化の発生機構の解明

課題番号:1420

(1)実施機関名:

東京大学地震研究所

(2)研究課題(または観測項目)名:

南アフリカ大深度金鉱山における応力パラメタの先行変化の発生機構の解明

(3)最も関連の深い建議の項目:

2(3‐1)イ.先行現象の発生機構の解明

(4)その他関連する建議の項目:

2(3‐1)ア.観測データによる先行現象の評価
2(3‐2)ア.断層面の不均質性と動的破壊特性
2(4)ウ.摩擦・破壊現象の規模依存性

(5)平成20年度までの関連する研究成果(または観測実績)の概要:

 日本から遠く離れた南アフリカでの観測を効率的に推進するため,1992年に日本の地震関係者有志により南アフリカ半制御地震発生実験グループ(以下南アG) が組織された.南アの鉱山会社や鉱山地震観測を業務的に行っているコンサルタント会社,現地の研究機関の協力の下,震源至近距離観測のノウハウを蓄え,ゆっくりすべりに先行する加速しない前駆すべり現象の発見などの成果を上げてきた.南アGとして活動してきた我々の経験と実績により,適切なサイトの選定や,そこでの微小地震観測網の展開を,円滑かつ確実に実施することができる.
 たとえば、関連する強震の課題で使用される25kHz,3成分加速度強震計(±50g)は,現在展開中のAE観測網でも使用されており,M=‐3の地震波形を震源距離約60mの位置できれいに捉えている.このことは、震源極近傍で高周波数帯での観測をおこなうことで,帯域や減衰の問題がクリアできていることを示している.
 さらに,同じく現在展開中のAE観測網では,鉱山の観測網(検出限界はM~‐1)で10個程度の地震しか観測されない時空間領域で1万個以上の地震を震源決定できた実績がある.つまりこのフィールドでは,他の関連課題の観測と併せることで,膨大な数の地震を検出でき,その波形を利用することができることが実証されている.
 また,我々のグループでは,日本国内の地震を解析し,応力パラメタの局所的な変化を検出した実績がある.2004年新潟県中越地震では,応力インバージョンにより本震震源近傍で応力場の局所的な変化を推定した.また,1989年伊豆半島東方沖群発地震では,Energy Indexを算出し,群発中最大規模の地震が発生する2日前に応力レベルが低下したことを示唆した.

(6)本課題の5ヶ年の到達目標:

 地震発生を司る根幹を成すパラメタとして,応力とひずみが挙げられる.種々の応力に関する直接的な測定手法が提案され高度化されつつあるが,日本の内陸やその周辺地域においては震源域近傍,すなわち地殻深部の応力場の直接計測は非常に困難である.そこで,応力逆解析パラメタや応力降下量,Energy Indexなどの地震波形から推定される応力パラメタを用いて,震源近傍の応力状態を推定する手法が提案されている.対象とする震源領域でこれらの応力パラメタを推定することで,事後的にではあるが,先行現象が示唆された例はある.しかしながら,これら応力パラメタと絶対応力の比較は上述の理由により困難である.
 本課題で研究を遂行するフィールドである南アフリカ金鉱山(以下,南ア金鉱山)では,地震は主として,採掘による応力擾乱が原因で発生している.そのため,このフィールドには,上記の応力パラメタの変化の原因を解明する上で,3つの大きな利点がある.

  1. 採掘は計画に基づいて行われており,また,鉱山内の坑道など,応力場の不均質性を生み出す構造はすべて既知であるため,応力モデリングを行うことができる.鉱山でも採掘前や採掘前線近傍においては,応力モデリングが行われている.適切に安全性を評価し,採掘計画を検討することによって,甚大な被害をもたらす大規模な地震の発生を抑制している.
  2. 応力と密接に関係するひずみの連続観測が,関連課題で計画されている.南ア金鉱山では,採掘が行われている地下約3kmに歪計を埋設できるため,地震発生深度でひずみの直接観測が可能である.複数点観測を実施することにより,ひずみ場の時空間分布の推定が可能となる.
  3. 関連課題で,同一サイトにおいて断層から数メートル以内での強震計アレイの展開が計画されている.このアレイで得られるデータを用いて,応力パラメタ推定の肝となる微小地震の震源情報を高い精度で推定することができる.

 そこで本課題では,南ア金鉱山における微小地震観測網の維持・構築を進めるとともに,微小地震の震源ならびにメカニズム解・応力逆解析パラメタ・Energy Index等の推定をおこない,応力パラメタの時空間分布を明らかにする.その後,応力モデリングや直接観測結果との比較を通して,応力パラメタの感度や有効性などについて検討することを5ヶ年の到達目標とする.

(7)本課題の5ヵ年計画の概要:

平成21年度は,現在観測が実施されているサイトの維持につとめるとともに,得られた波形データの整理をおこなう.現行のサイトでは,地震発生が予測される断層のすぐそばに地震計が埋設されており,既存の鉱山の地震計とともに観測ネットワークを形成している.地震記録はすでに取得されているが,対象とした断層及びその周辺で発生した地震記録がどの程度存在するかなど,データの確認がおこなわれていない.対象とする断層及びその周辺の地震活動とそれら地震に対応する波形記録の有無などを調べるなど,解析の準備を進める.並行して新規に展開する観測サイトの候補地を現地調査し,サイトの構築に向けての準備を進める.

平成22年度は,既存のデータ解析を進めるとともに,現行観測サイトの維持,新規観測サイトの構築を開始する.

平成23年度は,既存のデータ解析をとりまとめるとともに,現行観測サイトの維持,新規観測サイトの構築を完了する.

平成24年度は,新規観測データに関し,対象とする断層及びその周辺の地震活動とそれら地震に対応する波形記録の有無などを調べるなど,解析の準備を進める.また観測サイトの維持をおこなう.

平成25年度は,データ解析を進めるとともに,観測サイトの維持をおこなう.また,研究成果のとりまとめをおこなう.

(8)実施機関の参加者氏名または部署等名:

東京大学地震研究所 加藤愛太郎・中谷正生・五十嵐俊博
他機関との共同研究の有無:
立命館大学総合理工学研究機構 川方裕則・小笠原宏
東北大学大学院理学研究科 矢部康男・大槻憲四郎
京都大学防災研究所 飯尾能久 

(9)公開時にホームページに掲載する問い合わせ先

部署等名:東京大学地震研究所地震火山噴火予知推進センター
電話:03‐5841‐5712
e‐mail:yotik@eri.u‐tokyo.ac.jp
URL:http://www.eri.u‐tokyo.ac.jp/index‐j.html

お問合せ先

研究開発局地震・防災研究課

(研究開発局地震・防災研究課)

-- 登録:平成22年02月 --