たたき台(案)については,基本的に妥当と考える。2011年東北地方太平洋沖地震発生で減災に貢献できなかったとする大きな課題だけでなく,現行計画の成果・到達点を基盤とし,発展させた案である点で評価できる。社会的な要請に具体的に答えるという視点から,現象の予測の実現に取り組む位置付けが明確に示され,場の理解の研究が重点的に行われてきた現行計画との違いが示されている。その一方で,構築されたモデルの修正や信頼性の向上には,従来から実施されてきた場の理解を進展させる観測研究についても継続的な推進及び高度化が不可欠と考えられる。たたき台(案)において,現象の理解の深化という項目建てで示されていることで,一定の位置づけがされている。ただし,全体的に予測やモデル化の比重が大きく,次期計画においては観測研究への比重がかなり小さくなる感じを受けることも否めない。すぐには予測に結びつかないかもしれないが,未知の現象を捕捉し,新たな知見が得られる可能性もあり,一定の考慮が必要であろう。また,南西諸島域のように,地理的社会的条件から,予測に資する精度の構造モデルが得られてない領域も残っている。これらの点については,「2.1.2 物理モデルが不明確な地震先行現象」には含まれないと思われるので,検討を要するのでは無いかと考える。また,たたき台案の「2.3.1 東北地方太平洋域地震の地殻応答」が項目建てされたことは,現行計画と次期計画において,現時点でのみ取り組める研究課題で積極的に推進すべきと考えられるので評価できる。同様に,低頻度大規模噴火についても,東北地方太平洋沖地震の発生で社会が巨大災害に直面した今,社会に向けた発信を始めるべき事項と考えられる。巨大カルデラ噴火等の予測に向けた研究の推進が極めて困難な場合は,社会への対応の一部として知識の普及から着手することも考えられる。
研究体制としては,現行計画で物理モデルによる予測研究と場の理解の深化に係る観測研究との連携は不可欠であり,それぞれの研究課題を実施する体制とは別に連携や意見交換に特化した体制もしくは仕組みを構築する必要があると考えられる。また,観測研究を推進する場合は,観測に直接携わる人材が徐々に減少し,かつ高齢化しているため,人的資源の配分についても実施体制全体でよく調整すべきと考える。また,たたき台(案)では,教育及び社会への対応を1つの項目としてあげられた。教育,人材育成及び社会への対応のいずれも重要であることは論をまたない。しかしながら,具体的手法は明確でなく,かつ個別の具体的な取り組みに対する評価が現行計画のレビューではほとんど言及されていないため,実質的に推進可能かという観点から,計画の一つの章としてあげられるか疑問である。研究機関(者)の実績として評価できない,あるいは評価されないのであれば,この項目への取り組みの進展は困難であると考えられる。
研究開発局地震・防災研究課