古い地震記象の整理およびフィリピン海北縁部資料データベースの構築

平成20年度年次報告

課題番号:1417

(1)実施機関名:

 東京大学地震研究所

(2)研究課題(または観測項目)名:

 古い地震記象の整理およびフィリピン海北縁部資料データベースの構築
 サブテーマ1: 古い地震記象の整理・提供
 サブテーマ2: フィリピン海北縁部資料データベースの構築

(3)最も関連の深い建議の項目:

 2.(3)ア.日本列島地殻活動情報データベースの構築

(4)その他関連する建議の項目:

 2.(1)イ.特定の地域
 2.(1)ウ.予測シミュレーションモデルの高度化
 2.(2)ア.日本列島域
 2.(2)イ.東海地域
 2.(2)ウ.東南海・南海地域
 2.(2)エ.その他特定の地域

(5)本課題の平成16年度からの5ヵ年の到達目標と、それに対する平成20年度実施計画の位置付け:

1. 古い地震記象の整理・提供

  • 5ヵ年の到達目標: 日本付近の過去の大地震について,古い地震記象や津波記録,測地記録などの所在情報とそのスキャンデータをデータベース化し,研究者が必要なときに迅速に利用できるようなシステムの構築を目標とする.まず,日本列島に散在する過去の大地震の記録を調査して,所在情報データベースを作成する.次いで,そのデータを利用しやすくするために,所有機関の協力を得て,実施可能なところから,マイクロフィルムの作成,スキャンデータの作成などを進める.スキャンデータについては最終的にはデータベースからも参照可能にし,それが不鮮明な場合には,所在情報を利用してマイクロフィルムや元データをたどれるようにする.最終的には,地震,津波,測地などの古い記録だけでなく,過去に研究者が論文等に掲載した記録や国外にある遠地の古い記録なども可能な限りコピーを収集し利用可能にする.
  • 平成20年度の計画の位置付け: 日本付近の過去の大地震の地震記象や津波記録,測地記録などの所在情報とそのスキャンデータの作成やデータベース化を進める.また,世界各地で観測された日本の大地震の記録についての調査を開始し,可能な限りフィルム化あるいはデジタル化を行う.

2. フィリピン海北縁部資料データベースの構築

  • 5ヵ年の到達目標:  これまでの予知研究によって蓄積されてきた,近年の地殻変動,活断層,重力,速度構造,電気伝導度構造などの地震予知関連情報,及び2.(2)アによって蓄積されるリアルタイムデータ解析結果を,統一した3次元データベースとして再整理し,マンマシンインターフェースを介して異分野の研究者が自由に検索かつ研究資料として活用できるようなシステムを構築する.
  • 平成20年度の計画の位置付け: 平成20年度も引き続き,GPS観測網のデータの統合解析を実施し,これらの時系列データのデータベース化を試みる.これまでに取得したデータを用いて,目標とするデータベースのプラットホームの設計と構築を進める.

(6)平成20年度実施計画の概要:

1. 古い地震記象の整理・提供

 地震研究所が保管する古い記録や資料の整備については,所内の古地震・古津波記録委員会のもとで、目録データベースの作成、貴重資料のデジタルスキャンデータによる保存、マイクロフィルムの利用改善などを進める.これまでフィルム化やデジタルスキャンした古い記録や資料を、研究者が必要なときに迅速に利用できるようなシステムの研究開発を進める.モニタリングデータを地殻活動予測シミュレーションに活かすために、関連する研究者との共同研究を進める。

2. フィリピン海北縁部資料データベースの構築

 平成20年度も引き続き,GPS観測網のデータの統合解析を実施し,これらの時系列データのデータベース化を試みる.これまでに取得したデータを用いて,目標とするデータベースのプラットホームの設計と構築を進める.

(7)平成20年度成果の概要:

1. 古い地震記象の整理・提供

 地震研究所が保管する古い記録の整備については,所内の古地震・古津波記録委員会(佐竹健治委員長)で機論して進めている.平成20年度は,引き続きSMAC型の強震記録のフィルム作成作業を実施し,デジタル画像の作成を行った.今後地震研の強震動グループでデータベース化して活用される予定である.また,世界の大地震について収集された記録およそ500枚を画像化(tiff形式)し,研究者が迅速に利用できるようにインデックスデータベース作成と公開に適した新しい画像形式であるzooma化を行った.
 地震研究所のプレハブ倉庫に保管されていた世界各地の報告については,2号館6階に昨年度引越しを行ったが,その際未整理であった資料の調査と整理をさらに進めた.

2. フィリピン海北縁部資料データベースの構築

 前年度までにGEONETのデータのデータベース化と解析の自動化が完了している.今年度はこれに加え,東海地方に設置しているGPS稠密連続観測データのデータベースへの統合を試みた.このシステムは「GPS定常解析データ処理Web表示システム」と題され,Linuxサーバ上で動くシステムである.解析されたデータはWebブラウザを用いることにより簡単に解析結果を表示できるシステムになっている.閲覧できるのは基準点変位ベクトルと座標時系列グラフであり,適宜パラメータを設定することで簡単に結果を表示させることができる.

図1:「GPS定常解析データ処理Web表示システム」による表示の一例.(左)基準点変位ベクトル,(右)座標時系列グラフ.

図1:「GPS定常解析データ処理Web表示システム」による表示の一例.
(左)基準点変位ベクトル,(右)座標時系列グラフ.

 また,本研究では東海地域で取得された水準測量データとGPSデータを用いたフィリピン海プレート上のバックスリップ分布について再計算を行った.ここでは,落(2007)が開発した3角形断層面を用いたプレート境界表現を拡張して用いた.1996‐2000年の期間の水準測量データを用いた場合と同時期のGPS水平データを用いた場合の バックスリップ分布の違いについて検討した.図2(a)は用いた水準測量データ,図1(b)は用いたGPSデータである.これらを独立に用いてインバージョンを行った場合の固着(すべり欠損)分布である.GPSを用いた場合(図1(b))はSagiya (1999)と似たような分布になっていて,海溝軸に近い部分にすべりが集中していることがわかる.一方,水準測量データを用いた場合は固着域は陸に近い場所になっており,El‐Fiky and Kato (2000)の結果や地震活動に基づく推定固着域と調和的である.この違いの原因については現在考察中である.他のデータなどから水準測量データを用いた場合の方が,より真実に近いと思われるが,なぜGPSデータを用いた場合に解が水準測量データと異なるのか,については詳細な考察が必要であろうと思われる.

図 1:(a)水準測量(b)GPSの水平変動をデータとして推定した1996年から2000年のすべり欠損分布.

図 1:(a)水準測量(b)GPSの水平変動をデータとして推定した1996年から2000年のすべり欠損分布.

(8)平成20年度の成果に関連の深いもので、平成20年度に公表された主な成果物(論文・報告書等):

なし

(9)本課題の5ヵ年の成果の概要:

1. 古い地震記象の整理・提供

 日本付近の過去の大地震について,古い地震記象や津波記録,測地記録などの所在情報とそのスキャンデータのデータベース化を行い,研究者が必要なときに迅速に利用できるようなシステムの構築を行った.所在データベース作成にあたっては,関係機関の協力のもと日本列島に散在する過去の大地震の記録を調査し作成を行った.東京大学地震研究所所蔵の歴史地震記象検索システム・津波波形画像検索システム等のシステムはWebから利用可能なシステムとなっている. SMAC型強震記録のフィルム化や世界の大地震に収集された記録の画像化等も行った.

2. フィリピン海北縁部資料データベースの構築

 本課題ではGPS観測データと水準測量データをデータベース化することを試みた.現在までのところGPSのデータベース化が完了し,データをWebブラウザ上で簡単に基準点変位ベクトルと時系列を表示できるソフトウェアを開発した.しかしながら,活断層や重力など他のデータとの統合には至っていない.また,まだシステムが未熟であることからシステムの公開までには至っていない.
 さらに,GPSデータと水準測量データを用いて,東海地方の沈み込むプレートの固着(バックスリップ)分布を推定した.得られた結果はかなり異なっている.この原因の解明は次期計画への課題とするが,このような複数のデータを統合してデータベース化することの必要性が理解できたと言えよう.

(10)実施機関の参加者氏名または部署等名:

 佐竹健治,島崎邦彦,都司嘉宣,鷹野澄,鶴岡弘,中川茂樹,加藤照之,落唯史,平田直
 他機関との共同研究の有無:
 海溝型地震に関する調査研究(RR2002)の過去の地震記録整理委員会,
 地震研特定共同研究「地震活動総合データベースの開発」などの研究組織

(11)公開時にホームページに掲載する問い合わせ先:

 部署等名:地震予知研究推進センター
 電話:03‐5841‐5712
 e‐mail:yotik@eri.u‐tokyo.ac.jp
 URL:http://www.eri.u‐tokyo.ac.jp/index‐j.html

お問合せ先

研究開発局地震・防災研究課

(研究開発局地震・防災研究課)