平成20年度年次報告
課題番号:1203
東北大学大学院理学研究科
相似地震(小繰り返し地震)の発生ゆらぎをもたらす原因の解明
1.(2)エ.地震発生サイクル
1.(2)ア.プレート境界域における歪・応力集中機構
釜石沖に見られるような小さな繰り返し地震のデータとGPSデータや海底地殻変動データを用いて、再来間隔のゆらぎが、そのまわりの準静的すべりの時間変化によるか否かを検証することを5ヶ年の到達目標とする。また、アスペリティの連動破壊が生じる条件の解明も行う。
これまでの研究により、明らかにまわりの準静的すべりの変化によって再来間隔が揺らいでいる例を突き止めると同時に、強度が時間変化したと考えられる揺らぎも見つけている。平成20年度は5ヶ年計画の最終年度でもあり、さらに多くの相似地震クラスターを解析し、またシミュレーションも援用して、再来間隔の揺らぎの原因と揺らいだ場合の法則性を抽出する。
2008年1月11日に釜石沖でM4.7の地震が発生したため、平成20年度は、この地震の解析を主に行い、その結果も踏まえて5年間の総括を行うこととした。
2001年の釜石沖の地震の発生を基に、Matsuzawa
et al. (2002) は、再来間隔を5.52±0.68年と修正し、これに基づき、次の地震は68%の確率(μ±1σ;μ=平均、σ=標準偏差)で2006年9月~2008年1月、99%の確率(μ±2.57σ)で2005年8月~2009年2月と予想していた。2001年の地震以後、特に周囲で擾乱が見られなかったことから、平均再来間隔に近い時期(μ±1σ)に発生すると予想されていたが、その予想どおり2008年1月11日にM4.7の地震が発生した。このことは、周囲で準静的すべりの擾乱がなければ規則的に地震が発生するという当初の予測の正しさを示したものであると同時に、特に大きな擾乱がなくても平均再来間隔の1割程度の揺らぎは存在することを意味している。
波形の相似性を利用してDouble‐Difference
(DD) 法(Waldhauser and Ellsworth, 2000) で再決定したセントロイドの位置と、Multi
Window Spectral Ratio (MWSR) 法(Imanishi and Ellsworth, 2006) によるスペクトル比の重合により推定された断層サイズ、および応力降下量を図1aに示す。この図から、2008年のほうが僅かに南にあるものの、2001年と2008年の地震のセントロイドはほぼ同じ位置にあること、またその周囲には一回り小さな地震がA~Cの3箇所で繰り返し生じていたことがわかる。図1bは、これらの地震群のM‐T図であり、シンボルはグループの違いを示す。本震直後には、地震活動が低調になることから、グループA~Cの領域も、実際には本震のときにもすべっていると考えられる。逆に言えば、本震直前に一回り小さな地震の活動が見られた2001年のほうが、そのような直前の活動の見られなかった2008年よりも、これらグループA~Cに相当する領域で本震時のすべりが小さいことが期待される。
地震波形を用いて求めた2001年と2008年のすべり量分布と、その差をプロットしたのが、図2である。図2aを見ると、二つの地震のすべり域は良く一致しており、これはアスペリティ・モデルの正しさを示すものとなっている。また、破壊の開始点も二つの地震でほとんど同じ位置である。これは、どちらの地震も地震発生前に準性的すべりの擾乱が小さかったことを反映していると考えられる。一方、すべり量の差を示した図2bを見ると、震源の東と西に、2001年の地震のほうがすべり量の小さかった領域(赤色コンター)が存在し、その位置が図1aのグループA~Cの位置にほぼ相当することがわかる。つまり、地震発生前の予察通り、本震の発生直前の一回り小さな地震の活動により、本震の地震時すべりが影響を受けることをこの結果は示していると考えられる。
図1.釜石沖の繰り返し地震の活動。(a)セントロイドの位置、断層の大きさ、応力降下量の比較。色は応力降下量を表す。(b) M‐T図。シンボルはグループの分類を表す。
図2.2001年と2008年の地震の比較。(a) すべり量分布。(b) すべり量の差の分布。
Goltz, C., D. L. Turcotte, S. G. Abaimov, R. M. Nadeau, N. Uchida, and
T. Matsuzawa , Rescaled earthquake recurrence time statistics: application to
microrepeaters, Gophys. J. Int., 176, 256‐264, 2009.
松澤暢,プレート境界地震とアスペリティ・モデル,地震2,印刷中,2009.
島村浩平,アスペリティの破壊の規則性とゆらぎに関する研究,東北大学修士論文,93pp.,2008.
以上のことから、相似地震(小繰り返し地震)の活動の揺らぎは、基本的に周囲の準性的すべりのゆらぎに起因するものの、それ以外に、間隙圧の時間変化に起因すると考えられる強度の揺らぎによって規模や再来間隔、連鎖破壊のしやすさも変化している可能性や、近傍の一回り小さな地震の活動によって地震時の破壊過程に揺らぎが生じている可能性が示された。今後、さらに事例をつみかさねて、これらの「可能性」がどの程度普遍性を持つのかを検証することにより、大地震の再来間隔・規模・破壊過程の揺らぎについて重要な知見が得られるものと期待される。
藤本博己・海野徳仁・松澤暢・三浦哲・日野亮太・岡田知己・内田直希・他
他機関との共同研究の有無:有
釜石沖の地震の解析
東京大学地震研究所(五十嵐俊博)
北海道近傍の相似地震の解析
北海道大学(笠原稔・他)
小繰り返し地震のシミュレーション
JAMSTEC(有吉慶介・堀高峰・他)
小繰り返し地震の再来間隔のゆらぎに関する解析
気象研究所(岡田正実)
Kiel大学(C.
Goltz)
部署等名:東北大学大学院理学研究科 地震・噴火予知研究観測センター
電話:022‐225‐1950
e‐mail:zisin‐yoti@aob.geophys.tohoku.ac.jp
URL:http://www.aob.geophys.tohoku.ac.jp/
研究開発局地震・防災研究課