久家 慶子 臨時委員

次期計画の構成等について

 測地学分科会の方針(別紙2)に,基本的に同意している。これらの方針が実現できるならばよいと考える。従って,今後重要になっていくことは,これらの方針をいかにして実現するかという問題であると私は考えている。

 上記の方針を実現するために,計画の中での予知・予測の位置づけと役割,重みについては,現実的に,よく検討していただくべきだと考える。なぜならば,方針を根本の前提にするならば,予知・予測は単なる一手段であり,予知・予測がすべてではないと私は考える。地震の予知・予測ではない,新しい知識の探究や技術の開発などによってなされる貢献も,念頭においてよいと私は思う。もし予知・予測を計画の中核(あるいは大半)にそえるのであれば,長期的,短期的にどのような予知・予測をするのかを,達成点が測れるように明確に示すこと,また,それをどのようにどの程度に実社会に役立てるのか,具体的なシナリオも示しておくことが必要と考える。ふつうの人が考える予知は,近未来無理である。完全でない予知・予測でできることは何なのか,完全ではない予知・予測を防災・減災にどのように役立てるのか,目安を提示する必要があると思う。一方で,新しい知識の探究や技術の開発についても,目標や焦点をはっきりするべきであるとも考える。

 兵庫県南部地震のあと,経験的手法ではなく,物理・化学的なモデルの構築を基礎にして,何回かの計画を繰り返してきた。これまでの何度かの計画でも,その実績として予知を試みようというような内容が計画の中に挙げられてきたが,達成(あるいは実施)にいたってこなかった(と私は思っている)。このようなことの繰り返しはもはや問題で,ありえないと考える。

 見直し建議の準備や外部評価の過程をとおして,地震本部がすることとの違いや,この計画の存在する意義が,ふつうには非常に理解しがたいことを痛感した。地震本部ではなく,この計画だから何をできるのか,何が期待できるのか,それをしっかりと検討して中核にそえるべきではあると思う。

 

地震・火山噴火予知研究協議会WGによるたたき台(案)について

 たたき台(案)の構成をみたときに,言葉は悪いが,懲りてないという印象をもった。これまでの計画で,地球で起こってきたことやそれを知らせる微弱なヒントを真摯に受け入れられなかったことが,問題のひとつであった。たたき台(案)の構成には,モデルという語が頻出する一方,観測という語は1つしかない。たたき台(案)は,これまでの計画以上に,研究者がモデル(しかも標準モデルという固定的なものらしい)という枠組みで計画を打ち出していくと読める。それでよいのか。観測や過去の事実を丁寧に調査することがベースで,あくまでもモデルはその上にできるものではないか。観測や過去の事実を丁寧に調査することを重要視し,また,それが見える構成にした方がよいと思う。

  「標準モデル」は何をもって標準というのか,きわめてあいまいな言葉である。そもそも標準などあるのか。もし「標準モデル」というものを目指すならば,明確に定義してほしい。

 史料と地質データの調査は確かに重要であるが,一方で,データの精度や解釈などで,それらデータのあいまいさは大きい。このようなあいまいなデータを,どのように,モデルのどの部分に組み込んでいくのかも,重要な課題に思える。この意味で,1.3は,1.2と1.1をいかに結び付けるかの連結としての役割ももたせたらよいと感じる。「史料と地質データに基づく地震シナリオの構築」という言葉は,これらのデータだけで地震のシナリオをつくると読み取れるが,本当に可能なのか(めどがあるのか)。

 項目2.は,項目名と,5ページの上に書かれた項目の内容とが,乖離している。項目の内容としては,5ページに書かれた内容は理にかなっていると思える。適切な項目名に変更をするべき。

 項目1と項目2の違いが,明確にみえない。対比をはっきりとした方がよい。例えば,「物理モデルが不明確な地震先行現象」とあるが,「1の物理モデルから説明できていない地震先行現象」とか。

 2.3.1に唐突に「東北地方太平洋沖地震」が登場する。「プレート境界大地震の地殻応答」ではないのか。一方で,「東北地表太平洋沖地震」およびそれにかかわる現象の理解を,計画の中でどのように位置づけるかを,たたき台(案)の項目では読み取れない。現状認識についての「東北地方太平洋沖地震」の重要性も意識して,どこかで明確にするべきではないか。それとも,もう十分理解できたとの判断なのか。

 項目1のモデルのレールが適当なのか,常に評価していくシステム(仕組)が(小)項目としてつくれるとよいと思う。項目2を,項目1と対立的にするような設定にするのも方法のひとつと思う。

 5ページ中ほどに書かれた「地震学を防災・減災に役立てる手段は,地震の予知・予測だけではない。」というスタンスに,私は賛成する。また,たたき台(案)に項目3.がたてられたことも,この理由で評価する。

 先に書いたように,私は,測地学分科会の方針(別紙2)が実現できる計画がよいと考えている。しかし,たたき台(案)は,方針の各項目をどのように実現していくかを示すものにはなっていない。

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