3.計画の実施内容

4.計画推進のための体制の強化

(1)地震・火山噴火予知研究計画を推進する体制の整備

(観測研究計画推進委員会の充実)

【基本方針】

 地震及び火山噴火予知研究計画(仮称)に基づいた計画遂行を担う各大学や関係機関が,それぞれの機能に応じた役割分担と密接な協力・連携の下に,計画全体を組織的に推進する体制の確立及び評価体制の充実を図る。

【実施内容】

 現在,測地学分科会地震部会の下に,1計画の進捗状況の把握,2計画の達成度の評価,3計画の実施に関する問題点と今後の課題の整理,4各機関の実行計画に関する情報交換及び協力・連携体制の検討を目的として設置されている観測研究計画推進委員会を,地震部会と火山部会の両部会の下の組織に改組する。観測研究計画推進委員会は,関係各機関が協力して地震予知・火山噴火予知研究を推進するために,定期的な進捗状況の把握,実施計画及び研究成果の取りまとめ,研究の評価を実施する。

(地震調査研究推進本部との連携強化)

【基本方針】

 地震調査研究推進本部の施策と,予知研究の連携を強化する。

【実施内容】

 地震調査研究推進本部の施策決定に,最新の地震予知研究の成果を反映させる仕組みを作る。例えば,以下の研究を通して,推進本部の施策に予知研究の成果を生かす。推進本部の調査研究のうち,基礎研究の部分を予知研究計画で分担する。

  1. 海溝型地震の連動評価のために,地震予知研究の成果,特に,モニタリングとシミュレーション研究の成果を活用できるような体制を作る。
  2. 歪集中帯における重点的な調査観測研究と連携して,内陸地震の発生機構の解明を計り,歪集中帯の震源断層の位置,形状の推定に貢献する。
  3. 首都直下地震防災・減災特別プロジェクトと連携して,スラブ内地震の発生機構の解明を計る。
  4. 糸魚川〜静岡構造線断層帯における重点的調査観測と連携して,内陸地震の発生機構の解明と,発生時期,規模の予測を行う研究を進める。
  5. 宮城県沖地震における重点的調査観測と連携して,海溝型地震の発生機構の解明,発生時期,規模の予測を行う研究を進める。
  6. 東南海・南海地震等海溝型地震に関する調査研究と連携して,海溝型地震の発生機構の解明,発生時期,規模の予測を行う研究を進める。

(情報交換等の場としての地震予知連絡会の充実)

【基本方針】

 今後とも,推進本部,地震予知連絡会等,それぞれの機関の相互の役割分担の明確化及び連携を進めていく必要がある。

【実施内容】

 地震予知連絡会は,昭和43年7月16日測地学審議会の「地震予知の推進に関する計画の実施について」(建議)において,「各分担機関の情報交換を常時行うと共に,それらの情報の総合的判断を行うため,地震予知に関する連絡会を設ける」とされたことを受け,科学技術庁,文部省,通商産業省,運輸省(いずれも当時)との協議を経て,国土地理院を庶務担当とすることとして,設立されたものである。設立当初から一貫して,観測研究機関及び研究者が連携し,全国の地殻活動データを定期的に丹念に精査して,地殻活動に関する地震学の最高の知識を背景にし,多様な視点から地震予知に関連する可能性のある幅広い地殻活動に対して高度な理解を得る活動を行ってきた。当観測研究計画では,モニタリングとデータ同化,及び予測システムの構築を目標としており,地震予知連絡会は観測に携わる機関と幅広い分野の研究者が連携しながら,自由な視点から,モニタリングの高度化に資するための検討を行う場として,一層の充実が必要である。

(火山噴火予知連絡会の機能の充実)

【基本方針】

 火山噴火発生時に,的確な予測を行ない,火山災害を軽減するための情報を発表するには,火山活動の総合的評価,観測体制の整備,成果・情報交換がより的確に行なわれる必要がある。そのため,火山噴火予知連絡会の機能の充実を図り,噴火予知の体制がより推進されるように努める。

【実施内容】

 火山噴火予知研究においては,火山の監視・観測データに基づいて,定期あるいは緊急時に噴火活動の評価を行うと共に,関連情報の共有・発信,ハザードマップや噴火シナリオ作成,緊急時の観測研究体制の整備等,噴火予知研究と社会をつなぐ上で,火山噴火予知連絡会が重要な役割を果たしている。
 その役割をより充実させるため,収集した各種の観測データ等情報の共有化を図り,関係省庁,大学の研究者など専門家と連携して,迅速かつ総合的に火山活動を評価する機能の強化を図る。また,事務局機能のさらなる強化を図る。
 さらには,緊急時における観測研究のための新たな整備や既存施設・設備やデータの有効利用等の体制整備についてもその機能を遺憾なく発揮する。
 火山噴火発生及び活動推移の的確な予測のため,収集した各種の観測データ等情報の共有化を図るとともに,関係省庁,大学の研究者など専門家の知識を活用して,迅速かつ総合的に火山活動を評価する機能の強化を図り,その評価が実用的で分かりやすい形で情報に反映されるよう努める。

(2)地震・火山噴火予知基礎研究体制の強化

(全国共同利用研究所の機能強化)

【基本方針】

 平成16年の国立大学の法人化により各大学の独自性が強まり競争的な研究環境となった状況では,地震予知・火山噴火予知研究の効果的な推進と研究成果の普及・活用には,地震・火山の研究にかかわる全国の大学間及び研究機関間の継続的連携・協力の一層の強化が不可欠であり,同時に工学社会学等の他の研究分野との共同研究を促進する必要がある。このような状況においては,全国共同利用研究所の役割はこれまで以上に重要なものとなり,その機能の充実・強化を行なう必要がある。

【実施内容】

 東京大学地震研究所は,地震・火山噴火予知研究協議会を通じて全国の大学を中心とした研究者の意見をくみ上げ,地震及び火山噴火予知研究にかかわる共同研究及び共同観測の計画立案,予算化,及び,実行において中心的役割を果たす。また,全国共同利用研究所の機能を活用して地震及び火山噴火にかかわる幅広い研究の促進に努める。
 京都大学防災研究所は,災害及び防災に関する総合研究に関する全国共同利用研究所の機能として,現地観測施設,実験設備,災害に関するデータベース等を活用しつつ,地震及び火山噴火に関する共同研究に加え,関連する災害と防災に関する理工学的社会学的な共同研究を推進する。また,自然災害研究協議会を通して,地震・火山噴火予知研究と地震火山災害の研究者との連携に努める。
 また,上記全国共同利用研究所は,その機能の一環として,地震・火山噴火予知及び関連する災害の研究を促進し,成果を普及するために研究集会やワークショップ等を開催する。

(地震・火山噴火予知研究協議会の充実)

【基本方針】

 地震及び火山噴火予知研究に関し,研究計画,概算要求事項などを協議し,大学間の連携を緊密にし研究の有効な推進を図るため組織された。予知協議会の下は,研究計画の企画立案及び実施を機能的に行うため企画部が置かれ,また,大学の予知研究計画を広範な研究者の参加の下に機能的に推進することを目的とする計画推進部会が置かれている。組織的な観測研究を推進していくためには,これまで果たしてきた機能の強化を図り,多くの分野から広く英知を結集する体制を通して研究の一層の活性化を図る必要がある。大学は定常的な観測研究だけでなく,突発的な地震や火山噴火に対する研究で成果をあげ,情報発信など社会に貢献すべきであり,そのためにも観測機器の設置・メンテナンス・活動経費などの予算化が重要である。

(地震・噴火予知関連研究センターの充実)

【基本方針】

 全国的な地震・火山噴火予知研究を統一的に推進するために,地震・火山噴火予知研究協議会企画部によって研究計画が企画され,具体的な研究は各大学の地震・噴火予知関連研究センターによって実施される。計画を着実に推進し目標を達成するため,計画の主要な担い手である各大学の地震・噴火予知関連研究センターの充実を図る。

【実施内容】

 これまで地震予知研究計画と火山噴火予知計画とをそれぞれ別々に担ってきた研究者あるいは組織が,次期計画では相互に密接な連携をとって計画を推進していく必要がある。大学の地震・噴火予知関連研究センターでは,必要があればそのための体制整備を進める。さらに,共通的な基盤情報の共有化と迅速な流通,観測機器の流動的な運用などを視野に入れた,新たな観測システムの構築を目指す。また,地震・噴火予知関連研究センターは,国立大学の法人化後,今まで以上に教育への参加を求められている。地震予知・火山噴火予知研究を着実に推進できるよう人員の安定確保に努めつつ,より一層若手研究者の養成・確保を図っていく。

(3)人材の養成と確保

【基本方針】

 地震予知及び火山噴火予知の研究を推進するためには,研究者の確保と育成が急務である。そのためには地震・火山噴火予知研究の成果を社会に還元し,その重要性を訴えるとともに,予知研究の基盤となる地球科学分野への若年層の関心を高める努力を続け,関連分野の学生数増加とその教育に向けて継続的に努力する。また,関係官庁においては人材の確保と育成に努める。

【実施内容】

 大学や関係官庁は関連分野での後継者確保をめざして,アウトリーチ活動を積極的におこなう。特に大学は大学院生の教育研究環境向上を図るなどして学生の確保に努力するとともに,観測研究を生かした教育活動を継続して人材の育成に努力する。また,関係機関の職員を積極的に社会人大学院生として受入れ,人材の養成・拡大を図る。
 海洋研究開発機構は関連分野の若手研究員・技術研究員の採用を積極的に行い,人材の確保に努める。産業技術総合研究所は連携大学院,研究機関の技術研修制度を活用し,後継者の確保と育成に努力する。気象庁は地震火山関連の教育を受けた人材の確保に努めるとともに,気象大学校での教育や研修等の充実により人材の育成を図る。海上保安庁は地震・火山に関する業務についての普及啓発活動を行い,地震・火山分野の教育を受けた人材を確保するように努める。

(4)国際共同研究・国際協力の推進

【基本方針】

 地震・火山現象に関する理解を深め,地震予知および火山噴火予知の研究を推進するためには,国外の地震や津波の緊急調査,多様な火山活動の比較研究や研究成果・知識の交換が有効である。そこで,緊急調査体制の整備,国際共同研究の推進,研究者の交流,技術協力等に取り組む。緊急調査の実施については,自然災害研究協議会や防災研究フォーラムの機能を活用する。また,既存の各種の研修コース等を利用して,海外の研究者や技術者の育成に努める。

【実施内容】

 大学は,全国共同利用の機能に基づき,諸外国で発生する大規模な地震・津波・火山活動に対する緊急調査のために必要な体制の整備を図りつつ,機動的に調査を実施する。また,我が国における地震・火山噴火予知研究に関する国際シンポジウムの開催,および諸外国で開催される国際会議の地震・火山噴火予知研究にかかわるセッションの企画や研究者の派遣を行う。
 防災科学技術研究所は,アジア・太平洋・中南米の開発途上国において,地震・火山噴火に関わる現象の解明と災害軽減技術開発のための国際共同研究,ならびに観測網整備と運用に対する技術支援を行う。また,米国やイタリア等と地震・噴火予知や火山防災に関する共同研究を実施する。
 海洋研究開発機構は,インドネシア科学研究所ジオテクノロジー研究センターと共同して,島弧発達の初期段階にあるアサギンヘ弧におけるマグマ活動と島弧進化過程の解析を実施する。
 産業技術総合研究所は,国外の活動的火山において火山ガス観測を実施して脱ガス過程のモデル化を行う。また,インドネシアやイタリア等で火山の地質・温度構造を調査して,噴火過程および噴火様式関する共同研究を進める。更に,アジア太平洋地域を中心に,地震と地下水に関する研究,噴火体験や火山情報の共有化,国際機関を通じたワークショップ開催などを行う。
 気象庁は,国際地震センター,米国地質調査所,包括的核実験禁止条約機構,大学間地震学研究連合および近隣国との地震観測データの交換を継続するとともに,組織的な連携・協力を行う。また,航空路火山灰情報センター,北西太平洋津波情報センターおよびインド洋津波監視情報関連の業務を引き続き行う。さらに,途上国における地震・火山の観測体制や,津波の警報体制の整備に対して技術的な支援を行っていく。
 建築研究所は,国際協力機構(JICA(ジャイカ))と協力して,開発途上国の地震災害軽減に資するために,これら国の研究者・技術者に対して地震学及び地震工学に関する研修(国際地震工学研修)を行い,地震学,地震工学,地震防災対策,津波防災対策の専門家の育成に努める。

(5)研究成果の社会への還元

【基本方針】

 研究の成果を社会に伝えることは,本計画推進への理解を得るためとともに,防災意識向上の一環としても重要である。このため,地震火山に関する普及活動を組織的に推進する。また,地震,火山噴火による被害軽減に資するため,情報や報道発表内容の質的向上を図り,的確かつ迅速に提供するように努める。

【実施内容】

(普及活動の推進)

 国民に対して,研究の成果を分りやすく継続的に伝えることは,本計画を推進することへの理解を得るためばかりでなく,防災意識向上の一環としても重要である。このため,関係機関におけるホームーページ等の充実や,講演会の開催や講師の派遣,パンフレットや解説書の発行,防災関係者との研究会や勉強会,さらに,マスメディアへの解説を積極的に行うなど,固体地球科学の分野について幅広くアウトリーチ活動を強化し,研究成果とともに正確な科学的な知見の普及活動を進めていくことが大切である。本計画を通して,組織的に実施していく。
 このような直接的な普及活動以外にも,政府や地方自治体の各種委員会等を通して研究成果が社会に生かされることも重要である。各種委員会での審議や防災施策策定に貢献していく。

(情報の発表)

 平常時の普及活動に加えて,緊急時における情報の提供や報道発表も被害軽減のために重要である。それらの質的向上を,リアルタイム処理等によるモニタリング手法の高度化の成果を取り込むことなどにより進め,正確かつ分りやすい情報を迅速に提供するとともに,地方自治体等防災関係機関に対して解説や助言を行っていく。
 火山噴火に関しては,気象庁は,火山防災に関する情報の質的向上を図るため,火山噴火予知連絡会及び関係する機関の協力のもと,防災対応を分りやすく表現した噴火警戒レベルを導入する火山を順次増やす。また,海上保安庁は,引き続き,船舶の安全航行確保のため,航行警報による情報提供を行う。
 地震に関しては,地震調査研究推進本部地震調査委員会が地震活動評価や地震発生可能性の長期評価を行っている。東海地震予知について,気象庁は,関係機関の協力を得て観測された地殻活動の状況に応じて情報を発表するとともに,本計画で得られた知見を地震防災対策強化地域判定会での議論に随時反映させる。

前のページへ