日本列島及びその周辺域の地震・火山現象の根本的原因は,列島とその周辺を構成するプレートの相互作用である。日本の東側からは太平洋プレートが,南側からはフィリピン海プレートが日本列島下に沈み込んでいるが,地震現象は,これに伴って地殻・上部マントルに広域的かつ不均質な変形が蓄積することにより,特定の震源断層に加わる力が破壊強度を超えて発生する現象である。一方,火山現象についても,沈み込む海洋プレートから供給される水の作用によってマントルが融解して生成されたマグマが,その現象の源となっている。従って,列島及び周辺域の長期的なプレート運動とそれに伴う広域の応力場に加えて,マントルウェッジにおけるマグマの生成・上昇機構を解明することは,日本列島の周辺で発生する地震現象や火山現象の予測にとって基本的に重要である。これらの研究に加えて,マグマ等の地殻内流体の分布を含む,広域の地殻・上部マントル構造や明らかにすることや,地震現象と火山現象に共通する根本的な原因と考えられるプレート運動の影響を正確に理解するために,両現象の相互作用に関する研究を推進することも必要である。一方,地震現象の予測には,地震発生サイクルに関する理解が不可欠であるが,これまでの研究により,地震が繰り返し発生する場であるアスペリティの位置は,時間的に変化しないことが明らかになりつつある。このことは,地震発生の周期性を基にした長期予測に根拠を与えるものとなっている。しかしながら,地震時に破壊するアスペリティの組み合わせは必ずしも毎回同一ではなく,歪みエネルギーの蓄積速度の時間的揺らぎ等については,それほど明確になっていない。従って,予測精度の時間分解能を向上させるために,アスペリティやセグメントの破壊様式について過去の履歴を明らかにし,長期的な地殻歪みの時空間分布を明らかにする研究を実施する。
日本列島及びその周辺域の地震・火山活動の根本的原因は,列島とその周辺を構成するプレートの相互作用である。日本の東側からは太平洋プレートが,南側からはフィリピン海プレートが日本列島下に沈み込み,プレート境界に歪が蓄積され,臨界状態を経て破壊に至り,いわゆるプレート境界大地震が発生する。また,内陸やスラブ内で発生する地震も,そのエネルギーの根源はプレート運動からもたらされている。一方,沈み込むプレートから搾り出された水の作用によってマントルが融解して生成されたマグマが島弧の火山活動の源となっている。プレート境界の正確な位置やその周辺のプレートの変形様式を明らかにすることは,日本列島の周辺で発生する地震活動の発生予測や火山活動の予測にとって引き続き重要な課題である。
大学は,ロシアを含むわが国北部周辺において高精度連続GPS観測及び広帯域地震観測を実施して,日本列島の北端部周辺のプレート境界やアムールプレート北部・東部境界域の地殻活動やプレート運動モデルの理解の高度化を図る。また,モンゴルに既設のGPS点の観測を継続し,GEONET及びアジア・西太平洋のIGS観測点等のデータとの統合解析を実施して,日本列島周囲のプレートの相対運動について,時間変化の可能性を検証し,日本列島の地殻変動との関連を考察する。
国土地理院は,VLBIの国際・国内観測及び南太平洋のGPS連続観測を実施し,周辺のプレートの広域的相対運動を把握する。また,GEONETデータから日本列島周辺のプレート間カップリングの空間分布及び時間変化を詳細に把握する
海上保安庁は,和歌山県下里において人工衛星レーザー測距(SLR)観測を実施し,広域のプレート相対運動決定に資するデータを得る。
沈み込み帯の水・物質循環の全容を解明することは,島弧マグマ活動や内陸地震の発生機構を理解する上でも極めて重要である。ここではスラブから供給され上部マントルを移動する水の輸送過程の詳細を明らかにし,マグマ生成・上昇機構の解明を目指す。
大学は,日本列島下沈み込み帯における水循環をターゲットとし,日本列島域の地殻・上部マントルの地震波速度構造を高分解能で推定するとともに,反射地震断面,Q構造,散乱構造,電気伝導度構造の推定を行う。得られた構造を物質科学・物性科学・計算機科学の手法を用いて解析される,温度構造,流動・変形場,流体(水溶液,メルト,超臨界流体)の発生及びその分布,流体の輸送,さらにはそれら相互の関係をもとに定量的に解釈することで,上部マントルにおける水の輸送過程,島弧マグマの生成・上昇機構の解明を目指す。
防災科学技術研究所は,上部マントルの3次元地震波速度構造・減衰構造を推定し,得られた地震波低速度域や高減衰域からマグマ生成・上昇システムのイメージングを行うとともに,それと深部低周波地震との関連についても研究する。
海洋研究開発機構は,発達段階の異なる島弧の岩石学的・地球化学的研究により,島弧地殻・マントルの進化過程を解明する。
地震の発生及び火山活動の理解に共通する広域の地殻構造やマグマ等の地殻内流体の分布を,地震観測や人工地震探査,電気比抵抗探査,熱流量測定などから明らかにすることをめざす。
大学は,火山域における地震・火山現象の発生メカニズムを地殻・上部マントル構造の面から解明することを目指し,制御震源地震探査を主体とした観測研究を行う。また,内陸大地震や群発地震発生域においても稠密自然地震観測,制御震源地震探査及び電気比抵抗探査を実施して,震源域及び地殻深部の不均質構造・地殻内流体の分布を推定し,地震発生と地殻内流体及び火山形成過程との関連性を明らかにする。このほか,反射波や変換波などを用いて日本列島域全体のモホ面の形状推定と下部地殻のイメージングを行う。
大学と防災科学技術研究所は,弾性波エンベロープ形成の理論的考察に基づいて微小地震の波形記録の特徴を定量的に解析し,エンベロープの周波数依存性・経路依存性から,日本列島における短波長不均質構造の空間分布を明らかにする。
防災科学技術研究所は,三次元地震波速度構造・減衰構造の推定と深部マグマ溜りのイメージング及び深部低周波地震との関連についての研究を実施するとともに,日本列島周辺域における詳細な三次元速度構造や周波数帯域別の減衰構造マップを作成し,シミュレーション等に用いることができるような形でデータベースを構築する。また,地殻熱流量データが十分でない地域や観測空白域を中心に,中深層坑井や浅層坑井による精密な熱流量測定を実施し,地殻熱流量分布と速度構造,Q構造に対する統一的な解釈が可能な,日本列島の地下熱構造モデルを構築する。
海洋研究開発機構は,伊豆・小笠原・マリアナ弧において,地殻及び上部マントルの詳細な地震学的構造探査を実施する。
地震現象と火山現象に共通する根本原因と考えられる,日本列島及びその周辺域におけるプレート運動の影響を正確に評価するために,両者の相互作用に関する研究を推し進める。
大学は,御嶽山や焼岳等の当該地域の火山を対象に,稠密アレイ地震観測を含む地震観測,GPS観測,水準測量等を行ない,深部低周波地震等の活動にも注目し,地殻活動と火山活動の関連性を解明するための研究を推進する。また,プレートの沈み込みに起因する九州地域の火山群の活動と,日向灘における地震活動の双方に関連する応力集中・物質移動過程の予測モデルを構築する。防災科学技術研究所は,富士山から伊豆半島に至る地域等を対象に火山活動と地殻活動の関連性の研究を進める。(名古屋大学・京都大学)
地震発生に周期性が生じるためには,地震発生域が有限の特徴的空間スケールを持ち,さらに地震の平均再来間隔程度の時間スケールで見たときに歪エネルギーの蓄積速度がほぼ一定でかつ断層の強度分布もほぼ一定であることが必要となる。これまでの研究により,アスペリティの位置は時間的に変化しないことが明らかになりつつあり,これは地震の周期性を基にした長期予測に根拠を与えるものとなっている。
しかしながら,地震時に破壊するアスペリティの組み合わせが必ずしも毎回同一ではないこともまた明らかになっており,また歪エネルギーの蓄積速度や断層の強度分布がどの程度時間的に揺らいでいるのかはそれほど明確になっているわけではない。また,マグニチュード6級の地震の場合には地表に痕跡を残す可能性が低いため,このようなマグニチュード6級の地震を繰り返し発生させる領域の特定は現状では困難である。
このような観点から,アスペリティやセグメントの破壊様式について,過去の履歴を明らかにし,さらに長期的な地殻歪の時空間分布を明らかにする研究を推進する。さらに,マグニチュード6級の地震を生じさせる断層を同定する手法の開発も推進する。
大学等は,海溝型地震について地質・地形学・歴史地震など長期間にわたるデータをもとに,発生サイクルや規模を解明するとともに,連動型巨大地震についての基礎試料を得る。内陸地震については,日本列島の地殻内に蓄積される塑性歪速度を明らかにし,塑性歪の蓄積過程を解明する。地質情報・変動地形・重力異常などの地殻構造データに基づき,潜在震源断層のマッピングを目指す。検証のための掘削調査も併用しつつセグメンテーションの議論を精緻化する。
地震発生の準備過程を,地殻・マントルの特定の領域において歪みエネルギーが蓄積し,応力集中/強度低下した場所から破壊が生ずることによって地震発生に至る過程と捉え,それを解明するための観測研究を実施する。アスペリティモデルに基づく数値シミュレーションによるプレート境界地震発生予測の実現に向け,モデルの高度化を図るとともに,その精緻化に必要なアスペリティ分布などの推定を行う。さらに,地震発生に至る過程の定量的把握と地震発生の切迫度評価に資するために,プレート境界面上における非地震性滑りの時空間変化の実体把握を重点的に推進する。内陸地震の準備過程の定量的モデル構築のために,断層周辺の非弾性変形とそれによる応力集中に注目し,下部地殻・上部マントルの不均質構造とその変形と,上部地殻の構造や地震活動・地殻変動等とを総合することにより,歪集中帯の成因を解明する。また,スラブ内地震の発生機構を解明するため,スラブ内の震源分布や地震波速度構造を詳細に明らかにすることにより,スラブ内にとりこまれた流体の地下深部における分布と挙動の理解を図る。
プレート境界地震に関しては,アスペリティモデルに基づく数値シミュレーションによる地震発生予測の実現へ向けての展望が開けつつあり,その実用化に向け,アスペリティの規模や分布をより高精度で把握することとともに,アスペリティの実体を把握することにより,その適切な摩擦特性を理解することが必要である。
アスペリティの規模や分布を高精度で把握するために,地震・測地学的観測データを用いてプレート境界面上における滑り速度の推定精度と空間分解能の双方を一段と向上させると同時に,プレート境界面周囲の応力場の空間変化などによって,固着・滑り状態を推定するための新手法の開発を進める。
アスペリティの実体解明のために,プレート境界地震発生域周辺の不均質構造を明らかにし,深海掘削などで得られる試料やデータと総合することにより,プレート間固着強度を支配する要因の解明を進めるとともに,アスペリティ分布に対応する構造不均質の全体像を把握する。一方,アスペリティの挙動の理解を進めるために,アスペリティの繰り返し破壊と考えられる地震系列に含まれる地震の破壊過程を詳細に明らかにし,繰り返し破壊の規則性とそこからの揺らぎの実体を解明し,非地震性滑りとの相互作用など,その背景にある物理過程の理解を図る。
さらに,アスペリティの連動破壊による巨大地震の発生機構の理解のため,アスペリティの連動性に関わると考えられるセグメント境界域に着目し,その特徴的な構造及びそこでの地震活動あるいは非地震性滑りの特性の抽出を図る。また,プレート境界とその周辺での構造不均質と応力場の空間変化の理解を通して,プレート境界地震と海洋プレート及びスラブ内地震との発生準備過程にみられる相互作用についての検討に着手する。
大学,防災科学技術研究所及び海上保安庁は,海陸における観測を充実させ,小繰り返し地震解析及び合成開口レーダー・GPS・海底地殻変動等の観測や重力データの解析によるプレート境界上の滑り速度分布の推定精度及び分解能の向上を進める。また,大学と海洋研究開発機構,防災科学技術研究所,産業技術総合研究所は,人工地震探査を行うほか,地震波トモグラフィやレシーバ関数解析により,プレート境界面の形状や海陸プレート内の3次元地震波速度構造を推定し,アスペリティ/非アスペリティ領域に対応する構造不均質を明らかにする。それと同時に,プレート境界近傍で発生する地震の震源と発震機構を高精度で推定することにより,アスペリティ周辺のプレート内応力状態の空間変化を明らかにする。大学と海洋研究開発機構は共同して,自己浮上式海底地震計を効果的に運用することにより,海域における大規模地震観測を推進する。海洋研究開発機構は,地震学的構造モデルと深海掘削による成果とを統合して地震発生帯の媒質モデルの構築を目指す。また,大学は,プレート境界地震の破壊過程に関する研究を高度化し,アスペリティ破壊の繰り返し性の評価を行うとともに,アスペリティの破壊に対して周囲の非地震性滑りが及ぼす影響の解明をすすめる。アスペリティ分布とプレート内不均質構造ならびにプレート内応力場の関連に着目し,プレート境界地震のアスペリティ同士あるいは,プレート境界地震とスラブ内地震との連動性についての検討を開始する。(東北大・東大・京大・鹿児島大)(北大・東北大・東大・京大・九大)(東北大・京大)(北大・東大)
プレート境界地震の発生に至る過程を反映した地殻活動のなかでも,プレート境界面上での滑り速度や,アスペリティ周辺における応力・歪の蓄積状態は,地震発生予測のためのシミュレーション結果との同化を行う際に鍵となる要素である。特に,地震発生域深部延長などで発生する非地震性滑りは,大地震のアスペリティにおける地震発生準備過程に強く影響を及ぼすものであり,滑り速度の時空間的な変化を正確に把握することは,地震発生切迫度の定量的評価を実現する上で不可欠な要素である。そこで,プレート境界における非地震性滑りの滑り速度の時空間的な変化を,地震・地殻変動などの観測データから把握するための手法の開発と高度化を行う。それとともに,非地震性滑りの加速・減速及びそれに伴って発生するゆっくり地震の発生機構の解明を進める。また,プレート境界面上で通常固着状態にあるアスペリティ周辺における応力状態は,非地震性滑りの影響により時間変化を示す可能性があるため,これを地震観測等によって検知するための技術開発を推進する。
大学・海洋研究開発機構・防災科学技術研究所は,海陸の地震・測地観測によりもたらされるデータを用いて,プレート境界において発生する非地震性滑りの滑り速度の時空間変化の実体を明らかにするとともに,ゆっくり地震の発生機構の解明を進める。さらに,大学と産業総合技術研究所は,プレート境界近傍で発生する地震の観測によって,地震発生場における応力状態の時間変化を抽出するための技術開発を進めるとともに,電磁気学的観測や水文学的観測により,ゆっくり地震の発生と流体移動との関連に関する検討を行う。(東北大・東大・弘前大・高知大・九大)
これまでの研究により,内陸地震の準備過程において,断層周辺,特に直下の下部地殻や最上部マントルの不均質構造が,直上の断層への応力集中に重要な役割を果たしていることが明らかになってきた。本研究では,内陸地震の断層周辺の不均質構造とその変形を,より高精度で把握し,各種のデータを総合的にモデリングすることにより,内陸地震の準備過程についての定量的なモデルを構築する。
断層への応力集中過程の定量的なモデリングにおいては,断層の周りの変形を全て捉える必要がある。したがって,直下の下部地殻や上部マントルの不均質構造だけではなく,両端の上部地殻における不均質構造と非弾性変形を解明する。さらに,アスペリティへの応力集中の解明,セグメント構造の解明のために,断層近傍の不均質構造や非弾性変形を明らかにする。これらの解明においては,変形速度の大きな歪集中帯における各種の調査・観測研究が重要である。また,近年,地表に地震断層の現れないマグニチュード7弱の被害地震が多発しているが,活発な余震活動を活用し,これらの震源域において総合的な研究を行うことが重要である。地震サイクルの中の色々な時期に位置する断層や歪速度の異なる断層における比較研究も重要である。
地球物理学的手法だけでなく,地質学的手法と組み合わせることが有効である。地表に露出している下部地殻の断層の地質学的直接的な調査などによる変形特性や物性の解明が重要である。上部地殻における非弾性変形の推定においては,弾性歪みと非弾性歪みの分離が必要であるが,応力場と歪速度場の比較に加えて,地質構造等の把握による長期的な歪速度場とGPS等による測地的な歪速度場の比較も重要である。
不均質構造とその変形においては,広域応力場及びマントルウエッジから地殻への各種流体の供給が重要な外的条件となるため,これらの研究や火山の深部構造など関連する研究と連携することが重要である。
断層への応力集中過程のモデリングのためには,断層域,及びその周囲の不均質構造と非弾性変形を解明することが重要である。大学等は,新潟-神戸歪集中帯,及び近年発生した内陸大地震発生域などにおいて,稠密自然地震観測・電磁気的観測・GPS観測・制御震源探査等を実施する。上部地殻,下部地殻,及び上部マントルまでの地震波速度,減衰,散乱,異方性,比抵抗,流体分布などに関する不均質構造,及び微小地震の詳細な震源分布,メカニズム解等を明らかにする。合わせて,複数の断層セグメントの連動型破壊,断層の両端部の非弾性変形と断層への応力集中過程の関係,震源断層の強度回復過程などに関する研究を推進する。また,大学と防災科学研究所はボーリングコア資料やメカニズム解,S波スプリィテッング等の情報から応力の推定を試みるとともに,原位置地殻応力測定を実施し、GPSなどの歪観測と比較して、地殻の弾性変形と非弾性変形を分離する。これら観測データから得られた知見と,GPS観測やPSInSARなどから得られる地表での変形情報を活用して、非弾性変形している領域も考慮しながら有限要素法等によるモデル化を行う。同様の研究を他の歪集中帯や歪速度が小さい地域等でも行い,内陸の地震発生モデルの一般化を目指す。
スラブ(沈み込む海洋プレート)内では,1993年(平成5年)の釧路沖地震(マグニチュード7.5)のようにしばしば大地震が発生し,大きな被害をもたらすにもかかわらず,そのような大地震を発生させる場所の同定すら現状では困難である。このような同定の困難さは,そもそもスラブ内の地震の発生メカニズムの解明が,プレート境界地震や内陸地震に比べて遅れていることに起因している。
スラブ内地震については,地震を発生させる応力の生成原因に注目した研究がこれまで多かったが,脱水や脱CO2(二酸化炭素)による間隙圧上昇に伴う強度低下がスラブ内地震発生の原因であるとする仮説が近年提唱され,この仮説を支持する観測結果も得られつつある。また,このようなスラブ内から生じた流体は,プレート境界地震や内陸地震の発生にも関与していると考えられるため,どのような領域で脱水・脱CO2(二酸化炭素)を生じているのかを明らかにすることは,スラブ内以外の大地震発生の解明にとっても役立つと考えられる。
このような観点から,スラブ内の流体の供給・輸送過程及び強度分布を明らかにする研究を推進し,スラブ内大地震を発生させる領域の同定を目指す。
大学は,海溝外側の領域から島弧下のスラブまでの構造や震源分布・メカニズム解を詳細に調べることにより,スラブ内の流体の供給・輸送過程及び強度分布を明らかにし,スラブ内地震の発生に至る過程を解明することを目指す。
観測に基づき火山活動の現状を評価し,来たるべき噴火の時期と規模を予測するためには,マグマ供給系の把握,特にマグマの上昇・蓄積過程の解明が不可欠である。そのため,地震,地殻変動,電磁気等の観測・探査により,マグマ供給系モデルとマグマ供給系を含む火山体構造の時間的変化の推定の高精度化をめざす。重点的研究火山における多項目の集中観測・探査と,複数の火山におけるGPS稠密観測を併用して,マグマ上昇・蓄積過程の多様性の理解とモデル化を目指した研究を推進する。また,これらのマグマ上昇・蓄積を支配する火山体構造と深部マグマ供給系,及び火山体浅部における火山流体の状態と変動についても解明を進める。一方,中長期的噴火予測のためには,火山毎に過去の噴出物を物質科学的に調査・分析することにより,噴火時期,規模,様式についての規則性を理解することが必要である。その際,マグマの分化や混合などのマグマ溜まりでおこる物理・化学的変化と噴火の特徴に関するさまざまなスケールでの時代的変遷を理解することが不可欠である。このため,全国共同利用研究所の機能を活用しながら,長期の計画に基づいて全国の活火山の地質調査・岩石学的研究を実施してデータを蓄積するとともに,これまでにデータ蓄積が行われている活動的火山においては,集中的な地質調査やボーリング・トレンチ調査を実施して精度の高い噴火履歴を解読する。
観測に基づき火山活動の現状を評価し,来たるべき噴火の時期と規模を予測するためには,マグマ供給系の把握,特にマグマの上昇・蓄積過程の解明が不可欠である。そのため,従来からの各種観測に加え,InSARの解析などから,マグマ供給系モデルとマグマ供給系を含む火山体構造の時間的変化の推定の高精度化をめざす。特に,マグマ蓄積過程にあることが確実な特定の火山においては,関係機関が連携して多項目の合同観測・探査を集中的に実施して,マグマ上昇・蓄積過程のモデル化に向けた研究を推進する。また,複数の火山においてGPSの長期稠密観測を実施し,マグマなどの火山流体の貫入現象をとらえて比較研究を行い,マグマ上昇・蓄積過程の多様性を理解する。
マグマが地下深さ5〜10キロメートルに蓄積され始めると火山体を中心とする地殻変動や周辺の地震活動が活発化する。また,この深度から更に浅部へ上昇・貫入する場合にも,地殻変動源の移動などが発生すると考えられる。このため大学,防災科学技術研究所,気象庁・気象研究所,国土地理院は,主にGPS,水準測量,APS,InSAR等の地殻変動解析や地震,電磁気等の解析から,マグマ供給系モデルとマグマ供給系を含む火山体構造の時間的変化を明らかにし,マグマの上昇や蓄積を把握する。防災科学技術研究所は,これらに加え温度変化や火山流体の観測データも考慮して総合的なマグマの動態モデルを構築し,噴火に至る過程を解明する。また,大学は関係機関と連携して,桜島や伊豆大島などのマグマ蓄積過程にあることが確実な2〜3の火山において,地震,GPS,水準,InSAR,重力,電磁気,制御震源を用いた探査などの複合的観測・探査からなる「火山噴火準備過程解明のための合同観測」を5年間集中的に実施し,マグマ蓄積の物理過程を明らかにする。この集中合同観測と並行して,マグマ蓄積過程の多様性とその要因の解明に資するため,火山活動の活発化の可能性がある複数の火山においてGPSの稠密連続観測を実施して,マグマなどの火山流体の貫入現象をとらえることを試みる。
さらに,これらのマグマの上昇・蓄積を支配する火山体構造と深部マグマ供給系を把握するため,大学は地震探査やMT探査を実施する。これらの結果と火山下の深部低周波地震活動の把握に基づき,深さ5〜10キロメートルにあるマグマ溜りより更に深部のマグマ溜りやマグマ上昇経路を推定する。
一方,マグマ本体が火山下の深さ5〜10キロメートルに留まっている場合も,マグマからの揮発性成分は破砕帯等を通って火山体浅部や地表まで上昇することが期待され,それは火山体浅部の火山流体の状態の変化,火山ガスの濃度,成分変化,あるいは地表の熱的状態の変化をもたらす。これらの把握は,水蒸気爆発の準備過程の解明にとっても重要である。このため大学は,火山ガス観測,地球電磁気学的観測(比抵抗,磁場変化),熱測定などにより火山流体の上昇過程と噴火発生場の変動を明らかにし,揮発性成分上昇量の時間変化を見積もる。産業技術総合研究所は,熱水系発達過程のシミュレーションを実施し,熱水系の変動原因と観測される現象の関係を明らかにする。また,シミュレーション精度の向上のために,主に伊豆大島をモデルフィールドとして熱観測,電磁気構造探査の精密化及び自然電位連続観測を実施し,シミュレーション結果の検証を行う。
火山毎に過去の噴出物を物質科学的に調査・分析することにより,噴火時期,規模,様式についての規則性を理解し,中長期的噴火予測のモデル構築をめざす。その際,マグマの分化や混合などのマグマ溜まりでおこる物理化学的変化と噴火の特徴に関するさまざまなスケールでの時代的変遷を理解することが不可欠である。このためには,長期の計画に基づいて全国の活火山の地質調査・岩石学的研究を実施してデータを蓄積する一方,これまでにデータ蓄積が行われている活動的火山においては,集中的な地質調査やボーリング・トレンチ調査を実施し,精度の高い噴火履歴を解読することが重要である。その際,全国共同利用研究所の機能を活用することが不可欠である。
大学及び産業技術総合研究所は,高精度の噴火履歴の復元するために火山噴出物の物質科学的研究を推進する。すなわち,活動的な火山について,積算噴出量と噴火時間を示した階段図を作成し,噴火の規則性を理解する。また,特定の噴火事象について,噴火様式の変化及びその時間的変化を明らかにする。このために,集中的な地質調査,浅部のボーリング・トレンチ調査及び噴出物の化学分析,14C法やK-Ar法などを用いた年代測定を実施する。
さらに,噴火履歴が明らかになった火山について,噴出物の同位体比を含む化学分析,微小部分化分析,含水量などの揮発性成分の分析を通して,マグマ溜りの数や位置及びマグマ混合や分化過程などを明らかにし,噴火履歴とマグマの発達過程との関係をモデル化することを目指す。
本計画では,大地震発生断層への歪蓄積のモニタリングとモデリングに基づく地震予測を目指している。しかし,この手法では,長期予測は可能かもしれないが,予測の時間精度は不十分で短期的な予測は難しいと考えられる。予測の時間精度を高め,短期予測を可能にするためには,先行現象を捕捉して,これを予測モデルに組み込む必要がある。このためには,(1)地震の先行現象の信頼性を評価し,(2)そのメカニズムを明らかにし,(3)数値モデルを作成し,(4)予測システムに組み込む必要がある。地震発生先行過程に関する研究では,上記のうち(1)と(2)を扱う。現在の予測モデルでも前駆滑りに関連する先行現象は説明できるが,これについても十分な観測データに基づいて理解されているわけではない。ここで行う先行過程に関する研究は,その発生機構を解明して,予測システムに組み込むことを目指すため,モニタリングとモデルに基づいて予測するという新しい計画の基本的な考え方に沿った新しい研究である。予測モデルについては,基本的な数値モデルができ,実験的な長期予測が視野に入ってきている。次の大きなステップとして,予測の時間精度を向上させるための先行現象の研究を始める時期に来ている。
先行過程の研究としては,まず,兵庫県南部地震以降,質・量ともに充実してきた観測データを精査することで,先行現象の現れ方,頻度,発生の条件を明らかにする。また,地殻の状態を反映すると理論的に期待される種々の観測データについて,地下深部からのシグナル高感度で抽出するための観測・解析方法を高度化する。さらに,先行現象と本震発生をつなぐ物理・化学機構を明らかにするための研究を行う。現象と本震の発生の対応が単純でない以上,現象の定量的評価がなされなければ,モデルにフィードバックして予測に役立てることは難しい。先行現象は,本震発生域での現象だけではなく,その周辺の不均質媒質の非線形応答等による場合が多いとも考えられる。様々な先行現象に関して,理論・実験等からその物理・化学機構をなるべく定量的な形で提案し,観測データでの検証を目指す。
しばしば報告される地震先行現象が,地震サイクルの後半に出現する本震が発生するための特別な物理状態の表れである可能性は高いが,特定の先行現象が地震発生と1対1で結びつけられるような単純なものでないことも確かである。本小項目では,兵庫県南部地震以降,質・量ともに非常に充実してきた観測データを精査することで,どのようなタイプの先行現象がどの程度の頻度で現れるのか,先行現象の現れる場合と現れない場合はどのような条件で分かれるのかを明らかにすることを目指す。また,地下深部からのシグナルをその他のノイズと弁別して高感度で抽出する能力を向上させるため,地殻の状態を反映すると理論的に期待される種々の観測データの観測・解析方法を高度化する。
大学は,地震カタログの信頼性の検討,また,必要に応じた均質化を行った上で,地震サイクルの中での静穏化・活発化・四次元相関等の地震活動の変化の再評価を推進する。多種多点の測地データを併せて解析し,地震発生に関連する地殻変動異常抽出手法の高度化をはかる。水温・水位・ラドン濃度等の長期連続観測のデータと地殻活動と照合し,多点・多種観測による異常判別能力の向上をめざすとともに,観測点ごとの特性を理解する。間隙水圧観測データを地殻変動・地下水位データと組み合わせて解析する手法を開発し,信頼性の高い地殻変形異常の抽出を目指す。(東大地震研・東北大学・京大)
大学は,断層面での弾性波透過率・反射率を観測し,地震サイクルにおけるこれらの変化から地震先行現象の検出を目指す。波形記録の相関解析から地下構造を推定する地震波干渉法により,地震活動に関連する地下構造の時間変化の検出を目指し,その原因を解明する。(東大地震研・京大)
大学は,VHF電波の伝播異常の観測ネットワークを設置し,地震発生との関連を明らかにするとともに現象発生のメカニズムの解明を目指す。気象庁は,伊豆半島で局所的な全磁力変化がみられる地域において連続及び繰り返し磁気観測を行い,地殻内応力の変動との関連を明らかにする。また,同地域での自然電位観測から,火山活動との関連を明らかにする。(北大)
大学は,マグニチュード-1程度のスローイベントから,マグニチュード2〜3のダイナミックな地震破壊までが期待される鉱山で,歪計・地震計アレーを予想震源域の至近距離に予め展開する。これらにより,破壊に至るまでの岩盤挙動を広い周波数領域・ダイナミックレンジで観測し,異なる環境下での観測例から,前駆的活動を比較・解明することを目指す。(京大)
先行現象と本震発生をつなぐメカニズムについては,地殻応力レベルの変化,前駆滑りによる応力の擾乱,先行破壊による岩石物性の変化,流体の移動等の外部擾乱など,様々な定性的仮説が提案されている。しかし,現象と本震の発生の現象上の対応が単純でない以上,各々の先行現象についてある程度定量的な物理的評価がなされなければ,モデルにフィードバックして予測に役立てることは難しい。現在,単一の断層における最大地震の繰り返し発生についての物理的理解は相当に進んできたが,先行現象は,そこで直接起こっている事象よりもむしろ,その周辺の不均質な媒質の非線形応答等による場合が多いとも考えられ,また,力学的過程だけでなく,様々な物理・化学過程を経て発現しているはずである。そのような事象の物理的理解は世界的に見ても諸についたばかりであるが,この分野を発展させないと,地震発生の予測精度を向上させることは難しい。そこで,本小項目では,様々なタイプの先行現象に関して,理論・実験等からその物理的メカニズムをなるべく定量的な形で提案し,観測データでの検証を目指す。
大学は,大小様々な地震,ゆっくり滑りの精密な震源解析結果と数値シミュレーションとを合わせて解釈することにより,大地震発生サイクル上の様々な状況下での地震・滑り間の相互作用を定量的に評価する。これにより,地震・滑り間の相互作用による大地震発生の切迫度の変化に関する指標を得ることを目指す。地震活動の地球潮汐に対する敏感性が震源核形成等による応力変化にどのように依存するかを理論的に解明する。また,この結果を実際の観測データと比較するために,地震活動の地球潮汐に対する敏感性が地震サイクルの中でどのように変化するかを調べ,さらにトリガされた地震の位置やメカニズムなどの特徴と本震との関係を明らかにする。余震や誘発地震を含めた種々の微小地震活動の発震機構を解析し,観測された活動変化をもたらすのに必要な応力変化量を推定することにより,地震活動にみられる先行現象のメカニズムの議論の定量化を目指す。GPSキネマティック解析を用いて,様々な場所での固体地球の潮汐応答の非線形性を評価することで,破壊臨界応力に近いところまで応力が上昇している地域の検出を目指す。(東北大・東大地震研・名大)
大学は,地磁気の変動とプレートの沈みこみに伴う応力変化との関係の解明を目指す。地震発生地域近傍において,地磁気,地電位の変動観測を行い,地下の比抵抗変化や地電位の異常変動と地震発生との関連を調べる。また,シミュレーションにより,これらの変化の発生する地下比抵抗構造との関連の解明を目指す。(北大)
大学は,近畿地方中北部において稠密な地震観測を行い,精密震源・メカニズム解決定,トモグラフィー,レシーバ関数解析による構造決定,地殻内反射面の探査,測地データ等の解析から,広域応力場と断層近傍での応力擾乱やその時間的変化を把握する。さらに比抵抗構造探査,大大特構造探査,地震波散乱解析等からの,地殻内流体の挙動に関する情報もあわせて,地殻活動異常発現の総合モデリングを行い,地震の先行現象や切迫性を評価する方法の開発を目指す。兵庫県南部地震の5年前からの歪速度変化は,プレート境界面での滑りに関係していた可能性が指摘されている。この可能性を検証し,モデルを発展させるために,大学は,兵庫県南部地震前後の各種地殻活動データを,最新のデータ処理技法と物理的知見を用いて精査しなおし,地震の切迫度評価の高度化を図る。(京大)
海洋研究開発機構は,様々なスケールの多数の不連続面を含む媒質中の大規模破壊の発生前にどのような現象が現れるかを,複数の物理量に注目して数値モデルによる実験や室内実験により調べる。この結果を利用して,これまでに得られている観測データを物理的に解釈する。
大地震の断層面の不均質性と動的破壊特性及び強震動・津波の生成過程を理解するために,震源解析及び震源物理に基づく破壊過程の研究を一層推進する。プレート境界のアスペリティ分布及び内陸活断層やスラブ内地震の強震動生成域分布を事前に推定するために,近年及び過去の大地震の解析事例を増やすことにより断層モデルの高度化を進め,地震活動や不均質地殻構造等との関連性を調査する。震源解析では,短周期強震動の生成に関わる,断層滑りの動的特性とアスペリティ内の微細構造との関連を重点的に調査する。また,不均質な地下構造や詳細な海底地形を考慮した,強震動及び津波の大規模数値シミュレーションを行い,震源モデルの高度化に資する。震源過程解析の高度化とシミュレーション結果の検証等のために強震動観測を実施する。
大学は,プレート境界のアスペリティ及び内陸活断層やスラブ内地震の強震動生成域の事前推定を目指し,断層面上の強震動生成場所と不均質地下構造及び微小地震活動との関係についてより多くの地震について精査する。大学は,断層運動の動的パラメータと,断層運動のミクロ・階層構造,ランダム揺らぎなど破壊過程の不均質性をモデル化する。これら震源解析の高度化のために,新たな観測データと解析手法を導入した,高分解能・広帯域震源逆解析法を開発する。また,ゆっくり滑りや低周波地震を含む,震源破壊過程の多様性と大地震への発展可能性についての理解も深める。産業技術総合研究所は,人工地震及び自然地震を用いて,断層面における反射強度や位相の分布と強震動生成域及び破壊過程との関係を調査する。防災科学技術研究所及び気象研究所は,リアルタイム観測データを用いた震源逆解析の高度化と即時化のための研究を進める。
大学と気象研究所は,強震動の生成に関わる震源と地下構造の影響を分離し,それぞれの適切なモデルを構築する。陸域から海域にまたがる統合地下構造モデルを整備するとともに,短周期波動伝播に寄与する不均質ゆらぎを考慮した地殻・マントル構造をモデル化する。震源モデルには,アスペリティの階層構造など,マクロ・ミクロ構造を取り入れる。それらを踏まえ,大規模並列計算機を用いた地震波動伝播と広帯域強震動生成に関するシミュレーションを実施し,震源や地下構造モデルの高度化を図る。大学と気象研究所は強震観測網等による強震波形に加え,海底津波観測網により得られる津波波形を用いて震源断層パラメータを高精度に推定する手法を開発する。また,大学は,長周期地震動の生成の理解とシミュレーションの検証のために,平野部及び伝播経路において広帯域強震観測を実施する。
マグマの移動,発泡,脱ガス,破砕などを考慮した火山爆発のモデル化を行うために,繰り返し発生する噴火を対象として集中的な地球物理学・物質科学的観測を行い,火道浅部におけるマグマの増圧などの噴火過程を高時空間分解能で明らかにする。さらには,発生が頻繁ではない噴火についても観測を実施し,その解析結果と上記モデルとの比較を行い,火山噴火の全体像を把握することを目指す。一方,噴火の推移を支配する物理化学的要因を理解するために,噴火の地球物理化学・物質科学的観測を行う。その際,噴火発生場を理解するために,地下流体の分布や状態などの浅部地下構造探査やデータを収集し検討することが重要である。また,観測される噴火の推移と過去の噴火履歴とを比較し,噴火推移の多様性に関する噴火予測の総合モデルを構築することを目指す。
火山噴火の規模や爆発性などを含む噴火機構を解明するために,マグマの発泡,脱ガス,破砕過程などを考慮し,マグマ移動と爆発のモデル化を行うことを目標とする。そのために,繰り返し発生する噴火を対象として集中的な地球物理学・物質科学的観測を行い,火道浅部におけるマグマの増圧を含む噴火過程の詳細を高時空間分解能で明らかにする。これらの観測データに基づき,それらの噴火の物理モデルを試作する。さらには,新たに発生する異なる種類の噴火についても観測を実施し,その観測の解析結果と上記モデルとの比較を行い,火山噴火機構の全体像を定量的に把握することを目指す。
大学は,噴火機構のモデル化を行うために,頻繁に繰り返して起こるブルカノ式やストロンボリ式噴火の地球物理学的な観測を実施し,爆発に伴うマグマ溜まりや火道のマグマ圧の変化などの測定を試みる。その際,爆発噴出物のマグマ状態の物質科学的解析を行い,その結果やボーリング・物理探査などから取得される地下情報を,モデル化に必要な物理パラメータとして用いる。また,構築されたモデルについても観測データを用いてその有効性を検証する。対象火山として,桜島,諏訪之瀬島,阿蘇山,浅間山,十勝岳,スメル,アレナル火山など。
防災科学技術研究所は,噴火活動に関する多項目観測データから地下のマグマの動態を推定し,マグマの移動やマグマの破砕など噴火に至るまでの噴火過程をシミュレーションすることを目指す。
噴火に伴う諸現象の推移とその規則性を把握し,それらを支配する物理化学的要因を理解するために,噴火現象の地球物理化学・物質科学的観測を実施する。また,噴火の多様性を理解するためには,地下流体の分布と状態などの噴火発生場を理解することが不可欠であり,そのために電磁気学的な浅部地下探査を実施するとともに,その結果やボーリングなどを検討する。一方,観測される噴火推移と過去の噴火記録や物質科学的な情報とを比較し,噴火の多様性をより定量的に理解することが重要である。これらのデータを元に噴火推移と多様性の総合的モデルを構築することを目指す。
大学,防災科学技術研究所,産業技術総合研究所及び気象研究所は,噴火の推移に関する物理化学的要因を捉えるために,噴火現象の地球物理学的な観測研究を合同で実施し,マグマ溜まりの増圧・収縮過程,マグマ上昇や後退などの火山流体の移動過程に関する高時間分解能の観測データを集める。同時に,噴火の推移に伴う物質科学的背景を理解するために,噴出物,火山ガス,噴出放出量,堆積状況の合同観測を実施するとともに,マグマ対流脱ガスによる噴煙の継続的活動や変動などの過程を理解するための観測を実施する。
また,噴火様式を左右する火道周辺を含む地下浅部の環境を理解するために,地質調査やボーリング・地球物理学的探査などの結果を解析する。その際,有珠山や三宅島など噴火後の地下浅部の変化についても把握するために,繰り返し空中磁気観測などを含む総合観測や,類似火山の噴火様式と浅部構造の比較検討を行い,噴火様式を支配する場の理解を進める。
さらに,上記観測で得られた噴火の推移の観測研究結果,過去噴火の記録や地質学的情報,及び,噴火の場の情報を統合し,モデル火山について噴火事象系統樹(イベントツリー)の試作を行い,各噴火事象の発生確率を含めた推移予測を目指す。
地震のダイナミックな滑りは,脆性的な破壊・滑り現象であり,実験室でサンプルでのそのような挙動の知識は,今日の地震の物理的モデリングにたいして主要な貢献を果たした。また,火山噴火の多様性を,アナログ実験等でのマグマの固体−流体の両面性から理解することも噴火の物理モデルにおいて基礎的役割を果たした。しかし,最近の観測・解析の進歩により,地震に至る過程が,深部の流動的な岩石の変形によって駆動されることが知られるようになり,地震の予測のためには,そのような領域までの岩石の変形・破壊の性質を知る必要があることが明らかになった。このような知見に鑑み,アでは,地球構成物質の変形・破壊の特性に関する知識を,従来にない広い条件範囲にわたって拡充していくことを目指す。さらに,多岐にわたる地球深部での構成物質やそのおかれた条件が完全には特定し得ないことを考慮して,レオロジーの現象的記述にとどまらず,その基礎的物理・化学過程を明らかにして,地震発生モデルへの外挿的適用を裏付ける知識体系の構築をはかる。このように,変形・破壊特性は,その場の物質・環境に大きく依存するが,深さ数百キロまでにわたっての物質の挙動が関与する地震・火山現象においては,そのような情報を直接得られることは例外的であり,リモートセンシング等により間接的に推定することになる。そのためには,様々な条件における可観測物性値と変形・破壊特性との定量的関係を知っておく必要があり,イではそのような知識を主として室内実験により獲得する。さらに,アと同様,すべての物質・条件の組み合わせを実際に実験できない以上,物性に関しても系統的な理解を深めるため整備する必要があるので,理論的研究も並行して推進する。また,変形・破壊の法則のある部分にはスケール依存性があることが示唆されているが,室内実験では試料サイズの制約等から,スケール依存性に関する情報を直接には得られないことが多い。一方で,自然地震を間近で観測できる機会は滅多にない。そこで,ウでは,様々なサイズの地震破壊を間近で観察することのできる鉱山の誘発地震等を用いて,摩擦・破壊現象のスケール依存性を明らかにすることを目指す。また,室内実験においても,滑り変位に伴う摩擦面の変化等のメカニズムを明らかにすることで,自然の断層スケールに実験室のデータを外挿するための物理的基礎づけを目指す。さらに,火山噴火のモデル化においては,変形・破壊以外に,マグマの性質と挙動をマグマ溜まりから地表に向かう全過程で明らかにすることが不可欠である.そのために,エでは,室内実験や数値実験,様々な地域や噴出様式の産物の分析等により,噴出物の化学組成,気泡・結晶数密度といった物質科学的観測量からのマグマの分化・発泡・脱ガス過程の情報抽出手法を高度化するとともに,マグマの物性変化と火道における増圧過程を組み込んだ動的物理モデルを作成する。
地震のダイナミックな滑りは,脆性的な破壊・滑り現象であり,実験室の資料でのそのような挙動の知識は,今日の地震の物理的モデリングにたいして主要な貢献を果たした。また,火山噴火の多様性を,アナログ実験等でのマグマの固体−流体の両面性から理解することも噴火の物理モデルにおいて基礎的役割を果たした。しかし,最近の観測・解析の進歩により,地震に至る過程が,深部の流動的な岩石の変形によって駆動されることが知られるようになり,地震の予測のためには,そのような領域までの岩石の変形・破壊の性質を知る必要があることが明らかになった。また,大地震時の高速な滑りでは,従来実験されてきた領域での摩擦の性質からは全く外挿しがたい振る舞いをすることもわかってきた。このような知見に鑑み,本小項目では,地球構成物質の性質を実験・理論を中心として,従来にない広い条件範囲にわたって拡充していくことを目指す。さらに,多岐にわたる地球深部での構成物質やそのおかれた条件が完全には特定し得ないことを考慮して,レオロジーの現象的記述にとどまらず,その基礎的物理・化学過程を明らかにして,地震発生モデルへの外挿的適用を裏付ける知識体系の構築をはかる。
大学,防災科学研究所,産業技術総合研究所は,室内実験や数値実験,天然試料の分析により,上部マントルから地殻までの幅広い変形速度,温度等の条件における岩石及びマグマの力学的破壊・変形特性を明らかにし,また,物性理論により,その背後にある物理・化学過程を理解する。これらの研究においては,岩石種,流体,部分溶融,粉体介在物,摩擦溶融などの影響を考慮する。大学,産業技術総合研究所は,岩石の変形に伴う微小破壊活動や化学反応,物性,岩石組織の変化等についての室内実験及び試験観測をおこなう。大学,産業技術総合研究所は,種々の物理・化学過程の地学的現象に対する寄与を理論的に評価する。大学は,変形・破壊に対する重要な環境要因である地殻流体の地震発生環境下での物理・化学的性質を室内実験,物性理論,天然試料の分析等で明らかにする。
地球構成物質の変形・破壊特性は,岩石種のみならず,温度・圧力・流体の含有などの条件によって変化する。深さ数百キロまでにわたっての物質の挙動が関与する地震・火山現象においては,そのような情報を直接得られることは例外的であり,弾性波や電磁波等の伝播を使ったリモートセンシングにより間接的に推定することになる。そこで,アで述べた変形・破壊特性だけではなく,可観測量からの物質・環境の推定の精度を上げることが必要である。そのためには,これらの物性データを様々な条件の下で定量的に知っておく必要があり,本項目では,そのようなデータを主として室内実験により獲得する。さらに,アと同様,すべての物質・条件の組み合わせを実際に実験できないので,物性に関しても系統的な物理的理解を整備する必要があり,理論的研究も並行して推進する。
大学,防災科学研究所,産業技術総合研究所は,室内実験等により,弾性波速度・減衰,電気伝導度,透水性などの物性が温度,圧力,構成鉱物・内部構造,含有流体などにどのように依存するかを明らかにするとともに,それらの物性変化を支配する微視的なメカニズムを理論的に明らかにする。実験試料には,南海トラフ地震発生帯コア試料なども用いる。また,大学は,地表に露出した変成岩の観察から変形時の応力を推定する手法の高度化を図る。大学,防災科学研究所は,微小地震の活動から,様々な地震発生様式をもつ断層の摩擦特性を推定するために,室内実験と天然微小地震の解析を行う。
観測データと,室内実験データの比較から,摩擦・破壊の法則にはスケール依存性があることが示唆されている。しかし,室内実験では試料サイズの制約等から,スケール依存性に関する情報は得られないことが多い。一方で,自然地震を間近で観測できる機械は滅多にない。そこで,本小項目では,様々なサイズの地震破壊を間近で観察することのできる鉱山の誘発地震等を用いて,摩擦・破壊現象のスケール依存性を明らかにすることを目指す。
大学は,室内実験等により,摩擦滑りの弱化特性距離を支配する微視的要因を明らかにする。また,大地震での高速・大変位滑りに特有な摩擦特性の理解を目指し,そのような条件での摩擦実験を行う。また,鉱山の採掘に誘発される地震の震源至近距離での微小破壊や歪み等の観測を行い,室内実験でみられる応力変化や,巨視的破壊の成長に伴う周辺の微小破壊活動の特徴的変化が,より大きなスケールの天然の地質構造においてでどのように現れるかを解明するとともに,相補的な室内での微小破壊実験を行う。
マグマは結晶分別や混合によって揮発性成分を含む化学組成変化を起こし,上昇中に起こる発泡,脱ガスによってその物性は大きく変化する。さらには,火道における脱ガス過程に支配された増圧によって爆発度や継続時間など噴火の多様性が生じる。近年,主に火山噴出物から時間や深さ分解能を持ったマグマ分化,発泡,脱ガスなどの情報解読の手法やそれらの再現実験手法が開発されてきたが,それらを噴火履歴の明らかな火山噴火の噴出物へ適用し,その噴火の素過程を理解する研究が十分とは言えない。また,火道におけるマグマの定常的な挙動は理論的にはある程度理解されてきたが,実際の噴火現象に近い動的な挙動に関する理解はまだ進んでいない。そのため,複数の火山噴火を対象にして,マグマの分化・発泡・脱ガス過程の理論的な理解を進めるとともに,マグマの上昇から噴火までの素過程を理解するために,観察や実験で得られたパラメータを用いたマグマ上昇のシミュレーションを試みる。
大学,産業技術総合研究所は,室内での減圧発泡実験におけるマグマ中残存揮発成分の組成からマグマの脱ガス発泡過程明らかにするとともに,火山ガス組成変化の定量的解釈の基礎とする。また,噴出物やメルト包有物等の化学分析,数値計算,模擬実験等により,地下のマグマ移動に伴う濃集,脱ガスなどのプロセスを解読,モデル化する。海洋研究開発機構は,比較的揮発性元素に富むと考えられる島弧及びプレート内マグマについて,その含水量と分化過程の関連を包括的に解析する。また,大学は,異なる噴出様式の産物の物性測定及び岩石組織の解析実験,及び再現実験を行い,噴火に際して起きたマグマの発泡・結晶化・脱ガスの履歴を解読するとともに,結晶作用の温度圧力依存性を検討する。さらに,大学は,抽出した物質科学的観測量と,地表現象や地球物理学的観測量の関係を,理論的,実験的なアプローチにより調べるとともに,素過程を組み込んだマグマの挙動を数値モデル化する。そこでは,周辺岩体とマグマの相互作用によるマグマ増圧過程,爆発的噴火の動的な過程を明らかにするため,火道内のマグマ・火山灰・火山ガスの系の流体力学シミュレーションを行う。