三、計画の実施内容

1.地震・火山現象の解明のための研究

地震や火山噴火が引き起こす災害予測の基本となる地震・火山現象の科学的理解の深化を目指す。過去の地震や火山噴火の事例,地震や火山噴火を引き起す構造や応力場などの研究を進め,地震・火山現象の物理・化学過程を理解する。特に,発生すると甚大な被害をもたらす低頻度大規模の地震・火山現象は,発生サイクルが長いことから史料・考古・地質データの収集から始め,近代的な観測データを統合して,その全体像を把握する。また,地震や火山噴火の予測に利用するため,地震や火山噴火の発生場,地震発生過程,火山活動,火山噴火過程のモデル化を進める。

(1) 地震・火山現象に関する史料・考古・地質データの収集と整理

歴史地震・噴火に関わる史料のデータベース化と校訂・解釈作業を進める。その際,広い意味での災害史データにも目を配って史料の新たな収集を行う。地震・噴火災害の考古データの集約は相対的に整備が遅れており,データベース化に留意しつつ収集を強化する。さらに,地震・噴火現象に関係する過去の事象と現在の状況を把握するための地質データの調査・分析を進める。これまで独立に集められることの多かった史料,考古,地質データを系統的かつ体系的に整理し,近代的な観測データと対比・統合しやすいデータベースを構築する。

ア. 史料データのデータベース化と収集
○ 大学は,過去の地震や火山噴火現象,地変や地下水異常などそれに付随する諸現象,及び,それによる災害に関する史料の収集・調査・補修・翻刻・解読を進め,近代的な観測データとの対比可能なデータベース化を行う。また,世界の地震・火山災害史に関する国際共同研究を進める。特に,中国史料を中心に東アジアにおける地震・火山噴火災害史料のデータを集積・研究する。
○ 気象庁は,過去の火山噴火,これに伴う異常現象や先行現象などのデータの整備を図るとともに,国際的データベース作成にも寄与する。

イ. 考古データの収集・集成と分析
○ 大学は,考古遺跡の発掘調査資料等を収集・分析し,地震や,津波,火山噴火被害に関する検討を行うとともに,近代的な観測データとの統合を意図したデータベース化を行う。

ウ. 地質データの収集と整理
○ 大学は,地質調査で確認された津波堆積物等の試料を収集・分析し,津波の浸水範囲について検討するとともに,近代的な観測データとの統合を含めたデータベース化を行う。
○ 大学は,マグマ噴火が想定される火山について,火山ガスデータの蓄積を行い他の岩石学情報と合わせる。
○ 産業技術総合研究所は,活動的火山の地質図整備を推進し,火山に関する基礎データの収集と整理を行い,データベースの更新・維持を行う。
○ 海洋研究開発機構は,海底火山の噴火を予測する基礎データとして,伊豆小笠原~マリアナ海洋性島弧の海底火山や海洋底の調査を実施する。更に他の海洋性島弧の試料解析を行い,地質・噴出物データの収集を行う。

(2) 低頻度大規模地震・火山現象の解明

文献史料,考古学的な発掘痕跡,地質調査データなど歴史地震に関する諸データと近代的な観測データを対比・統合することによって,歴史時代における地震・噴火・津波の個別的な具体像を明らかにする。大規模地震や火山噴火について,日本国外で発生したものも含め,主に近代的観測データの解析に基づき発生機構を解明する。特に,稠密(ちゅうみつ)な観測データが記録された2011年東北地方太平洋沖地震については,その発生機構や津波励起過程,余震・余効変動の解明を進める。また,南海トラフで発生したこれまでの巨大地震や現在の地殻活動について研究する。過去の大規模現象については,観測データの残っている現象を参考に,低頻度・大規模な地震・火山現象の特徴を抽出して,それらの理解を進める。

ア. 史料・考古・地質データ及び近代観測データに基づく低頻度大規模地震・火山現象の解明
○ 大学は,津波堆積物調査を含む地質学的調査と津波数値モデリングから,過去に発生した低頻度プレート境界型巨大地震の震源過程を解明する。また,南海トラフ沿いでの海溝型巨大地震の発生が懸念される東海・南海地方や首都直下地震の発生が懸念される関東地方などを対象地域として,データベース化した史料・考古・地質データなどを用いて,地震や津波,火山噴火の被害分布を基に,近代的データや数値計算結果との比較検討を行い,過去の地震・津波・噴火の実像を解明する。
○ 海洋研究開発機構は,千島海溝や琉球海溝を含む世界の沈み込み帯で,高分解能海底下構造探査・深海掘削・地質学的調査により低頻度大規模地震の発生履歴を解明する。
○ 産業技術総合研究所は,糸魚川―静岡構造線活断層系等において,断層セグメントの連動履歴を解明することで古地震シナリオを構築し,地震規模予測及び長期予測の高度化について検討する。また,千島海溝から日本海溝,相模トラフ・南海トラフ,琉球海溝沿いで,過去約3,000年間の巨大地震・巨大津波の履歴と規模を,津波堆積物調査や(過去の)地殻変動調査等で明らかにし,地震シナリオ構築に資する。
○ 大学及び産業技術総合研究所は,カルデラ噴火について,支笏,姶良,摩周,十和田及び鬼界カルデラを対象に,先行する噴火活動の規模・様式,引き続くカルデラ噴火の推移を,野外調査及びトレンチ・ボーリングデータを元に調べる。また,カルデラ噴火に至るマグマ蓄積や噴火の周期性を,噴出物の物質科学的分析を時間軸に着目して行い,大規模噴火の発生過程を調べる。
○ 大学は,山体崩壊現象について,磐梯山や雲仙岳を対象に,古記録の解読及び地質調査を基に先行現象と崩壊過程を調べる。さらに,北日本の日本海東縁の火山体を対象として,大地震により誘発された可能性のある火山体崩壊現象の規模と頻度を地質学的手法により予察的に検討する。
○ 大学は,南海トラフでの巨大地震について,近代的観測記録のある昭和の地震と古文書記録との比較により,具体像を明らかにするとともに,繰り返し特性を解明する。
○ 大学は,桜島大正噴火や磐梯山明治噴火などの顕著な国内の噴火について,当時の地震記録と文献の調査を行う。また,桜島地震の規模・震源・メカニズムを当時の地震記録から推定する。

イ. 東北地方太平洋沖地震・南海トラフ巨大地震等のプレート境界巨大地震
○ 大学,気象庁及び海上保安庁は,東北地方太平洋沖地震震源域や日本海溝及び南海トラフ沿いの海溝で,海底地震観測や海底地殻変動観測を実施し,地震活動,余効変動,固着回復過程等の詳細を調べ,構造との関係を明らかにする。また,海洋研究開発機構は,東北地方太平洋沖地震の大地震性滑りの理解のため,日本海溝域の海域で,海溝軸までの大滑りを伴った大地震の時空間的分布を調べるとともに,高分解能地下構造調査と地質学的調査(採泥)を実施する。これらの結果に基づき,大学は,プレート境界での状態を模した環境下で摩擦実験を行い,多様な滑り現象が起こる条件を明らかにする。摩擦構成則の定式化に基づく数値シミュレーションも用いて,日本海溝の沈み込みプレート境界で起こる滑り現象の多様性の統一的説明を試みる。
○ 大学は,日本海溝や南海トラフ等を対象に詳細な海底地形データを取得し,これに基づき,歴史地震の震源域を推定する。また,プレート境界の大−巨大地震の詳細な破壊過程を分析・比較することにより,巨大地震の発生様式を解明する。以上の成果を利用して,南海トラフなどで今後発生すると予想される巨大地震の震源断層モデルを提示する。

(3) 地震・火山噴火発生場の解明

地震が発生するプレート境界やプレート内,あるいは,活断層や火山の分布する内陸は,それぞれ地学的背景に違いがあるので,プレート境界,海洋プレート内部,内陸の三つに分類し,それぞれの場について研究を進める。プレート境界において,地震性滑りや非地震性滑りが生じる場を,構造調査や岩石実験,数値シミュレーションから調べ,地震発生に与えるプレート境界の摩擦特性や応力の不均一性を調べる。アウターライズ地震やスラブ内地震を起こす海洋プレート内部の構造や応力場,温度・水分布の観測や室内実験等により明らかにする。内陸地殻の非弾性変形,流体の存在,複数断層の相互作用に着目し,観測や岩石実験により内陸断層への応力集中機構を調べる。また,火山体やマグマ供給系の物理的構造を観測等により調べる。火山近傍から広域までの応力場の時空間変化と,火山活動や地震活動,及び両者の相互作用を調べる。
ア. プレート境界地震
○ 大学,気象庁,防災科学技術研究所及び海洋研究開発機構は,千島海溝や南海トラフから琉球海溝にかけての沈み込み域,更にニュージーランド等の海外の沈み込み帯において,プレート境界面の形状とプレート境界周辺の地下構造,並びに微小地震・低周波微動・ゆっくり滑りの分布とそれらの発生領域の構造を明らかにする。また,南海トラフをはじめとする海底下深部掘削により地震発生帯の構成物質の試料を採取し,その分析に基づき摩擦特性を明らかにする。その上,長期孔内観測システムを設置し,地殻変動を高精度で観測する。また,ゆっくり滑りの発生に伴う地震学的構造の変化,重力・電磁力場に現れる間隙流体圧の変化の検出を試み,ゆっくり滑りの発生機構の理解を深める。
○ 海上保安庁は,和歌山県下里において人工衛星レーザー測距(SLR)観測を実施し,広域のプレート相対運動決定に資するデータを得る。
○ 防災科学技術研究所は,プレート境界型震源モデルの精度向上のため,短周期地震波や津波の生成伝播過程の解明を進める。

イ. 海洋プレート内部の地震
○ 大学及び海洋研究開発機構は,日本海溝の海溝海側斜面における地震・地殻変動観測と構造探査を実施し,東北地方太平洋沖地震の影響下で進行している太平洋プレート内の変形とそれに伴う応力変化とプレート内地震発生領域の広域地下構造を明らかにする。また,沈み込んだ海洋プレート(スラブ)内部で発生する地震の詳細な解析を通して,スラブ内地震の震源分布と不均質構造の空間分解能向上を図る。さらに,大学は,電磁気学的構造モデルの高度化や地殻熱流量の収集を進め,沈み込み帯下の温度構造・水分布モデルを構築する。スラブ中に存在する含水鉱物の脱水に伴う脆弱(ぜいじゃく)性変形過程を室内実験から明らかにし,観測・実験の結果を基に,含水鉱物の脱水とマントル融解を考慮したスラブ内地震発生過程の数値シミュレーションの研究を行う。
○ 海上保安庁は,海洋プレート内の変形や応力場の理解を進めるために,伊豆諸島海域においてGNSS連続観測を行う。

ウ. 内陸地震と火山噴火
○ 国土地理院は,ひずみ集中帯等において,GNSS・SAR干渉解析・水準測量による高密度地殻変動観測を実施し,非地震時及び東北地方太平洋沖地震発生後の余効変動発生下における地殻変動分布を明らかにする。東北地方太平洋沖地震の粘弾性緩和に伴う地殻変動の数値シミュレーションを実施する。過去に発生したM6~M7クラスの地震について,断層モデルの推定と余効変動の解析を行う。
○ 大学は, 2011年東北地方太平洋沖地震後のひずみ速度場の変動を観測・解析し,高密度地震観測・電磁気学的観測に基づく地震学的構造・比抵抗構造及び実験・物質科学的知見を基にしたシミュレーションと比較することにより,東北日本弧のレオロジー構造を定量的に明らかにする。また,精密な震源分布や発震機構解等を基にして,誘発地震域で見られる地震活動の移動現象と地殻流体との関係を明らかにする。
○ 大学は,西南日本のひずみ集中帯等において,高密度地震観測・電磁気学的観測等の実施と既存データの再解析により,断層深部延長や断層両端部における不均質構造の実体を解明し,横ずれ断層への応力集中機構の物理モデルを構築する。また,断層強度の時間変化や,沈み込むフィリピン海プレートと島弧地殻・上部マントル間の相互作用などに関する研究を推進する。
○ 大学は,九州及び北海道東部等の火山とその周辺地域において各種観測を実施し,火山噴火発生場における地震学的構造・比抵抗構造・変形場・応力場・温度構造を推定する。室内実験や野外調査等の結果と合わせることにより,マグマ供給系の物理的構造モデルを構築する。また,火山周辺域で発生する低周波地震活動と地震活動や応力場との関係を明らかにする。また,応力・ひずみ等の時空間変化を推定し,火山が,断層への応力載荷過程,ひずみ集中過程,周辺の応力場や地震発生等に与える影響を明らかにし,内陸地震と火山噴火が相互に作用に関する研究を進める。
○ 大学は,列島規模及び特定地域を対象にして,地質・地球物理・地球化学手法により,地殻・マントルにおける岩相‐水‐マグマ分布,応力場,流動‐変形場,温度構造を推定し,流体‐マグマ生成,地震・火山噴火発生場を統合的に理解する。また,断層破砕帯を通過した深部流体を含む温泉水等の溶存成分をモニタリングし,その変化を断層の応力状態と関連付けることによって,内陸地震の載荷機構を解明する。
○ 大学は,有珠山,蔵王山,阿蘇山,霧島山,桜島等において,火山周辺域の臨時地震・電磁気観測と既存の観測点のデータと合わせて,レシーバ関数解析やトモグラフィー,散乱波解析,比抵抗構造解析等を行い,地殻深部から火山体浅部における流体分布を明らかにする。また,火山体及びその周辺でのGNSS観測,InSAR解析,重力観測等により,火山周辺域の応力の時空間変化を明らかにする。

(4) 地震発生モデルの構築

これまでの研究で得られた日本列島周辺のプレート境界面の形状や地震波速度構造,地震発生層の下限等の構造情報を整理し,それらを評価して,研究者が共通で利用できる標準的な構造共通モデルを構築する。また,構造情報の不足している領域で観測を行うとともに,これまで推定されていない物理パラメータを得るための観測研究を実施し,共通モデルの構築を補う。さらに,摩擦構成則や複雑な破壊現象を取り入れたより現実に近い断層物理モデルを構築する。これらの構造共通モデルと断層物理モデルを利用して,地震発生機構の定量的な理解を進め,地震やプレート境界での滑り過程を再現するシミュレーションに応用する。

ア. 構造共通モデルの構築
○ 大学及び海洋研究開発機構は,日本列島全体及びその周辺域を対象領域とする基本構造モデルの構築のために,東北地方太平洋沖地震後の地殻変動・地震活動現象等を支配するひずみ・応力状態の定量的評価に必要な構造要素等を考慮しつつ,沈み込むプレート境界,リソスフェアー・アセノスフェアー境界,モホ面,地震発生層の下限,震源断層の形状,日本列島下のマントル及び地殻の岩石・レオロジーモデルを求める。

イ. 物理モデルの構築
○ 大学は,プレート境界,活断層,その他の地震発生域における地球物理及び化学観測・野外観察,更に実験・シミュレーション等を通じて,断層帯の微細構造や間隙流体の存在が断層強度や破壊過程に及ぼす物理・化学的影響を明らかにする。その上で,断層周辺の不均質構造と地震断層破壊との力学的相互作用や,断層帯の間隙流体と摩擦滑りとの非線形相互作用を定量的に取り込んだ現実的な地震発生モデルを構築する。また,大学及び防災科学技術研究所は,各種実験に基づく摩擦構成則の改良や複数の素過程の相互作用を考慮した断層すべりモデルを構築すると共に,数値シミュレーション手法の開発を進め,より現実的な地震発生モデルに基づく数値シミュレーションを行う。また,地震発生場における物理量分布の統計的性質と地震活動の特徴を比較し,大地震発生に至る過程における地震活動変化の特徴を解明する。さらに,粘弾性媒質中でのプレート境界地震と内陸地震の連成地震サイクルシミュレーションを行い,プレート境界地震と内陸地震との力学的相互作用について理解する。

(5) 火山現象のモデル化

大規模な災害を引き起こす可能性があるマグマ噴火や,噴火としての規模は小さいものの災害を引き起こす水蒸気爆発や火山ガスの噴出を予測するため,火口近傍や火山周辺における多項目観測や火山噴出物の分析から,先行現象とそれに続く噴火現象を把握し,それら諸現象のモデル化を行う。その際,火山の性質や噴火様式の共通性や相違に着目し,主にマグマ噴火を主体とする火山,及び,水蒸気爆発の発生しやすい熱水系が発達した火山に分けて,比較検討する。さらに,マグマの挙動についての理論的及び実験的研究の成果を取り入れて,モデルの高度化を図る。

ア. マグマ噴火を主体とする火山
○ 大学は,マグマ噴火を主体とする有珠山,浅間山,伊豆大島,桜島等を対象にして,地震,地盤変動などの火山現象の観測,地震学的及び測地学的,地球電磁気学的手法を用いた火山体構造変化の把握,火山灰・火山ガス等の物質科学的手法による分析に基づいて,火山現象の定量化を行う。噴火に先行するマグマの蓄積・上昇過程と初期噴火発生後のマグマの移動と発泡・破砕などの過程の多様性を理解し,そのモデル化を行う。また,これらの火山に加え,三宅島,伊豆東部火山群,諏訪之瀬島など国内の火山や海外の火山と,火山現象の定量的比較研究を行うことにより,マグマ活動過程の共通原理を抽出するとともに,室内実験や数値計算の結果を比較し,普遍的モデルの構築を目指す。
○ 産業技術総合研究所は,桜島,伊豆大島,浅間山等において,火山ガスや固形噴出物の分析・解析,電磁気学的観測に基づいてマグマ活動機構の解明とモデル化を行う。
○ 気象庁及び国土地理院は,火山活動に伴う地殻変動源のモデル化及び即時推定と変動予測の研究を行う。
○ 海上保安庁は,南方諸島及び南西諸島の海域火山において,航空機を使用した目視観測,熱画像撮影や磁気測量等の定期巡回監視を実施し,火山内部の磁気的・熱的構造の異常や時間変化を求める。また,測量船を使用して海底地形調査,地殻構造探査や噴出物採取などの多項目観測を実施する。また,伊豆諸島海域においてGNSS連続観測を実施し,地殻変動を検出する。

イ. 熱水系の卓越する火山
○ 大学は,熱水系の卓越する火山として,十勝岳,吾妻山,草津白根山,阿蘇山,口永良部島,焼岳等を対象とし,火口近傍を含む火山体周辺において地震・地殻変動観測や地球電磁気観測,物質科学的分析を行う。既存データ・他機関データの利用も含め,ほぼ共通の観測・解析・分析手法を適用することにより,火山熱水系の構造の物理的・化学的特性や時空間変化を明らかにするとともに,火口浅部のマグマや火山性流体に関わる異常現象の検知事例を増やしてその機構の定量的理解を深める。また,水蒸気噴火の履歴やマグマ噴火への移行について,物質科学的・地質学的手法による再検討を行い,熱水系が卓越する火山の中長期的活動を把握する。
○ 大学は,海域火山の火山性流体の化学組成の特徴を明らかにし,海域火山の活動を評価する新たな手法の開発を目指す。
○ 気象庁は,雌阿寒岳,草津白根山等において,全磁力の連続観測及び繰り返し測量を実施し,火山活動の消長に応じた空間的・時間的な磁場変動とその原因を客観的に評価する手法の開発を進める。
○ 産業技術総合研究所は,電磁気・熱及び地球化学観測に基づき熱水系の実態を明らかにするとともに,シミュレーション手法を活用して熱水系の時間変動を定量化に解析する。

2.地震発生・火山噴火の予測のための研究

地震や火山噴火現象の科学的理解を基に,地震発生や火山噴火,及び地震活動や火山活動の予測研究を行う。地震発生予測では,近年プレート境界の固着状況が明らかになり,観測と数値シミュレーションとの対比が可能になってきたプレート境界地震の長期評価に研究の重点を置く。また,中・短期的な予測を目指すため,観測データと数値シミュレーションの比較や統計学的な地震活動評価手法を開発する。また,十分な精度を持つ観測で得られる地震先行現象を統計的に評価し,その物理・化学過程の理解を進める。火山噴火予測では,幾つかの活動的な火山において,これまでの噴火履歴に基づいて,噴火事象系統樹を作成する。さらに,噴火様式,噴火推移の予測を目指して,観測や理論研究に基づき噴火事象の分岐メカニズムをモデル化し,観測データから事象分岐の予測を試みる。

(1) 地震発生長期評価手法の高度化

史料・考古・地質データと近年の観測データと統合して得られる地震発生の繰り返し特性の多様性を加味し,地震発生長期評価の高度化のための研究を行う。プレート境界で発生する大地震については,観測データから推定されるプレート固着状態を考慮した数値シミュレーション等により,新たな地震発生の長期評価手法の開発を行う。
○ 大学及び海洋研究開発機構は,超巨大地震や連動型地震などを含めた地震発生サイクルの数値モデリングを行い,地震再来間隔と規模に多様性が生じるメカニズムを明らかにするとともに,南海トラフや日本海溝,千島海溝等における大地震の発生パターンとの比較を行う。さらに,実際の地震発生履歴に類似した発生パターンを再現できる複数のシナリオに対して,地殻変動や津波等の観測データとの比較等により,モデルと観測との整合性を評価する。
○ 大学は,LiDARによる数値標高モデルを利用して,活断層とずれ量のマッピングを実施する。変動地形に基づき活断層で発生する大地震のモデルを構築する手法を開発し,活断層の活動特性を推定する。

(2) モニタリングによる地殻活動の理解と予測

物理モデルに基づく数値シミュレーションと地震活動や測地データ等の観測データを比較することにより,プレート境界滑り時空間発展を推定し,さらに,予測する手法を開発する。また,地殻ひずみ・応力の変動を,断層滑りや広域応力場を基に推定し,地震・火山現象に及ぼす影響を評価する。統計的モデルを用いて,地震活動の予測実験を行うとともに,その予測性能を評価する

ア. プレート境界滑りの時空間発展
○ 大学及び国土地理院は,海陸の地殻変動観測データから,マイクロプレート運動や背弧拡大を考慮に入れて,プレート運動とプレート境界における固着状態の推定を行う。大学及び防災科学技術研究所は,日本列島及び世界で発生する小~中規模相似地震カタログを構築し,その活動度からプレート境界における固着状態の時空間変化を高精度にモニタリングする手法を開発する。海洋研究開発機構は,長期坑内計測を含む海底ケーブルネットワークを中心としたリアルタイムモニタリングシステムを構築・運用し,海底でのプレート境界の固着状態の時空間変化のリアルタイム検出に努める。海上保安庁は,海底地殻変動等の観測を強化し,プレート境界の固着状態の把握に努める。
○ 大学,気象庁及び産業技術総合研究所は,日本各地で発生する各種ゆっくり滑りとそれに誘発される群発地震活動,低周波地震,低周波微動の活動をモニターし,これらの時空間発展を明らかにし,ゆっくり滑りと多様な滑り現象との相互作用の理解を進める。大学,気象庁,防災科学技術研究所,産業技術総合研究所及び海洋研究開発機構は,これら滑り現象のモニタリングと数値シミュレーションに基づくプレート間滑りのモデル構築や地震発生予測を試みる。また,大学は,現在観測されるゆっくり滑りの特徴を利用して過去のデータからゆっくり滑りを抽出することにより,より長期にわたる発生履歴を解明し,ゆっくり滑りと大地震の発生サイクルとの関係を明らかにする。
○ 大学及び海洋研究開発機構は,数値シミュレーションと地殻活動データとの比較により,現実を説明可能なパラメータ等を推定するデータ同化手法を開発する。さらに,大地震発生前後に観測される地殻変動場をデータ同化に準実時間で提供する技術の開発を進める。ゆっくり滑りや東北地方太平洋沖地震前後の地殻活動を対象として,データ同化手法の検証実験を行うとともに,東北地方太平洋沖地震後の地殻活動の推移や南海トラフを対象とした予測の試行を行う。
○ 気象庁,防災科学技術研究所及び海洋研究開発機構は,海陸の地震観測網等から得られるデータなどを逐次的に解析することにより異常を検知する技術や,将来発生する海溝型巨大地震の切迫度を評価する手法の開発を進める。産業技術総合研究所は,過去の南海地震前の地下水変化のメカニズム解明の研究を進める。

イ. 地殻ひずみ・応力の変動
○ 大学は,内陸余震観測等の高密度な観測データに基づく震源位置,メカニズム解,相似地震のカタログを作成し,地震活動と応力等の地下の状態の関係を明らかにし,また,複雑な断層構造と地震活動の関係を調べる。大学及び産業技術総合研究所は,微小地震や深部低周波微動の解析から応力の時空間変動を推定する手法を開発する。
大学は,鉱山における震源ごく近傍での計測を含め,地震発生場での絶対応力・ひずみ変化を測定により,応力と地震活動の関係を解明する。
ウ. 統計的モデルによる地震活動評価
○ 大学は,CSEP(Collaboratory for the Study of Earthquake Predictability)との国際連携の下,地震統計モデルに基づく活動度予測の定量的検証実験を運用するとともに,大地震の確率的予測への有効性を検討する。
○ 大学は,地震サイクルの中の地震活動の特徴の変化を明らかにするために,断層の空間分布や地震活動履歴,余震その他のクラスタリング効果を考慮して地震活動の長期的変化を解析する。また,世界の多様な地震活動を再解析して各地域の地震発生場の階層構造の特徴付けを行う。さらに,その特徴を既存の確率論的地震活動モデルに取り入れる方法を開発して予測を試行する。

(3) 地震先行現象に基づく予測

これまで報告されている地震に先行して発生したとされる現象について,地震発生との関係の有意性を統計的に評価する。また,先行現象と地震発生を結び付ける物理・化学過程の解明を行い,先行現象と地震発生の関連を科学的に検証することを目指す。
○ 大学は,地震活動や電磁気現象などの大地震に先行すると報告されている種々の現象について,現象と地震発生の相関を客観的に評価する。また,それぞれの先行現象の予測能力を定量的に評価する手法を開発する。
○ 大学は,静穏化等の中・短期的な地震活動変化の客観的検出に基づいた大地震の予測モデルを開発し,その統計的評価を行う。また,最近世界各地で発見され始めた極微小な地震からなる前震活動の検出例を増やし,その特徴を調査する。岩石実験における最終破壊や不安定滑りに先行する微小破壊についても,新たな計測法による実験のデータを用いて再検討し,大地震の前震活動との対応も考慮して,その特徴を明らかにする。
○ 大学は,全国の放射線管理施設の協力の下,大気中ラドン濃度のデータを広範囲に収集・分析し,地震・火山噴火・ゆっくり滑り・地殻ひずみ等と比較する。大学は,地震に伴う電磁気現象の観測をULF,VLF,VHF帯にわたり総合的に行い,また,衛星データも利用して,電磁気現象と地震発生との関係について統計的に検証するとともに,その発生メカニズムの追及のため地圏,大気圏,電離圏結合に関する観測研究を行う。大学は,地下水に現われる地震先行現象の発生機構をモデル化し,観測によって検証する。

(4) 火山噴火事象系統樹の高度化

これまで作成してきた幾つかの火山の噴火事象系統樹に,最新の噴火履歴の情報や,マグマ供給系の進化に関する知見を加え,噴火事象系統樹の作成を行う。現在の火山学的知見及び本研究計画から得られる成果に基づいて,多項目の観測データや火山噴出物の特性と噴火現象の分岐の関係を明らかにする。噴火予測に結び付く事象分岐論理を構築する。
○ 大学は,噴火履歴・推移,マグマ供給系の時間変遷,及び地球物理・地球化学的観測研究の成果に加え,物理モデルを反映することにより,これまでに作成されてきた噴火事象系統樹の高度化を目指す。そして浅間山,十勝岳及び阿蘇山について噴火事象系統樹を作成し,さらに,富士山や低頻度大規模噴火については噴火事象系統樹試作を通じてデータの整理と問題点を洗い出す。
○ 大学は,火山噴火の発生や規模,様式,推移の予測や中長期的な火山活動の変化に関して,国内外の地震・地殻変動・電磁気現象などの地球物理学観測及び火山ガスや噴出物等の物質科学的分析による経験的知見に加え,理論・実験研究の成果をまとめ,噴火事象及び火山活動の分岐論理を構築する。

3.地震・火山噴火の災害誘因予測のための研究

地震・火山噴火が引き起こす「自然素因への作用」「社会素因への影響」「社会影響素因への波及効果」を総合的に研究する,理学,工学,人文学,社会科学等の知見を有機的につなげた複合領域を確立し,地震・火山噴火研究の成果を効果的に社会還元する。「過去の事例検証」「事前予測手法の研究」「即時予測手法の研究」「災害発生機構の解明」「被害軽減のための災害情報の高度化」を実施し,防災・減災に資することを目指す。そのために,関連する多くの研究分野の研究者と連携し,地震・火山現象や災害の基礎情報の啓発や予測情報の利用方法に関する研究も行う。

(1) 事前予測手法の研究

震源断層,断層破壊過程の推定や伝播過程の計算手法改良等により,強震動と津波の事前予測手法の高度化を行う。火山噴火や山体崩壊による津波についても検討する。また,甚大な被害を及ぼす強震動や火山噴火に伴って発生する地滑り現象の発生ポテンシャル評価と事前予測手法の高度化を行う。
○ 大学は,過去のプレート境界型地震や内陸地震等による強震動や長周期地震動・津波災害の発生要因の検証に基づいて,震源断層モデルや堆積盆地等の地下構造モデルの高度化を進めるとともに,それらに立脚した広帯域強震動・津波評価手法を研究する。
○ 大学は,地震動や火山噴火に伴って発生する地滑り現象について,地質・地形的要因の調査・分析,地震動観測,シミュレーション等を行い,発生のポテンシャル評価と事前予測手法の高度化を進める。

(2) 即時予測手法の研究

○ 地震発生後の地震波・津波等の観測データや,それらから速やかに推定される震源特性を用いて,強震動と津波の即時予測手法の高度化を行う。火山噴火や山体崩壊の特性の即時推定や,それらによる津波の予測につながる方法を検討する。また,火山噴出物の監視技術の向上と,数値シミュレーションを用いた予測方法の高度化を図る。
○ 大学,気象庁及び国土地理院は,大地震の即時的規模・断層面推定と高精度津波即時予測のため,GNSS観測データ,地震観測データ,沖合地震津波観測網の津波観測データ,津波が生成する磁場観測記録などを活用し,海陸の地殻変動を自動検知する技術を高度化するとともに,震源メカニズムや断層面上の滑り量分布や余震分布を早期に自動推定する手法を開発する。大学及び気象庁は,即時的地震・地殻変動・津波波形情報等により地震動や津波等を高速かつ高精度に予測する手法を開発する。
○ 大学は,定量的降灰予測に資する,爆発的噴火に伴う火山灰噴出率,噴煙柱の到達高度や粒子密度の時空間変化を,GNSSデータの準リアルタイム解析やレーダー観測,数値シミュレーション等により推定する方法を構築する。
○ 気象庁は,レーダーや衛星等を用いた噴煙などの観測手法の高度化,移流拡散モデルによる降灰・噴石の数値予測手法の高度化,地震・空振・地盤データを用いた噴火規模の把握方法の開発を行う。

(3) 地震・火山災害事例の研究

地震動・大規模噴火などの災害誘因が,地形・地盤など災害の自然素因のみでなく,建造物や諸施設の脆弱(ぜいじゃく)性などの社会素因とどう結び付いて災害を出現させたかを,歴史地震・噴火・津波などの場合を含め長期的視野をもって明らかにする。歴史記録に基づき地震・火山災害の特性や地域性を明らかにし,データベース化を図るとともに,地震 ・火山噴火による災害と社会環境の関係を明らかにする。
○ 大学は,史料データベース等の解析から,歴史時代の地震・津波・火山噴火における対応や教訓などを多角的に分析するとともに,自然災害史の立場から今後の防災・減災施策に有用な知見を得る。また,地域特性を持つ過去の災害事例について,その災害誘因を明らかにする。

(4) 災害発生機構の解明

地震発生・火山噴火が,自然素因に与える作用力,社会素因の損傷・破壊・途絶に与える影響,社会影響素因の被害拡大・社会混乱に与える波及効果,を検証し,災害発生機構を解明する。それらの関係性において,「二次災害の抑止」「被害の軽減化」「社会混乱の防止」などの防災・減災に資するための誘因研究の新たなモデルを複合領域で構築し,自然・社会の変化に応じた研究推進を通して,それぞれの研究の社会的位置付けの検証を実施する。特に社会的影響の大きな首都圏など大都市圏で想定される地震災害については,災害発生機構を重点的に解明する必要がある。
○ 大学は,強震動が増幅され,人口が稠密(ちゅうみつ)である場合が多い,堆積平野・堆積盆地などを対象にして,地震災害の素因と誘因災害発生機構を多面的に分析するとともに,災害を制御する要件を明らかにする。特に,首都圏や阪神圏などの大震災の可能性に関する研究を進める。
○ 大学は,誘因の営力と被害の地理的分布との関係を調べ,脆弱(ぜいじゃく)性概念と結び付けて災害要因(素因と誘因)を分析する。高知県,三重県,静岡県等,南海トラフの巨大地震被害が想定される地域を対象に住民の意識調査などを行い,地域の課題解決の筋道を見出す。

(5) 被害軽減のための災害情報の高度化

平常時における「災害啓発情報(特に,地震・火山噴火に関わる科学的情報)」,発災直後の「災害情報(特に,地震・火山噴火がもたらす二次自然災害の可能性)」,復旧・復興期の「災害関連情報(特に,当該災害を受けて今後の災害発生の見通し)」などの情報を災害軽減に有効に役立てるための方法を検討し,災害素因の影響も考慮したリスク・コミュニケーションの方法論を研究する。
○ 大学は,不確定さを伴う地震の長期評価,強震動ハザードマップなどの災害誘因情報が災害軽減に有効に活用されるための情報コミュニケーション手法について検討する。
○ 大学は,桜島等をモデルケースとして,火山噴火事象系統樹及び火山活動の分岐論理を避難計画の立案・実施などの地域防災対策等に反映させる方策について検討する。
○ 大学は,地理空間情報を活用し,土地利用や人口,避難施設等の地域情報や住民の避難行動,災害関係の情報流通等を分析し,地域開発と災害に対する社会脆弱性との関係を明らかにする。
○ 気象庁は,技術の進展や社会要請を踏まえ,津波警報,緊急地震速報,長周期地震動,噴火警報,降灰予報等の防災情報の改善を行うことにより,最新の研究成果を共有・活用し,研究の推進に資する。

4.研究を推進するための体制の整備

観測研究の成果が防災・減災に効果的に役立たせるように,関連機関との連携の下に,適切な計画推進体制を整備する。長い時間スケールをもつ地震火山現象の理解とその予測研究に必要な,基盤となる観測網の維持・発展を進め,データを継続的に取得するとともに,膨大なデータを効率的に運用できる体制を検討する。そのためには,防災研究分野や行政機関との連携を強化し,本計画による成果が地震・火山災害の軽減に適切に利活用される筋道を作る。また,長い時間スケールで観測研究を実施できるように若手研究者・技術者の育成に努め,更に,社会に対して研究成果の普及と社会との交流を図る。観測事例を増やすために国際的な共同研究を推進するとともに,国際交流を進め,各国の防災研究に学び,幅広い知見を得る。

(1) 推進体制の整備

社会の中の科学としての観点から,地震・火山防災行政,自然災害研究の中で本計画がどのように貢献するべきかを十分に踏まえた上で計画を推進する体制を整備する。計画の推進のためには,進捗状況を把握,計画の達成度を評価,計画実施に関する問題点と今後の課題の整理を常に行う必要がある。また,各機関の実行計画に関する情報交換及び協力・連携方策の検討を行い,成果が効果的に利活用される仕組みを構築することも重要である。このようなことを実施し,計画を推進する体制を強化する。
◯ 地震・火山防災行政,防災研究全体の中で本計画がどのように貢献すべきかを十分に踏まえた上で実施計画を立案する。特に,地震調査研究推進本部(以下,地震本部)の策定する「総合的かつ基本的な施策」との整合性にも留意する。
○ 一方,学術的な地震・火山噴火災害研究関連組織との連携も強化する。本計画は,地震学と火山学を中核とし,防災学,工学,人文・社会科学の研究者が参加する複合分野として推進することから,その推進体制を一層強化する必要がある。そのためには,大学の地震・火山噴火予知研究協議会を中核とする研究推進体制の抜本的改革を目指した設計を,本計画の期間中に検討する。
○ 地震火山部会は,各年次の計画立案,進捗の把握,取りまとめを行い,毎年の研究成果を取りまとめて公表するとともに,3年次に計画全体の自己点検を行い,外部評価等を行う。また,計画進捗,成果について地震本部と情報交換し,地震調査研究計画全体との整合性を確認する。
○ 火山噴火予知連絡会は,火山活動の総合評価を実施し、噴火警報等への反映を通じて火山防災に資するとともに,研究成果・観測結果の情報交換,火山観測データの流通・共有の促進,臨時観測に関する総合的な調整,研究成果の社会への発信等を通じて,火山噴火予知研究の推進に寄与する。
○ 大学の地震・火山科学の共同利用・共同研究拠点と,自然災害の総合防災学の共同利用・共同研究拠点が協力し,全国の大学の研究者に対して本計画に関する研究を共同で公募するなど,複合学術領域である災害科学の発展を目指して,拠点間の連携を強化する。

(2) 研究基盤の開発・整備

日本全国に展開される地震観測網や地殻変動観測網などの観測基盤を維持するとともに,近年新たな観測研究成果が得られている海域や火口近傍などにおける観測体制を強化する。観測データ等の基礎的資料や構造モデルやソフトウエアを含む研究成果や,観測データの自動解析結果をデータベース化し,これらを共有することにより効率的に研究を進める。これらの観測網による大量の地震・火山観測データを効率的に流通させるためのシステムを構築する。また,関連機関が連携して効率的に臨時観測等を行うための体制を整える。海域や火山の火口近傍などの観測困難域において使用可能な観測機器開発を行うとともに,宇宙技術による地殻活動や地下状態のモニタリング技術の高度化をはかる。
ア. 観測基盤の整備
○ 防災科学技術研究所は,基盤的地震観測網について安定的な運用を継続するとともに,日本海溝海底地震津波観測網の整備・運用を行い,良質な観測データの取得・流通を図る。また,重点的に観測を強化すべき火山について観測施設の整備・運用を行う。これにより得られた観測データについては,全国の大学が運用する火山観測網のデータとの共有化を進める。
○ 大学は,全国の陸域及び海域に展開された地震・地殻変動・火山等の各種観測網から得られるデータをリアルタイムに流通させるシステムを運用し,超大容量・多項目データ流通のための通信方式等の開発を行う。
○ 気象庁は,地震津波情報を適切に発表するため全国に展開している地震計及び震度計,東海地域を中心に展開しているひずみ計等の観測を継続する。また,大学,防災科学技術研究所等関係機関の地震観測データを一元的に処理するとともに,処理結果を大学,関係機関に提供し,地震活動等の研究,評価に資する。
○ 国土地理院は,GNSS連続観測(GEONET)による地殻変動連続観測を継続的に実施し,南海トラフ巨大地震の想定震源域及び東海地域において地殻変動連続観測,絶対重力観測,及び水準測量を行う。また,局所的な地殻変動を詳しく捉えるために水準測量,GNSS測量,重力測量,自動測距・測角装置等による観測を行う。全国を網羅する密度での地磁気の連続観測と富士山中腹における全磁力の連続観測を行う。陸域技術衛星2号(ALOS-2)等を利用したSAR干渉解析を定期的に実施し,地震・火山活動等に関連する地殻変動情報を整備・更新する。
○ 気象庁,国土地理院及び海上保安庁は,潮位連続観測を継続し,地殻変動に伴う地盤の上下動を連続的に検知するとともに,津波発生時には津波の状況を即時的に公表する。また,国土交通省の関係機関が所有する潮位データを集約してリアルタイムで共有し,国土交通省防災情報提供センター等において引き続き公表する。
○ 国土地理院は,航空機SARにより全国の活動的な火山の火口等の地形測量を実施し,活発な噴火の際には地形変化を明らかにする。また,地殻活動が活発化した地域等においてGNSS火山変動リモート観測装置(REGMOS)による連続観測及び重力観測を行う。また,超長基線電波干渉法(VLBI)測量を実施し,国際地球基準座標系(ITRF)に基づいた位置基準を維持管理して,各観測局の位置情報の算出と日本列島の位置基準の高精度化を行う。
○ 気象庁は,火山噴火予知連絡会において選定された,火山防災のために監視・観測体制の充実等の必要な47火山について,監視観測を継続する。また,それ以外の火山も含め,火山活動に変化が生じた場合など,必要に応じて火山機動観測を実施し,関係機関の協力も得ながら,監視体制の強化を行う。さらに,地殻活動・火山活動を的確に検出するため地磁気の基準観測と,日本全域の全磁力分布の解析に資するための全磁力精密観測を継続する。
○ 海上保安庁は,海域火山において航空機や無人測量船等による機動的観測や人工衛星によるリモートセンシング技術を活用した観測を実施し,船舶の安全航行確保のため,必要に応じて迅速に航行警報等による情報提供を行う。また,DGPS局のデータを利用して地殻変動を検出する。さらに,プレート境界域等において海底変動地形等の調査を実施する。

イ. 地震火山現象のデータベースとデータ流通
○ 気象庁は,全国地震カタログを作成するとともに,定常的な発震機構解析及び大地震時の震源過程解析を実施し,それら成果の社会への還元を継続する。過去に遡った震源決定を行うとともに,大学等による検測値を取り込み,総合的な地震カタログの作成を継続する。
○ 国土地理院は地殻活動総合解析システムのデータベース(水準測量,GNSS連続観測(GEONET),潮位観測)を維持・更新するとともに,ユーザーインターフェースの改良や機能拡張を行う。また,監視・観測体制の充実等が必要とされた火山を対象に,火山防災に資する基礎的な地理空間情報を整備する。さらに,全国活断層帯情報(都市圏活断層図)を整備する。GNSSデータクリアリングハウスを維持管理し,GNSSデータの流通に寄与する。
○ 大学は,ひずみ・傾斜データ全国流通システムをGNSSデータ等にも拡張し,震源・津波・火山噴火の即時推定等に利用できるリアルタイム基盤データを整備する。また,機動的な臨時観測の多項目データをリアルタイムで流通,処理,管理するシステムを開発する。さらに,過去に取得した地震・地殻変動・電磁気,火山ガス等の観測データや,地震波速度構造モデルや解析ソフトウエアを含む本計画の研究成果をデータベース化し,計画参加者が共有できるシステムを構築する
○ 海上保安庁は,海域火山基礎情報図の作成を継続し,海域火山データベース等の高度化を図る。
○ 産業技術総合研究所は,地震・火山に関するデータベースを引き続き更新・運用する。アジア・太平洋地域の地震・火山災害情報に関するデータベースが,住民に利用されやすくするため,ワークショップの開催等により課題解決につとめる。
○ 気象庁は,地磁気基準観測及び全磁力精密観測の成果を引き続きデータベース化し,迅速に公開するとともに,国際的なデータセンターに提供する。

ウ. 観測・解析技術の開発
○ 大学は,海底に設置する広帯域地震計の高機能化と精度向上,海底面の上下変動や傾斜センサーの面的展開技術の実用化に向けた開発を行う。また,巨大地震の滑り域での観測を可能にする超深海域の測地観測の技術開発,定常的な海域観測網の高度化を進める。
○ 大学は,光技術等を利用し,地下深部の高温下において地震・地殻変動等を総合的に観測できる装置の開発を行う。また,稠密(ちゅうみつ)アレイ観測や臨時観測に利用できる小型のひずみセンサーの開発を行う。
○ 大学は,火山噴火の際に,噴火口撮影や火山ガスの採取,物理計測などを火口近傍において安全に実施するための技術開発を行う。火山浅部の構造を高分解能で得られる宇宙線(ミューオン)を利用した観測装置の開発を進める。また,人工衛星を利用したリアルタイム火山観測システムの高度化を進める。
○ 大学は,地震・噴火発生場におけるひずみの変化,地殻内流体の移動など,地震・噴火発生場の微小な時間的変化を捉えるための地震探査技術の開発を進める。
○ 海上保安庁及び大学は,GNSS-音響測距結合方式による海底地殻変動観測の一層の高度化を進め,従来よりも短時間で2~3センチメートルの繰り返し精度が得られるよう,効率的で安定した計測技術の開発を行う。
○ 国土地理院は,電子基準点観測データの誤差特性を総合的に分析する手法を開発し,GNSS連続観測網(GEONET)の地殻変動情報を高度化する。GPS以外の測位衛星への対応を進めるとともに,高速に進行する地殻変動の時間推移を精度良く推定する技術開発を行う。
○ 大学及び防災科学技術研究所は,宇宙航空研究開発機構と連携して航空機SARデータの高度利用による火山活動モニタリング手法の開発を行う。
○ 国土地理院は, GNSSデータを利用してSAR干渉画像内に含まれる電離圏の影響による誤差を低減する手法の開発を行う。複数のSAR画像を用いる干渉SAR時系列解析の技術開発を行い,地殻変動計測の精度向上をはかるとともに,鉛直成分だけでなく水平成分の地殻変動を推定する研究を行う。
○ 海洋研究開発機構は,大学,宇宙航空研究開発機構と連携して,海底地殻変動技術の開発,構築と運用,深海型のシステムの開発を行う。

(3) 関連研究分野との連携の強化

理学だけではなく工学,人文・社会科学等の関連研究分野との連携を図る。近代的な観測の行われた期間を超えた地震や火山噴火現象の理解と現象の予測を行うために,過去の事例を調査する歴史災害研究を行う。これらの観点から,地震・火山噴火災害軽減の課題を解決するための分野関連携の学際研究を進める仕組みを構築する。
○ 災害科学に貢献すべきであるという認識から,理学だけではなく工学,人文・社会科学等の関連研究分野との連携を図る。このために,実施計画の立案,実施,成果報告の各段階で,関係研究分野の研究者の参画の仕組みを構築する。
○ 東京大学地震研究所と京都大学防災研究所は,共同利用・共同研究拠点間の連携の下で協力し,本計画に関する共同研究を公募して実施する。また,その成果に基づき,複合領域としての地震・火山噴火に関する災害科学の発展を目指す。
○ 近代的な観測の行われた期間より長期間の地震や火山噴火現象の推移を理解して予測し,また歴史災害研究を行うために,歴史学との連携を強化する。歴史学・考古学と地震学・火山学・地質学の間での学際研究は,長期的な見通しをもって行われる必要がある。このため,過去の地震と噴火災害の史料・考古データを収集,集積し,地質データとともに分析するために必要な歴史災害研究を行う組織を設立して,研究者養成を行い,地震・火山噴火災害軽減との学際研究を推進する方策を検討する。
○ 大学は,日本史史料の研究資源化に関する研究拠点と共同研究を始める。考古学との連携は新しい分野であり,考古学的な地震・火山噴火痕跡の調査・分析の方法について領域を越えた議論を行い,そのデータ蓄積に着手する。

(4) 研究者・技術者・防災専門家教育

地震・火山噴火の発生予測の方法の構築とその検証のために,基礎学問分野だけでなく幅広い技術の習得を目指した、世代を超えた継続的な観測研究と人材育成を行う必要がある。さらに,地震・火山の専門教育を受けたものが防災・科学技術にかかる行政・企業・教育機関に携わる必要がある。このような観点から,複数の教育・防災業務機関が連携し,観測研究を生かした教育活動を継続して,若手研究者・技術者を育成する。
○ 数十年から数百年を超える時間スケールをもつ地震・火山現象の理解と,地震・火山噴火の発生予測の方法の構築とその検証を行うために,継続的な人材育成を行う。その際,物理学,化学などの基礎学問分野だけでなく,地学,歴史学,フィールド調査や数値計算技術等の幅広い技術の習得に留意する。
○ 地震・火山の専門教育を受けたものが防災行政に携わるために,複数の教育・業務機関が連携し,観測研究を生かした教育活動を継続して,若手研究者・技術者を育成する。
○ 毎年年度末に,成果報告会を開催して,地震予知研究,火山噴火予知研究の成果を地球科学の専門家の研究に資する情報を提供する。

(5) 社会との共通理解の醸成と災害教育

国民や行政担当者等に,防災・減災に関連する地震・火山現象の科学的知見や,現在の地震・火山の監視体制,予知や予測情報の現状を理解いただくため,関連機関が協力して,研究成果を社会に分かりやすく伝えるための取組を強化する。なお,その基礎として学校教育,社会教育などに,地震・火山噴火についての豊富で体系的な情報を,自然科学的知識のみでなく,防災学や災害史など人文・社会科学分野も含めて提供する仕組みが必要である。
○ 行政担当者や国民に,防災・減災に関連する地震・火山現象の科学的知見や,現在の地震・火山の監視体制,予知や予測情報の現状を知ってもらうため,関連機関が協力して,研究成果を社会に分かりやすく伝えるための取組を強化する。
○ 大学は,自治体の行政担当者や地域住民に公開講座や公開講義を実施しながら,地震・火山現象の科学的知見や監視体制,予測情報の現状を分かりやすく伝えるための仕組みをつくる。また,災害対策に必要な情報を火山情報に連動させて収集・統合させてリアルタイムで表示するシステムを利用し,地方自治体や住民に火山防災対策の重要性を認識してもらう。
○ 火山噴火予知連絡会は,本計画による噴火予知に関する火山学的成果を,社会に分かりやすく発信するとともに,噴火警報,火山情報の質の向上に向けた,技術的検討を行う。
○ 気象庁は,全国の気象台等において,専門家,関係機関,教育機関と連携し,防災担当者,国民,児童等に対して,監視体制等の現状,防災情報の利活用を含む,地震・火山の防災知識の普及啓発を推進する。
○ 地震予知連絡会は,議事公開,重点検討課題等の検討内容のWeb配信などを通じて,モニタリングによる地殻活動の理解の状況,関連する観測研究の現状を社会に伝える。また,地震活動の予測手法の現状を報告,検討することで,地震発生の予知予測に関する研究の現状を社会に伝える。

(6) 国際共同研究・国際協力

地球規模で発生する地震・津波,火山噴火災害を,国際的な防災・研究機関と連携して研究する取組を強化する。日本だけでなく海外の他の地域の事例を研究する国際的な共同研究を行う仕組みを整備して国際交流を進め,各国の防災研究に学び,幅広い知見を得ることによって低頻度の災害とその誘因の研究を行う。さらに,開発途上国における地震・火山噴火災害の防止・軽減に国際貢献するための体制の維持・整備を行う。
○ 低頻度の災害とその誘因の研究をするために,国際的な共同研究によって海外の他の地域の事例を研究する。同時に,災害の軽減という観点から,本計画の成果を外国,特にアジアの諸国の地震・津波,火山災害の軽減に役立ててもらう取組を行う。大学及び海洋研究開発機構は,プレート境界浅部で発生するゆっくり滑りの発生メカニズムの解明を目指して,同様の現象が見られる海外の沈み込み帯において国際共同研究を継続的に実施する。
○ 気象庁は,国際地震センター,米国地質調査所,包括的核実験禁止条約機構,米国大学間地震学研究連合(IRIS)及び近隣国との地震観測データの交換を継続するとともに,組織的な連携・協力を行う。また,航空路火山灰情報センター及び北西太平洋津波情報センターの業務を引き続き行う。さらに,開発途上国における地震・火山の観測体制や,津波の警報体制の整備に対して技術的な支援を行う。
○ 国土地理院は,アジア太平洋地域(キリバス,インドネシア,フィリピン)におけるGNSS観測を継続して,現地機関への技術移転を行うとともに,これらの地域で発生する主な地震・火山噴火等に関連する地殻変動の検出をSAR干渉解析により行う。
○ 海上保安庁は,国際レーザー測距事業(ILRS)に参加し,レーザー測距データの提供を継続することにより,日本周辺のプレート運動を把握する。 
○ 大学は,中国史料を中心に東アジアにおける地震・火山噴火災害史料のデータを集積・研究するなど,東アジア及び世界の地震・火山災害に関する共同研究を進める。

お問合せ先

研究開発局地震・防災研究課

(研究開発局地震・防災研究課)