資料2-1 ロードマップ対案―1

(災害科学としての取組)

○ 地震・火山噴火による災害を軽減するためには,(1)理学,工学,人文・社会科学等の複合領域である災害科学の視点から,地震や火山噴火が引き起こす災害がどのようなものがあるかを,国民や関係機関に広く知らせること,(2)地震や火山噴火が,どこで,どのくらいの頻度・規模で発生するか,また,それらによる地震動,津波,噴火様式等を予測し,長期的な防災・減災対策の基礎とすること,(3) 地震や火山噴火の発生,それに伴う地震動や津波,火砕流や降灰,溶岩流などの災害誘因を直前に予測することにより避難に役立てること,(4)不確実性を含む予測情報であっても防災・減災に活用すること,などが必要である。地震と火山噴火に関する災害軽減に取り組む際に,上記(1),(4)は共通点が多いものの,(2),(3)についてはそれぞれの現象や生起される災害の時空間スケールやその対策が異なる。そこで,地震と火山噴火による災害誘因の予測を有効に実施するために,それぞれ次のように取り組む。
(地震・津波による災害誘因予測のロードマップ)
○ 長期的な防災・減災対策には,どのような地震が,どこで,どのくらいの頻度で発生するかを理解することが必要である。その上で,地域ごとに,地震の規模や頻度の長期評価を行い,これに基づいて地震動や津波を予測することが有用である。避難に役立つのは,地震発生後の地震動・津波の即時予測であり,また,地震発生の短期予測である。
○ 地震による災害を軽減のために実現すべきことを四つの段階に整理すると以下のようになる。
段階1: 地震の発生頻度や地震動,津波による災害を理解して,災害に備える。
段階2: 地震の長期評価及び事前の地震動・津波の予測により,災害誘因を定量的に評価し,これに基づき対策を講じる。
段階3: 地震動・津波の即時予測により避難のための情報を提供する。
段階4: 地震発生の短期予測により,地震発生前に避難等の対応を行う。
ここでは段階で整理したが,1から4まで直線的に進むものではないが,後の段階のものほど,地震についての詳細な理解や高い技術が必要となる。四つの段階全てについて,地震に関する理解や技術の進展は災害軽減に貢献できる。段階1,段階2,段階3は現在も行われているが,改善すべき点は多い。段階4に関しては,東海地震を対象に体制が取られているが,短期予測成功の見通しがはっきりしているわけではない。段階1については,地震に関係する様々な分野の研究から明らかになった地震災害についての知見を,国民に理解してもらうことが重要である。段階2,3については,研究成果を適切に利用していけば予測の精度は着実に向上していくことが見込まれるが,段階4については長期的な取組が必要である。
○ 段階2の地震の長期評価では,歴史学,地質学の成果を活用し長期的な地震の繰り返し特性を理解すること,地殻活動データをくまなく観測するための観測網を整備し,ひずみ蓄積を把握すること,理論的な研究等により繰り返し間隔や規模の揺らぎの原因を明らかにすることが必要である。地震動・津波の事前予測では,長期評価の結果とともに,震源特性や地震波・津波の伝播特性についての理解の進展を利用する。
○ 段階3の即時予測は,地震発生時の避難への効果は大きいため,早急に取り組むべき課題である。観測データから,いち早く,より正確に,発生した地震の震源特性や津波の特性を推定するための技術を開発し,予測精度の向上のために,即時推定に適した観測を行う。
○ 段階4の短期予測については,断層摩擦滑りの物理モデルと観測データを総合して,地震を含めた断層滑りの時空間発展を予測する研究を進め,また,多様な観測で得られる大地震の先行現象に基づく経験則を利用し,これに基づく地震発生予測のための研究を行う。
○ 現時点での地震についての理解や技術で,国民の生命を守るうえで効果的なのは,段階3の地震動や津波の即時予測であり,その精度向上のための研究は当面の重要な課題である。また,段階2の地震の長期評価では,史料や考古学に基づく地震の繰り返し特性の解明を南海トラフや首都圏などを中心に進めることにより,より信頼性の高い予測を実現するための研究を重視する。地震の短期予測は挑戦的な課題であるが,これを実現するためには大地震の先行現象の研究は不可欠である。これについての研究はやや手薄であったため,今後強化する。この5か年では上記の点に力を注ぐ。

(火山噴火による災害誘因予測のロードマップ)

○ 火山噴火災害の軽減の基本は,噴火発生前の住民避難である。また,災害を知り,事前に防災・減災施策を実行できる体制を整備することである。そのため,過去や現在の活動を評価し,噴火活動の可能性の高い火山を把握すること,火山を常時観測し,火山噴火の時期,場所,規模,様式とその推移を予測し,その結果を適切な避難行動や防災・減災対策に結び付けることが重要である。
○ 火山噴火災害予知については,以下の四つの発展段階がある。
段階1:災害科学の視点から,火山噴火による災害をあらかじめ理解して,噴火履歴や災害特性が明らかになる。
段階2:観測により,火山活動の異常を捉えることができる。
段階3:観測や物質分析により,火山活動の異常の原因が分かる。
段階4:火山現象を支配する物理・化学法則や火山学的知見を基に,観測結果を当てはめて将来の予測ができる。
わが国には110の活火山があるが,火山近傍に観測点の整備されている火山の多くは段階2,多項目で稠密(ちゅうみつ)な観測が行われている火山で段階3にある。過去の噴火活動の知見が十分あり,適切な観測体制が整備されている火山では,噴火時期の予測成功例はあるものの,噴火規模・様式,その推移の予測ができる段階4に達していない。火山噴火予測を段階4にまで引き上げるためには,火山観測網の整備と噴火事例の積み重ね,基礎研究の推進が必要である。火山噴火災害予知は,段階1の研究成果や調査を随時取り入れ,必要な観測体制を整備し,おおむね,段階1から4へ進展する。
○ 関係機関の努力により火山観測網は整備されてきたが,観測項目や観測点数は十分ではない。予想される災害を考慮しながら,今後も着実に火山観測網の強化に取り組む必要がある。
○ 噴火事例の積み重ねは,静穏時の火山活動の把握,火山活動の活発化時における観測研究の強化などにより進める。また,低頻度大規模噴火や国外で発生する噴火現象も研究の対象とし,多様な噴火の事例を集積する。
○ 基礎研究については,マグマの蓄積から上昇,噴火の発生,噴火活動様式の変化に関して,観測,火山噴出物の分析,地質調査を行う。理論・実験研究等の成果も踏まえ,火山活動や噴火現象に関する物理・化学過程の解明を進める。
○ これらの基礎研究の成果は,過去の噴火履歴と火山学的知見を加味した高度な噴火事象系統樹にまとめる。これにより,俯瞰(ふかん)的に火山活動を把握し,災害予測に利用する。噴火事象系統樹は,噴火発生や活動様式の変化を示す分岐点を示している。観測データと事象分岐の関係を明らかにし,引き続き発生する噴火現象の判定方法として活用し,噴火予測を実践的に行うための基礎を構築する。また,降灰や噴石,火砕流や溶岩流などの時空間発展を精度よく予測する方法を開発し,災害予測に役立てる。
○ 火山観測体制の着実な整備を実施することにより,段階2は達成することができる。活動度の高い火山においては,多項目稠密(ちゅうみつ)観測の実施を進めることにより,段階3に到達することは期待できる。また,静穏期や噴火準備期,噴火活動期,噴火終息期において,観測研究や地質調査,理論・実験研究等を着実に進めることで,段階4を目指す。全ての火山現象について段階4に到達することは容易ではないが,より詳細で正確な噴火事象系統樹を作成するとともに,既に実践されている火山性地震の活動による噴火判定ように,事象分岐の判定方法を構築することで災害軽減を目指す。今後5か年には,噴火事象系統樹の作成を基に事象分岐点を抽出し,事象分岐機構を系統的にまとめることができるであろう。また,幾つかの災害発生に重要な事象分岐点において,観測データの特徴,理論・実験研究の成果,過去の事例等から,予測可能性の検証を進める。さらに,噴火事象系統樹作成や事象分岐の判定法の構築の課題を明らかにすることを目指す。このような研究を継続的に進め,観測研究等の基礎研究の成果を随時取り入れ,より高度な噴火事象系統樹の作成と,事象分岐点の判定方法の構築を進め,噴火予知技術の高度化を進める。

お問合せ先

研究開発局地震・防災研究課

(研究開発局地震・防災研究課)