現行計画では、地震発生・火山噴火の予測を目指す研究を継続しつつも、研究対象分野を広げ、地震・火山噴火による災害誘因の予測の研究も組織的・体系的に進められている。実際、地震学や火山学を中核とし、災害や防災に関連する理学、工学、人文・社会科学などの分野の研究者が計画に参加し、協働して計画が推進され、災害科学の一部として機能している。地震発生・火山噴火の予測のみを目標としていた以前の計画に比べ、災害の軽減に貢献するための研究計画であるという意識が、研究参加者間でもはるかに明瞭になった。そのため、地震学や火山学の研究者と関連研究分野の研究者間の連携も活発になり、地震学・火山学の成果を災害軽減に活用するための本格的な研究の機運が高まっている。一方で、地震学・火山学と新たに計画に加わった関連研究分野との共同研究は萌芽的なものが多いのが現状である。次期計画では、上記の新しい研究方針の更なる定着を図るとともに、地震学・火山学と関連研究分野間の連携研究を通して一層の研究成果を挙げて、災害科学の発展に貢献する。本計画で得られる成果および技術は、防災行政機関等において実際に利活用されてこそ災害の軽減につながる。そのような利活用を促進するために、関係各機関との緊密な連携を図る。
自然現象である地震・火山噴火現象の根本的な理解無くして、それらの発生予測や災害誘因予測の高度化は不可能である。そこで、史料・考古・地質等の長期間データの収集・分析と近年の観測に基づく発生事象の解析を通して地震・火山現象の多様性の把握をさらに進め、それらを生み出す仕組みや発生場を理解する研究が、地震・火山現象解明のための研究となる。また、地震・火山活動のモニタリングを長期的に継続し、その高精度化を進めることは、未知の地震・火山現象の発見や発生過程の理解の進展に多大な貢献をもたらしており、地震・火山噴火現象の根本的理解を深める上で必要不可欠な要素である。また、現行計画で得られた成果を受けて、観測されたデータ等に基づき地震活動や火山活動の推移予測を行うためには、地震・火山噴火現象の試行的な予測研究を行うことが次期計画で重要なステップとなる。さらに、地震動や津波、斜面崩壊、降灰、火砕流や溶岩噴出などの災害誘因を事前に評価する手法の開発は、現行計画で明らかになってきた地震・火山現象の多様性を取り込むことでより一層の成果が期待される。また、それらの原因となる地震・火山噴火現象を迅速に把握して災害誘因を即時的に予測する手法の開発研究も、現行計画の成果を活用することで精度が格段に上がることが見込まれる。一方で、予測情報を災害軽減に結びつけるためには、「いのちを守る」ための避難情報へ繋げることが必要であると共に、安心安全な社会の実現に向けて国民全体で取り組むための前提条件となる地震火山に関する基本的な理解の醸成が欠かせない。後者に関しては長期的な取り組みが大切であり、新たに「地震・火山噴火に対する防災リテラシー向上のための研究」を主要な課題として章立てし、共通理解醸成のための研究に着手する。
現行計画において大地震の長期評価手法の構築に向けて知見が蓄積されつつあり、新たな長期評価手法を提案し試行する段階に入ったと考えられる。地殻活動データも概ねリアルタイムで処理され地震活動やプレート境界すべりの現況の把握や、地震活動に基づく地震発生確率の時空間把握などの成果が得られつつある。また、噴火事象系統樹の高度化による火山噴火予測を中心的課題に据え、いくつかの火山について作成された事象系統樹は火山防災計画策定の一助となっている。一方、系統樹の減災への活用をさらに進めるためには、系統樹における事象分岐の条件を決定するための分岐論理が不可欠であることが明らかになってきた。また、現行計画にて優先度の高い火山である桜島を対象として総合的な研究を推進した結果、他の火山においても応用できる様々な成果が得られている。
以上の方針や研究背景に基づき、以下の項目に分けて、次期計画を推進する。
1.「地震・火山現象の解明のための研究」
2.「地震・火山噴火の予測のための研究」
3.「地震・火山噴火の災害誘因予測のための研究」
4.「地震・火山噴火に対する防災リテラシー向上のための研究」
5.「研究を推進するための体制の整備」
項目1.と2.から得られる成果を項目3.へ繋げることで項目3.の研究進展を促す。項目4. では、項目1.~3.で得られた成果と地震火山現象について、国民の理解力向上を通して災害の軽減に貢献することを目指す。項目5.は、次期計画全体の推進を支える基盤としての役割を担う。
また、次期計画中に重点的に取り組む課題として、地震発生の新たな長期予測、地殻活動モニタリングに基づく地震発生予測、火山活動推移モデルの構築による火山噴火予測、を実施し、今後5年程度で標準的となるような手法の開発を目指す。
さらに、本計画の実施に当たり、南海トラフ沿いの巨大地震(西南日本弧の内陸地震も含む)、首都直下地震、東北地方太平洋沖地震(千島海溝沿いの巨大地震も含む)、桜島火山噴火などについては、社会への影響の甚大性や、災害科学の発展に着実に貢献できる点を考慮して、上記1.~5.の項目を横断する総合的な研究として推進する。総合的な研究を通して、専門分野の枠を超えた学際連携を現状よりも一層進め、地震学・火山学の成果を災害軽減に役立てるための方策を具体的に研究する。
ア.史料の収集とデータベース化
イ.考古データの収集・集成と分析
ウ.地質データ等の収集と整理
ア.地震発生機構の解明
イ.地震断層すべりのモデル化
ア.火山噴火機構のモデル化
イ.火山噴火の素過程
ア.プレート境界地震と海洋プレート内部の地震
イ.内陸地震
ウ.構造共通モデルの構築
エ.火山噴火を支配するマグマ供給系・熱水系の構造の解明
オ.地震発生と火山活動の相互作用の理解
ア.海溝型巨大地震の長期予測
イ.内陸地震の長期予測
ア.モニタリングによる火山噴火の中期予測
イ.火山噴火の長期予測
ア.プレート境界すべりの時空間変化の把握に基づく予測
イ.地震活動評価に基づく地震発生予測・検証実験
ウ.地殻活動事象系統樹の作成
ア.強震動の事前評価手法
イ.津波の事前評価手法
ウ.大地震による災害リスク評価手法
エ.地震動や火山活動による斜面崩壊の事前評価手法
オ.火山噴出物による災害誘因の事前評価手法
ア.地震動の即時予測手法
イ.津波の即時予測手法
ウ.火山噴出物による災害誘因の即時予測手法
ア.史料の収集とデータベース化
現存する膨大な史料の中から地震・火山に関連する史料を収集し、歴史学的に信頼できる史料のみを抽出し、史料の収集とデータベース化を進める。
イ.考古データの収集・集成と分析
考古遺跡の調査を行い、地震・火山現象に関連する遺物や災害痕跡などの資料を収集し、データベース化を進める。
ウ.地質データ等の収集と整理
地震に関しては、活断層の位置、形状に関する情報の取得とその過去の活動履歴・地震規模を解明し、データベースの整備を進める。また、地震に伴う地質学的な痕跡を調査し、データの収集、整理を行うとともに、津波堆積物等の識別手法の高度化と年代決定精度の向上を目指す。火山噴火に関しては、地形・地質調査により活動的火山の噴火堆積物および噴出物の基礎データを蓄積するとともに、海底火山や海洋底の調査を行い、地質・岩石学的データの収集・整理を行い、データベース化を進める。
今後起こりうる地震の長期的な予測のために、史料、考古データ、地質データ等と近代的な観測データを対比・統合することによって、近代的な観測開始以前の地震、津波の長期間にわたる発生履歴や、現象の規模・場所を明らかにする。特に、低頻度大規模な地震については、海外で発生した事例も含め、近代的観測データを解析することで低頻度大規模地震の特徴を抽出し、その発生機構を解明する。
火山に関しては、史料・考古データ、地質データ、観測データを含む統合的データベースの構築を進め、解析を行う事により、活動的火山の噴火履歴およびマグマの発達過程を高い精度で明らかにする。カルデラ噴火を含む比較的低頻度の大規模噴火も対象とする。噴火推移・履歴の時空間解像度を上げるため、地質学的解析手法、岩石鉱物の微細組織解析および年代学的手法の開発・改良を進める。
ア.地震発生機構の解明
超巨大地震も含めた地震発生現象を理解するために、地震時の動的破壊過程、震源断層への非定常な応力載荷過程と地震発生との関連、スロー地震と通常の地震との類似性・関連性、大地震発生前の断層面の固着の剥がれなどの地震発生予測の高度化に繋がる新たな指標の抽出、複雑な断層系における断層間の相互作用等、に関するデータ解析や理論研究を進める。
イ.地震断層すべりのモデル化
地球物理・地球化学的観測や野外観察、室内実験や数値シミュレーションなどを通して、地震を起こす断層帯を含む地殻の変形特性や、断層面の摩擦特性、断層帯の微細構造、地殻流体の挙動に関する理解を深め、地震断層すべりの物理モデルの構築を進める。
ア.火山噴火機構のモデル化
噴火過程の理解のため、活火山周辺や火口近傍において地球物理・地球化学的観測、火山噴出物の物質科学的分析からなる多項目観測・採取・解析を行い、噴火推移や多様性の理解を進める。これらの結果や文献調査及び、室内実験や数理モデルとの比較を通じて、より一般化された噴火機構のモデル化を進める。
イ.火山噴火の素過程
マグマの流動・破砕・脱ガス・結晶化などの各素過程の物理・化学的な実験研究や、数理モデルによる理論解析を進めることにより、噴火様式の分岐条件や噴煙形成の支配因子の定量化を図る。
ア.プレート境界地震と海洋プレート内部の地震
プレート境界面の形状とプレート境界周辺の地下構造や応力場を明らかにするとともに、海底下深部掘削により採取される地震発生帯の構成物質を分析や室内実験や数値シミュレーションなどにより、プレート境界における多様な地震発生様式を説明できる摩擦特性の解明を進める。スラブ内地震の発生機構を理解するために、海洋プレート内の構造、震源分布、変形場、応力場、温度・流体分布を明らかにする。
イ.内陸地震
観測された変形場と応力場に基づいてブロック的な運動を扱うモデルを構築すると共に、内陸活断層の弾性・非弾性応答解析により得られる応力場形成モデルの作成を試みる。これら2つのモデルを実現できる数値シミュレーション技術を進展させ、プレート間や上盤側プレート内の活断層との相互作用を考慮したテクトニックな応力蓄積過程のモデル化を進める。また、地球物理学的観測に加えて、地形・地質学・物質科学的な研究に基づいて様々な時空間スケールにおける地殻変動を捉えるとともに、様々な時空間スケールをつなぐ数値シミュレーションを行うことで、より長期的なプレート間・プレート内断層の相互作用に関する理解を深める。特に、東北地方太平洋沖地震後の東北日本弧・千島弧においては、上部マントルまでのレオロジー特性を把握できる重要な機会である。また、震源域近傍で実施される陸上掘削データも活用する。
ウ.構造共通モデルの構築
海域から陸域までを包括した地震波速度・減衰構造の精緻化を進めるとともに、比抵抗、日本列島内陸の応力場、定常変形場などの情報を含めた構造共通モデルの構築を行い、地殻活動データ解析、地震発生の数値シミュレーション、強震動の事前評価手法等の高度化につなげる。
エ.火山噴火を支配するマグマ供給系・熱水系の構造の解明
地震学・電磁気学・測地学等の手法を活用するとともに、火山噴出物の物質科学的解析を用いて、マグマ発生場を含む広域深部構造、及び、マグマの上昇・蓄積過程を把握するための浅部構造の解明を進める。浅部熱水系の構造と時間変化の把握を進め、水蒸気噴火の発生を支配する要因を明らかにする。
オ.地震発生と火山活動の相互作用の理解
火山周辺地域における地震活動、地殻変動、地下構造探査等の解析、及び、室内実験や理論計算、過去の相互作用の事例解析に基づき、大地震による火山噴火の誘発の可能性、火山活動に伴う応力場の変化による地震活動への影響、火山性流体による断層の高速すべり破壊の抑制の可能性、などの地震火山活動の相互作用を解明する。
ア.海溝型巨大地震の長期予測
海溝型巨大地震に関しては、史料・考古データ・地質データで得られる過去の巨大地震の履歴や、明治以降の測地データに基づいて、プレート境界でのすべりの時空間変化を定量的に把握することで固着の蓄積量を推定する。さらに、海底活断層の位置・形状も考慮しつつ破壊開始位置や強度分布を仮定することで、起こり得るプレート境界地震の震源域の広がりや破壊様式を網羅的に調べる手法を確立する。
イ.内陸地震の長期予測
内陸地震に関しては、測地データや近代観測開始以降の地震活動データの解析から得られる定常的地震活動度に基づく新たな長期評価手法を開発する。新予測手法と現行の活断層の活動履歴に基づく地震発生長期予測手法を組み合わせた評価手法を検討する。
ア.モニタリングによる火山噴火の中期予測
火山性地震活動、地殻変動、地震波速度、地磁気、熱活動、火山ガス等のモニタリングを通じて、数年から数10年の火山活動の特性を明らかにし、中期的な活動に対する定量的評価手法の研究を行う。
イ.火山噴火の長期予測
1.で整備を進めるデータベースを活用し、各噴火の様式、規模、噴出したマグマの種類を詳細に明らかにし、火山ごとの噴火の特徴を把握する。また、階段ダイアグラムの高精度化を目指す。さらに、地球物理学・物質科学・地球化学的解析を組み合わせることで活火山下のマントルにおけるマグマの生成率の推定を目指し、長期的な噴火活動のポテンシャル評価に活かす。
ア.プレート境界すべりの時空間変化の把握に基づく予測
海陸統合の観測データを活用して、プレート沈み込みに伴う地震および小繰り返し地震、スロー地震等の活動状況の詳細な解析を進め、プレート境界の固着状態の時空間発展を推定し、これに基づいて、地震発生確率や地震発生可能性の相対的な高まりを評価する手法を開発する。地震活動やプレート境界面上のすべりの時空間発展などの解析を行うために、詳細な地形や3次元不均質構造を取り入れた弾性・粘弾性構造モデルを開発する。
イ.地震活動評価に基づく地震発生予測・検証実験
予測性能を統計的手法に基づいて厳密に評価するCSEPの枠組みの中で、地震活動データに基づく将来の地震予測実験を国際連携のもとに進める。また、メカニズム解や地殻変動解析により、地殻内の応力・歪速度をモニタリングすることにより、地震発生確率の評価や余震の確率評価の精度向上に資する研究を実施する。
ウ.地殻活動事象系統樹の作成
史料、考古データ、地質調査、観測データに基づき、過去の多様な活動履歴を整理し、可能性のある地殻活動を網羅することで、地殻活動事象系統樹の作成を試みる。事象系統樹と観測データ、物理モデルに基づく数値シミュレーションの比較から、現在の地殻活動の状態を理解し、定性的な活動予測を試行する。
地震活動の変化や電離圏の状態など中短期の地震先行現象の統計的評価に基づき、大地震の発生確率を計算する手法を開発する。また、統計的評価がなされていない地震先行現象(b値、潮汐応答、スロー地震、地殻変動等)については、事例を蓄積しつつ統計的評価に着手する。さらに、先行現象の発現メカニズムを解明するための研究も行う。新たな試みとして、地殻変動や地震活動のデータに限らず、電磁気学的データや地下水データを含む多様なデータに対して、機械学習等のデータ駆動科学の最新手法を取り入れることで、新たな先行現象の抽出を行う。
先行現象の発現、噴火の発生、噴火規模の拡大・様式の変化などの推移、終息までを一連の火山活動推移とするモデルを構築し、事象の分岐条件をデータや理論に基づき明らかにすることにより、噴火事象系統樹を高度化する。その際、物質科学的解析結果や観測データを比較検討し噴火の前駆現象について相違点・共通点を整理するとともに、噴火ダイナミクスの支配要因を物質科学的解析および数理モデルの高度化によって解明し、噴火の多様性及び分岐条件の理解を深める。また、噴火未遂およびやや広域の地殻活動変化にも着目し、過去の観測記録や文献調査等も活用する。さらに、火山活動推移モデルを複数の火山に応用するために標準化を進める。
ア.強震動の事前評価手法
強震動の事前評価手法の高度化のため、断層近傍の不均質性や応力場、断層面の不規則形状などが断層破壊過程、とくに短周期地震波発生過程に及ぼす影響を、高解像度の震源過程解析の事例蓄積や理論的研究などにより解明する。また、2016年熊本地震による益城町での被害集中域などを解明するには、地下浅部構造モデルの精度を高めることが必要である。物理探査によるデータの追加には限りがあるため、全国の地震観測網で大量に蓄積されつつある地震波形データの一括解析により大規模な堆積層構造のモデル化を目指す。
イ.津波の事前評価手法
津波の評価は、1(1)により津波堆積物や液状化痕跡から明らかになった古津波データに基づき未知の波源域の推定やその津波波高や浸水の事前予測手法の高度化を進める。また、今後の事前予測においては、津波高さや浸水域のみならず、津波被害に関するその他の物理量(流速等)も対象としたより現実的な事前予測手法の開発を検討する。
ウ.大地震による災害リスク評価手法
震源・深部地下構造・浅部地盤構造・強震動予測・構造物被害・リスク評価・情報伝達までを一貫して扱うことで、南海トラフ沿いの巨大地震や首都直下地震などを対象とした災害リスク評価手法の高度化を進める。同時に、大地震時の揺れ、津波、地すべりなどに起因する災害リスク評価の不確実性の程度およびその不確実性をもたらす原因を明らかにし、不確実性を減らすために必要な研究課題を洗い出す。また、熊本地震などを対象に、様々な見解が指摘されている強震動や地震断層と構造物被害との関連性についての研究にも取り組む。
エ.地震動や火山活動による斜面崩壊の事前評価手法
地震動や火山活動に伴い発生する斜面崩壊の予測については、降雨量の影響も考慮した、広域展開可能な汎用的な事前予測手法の開発も進める。斜面崩壊の発生条件、規模、トリガー機構などを明らかにするために、地質野外調査、ボーリング調査、電磁気探査等を駆使し、火山地域における斜面崩壊の発生ポテンシャルの評価手法の開発を進める。
オ.火山噴出物による災害誘因の事前評価手法
火山砕屑物の飛散・流動を事前に予測する手法を高度化するため、過去の調査結果をまとめるとともに、局所気象場や複雑な火山地形を考慮した数値モデル開発とシミュレーションを行う。また、泥流・土石流(ラハール)の発生ポテンシャルを評価する手法、及び、火砕物による火山周辺住民の生活やインフラへの影響を評価する手法の開発を進める。
ア.地震動の即時予測手法
大地震による強震動を、地震波・地殻変動などの海陸における単独もしくは複数の観測量に基づいて、即時かつ高精度に推定する手法を開発する。特に、震源断層面上におけるすべりの時空間発展などの地震の震源特性を即時推定する手法の高度化を進める。また、震源位置の推定を必ずしも必要としない、地震動の実況把握から予測を行う時間発展型予測手法の高度化を図り、強震動、およびゆっくりとした大きな揺れが特徴の長周期地震動の即時予測の精度向上を目指す。
イ.津波の即時予測手法
大地震による津波とその浸水域を即時かつ高精度に推定する手法を開発する。さらに、過去の地震発生履歴や観測データ等から将来発生が予想される多種多数な地震像を考慮した即時予測手法の開発を進める。また、津波の波動伝播の実況把握から予測を行う時間発展型予測手法の高度化を進める。地震・火山噴火による斜面崩壊や山体崩壊によって津波等が励起される場合があるが、このような津波の即時予測手法の開発に向けた研究に着手する。
ウ.火山噴出物による災害誘因の即時予測手法
火山に関しては、マグマ・火砕物・火山ガス等の噴出量と噴出率を迅速に把握する手法の開発を行う。また、火山灰・火砕流・溶岩流・泥流・土石流の遠隔観測および地上直接測定により即時把握する技術を開発する。
地殻活動の変化などにより、大地震発生の可能性が相対的に高まっていることを示す情報が得られる場合(2(4)の成果など)があるが、推定される短期的な大地震の発生の確率は、市民感覚では低いと見なされる程度で、且つ、大きな不確実性を伴うため、地震発生前の災害対応への準備・避難行動等に直接結びつけることが困難である。不確実で絶対値の低い大地震の発生確率や発生可能性の相対的な高まりに対する社会の受けとめ方を調査することで、災害の軽減に繋がる地震情報の在り方を探求する。
火山噴火に関しては、災害誘因予測を災害予測情報につなげる手法を開発する。火山噴火が切迫した段階、あるいは噴火中には、刻々と変化する現象を即時的に把握する手法を開発し、火山灰飛散や溶岩流等を予測するための数値シミュレーション手法の活用を進める。火山専門家以外の行政職員などが、防災対策の策定に利用できるツールを開発する。
地元自治体が、災害情報に基づいて避難行動や災害復旧に関する意思決定することを支援するシステムを試作し、自治体等への効果的な情報伝達の方法を検討する。自治体等の防災担当者を対象とする研修ツールの開発も段階的に進める。
史料や考古データに基づき、先史時代や歴史時代における地震・火山災害事例のデータベース化を実施する。また、これらの災害の時代性や地域性を考慮して特徴を明らかにし、現代の地域社会に応用できる災害経験を抽出する。
近年生じた地震・火山災害においては、地震や火山噴火が災害素因に作用し災害発生に至る過程が必ずしも明確にはなってない。熊本地震を始めとする近年の地震や火山災害における事例を対象とし、地震動、津波、火山灰、溶岩の噴出などの災害誘因と暴露人口や建造物の脆弱性などの社会素因との関連性に着目し、災害の発生機構についての研究を行う。また、地震・火山災害からの復興過程についても、社会の回復力に着目して研究を行う。
災害軽減という観点に立って、現在置かれている状況を的確に判断し、自ら適切な行動を選択するとともに周囲に促す能力である防災リテラシーを社会全体で向上させることが重要である。そのために、地震や火山に関する科学的な理解、大地震や火山噴火の発生が自然・社会に及ぼす影響、災害シナリオ・被害シナリオなどについて、災害の軽減のために人や社会が利活用可能な要素・知識体系を整理し、社会の共通理解醸成につなげるための研究を進める。また、得られた成果を国や自治体の防災担当者ならびに一般国民が理解しやすい形に変換し、いざというときに国民自らが、命を守るために最適な避難行動を選択でき、日々の防災活動の実現につなげるための方策等についても研究を行う。
地震火山部会において、計画の進捗状況の把握、研究成果の取りまとめを行うとともに、地震・火山噴火予知研究協議会において、計画に参加する機関が情報交換を行い、計画の実施項目間の連携を強化して、効率的に計画を推進する。行政等の防災機関や地震調査研究推進本部等の関係機関との技術的・制度的な連携を進め、本計画による研究成果・技術が被害軽減に貢献できるよう、災害・防災対策に係る社会ニーズを的確に把握することに努める。安定的な火山観測及び火山研究のため、中長期的視点に立った観測体制及び研究推進体制のあり方について検討を進める。
地震学・火山学の成果を災害軽減に活用するために、防災に関連する工学、人文・社会科学を含む総合的な学際研究として本計画を推進することが重要であり、地震・火山噴火予知研究協議会企画部を中心に、関連研究分野間の連携強化のため、また、災害・防災対策の関係者に向けた情報共有・成果発信のためのシンポジウム等を開催する。また、東京大学地震研究所と京都大学防災研究所による拠点間連携共同研究をさらに発展させ、地震学・火山学の成果の活用方法について組織的な研究を推進する。
地震・火山現象の解明と予測のための研究を着実に進展させて、災害関連情報の迅速な発表や、地震・火山活動の評価の高度化につなげるため、観測基盤の整備、観測・解析技術の開発、地震・火山現象に関するデータの流通及びデータベースの構築と利活用を進める。
・観測基盤の整備
日本列島とその周辺海域に展開される地震観測網や地殻変動観測網などの観測基盤を維持するとともに、中長期的な視野に立った観測基盤の整備や更新を行っていく。さらに、南海トラフ沿いの観測網や、近年新たな研究成果が得られている海域や火口近傍などにおける観測体制を強化する。また、関連機関が連携して効率的に機動的な観測を行う体制について検討する。GNSSや衛星SAR等の宇宙技術が地震火山観測研究に着実に活用できるよう、宇宙技術インフラ側との連携の強化を図る。安定的・継続的な観測網運用のため、データ取得源を明示した観測成果の発信に努める。
今後さらにデータ容量の増加が見込まれる地震・火山観測データを効率的に流通させるためのシステムの構築、観測機器の維持管理体制について、本計画の効率的な推進を図る観点から検討を進める。
・観測・解析技術の開発
海底観測技術に関しては、GNSS-音響測距結合方式の海底地殻変動観測の時間分解能向上を目指した技術開発を行う。また、海底間音響測距や海底圧力計、海底坑内観測技術等の他の海底観測技術と相互に補うことで総合的な海底測地観測の高度化を進める。
火口近傍などでの火山の観測技術開発としては、可搬型絶対重力計の開発、小型軽量のガス観測装置・ガス同位体分析装置等の開発、ミューオン直接透視技術の空間解像度と時間分解能の更なる向上などを行う。
リモートセンシング技術としては、航空機SARや可搬型レーダー干渉計、分光スペクトル画像計測装置などの高度化を進める。
また、オンライン型の超稠密多点観測装置の開発や、超低消費電力型地震観測装置の開発、観測機器の軽量化・低消費電力化、地震観測装置のダイナミックレンジの拡大、多様な通信手段の開発(無線LAN・携帯電話通信網・衛星通信網)など進める。
海陸統合データの解析手法の開発とともに、データの即時解析技術の開発、より現実的な地下構造モデルを用いたデータ解析技術の高度化を行うとともに、それらの技術の共有も図る。
・地震・火山現象のデータ流通
リアルタイムで共有可能なデータは、データ維持管理者のインセンティブ確保に留意しつつ、コミュニティ内においてリアルタイムでの共有を促進する。そのため、観測網で得られる大量のデータを効率的に流通、解析、可視化する技術の高度化を行なう。また、観測で得られたデータを確実にアーカイブして将来にわたって容易にアクセスできる環境を構築する。
・地震・火山現象のデータベースの構築と利活用・公開
これまで実施されてきた地震・火山に関する観測研究計画の成果を集約し共有することは、今後の研究計画において重複を避け効率的に計画を推進するためや、研究分野間の連携研究を促して地震・火山研究をより活性化させる役割があり、重要である。そのため、観測データ、基礎的資料、構造モデルや解析ソフトウエアを含む研究成果、観測データの自動解析結果などをデータベース化し、これらを迅速に共有し、相互利用できる仕組みを構築する。また、このデータベースが社会で広く利活用されるようインターフェースを整備する。
地震・火山研究の成果を災害軽減に役立てるために、理学にとどまらず、工学、人文・社会科学などの関連研究分野との相互理解に努め、連携をより一層強化する。また、低頻度大規模地震・火山噴火等を明らかにするために、近代観測以前の地震・火山現象の解明を目指し、引き続き歴史学・考古学と連携して計画を進める。さらに、進展の著しい数理科学、情報科学等の研究分野の成果を取り入れるために、これら研究分野との連携を強化する。
地震・火山噴火発生後に観測および調査を迅速に実施することは、地震・火山噴火現象の解明のために極めて重要であり、より多くの事例を研究するために、国内だけでなく海外での観測研究が必要不可欠である。地震・火山噴火の頻度が高い諸外国との国際共同研究を推進するとともに、開発途上国における地震・火山災害の軽減に貢献する。
本計画に関して、アウトリーチ活動を今後も積極的に展開することが重要であり、これまで以上に組織的なアウトリーチ活動の方策について検討する。地震・火山研究の現状や研究成果、地震火山災害に関する知識等を国民に効果的に伝える方法については、地震・火山噴火に対する防災リテラシー向上のための研究の成果を活用する。研究成果のみならず研究の進捗や見通しについても説明を行うことが重要である。地震火山災害から命を守るために必要最低限なリテラシーを国民に醸成する。
地震・火山噴火の現象の理解、発生予測手法の高度化とその検証には、世代を超えた継続的な観測研究の推進を支える人材育成が極めて重要である。研究者、技術者、防災業務・防災対応に携わる人材育成においては、地震学、火山学、地質学、地形学、歴史学、災害科学、数理科学などの分野に加えて、それらの進歩を加速させる計算機科学、観測技術開発・地質調査技術開発などの幅広い分野の進展が必要であり、若手研究者や技術者の育成が欠かせない。さらに、地震・火山の専門教育を受けた人材が防災・科学技術に係る行政・企業・教育機関に携わることも非常に大切な点である。このような観点から、複数の教育・防災業務機関が連携し、観測研究を生かした教育活動を継続して、若手研究者・技術者や、防災業務・防災対応に携わる人材を育てる。さらに、防災業務・防災対応に携わる人材のスキル向上の促進に対して貢献する。火山分野においては次世代火山研究・人材育成総合プロジェクトと連携し、次世代の火山研究者を育成する。
研究開発局地震・防災研究課