2.平成28年(2016年)熊本地震に関する研究成果

2016年4月14日21時26分に熊本県中部でマグニチュード(M)6.5の地震(前震)が発生した。この地震を皮切りに活発な地震活動が発生し,約28時間後の16日1時25分には隣接する場所でM7.3の地震(本震)が発生した。これらの地震により,建物の倒壊や地盤災害など甚大な災害が発生し,人的被害をもたらした。本震後の地震活動は広範囲に亘り,阿蘇地方や大分県中部にまで飛び火するように広がり,それらの地域でも被害をもたらした。地震活動は活火山である阿蘇山のごく近傍でも発生しており,火山活動への影響も懸念されている。この一連の地震活動である平成28年(2016年)熊本地震(以下「2016年熊本地震」)とそれに伴う震災の発生を調査研究することは,災害誘因の予測に基づき災害の軽減に貢献することを目指す本研究計画にとっては,極めて重要な意味を持つ。

2-1.地震現象・構造に関する研究

M6.5の前震は日奈久断層帯,で,本震は日奈久断層帯・布田川断層帯で発生した。これらの地震に伴う地殻変動をGNSS連続観測,緊急GNSS観測および干渉SAR解析により捉え,震源断層モデルを構築したところ,これらの地震ではそれぞれ異なる断層面が破壊した複雑な断層形状をもつことがわかった(図1)。M6.5の前震の震源断層は,ほぼ鉛直ながらもやや西に傾く断層が右横ずれ運動したと推定された。一方で本震では,布田川断層帯では北西に傾斜する断層とその東側延長に南東に傾斜する小断層,日奈久断層帯では北西に傾斜する断層が,それぞれ右横ずれ運動したと推定された(図1)[6008]。地震波の解析により断層面上での滑り分布を明らかにしたところ,本震時には日奈久断層帯北部から布田川断層帯にかけて,連続的に破壊が伝播したことがわかった。また布田川断層の浅部で大きな滑りが見つかり,地表に現れた断層のずれと対応していることがわかった[1903]。
地震活動調査に関しては,M6.5の前震の直後から熊本地震合同地震観測グループによる緊急地震観測が行われた。高密度の観測の結果得られた余震の分布や発震機構解から,断層の細かい形状が明らかになった(図2上)。M6.5の前震から本震に至るまでの地震活動からは,鉛直に近い傾斜の複数の断層面で構成されているように見え,1999-2000 年に発生したM5の地震を伴う地震活動がみられた鉛直断層面のやや西側で活動している。本震の断層については,日奈久断層帯と布田川断層帯の複雑に組み合わされた断層群に加え,震源近傍にはほぼ鉛直な断層も見られる事が明らかになった。このように,2016年熊本地震を引き起こした断層群は,複雑な形状を持ち,相互作用をしているようにも考えられる。さらに,2016年熊本地震前の地震活動から推定した応力場によると,本震による滑りは地震前の応力場を強く反映している可能性がある。[2201]
2016年熊本地震の発生した地域の詳細な地震波減衰構造を3次元トモグラフィーにより調査した結果,地震波の減衰が小さい領域は本震の大滑り域とほぼ一致し,余震発生域と相補的な関係にあることがわかった。またフィリピン海プレートから脱水した流体が上昇していると考えられる地震波の減衰が大きい領域が,2016年熊本地震の震源域の直下まで延びている様子も認められた。
M6.5の前震発生後,本震発生に至るまでの過程も調べられた。地震波形の相関を用いた手法により,通常の手法では検出されていなかった微小地震を多く検出したところ,M6.5の前震後の地震活動は余効滑りの拡大を示すように断層帯に沿って放射状に広がり,本震発生時にはその震源付近にまで達していたことがわかった(図2下)。
2016年熊本地震に伴い余効変動が観測されている。日奈久断層帯周辺のGNSS観測点では地震時断層面での余効滑りにより説明できるが,布田川断層帯周辺の多くの観測点では,これだけでは説明できない[2201]。

2-2.阿蘇山との関連 

地震および地殻変動の観測と解析から明らかになった2016年熊本地震の断層は,阿蘇カルデラの内側まで達している。そのため,阿蘇山の活動推移も注視された。阿蘇山では,2014年11月25日から始まったマグマ噴火が2015年5月まで継続し,その後は火口内で水蒸気噴火を繰り返す様式へと推移していた。2015年9月14日と10月23日には少量のマグマが関与した水蒸気噴火が起き,小規模な低温の火砕流も発生していた。これら一連の水蒸気噴火活動は2016年3月まで継続していた。その後に2016年熊本地震が発生した。本震直後にごく小規模な噴火が起こったが,地震後の火山活動の高まりはしばらく認められなかった。そして地震の半年後の2016年10月8日にそれまでよりも規模の大きな爆発的噴火が発生し,一連の噴火活動が終了した。
本震の際,阿蘇山の観測データを集約していた京都大学火山研究センターが被災しその機能を失った。また,阿蘇山中岳火口周辺でも観測点の一部が被災した。これらの復旧活動にあたり,地震・火山噴火予知研究協議会では人員の派遣や観測資材の提供などの支援活動を行なった。その結果,5月初旬には火山活動のモニタリング機能が回復し,7月以降にはマグマ溜まりの膨張を示す地殻変動や微動の活発化が観測されるなど,10月8日の爆発的噴火の前兆をとらえることができた。
阿蘇山の活動に対する2016年熊本地震による影響は明らかではないが,2016年熊本地震に伴う地殻変動が阿蘇山のマグマ溜まりに与える変化も見積もられている。断層面に最も近い部分に最大3.5 MPa程度の差応力変化が発生すること,体積もごくわずかながら膨張することが示された(図3)[3005]。

2-3.災害および災害予測に関する研究 

近代的な測器のない時代における熊本での地震に関する史資料を収集・分析し,調査・研究を行った。1889年(明治22年)の熊本地震について官報や新聞情報等を収集し,あらゆる建造物の被害状況から従来よりも詳細な推定震度分布図を作成した[1701]。また,1625年(寛永2年)の熊本地震によると考えられる被害に関する歴史資料の調査・収集を行った[2701]。
本震について即時推定の技術の向上も行われた。震源断層モデルの即時推定について,リアルタイムGNSS測位を用い,地震発生後約5分で自動的に布田川断層に沿った右横ずれの矩形断層モデルを推定することに成功した[6012](図4)。
本震により震度7を記録した益城町や西原村における強震動の特徴を調査したところ,木造家屋に大きな被害をもたらす周期1~2秒の地震動成分が強いことがわかった。これらは過去に震度7を記録した平成7年(1995年)兵庫県南部地震や平成16年(2004年)新潟県中越地震の記録と同程度かそれ以上であった[1516]。また,本震では,長大構造物に被害を与える周期3~10秒の長周期地震動も強く発生し,熊本と阿蘇地方において長周期地震動階級4(最大ランク)が発表されたが,これは地盤による効果よりも断層の動きそのものの寄与が圧倒的に大きいことがわかった [1516]。
2016年熊本地震による斜面災害の分布を調査したところ,傾斜10度前後の緩斜面でも地滑りが発生しており,風化した軽石またはその近傍,および黒土に滑り面を持つことが明らかになった。地震に伴って崩壊した阿蘇大橋西側斜面では,地震発生以前に斜面が重力によってずり下がり,小崖が形成されていたことがわかった[1912]。
情報や研究成果の社会発信が行われた。例えば,地震・火山噴火被害判読等の技術開発を進めていた航空機搭載合成開口レーダ(Pi-SAR2)による観測を,本震の翌日に実施し,観測データを関係機関へ配布したほかWebを通じて一般に公開する([0101])など,各機関において取り組まれた。また,「平成28年熊本地震シンポジウム」を10月に熊本市内で開催し,一般市民及び行政に対し,災害の特徴に関する研究成果や災害復旧に向けた様々な社会的な取り組みについて理解の増進を図った。

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