資料2 これまでの成果と今後の展望 案

平成25年4月15日
測地学分科会地震火山部会
次期研究計画検討委員会 

これまでの成果

今後の展望

 昭和40年より始まる地震予知に関する研究計画及び昭和49年より始まる噴火予知に関する研究計画は,地震火山現象に関する我々の科学的知見を大幅に増やし,また,地震発生や火山噴火の状況を把握することを可能にした。一方,地震予知研究計画が目指してきた地震発生の直前予知はいまもなお実現できず,火山噴火の発生時期の予測はある程度可能となったものの,規模や様式,推移の予測については多くの課題が残っている。
 地震火山災害は,災害の元となる誘因(地震,火山噴火及び津波などそれに伴う諸現象)と,被害を起こす元となる素因(自然・社会環境の脆弱性(ぜいじゃくせい))の組み合わせや相互作用によって,引き起こされる。従って,国民の命や財産を守るためには,地震発生や火山噴火活動の予測は一つの重要な要素ではあるが,現在の予知研究の進捗状況を考えると,これまでに築き上げた科学的知見やデータ解析技術の中で,高度な現代社会の要望にできる限り答えられるよう,実用科学の視点をもった研究も進めることが重要であろう。これには,継続的な観測網の維持整備と最新の技術を取り入れた更新,基礎研究の推進が不可欠である。また,地震発生や火山現象の発生頻度や多様性を考慮し,一つのモデルやシナリオに依存しないよう,多面的な方法論やモデルにより研究を推進していくことが必要である。

(地震予知・火山噴火予知の統合的研究)

 我が国は,海洋プレートが地下に沈み込む環境にあるため力学的・化学的に不安定となり,地震や火山噴火が頻発する。地震予知と火山噴火予知の実現には,その発生場である地殻・上部マントルの構造不均質や応力場の理解を深め,地震や火山噴火の発生との関係を明らかにする研究を進める必要がある。特に,2011年東北地方太平洋沖地震の発生により,日本列島及びその周辺域の応力場は大きく変化した。プレート境界の大地震はしばしば続発し,内陸地震や火山噴火を誘発することはよく知られている。また,火山活動の活発化に伴い,周辺で大地震が発生する。地震発生及び火山活動の相互作用の研究を推進するとともに,地震発生域と火山分布域が重なる我が国では,両者を考慮した適切な防災・減災対策につなげていくための方策の検討が必要である。

(地震予知研究)

 現行計画では,地震の発生とその準備過程を理解し,モデル化に基づいて予測シミュレーションモデルとモニタリングを総合化したものとして「総合予測システム」を構築し,「地震がいつ,どこで,どの程度の規模で発生するか」を定量的に予測することにより,防災・減災に役立てることを地震予知研究の目標としている。また,現行計画以前の研究により地震の発生場所と規模の予測には一定の見通しが得られ,発生時期の予測が最大に課題とされた。
 2011年東北地方太平洋沖地震の発生は,巨大地震についての理解が不足しており,地震の発生場所と規模の予測のために更なる研究が必要であることを示した。特に,発生間隔が長い巨大地震に関しては,その繰り返しの性質を近代的な観測データだけから十分に理解することは不可能である。これまでにも,歴史学や地質学から得られる知見を利用して過去の大地震を調べる研究は行われてきたが,今後,これらの研究を強化することにより,発生間隔や規模のばらつきを含めた大地震の繰り返しの性質を明らかにすることは重要である。
 シミュレーションモデルとモニタリングを総合して,地震を含めたプレート境界滑りの時空間発展の定量的予測を目指す研究は依然として重要ではあるが,現在の地震発生に関する理解のレベルを考えると,これまでに得られていなかったデータを取得し,地震予知のために様々な手法を試みることが重要である。大地震発生に至る過程で観測される多様な現象については,過去のものを含め観測データを整理し,これを利用して地震予知に結びつけるための研究は行うべきである。
 東北地方太平洋沖地震の発生により広域応力場が変化し,地震活動にも影響を及ぼしている。今後も,関連した大地震が発生する可能性は大きい。活動度が高いこの時期に重点的に研究を進めることは重要であり,内陸地震発生場の理解を進め,内陸地震発生の物理モデル構築を目指すべきである。海溝型地震に関しては,発生が予想されている南海トラフの巨大地震を対象とする研究が重要なことは言うまでもないが,東北地方太平洋沖地震の震源域に隣接した地域での巨大地震やプレート内地震の研究も現在では特に重要である。
 地震発生の予知・予測の研究を進めるとともに,地震発生による災害を軽減するために,地震による強震動や津波の研究や,これがどのような災害を引き起こすかを明らかにする研究は重要である。地震による災害軽減のためには,多くの関連分野の研究者が連携して研究を進め,これに立ち向かう必要がある。

(火山噴火予知研究)

 火山噴火予知研究の目標は,噴火の時期,場所,規模,様式及び推移を予測し,噴火発生や噴火活動の活発化に先行して,適切に地域住民を安全な地域に避難させることである。このため,火山活動や噴火活動を適切に予測することが不可欠である。噴火予知の発展段階は大きく三つに分けられる。

  • 段階1
    観測により,火山活動の異常が検出できる。
  • 段階2
    観測と経験則により,異常の原因が推定できる。
  • 段階3
    現象を支配する物理法則が明らかにされており,観測結果を当てはめて,将来の予測ができる。

 現在,十分な観測がなされている火山の多くは段階1にある。活動的で数多くの噴火履歴があり,多項目観測や各種調査が実施されている幾つかの火山でも段階2にとどまっていると考えられる。各火山の噴火予知の段階を段階3にまで向上するためには,噴火事例の検証と積み重ね,更なる観測網の整備とともに,基礎研究の推進が求められている。
 火山監視の強化はこれまで着実に進んでいるが,気象庁が連続観測を実施している火山が我が国の110活火山のうち,まだほぼ半数の47の火山にとどまっている。これらの火山でも,観測点数や観測項目が十分でないものが多い。段階1あるいは2のレベルに到達するには,地球物理学的観測のみならず,噴火推移を予測するために重要な,物質科学的調査体制の構築など火山監視観測網の強化に取り組む必要がある。
 大学や研究機関等による観測研究は,火山噴火の可能性の高い地域や,噴火様式や規模等に着目した比較観測研究を実施することによって,マグマ供給系を含む地下構造の状態や時間変化を把握し,マグマ上昇・蓄積過程や爆発的噴火過程の解明,噴火の推移と多様性を理解する必要がある。大規模噴火については,地質学的調査に基づくマグマ活動の把握や史料解読等を進め,中長期予測の高度化や前兆現象の把握を行う必要がある。噴火事例を集めて経験則を明らかにするだけでなく,複雑な火山噴火現象に潜む共通の法則を解明することが重要である。理論及び実験研究と連携し,適用範囲が広く,信頼性の高い予測方法の構築につなげることが求められる。
 起こり得る火山噴火活動の全体像を把握することは,防災施策の立案や火山活動の現状評価にも有用である。予測される噴火の前兆現象や活動推移を網羅した噴火シナリオを,科学的データに基づいて作成することが必要である。また,観測データと,火山活動や噴火事象との関連性を系統的に明らかにすることにより,火山監視に役立てることができる。
 火山災害の軽減には,事前の予測に基づく住民の避難が第一である。得られる研究成果を生かすためには,研究の現状とともに,これまで国内外で起きた噴火事例やその災害を国民に丁寧に説明することが不可欠で,それにより実効性のある防災が可能となる。

(計画推進のための体制)

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研究開発局地震・防災研究課

(研究開発局地震・防災研究課)