ア. |
プレート境界域における歪・応力集中機構
これまでの研究により、プレート境界には、 地震間には固着していて地震時に大きくすべる領域(アスペリティ)が存在していることが明らかになってきた。このような背景の下、2003年十勝沖地震の震源域周辺や宮城県沖想定震源域、東海地域、東南海・南海沖想定震源域等を中心として、太平洋プレートやフィリピン海プレートの境界におけるアスペリティや準静的すべりの実態を解明する研究を推進する。
そのため、海陸合同の構造探査や地震観測を行い、固着強度を支配するプレート境界の構造や境界付近の物質の性質を探る。準静的すべり域と固着域の時空間分布を把握するために、GPS観測点を強化し、小規模な固有地震(相似地震:小繰返し地震)解析の高度化を行う。特に東海地域で進行している非定常すべり(東海スロースリップイベント)の時空間分布の解明は、準定常すべりの理解に重要である。また固着域、特にその下限の位置の推定は、地震予知のみならず地震時の被害予測にとっても重要である。海底地殻変動観測については基準局を増強し、また、沿岸域における高精度絶対重力測定や差分干渉SAR解析を実施することで、海底から海岸線に至る領域の地殻変動観測をさらに高度化する。プレート境界浅部プロセスを解明するために、海底諸観測を通じて、海底下のマントルや地殻からもたらされる物質や熱の輸送過程に関する観測研究を行う。一方、深部低周波微動とそれに同期するスロースリップイベントの同時観測により、これらのイベントの発生に及ぼすプレート境界深部プロセスの役割の解明を図る。
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イ. |
内陸地震発生域の不均質構造と歪・応力集中機構
地震予知のための新たな観測研究計画(前計画)において、内陸の特定の領域に歪・応力が集中して地震発生に至るモデルが提案された。地震予知のための新たな観測研究計画(第二次)においては、このモデルの検証と高度化が重要課題となる。この目的のために、詳細な不均質構造と応力・歪速度の時空間変化の推定、および応力集中を作り出す不均質構造の鍵となると考えられる地殻内流体の分布を把握する研究を推進する。
そのため、まず日本で最大の歪集中帯である新潟-神戸歪集中帯に位置する跡津川断層およびその周辺において高密度な地震・GPS観測および比抵抗測定を行う。またそれ以外の地震多発域においても、稠密GPS観測と地震観測を行い、断層面やその周辺の特性の解明を図る。また、過去に発生した大地震の震源過程の解明をめざした解析手法の高度化を行う。地質学的時間スケールの変形と地球物理学的時間スケールの変形の関連を解明するために、大規模な褶曲域や活断層域において浅部反射法構造探査を実施する。一方、地殻内流体の分布と挙動および地震発生との関連を調べるために、過去の大地震域や将来の想定震源域を中心として比抵抗測定を行う。伊豆半島北東部〜東部にかけて地磁気全磁力観測を実施し、地殻内流体や地殻応力との関係を検討する。また、流体の分布を反映していると考えられる地殻内地震反射面を解析する手法の高度化を図る。さらに、流体の挙動と誘発地震との関係や断層強度回復過程の解明のために、野島断層において注水実験を行う。
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ウ. |
地震発生直前の物理・化学過程
地震発生直前において生起すると考えられている不可逆的な物理・化学過程を解明することは、地震の直前予測にとって極めて重要である。このため、地震学的直前過程、流体の挙動の地震発生の関係、および電磁気学的時間変化と地震発生の関係に関する研究を推進する。
まず南アフリカ金鉱山における半制御実験を通じて、至近距離による破壊核形成過程を観測することを目指す。また、長野県西部の断層破砕帯周辺において稠密・高サンプリングレートの地震観測を行い、破砕帯内外の詳細な構造と発震機構解に基づく応力分布の推定を行う。流体が地震発生に果たす役割を解明するために、伊豆地域等で実施してきた電磁気観測と重力繰り返し観測を継続する。地震発生前の電磁気的現象の有無について検討するために、主として北海道においてULF帯の磁場・電場観測とVHF帯電波観測を行うとともに、そのような現象が生じる可能性を検討するための比抵抗構造探査ならびに電磁波伝播についてのシミュレーションも実施する。またプレート固着域の変化に伴う比抵抗変化や地殻応力増加に伴う地磁気変化の有無の検証を行う。
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エ. |
地震発生サイクル
プレート境界や活断層に発生する大地震については、前計画においてBrownian Passage Time(BPT)分布モデルと呼ばれる新しい統計モデルが導入され、地震発生サイクルに基づく統計的長期予測の高度化がなされた。この統計モデルでは地震発生の周期性を前提としているが、孤立したアスペリティの破壊によるプレート境界型地震であれば、そのような周期性が生じることも観測や数値シミュレーションにより示された。地震予知のための新たな観測研究計画(第二次)ではこれらの統計モデルと物理モデルとを統合し、より信頼性の高い長期予測の実現を目指す。
統計的モデルの高度化のために、まず、別府湾において活断層の音波探査を行う。南海トラフ・相模トラフにおいてはピストンコアやサイスミックデータを分析し、さらに北海道〜南千島での過去の巨大地震による津波と地震記象データを国内外で収集し、地震発生履歴の解明を図る。また、日本の主要断層のセグメント区分の実施とそれに基づく断層パラメータの地域的分布の推定およびセグメント境界の構造的特徴の抽出を行う。一方、現在考えられている地震発生サイクルを越える巨大地震のサイクルの有無を検証するために、三陸〜常磐海岸において津波痕跡および海岸昇降履歴の調査を行う。地震発生のサイクルとその揺らぎを物理学的モデルによって検討するために、地震間や地震と準静的すべり間の相互作用を、小規模な固有地震の解析によって解明する。また、連鎖的地震発生におけるトリガリング機構の検討と、近傍の地震発生による応力の揺らぎにともなう地震発生サイクルの揺らぎを定量的に解析する。 |