平成20年度年次報告
課題番号:1418
東京大学地震研究所
海底諸観測技術開発と高度化
3.(1)海底諸観測技術の開発と高度化
1.(2)ア.プレート境界域における歪・応力集中機構
これまでの長期地震観測、海底圧力観測、海底傾斜観測、GPS/音響測位を一段と高精度化するとともに、観測項目を複合化することによって地震・地殻変動の同時観測を可能にする。また、これまで高度な測定系が設置されたことがない水深10000メートルまでの超深海底での地震観測を高度化することにより、海溝軸近傍の地震活動の詳細を観測する。また光干渉型ボアホールセンサーによる地殻変動観測装置を開発する。
引き続き、これまでの長期地震観測、海底圧力観測、海底傾斜観測、GPS/音響測位を一段と高精度化するための要素技術の検討・開発をすすめる。また、光干渉技術の応用では、海底観測を想定した構成での開発を継続する。
長期地震観測を高度化するためのケーブル式海底観測システム開発については、小型・軽量な耐圧容器を開発・製作する。計測・伝送部、電源部、ケーブル引き留め部等を耐圧容器に組み込み海底地震計として組み立て、評価試験を実施する。また、超深海型海底地震計の開発を進める。
光干渉計技術開発については、半導体レーザー光源を用いた孔井設置型傾斜計の陸上試験観測を継続するとともに、約2年間にわたる長期観測データと水管傾斜計のデータを相互比較し、観測性能を評価する。海底への設置を想定した小型の絶対波長安定化光源・データ処理ユニットを完成させ、性能を評価する。また、傾斜計を海底設置する際の現実的な問題について検討し、海底設置型の設計作業を行う。
・海底地震観測におけるダイナミックレンジの拡大
観測の複合化については、高感度あるいは広帯域の海底地震計を設置するこれまでの余震観測のダイナミックレンジを拡大するため、加速度計を追加した多項目センサーの海底地震計の開発を継続的にすすめてきた。平成18年度までに開発はほぼ終了し、平成19年度以降は、実用的に地震観測に使用しながら高度化をすすめてきた。平成19年度には、茨城沖に、直径65cmのチタン球を耐圧容器として使用し、加速度センサーとして日本航空電子製JA28‐GA型(図1)を使用した海底強震計(試作2号機)1台および高感度長期観測型海底地震計4台を設置し、地震観測を行っていた。平成20年5月8日にM7.0の地震が発生し、前震‐本震‐余震に至る一連の活動を、震源域直上において観測することに成功した(図2)。海底強震計により、飽和しない本震の記録を得ることにより、本震のS波の到着時刻を読み取ることができ、本震の震源位置決定精度向上に資することができた。
図1.海底強震計に用いたサーボ型加速度計センサー
図2.回収された海底強震計(2008年10月)。M7.0の本震の波形を飽和せずに記録した。
・長期海底地震観測の高度化(次世代ケーブル式海底観測システムの開発)
東京大学地震研究所はこれまでに光海底ケーブルを利用した海底観測システムを伊豆東方沖および三陸釜石沖に構築してきた。三陸釜石沖のシステムでは、沖合の日本海溝に向かって3地震観測点および2津波観測点を直線的に配置し、観測点を結ぶ全長120
kmの光ケーブルにより、海底部への給電と観測データの無中継伝送を実現している。海底通信技術を基盤に設計・製造された本システムの信頼性は極めて高い。しかしながら、巨大地震の発生現場である海域にオンライン・リアルタイム海底観測網を今後展開していくためには、費用対効果に優れた革新的システムを必要としている。このため、先端的ネットワーク技術を利用して、次世代ケーブル式海底観測システムの開発をすすめている。観測点間隔20
km程度で40地震(津波)観測点が二次元的に配置されたマグニチュード8クラスの地震の震源域を覆うことができる地震(津波)観測システムを短期的な技術開発ターゲットとしている。長期的なターゲットは数百点規模の観測ノードを有する海底観測ネットワーク技術である。開発においては、余震観測および機動的な待ち受け観測にも利用可能なシステムの開発も視野においている。
これまでに40観測点システムの概念設計や構成要素の試作等をすすめてきたが、平成20年度は、実用システムとしての開発を実施した。海底ケーブルの展開は海底通信で実績のあるインライン型である。冗長構成および伝送路のリルートなどによりシステムの信頼性を確保している。周波数標準信号を専用光ファイバー経由で観測ノードに配信することによって、津波(圧力)計測の基準信号源とするほか高精度時刻信号としても利用する。主要部を1辺7cmの立方体に収めるという小型化はほぼ平成19年度に終了し、本年度は、地震観測システムとしての評価を含むシステムの評価(図3)、および耐圧容器の設計・開発を行った。ケーブルシステムの地震観測ノードは、従来のケーブルシステムの地震観測ノードよりも、1/3以下の小型化に成功した(図4)。この小型化により、ケーブルシステム全体を、一度に海底埋設することができる。
図3.地震研鋸山観測所にて収録された地動ノイズスペクトル(赤)。緑は三陸沖ケーブルシステム観測点の地動ノイズ
図4.開発した地震観測ノード(下)。従来のシステムの観測ノード(上)と比べ、大幅な小型化に成功した。
・光干渉計技術開発
光干渉計技術開発については、半導体レーザー光源を用いた孔井設置型傾斜計の陸上試験観測を継続し、数年にわたり安定にデータ取得できることを実証した。並行して、海底への設置を想定した小型の絶対波長安定化光源を製作した。その過程で、小型化に有利な半導体レーザーのデメリットな部分である内部雑音が最終的な波長安定度にどのように影響するか定式化を行い、安定化制御システムを最適化する手法を見出した。
また、傾斜計を海底設置する際の現実的な問題について検討した。光源としては、本研究で開発した小型の絶対波長安定化光源が精度の点では望ましいが、変動が比較的大きな観測点では、温度安定化のみに簡略化された半導体レーザー光源でも支障がないことが示された。センサ部分は本研究で用いられている2次元振り子式を採用し、レーザー干渉計の信号取り出し用光ファイバーは光損失を抑えるためにコア径が従来の50μmよりも大きい200μm程度のものを使用することがのぞましい。信号取得後直ちに処理を実施するためのDSP素子は従来よりも小型化が必要である。これらの課題は、おもに従来技術の延長上で可能であり、基本的には本研究で用いられた方式で孔井設置型の光検出傾斜計が実現できる見込みが得られた。
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・海底地震観測におけるダイナミックレンジの拡大
すでに実用化した長期観測型(1年間以上)の高感度海底地震計と広帯域海底地震計については、定常的な繰り返し観測等に利用しながら、更なる観測期間の長期化や小型化などの高度化を進めた。また,海底で大振幅の地動を記録するために開発した海底強震計は、2004年スマトラ沖地震の余震域に設置され、規模の大きな余震の加速度記録の観測に成功したほか、2008年には茨城沖で発生したM7.0の地震を、飽和することなく記録し、海底強震計はほぼ実用化した。
・長期海底地震観測の高度化(次世代ケーブル式海底観測システムの開発)
海底ケーブル式地震観測システムは、リアルタイムでデータを陸上に伝送することが可能であり、海域における観測研究に大きな役割を果たす。従来の海底ケーブル式地震観測システムは、高い信頼性があるが、コストパフォーマンスが悪く、観測点の多点展開には不向きである。そこで、システムの冗長性を備え、より低コストで、小型・軽量のインライン型海底ケーブル式地震観測システムの開発を行った。開発されたシステムは、IT技術の利用と最新半導体技術による小型化が特徴である。2010年には、実機を日本海中越沖に設置する予定である。
・光干渉計技術開発
海底ボアホール観測への光干渉計測技術の導入に関しては、陸上のボアホールを用いて開発研究を実施した。レーザー干渉計と光ファイバーを組み合わせた半導体フリーの傾斜計を開発し、陸上孔内試験で数年間にわたる安定動作を実証した。その間、海底設置を見据えた光源として半導体レーザーの絶対波長をセシウムの吸収スペクトルを基準に安定化したシステムを開発した。目標の10‐9の波長安定度は達成され、野外で省電力稼働できる絶対波長安定化小型光源が完成した。さらに、信号処理をリアルタイムに実行できるDSP素子を用いて全体のシステムの簡素化も図った。これらの海底設置を意識したシステム構成により、長期安定で高精度な傾斜観測が実現できる見込みが得られた。
・海底地震観測におけるダイナミックレンジの拡大
金沢敏彦、篠原雅尚、塩原肇、望月公廣、山田知朗
他機関との共同研究の有無:なし
・長期海底地震観測の高度化(次世代ケーブル式海底観測システムの開発)
金沢敏彦、篠原雅尚、塩原肇、望月公廣、山田知朗、酒井慎一、山崎克之(客員)
他機関との共同研究の有無:なし
・光干渉計技術開発
新谷昌人、高森昭光、堀輝人
他機関との共同研究の有無:なし
部署等名:東京大学地震研究所 地震予知研究推進センター
電話:03‐5841‐5712
e‐mail:yotik@eri.u‐tokyo.ac.jp
URL:http://www.eri.u‐tokyo.ac.jp/index‐jhtml
研究開発局地震・防災研究課