資料4 計画の基本的方針 案

平成25年4月15日
測地学分科会地震火山部会
次期研究計画検討委員会

1 地震・火山現象の解明のための研究

 地震発生や火山噴火を予知・予測するためには,これまでの地震や火山噴火がどのように発生に至ったかを解明しなければならない。また,地震・火山現象がどのような物理・化学過程によるものかを理解することも重要である。このために,歴史学や地質学から得られる知見も含め総合的に地震・火山現象の理解を進めるとともに,観測,実験,理論的研究を総合し,地震火山発生場や地震発生・火山噴火過程のモデル化の研究を行う。

(1)地震・火山現象に関する史料・考古・地質データの収集と整理

 歴史地震・噴火に関わる史料データのデータベース化と校訂・解釈作業を進める。その際,広い意味での災害史データにも目を配って史料の新たな蒐集(しゅうしゅう)を強化する。地震・噴火災害の考古データは,相対的に整備の遅れている研究基盤であり,データベース化に留意しつつ蒐集(しゅうしゅう)を強化する。さらに,地震・噴火現象に関係する地質データの調査・分析を進める。

(2)低頻度大規模地震・火山現象の解明

 文献史料,考古学的な発掘痕跡,地質調査データなど歴史地震に関する諸データと近代的な観測データを対比・統合することによって,歴史時代における地震・噴火・津波の個別的な具体像を明らかにする。大規模地震や火山噴火について,日本国外で発生したものも含め,主に近代的観測データの解析に基づき発生機構を解明する。特に,2011年東北地方太平洋沖地震については,その発生機構や津波励起過程,余効活動の解明を進める。

(3)地震・火山噴火発生場の解明

 地震の震源過程,非地震性滑り過程,構造等の調査や岩石実験,数値シミュレーションにより,プレート境界地震発生に影響を与えるプレート境界の摩擦特性や応力の不均一性を解明する。海洋プレート内部の構造や応力場を明らかにし,アウターライズ地震やスラブ内地震の発生機構を解明する。地殻内の非弾性変形,流体の存在,複数断層の相互作用等に着目し,各種観測データや岩石実験等を利用して,内陸断層への応力集中機構を調べ,内陸地震発生の物理モデル構築を進める。また,火山体及びその周辺構造と応力状態の調査を行い,火山噴火機構や噴火と地震の相互作用を解明する。以上の研究では,東北地方太平洋沖地震及びその余効変動による大きな応力場の擾乱(じょうらん)を利用して,地殻の変形特性や応力状態を理解し,これらが地震活動,火山噴火に及ぼす影響を評価する。

(4)地震発生モデルの構築

 これまでのプレート境界面形状,地震波速度等の構造推定結果を収集,評価し,多くの研究者が利用できる,現時点での標準的な構造モデルを構築する。この構造モデルと断層の摩擦構成則等を組み合わせることにより,プレート境界や断層の破壊・滑り過程の数値シミュレーションを行うための物理モデルを構築する。

(5)火山現象の定量化とモデル化

 大規模の災害を引き起こすマグマ噴火や,火口付近での人的被害が懸念される水蒸気爆発,強い噴気や火山ガスの噴出を予測するため,火口近傍や山麓,火山周辺において,地球物理学的手法や物質科学的手法に基づいた多項目観測を実施する。これらの観測データを基に,前兆現象の検知と火山現象の定量化を行う。火山の性質や噴火様式に着目し,複数の火山のデータ解析の結果を比較検討するとともに,理論・実験研究の成果を取り入れ,マグマ噴火の時空間発展や噴火活動の分岐に重要な物理化学過程の解明を進める。

2 地震発生・火山噴火の予測のための研究

 地震や火山噴火現象の科学的理解を基に,その発生や活動を予測する研究を実施する。直前の予測だけでなく長期的な時間スケールについて,物理モデルや歴史学的・地質学的データに基づいた予測方法の構築を進める。

(1)地震発生長期評価手法の高度化

 史料・考古・地質データと近年の観測データと統合することによって地震の繰り返し特性を明らかにし,地震の長期評価に活用する。また,プレート境界の固着状態の推定などの観測結果,物理モデルを用いた数値シミュレーション等を地震発生長期評価に活用する方法を検討する。

(2)モニタリングデータによる地殻活動の理解と予測

 地震活動データや測地データ等から,応力場などの地殻内の変動を推定し,地震・火山現象に及ぼす影響を評価する。物理モデルに基づく数値シミュレーションと観測データを比較することにより,地殻内で起こっている現象を定量的に理解し,予測する手法を開発する。統計モデルに基づく地震活動評価により,地震活動予測実験を行い,その予測性能を統計的に評価する。

(3)地震先行現象に基づく予測

 これまでに報告されている多くの地震先行現象について,現象と地震との関係の有意性の統計的評価や物理機構の研究を行う。

(4)火山噴火事象系統樹の高度化

 防災施策の立案や噴火活動の俯瞰(ふかん)的理解のために,歴史記録や近年の噴火活動,最新の地質学的調査結果が十分得られ,火山災害の懸念される火山について,噴火の先行現象から噴火終息まで,可能性のある火山活動や噴火現象の時系列を噴火事象系統樹としてまとめる。

(5)火山噴火の発生・分岐条件

 静穏期からの火山噴火の発生,噴火発生後の噴火様式や規模の急激な変化による被害を軽減するため,現在の火山学的知見及び本研究計画から得られる成果に基づいて,多項目の観測データと噴火現象の分岐の関係を明らかにする。災害誘因として重要な噴火現象の分岐も系統的に整理し,現状の噴火予知技術の分析評価とともに,重点的に研究を進める分岐現象をまとめる。

3 地震発生・火山噴火による災害誘因の予測のための研究

 地震・火山現象が,どのように災害誘因となって周囲に波及するかを理解することは,地震や火山噴火がどのような災害に結びつくかを解明するために必要である。地震発生・火山噴火による「災害の誘因」を「災害の素因である自然・社会環境の脆弱性(ぜいじゃくせい)」との関わりから捉え,被害の低減を図るために,災害発生機構を解明する。地震や火山噴火に伴う強震動,津波,溶岩流,噴煙,地滑り等を事前に,また即時に予測する手法を改良する。

(1)災害発生機構の素因と誘因

 地震発生・火山噴火という自然力が「地形・地盤・海水等」に作用することで発生する災害現象を捉え,自然力の「自然素因に対する波及効果」を解明する。また,地震発生・火山噴火が引き起こす災害現象が「人間,社会基盤を含む社会ストック・フローに及ぼす損傷・破壊・途絶」といった直接的な社会素因への作用を解明し,被害低減や復旧に資するための「誘因」研究を行う。さらに,地震発生・火山噴火が引き起こす災害現象が「生活,都市/まち,経済機能に及ぼす被害拡大・社会混乱」といった間接的な社会影響素因への作用を解明し,被害軽減や復興に資するための「誘因」研究を行う。

(2)事前予測手法の先駆的研究

 震源断層,断層破壊過程の推定や伝播過程の計算手法改良等により,強震動と津波の事前予測手法の高度化を行う。火山噴火や山体崩壊による津波についても検討する。また,甚大な被害を及ぼす強震動や火山噴火に伴って発生する地滑り現象の発生ポテンシャル評価と事前予測手法の高度化を行う。

(3)即時予測手法の先駆的研究

 地震発生後の地震波や津波等の観測データから震源特性を速やかに推定することにより,強震動と津波の即時予測手法の高度化を行う。火山噴火や山体崩壊についても,それらの特性を即時推定することにより津波予測する手法を検討する。また,ドップラーレーダーや衛星技術を利用した火山噴煙の監視技術の向上と,数値シミュレーションによる噴煙の拡散予測や溶岩流予測の高度化を図る。

(4)地震・火山災害事例の研究

 強震動・大規模噴火などの災害誘因が,地形・地盤など災害の自然素因のみでなく,建造物や諸施設の脆弱性(ぜいじゃくせい)などの社会素因とどう結びついて災害を現出させたかを,歴史地震・噴火・津波などの場合を含め長期的視野をもって明らかにする。歴史記録に基づき地震・火山災害の特性や地域性を明らかにし,データベース化を図るとともに,地震 ・火山噴火による災害と社会環境の関係を明らかにする。

(5)災害情報発信方法の高度化

 地震発生・火山噴火の予知・予測は,現段階ではデータの総合的判断に基づくことが多く,決定論的あるいは確率付与した情報を発信することは難しい。このような不確実な予測情報を災害軽減に有効に役立てるための方法を開発する。

4 体制の整備

 長い時間スケールをもつ地震火山現象の理解とその予測には,基盤となる観測網の維持・発展を進め,データを継続的に取得するとともに,膨大なデータの効率的運用が重要である。観測事例を増やすために,国際的な共同研究を推進するとともに,長い時間スケールで研究を実施できるよう若手研究者の育成に努める。また,多様な災害を軽減するためには,防災研究分野との連携を強化し,多面的に課題に取り組むことが必要である。

(1)研究基盤の整備

 本計画で得られる観測データ等の基礎的資料や構造モデルやソフトウエアを含む研究成果をデータベース化し,これらを共有することにより効率的に研究を進める。基礎データを蓄積するだけでなく,取得したデータを自動解析することにより,解析結果を自動的にアップデートするシステムを構築する。日本全国に展開される地震観測網や地殻変動観測点などの観測基盤を維持するとともに,超大容量の地震・火山観測データを効率的に流通するためのシステムを構築する。海域や火山の噴火火口近傍,深部高温領域などの観測フロンティア領域(観測困難域)において,安定したデータを取得するための機器開発を行うとともに,地下状態のモニタリング手法や宇宙技術による地殻変動モニタリング等の技術の高度化を行う。

(2)教育及び社会への対応

 地震・火山現象は数十年から数百年を超える時間スケールをもつ。そのため,地震・火山噴火の発生予測の方法の構築とその検証には,継続的な観測研究と人材育成が不可欠である。また,物理学,化学,地質学,歴史学などの基礎学問分野だけでなく,フィールド調査や数値計算技術等の幅広い技術の習得が必要である。このような観点から,複数の機関が連携し,観測研究を生かした教育活動を継続して,若手研究者を育成することが必要である。また,防災担当者や国民に,防災・減災に関連する地震・火山現象の科学的知見や,現在の地震・火山の監視体制,予知や予測情報の現状を知ってもらうため,関連機関が協力して,研究成果を社会に分かりやすく伝えるための取り組みを強化する。

(3)関連研究分野との連携の強化

 地震・火山現象の理解や予測の研究を進めるために,関連研究分野との連携を進める。研究成果が防災・減災に利用されるように,研究立案段階から関連研究者の意見を参考にするなど,防災研究分野との組織的な連携を強化する。

(4)国際共同研究・国際協力

 地震・火山の現象理解及びその予測方法の構築では,観測事例を積み上げることが不可欠である。国内ばかりでなく,国際的な共同研究の枠組みを利用し,世界各地で発生する地震・火山現象を調査研究する。また,災害軽減は世界共通の課題であり,我が国で得られる知見を分かりやすい形で公表する。

お問合せ先

研究開発局地震・防災研究課

(研究開発局地震・防災研究課)