スラブ内地震の発生に至る過程の解明

課題番号:1208

(1)実施機関名:

東北大学大学院理学研究科

(2)研究課題(または観測項目)名:

スラブ内地震の発生に至る過程の解明

(3)最も関連の深い建議の項目:

2(2)(2‐1)エ.スラブ内地震の発生機構

(4)その他関連する建議の項目:

2(1)イ.上部マントルとマグマの発生場

(5)平成20年度までの関連する研究成果(または観測実績)の概要:

 平成20年度までの「地震予知のための新たな観測研究計画(第2次)」の途中からスラブ内地震について研究を進め,以下のような成果をあげた.

  • 二重深発地震面上面の火山フロント前弧側において,地震発生の顕著な地震の帯(上面地震帯)を見出し,スラブ地殻を構成する含水鉱物の脱水反応との関係を議論した.
  • 海域下において,depth phaseを用いて震源再決定し,島弧下の二重深発地震面と逆の応力分布を示す二重地震面を見出した.
  • 2003年5月26日に二重深発地震面上面で発生したでM7.1の地震(2003年宮城県沖地震)について,この地震の破壊域の広がりは沈み込む海洋性(スラブ)地殻からスラブマントル内にまで及んでいること,本震の震源付近での普段から活発な地震活動や,局所的な低速度域の存在が明らかになり,この領域では大地震が発生し得るスラブ内の既存の弱面が存在している可能性を指摘した.
  • 沈み込むスラブ表面付近の低速度の地殻をトモグラフィから同定し,さらに,そこからマントルウェッジ側に延びる低速度域の存在を明らかにした.さらに,これと上面地震帯および脱水反応モデルとの関係を議論した.
  • 海底地震観測でスラブを通ってくる波線を有効利用することにより,沈み込んだ海洋性地殻を深さ100km程度まで低速度帯として同定することに成功した.
  • 2001年芸予地震について地震時大すべり域(アスペリティ)と断層面上の比較的高速度な領域とに良い対応を見出した.
  • 関東下の構造を高精度で推定し,フィリピン海プレートによる冷却効果が太平洋プレート内部の脱水反応や地震発生に大きく関係していることを示した.

(6)本課題の5ヶ年の到達目標:

 スラブ内地震の発生には,沈み込む海洋性プレートとともに深部へ持ち込まれる水が深く関与していることが明らかとなってきた.このことは,水の輸送を担う海洋性プレートがもつ不均質構造が,地震発生域の分布を規定している可能性を示している.また,このような水と地震活動との関連については,沈み込む前の海洋性プレート内についても指摘されており,outer rise領域から深部スラブにいたる広大な領域を総合的に解析することにより,スラブ内地震の理解が深まると考えられる.
 スラブ内の岩石の脱水が地震発生に及ぼす影響は二通り考えられる.一つは間隙水圧を上げる(有効法線応力を下げる)ことによりクーロン破壊応力を増加させる効果である.もう一つは蛇紋岩が脱水しても脆性破壊が生じずにクリープが生じ,それが周囲の岩石への応力集中をもたらすという可能性である.このモデルは,非地震性のすべり・変形が地震性領域への応力集中・増加をもたらすという点で,プレート境界型地震のアスペリティ・モデルと同等と考えることができる.どちらの影響が大きいのかは,詳細な構造と大地震の震源過程を調べれば決着がつくはずである.つまり,後者の影響が大きいのであれば,地震時に大きく滑った領域の外側に低速度域が分布することが期待される.
 そこで,本研究では海溝外側のouter rise領域から島弧下のスラブまでの構造を詳細に調べ,さらに,スラブ内地震の詳細な震源分布・震源過程も調べることにより,構造と地震活動との対応関係を明らかにする.その際に,スラブ表面からの震源までの距離やスラブの形状が重要な情報となるため,変換波を用いてスラブ表面の位置を高精度で推定する.このようにして得られた地震時すべり分布と余震活動・先駆的地震活動との関係や地震波速度構造との関係から,スラブ内地震の発生に至る過程をモデル化し,さらにスラブ内大地震が発生する可能性の高い領域の同定を行う.

(7)本課題の5ヵ年計画の概要:

1.海溝外側を含む領域での海底地震観測(平成21~25年度)

 スラブ内の構造推定と,outer rise近傍の高精度震源決定を目的として,海溝の外側を含む海域で海底地震観測を実施する.

2.詳細な震源分布・震源過程の推定(平成21~25年度)

 Hi‐netのデータを用いて北海道から関東までのスラブ内の詳細な震源分布を推定する.また,海域については1.の観測データを用いて,特にouter rise の下の地震の震源決定を行い,この付近で地震活動が二重面を形成しているか否かを検証する.さらに,スラブ内で発生した中~大地震について震源過程を推定する.

3.詳細な構造の推定(平成21~25年度)

 初動到達時刻のみならず,変換波も用いることにより,特にスラブ表面付近の構造について詳細に調べる.1.の海底地震観測データからスラブ内を長距離通ってくる波線も利用することにより,スラブ内の構造を精度良く推定する.

4.スラブ内地震発生のモデル化(平成25年度)

 上記で得られた詳細な震源分布・震源過程と地震波速度構造の両方を説明できるスラブ内の温度と脱水反応,さらにマントルウェッジへの水の輸送経路について,モデル化する.また,スラブ内地震に対するアスペリティ・モデルの適用の可能性を検討する.さらに,これらの結果に基づき,スラブ内大地震の発生ポテンシャルを評価する.

(8)実施機関の参加者氏名または部署等名:

岡田知己・中島淳一・日野亮太・趙大鵬・海野徳仁・松澤暢・北佐枝子・内田直希 他計10名程度(大学院生含む)
他機関との共同研究の有無:有
○ 地震発生のモデル化についてはUSGS S.H. Kirby, 東工大 丸山茂徳,大森総一,京大 小木曽哲 らとの共同研究
○ 海底地震観測については気象庁との共同観測
○ 北海道の陸域下の構造推定については北大勝俣啓との共同観測

(9)公開時にホームページに掲載する問い合わせ先

部署等名:東北大学大学院理学研究科 地震・噴火予知研究観測センター
電話:022‐225‐1950
e‐mail:zisin‐yoti@aob.geophys.tohoku.ac.jp
URL:http://www.aob.geophys.tohoku.ac.jp/

お問合せ先

研究開発局地震・防災研究課

(研究開発局地震・防災研究課)

-- 登録:平成22年02月 --