九州大学大学院理学研究院

次期計画の構成等について

 次期計画においては,予測への道筋を具体的・明確に示すことは困難であることから,基本的な道筋を策定し,5年で目新しさを求めるのではなく10年,20年の長期的計画として立案し,得られた成果で柔軟さを持ち,予測へ着実に歩みを進めるサイエンスプランである必要がある。また,若手の中で見られる「予知アレルギー」的な感情は,若手研究者の獲得を困難にし,将来の発展のために支障となる。これは現状の学問レベルと現予知計画の標榜するところのかい離が大きな原因の一つであると考えられることから,サイエンスプランとして合理的・論理的な組み立てをする必要があろう。

 一方では,理解されていない現象に対して観測データは唯一の「事実」であることから,品質の低下をさせることなく連続観測を維持し,観測技術の開発や改良を継続してより高度なデータを取得・蓄積することが極めて重要である。もちろん,データの流通,アーカイブの整備が必要である。

 観測について,特に突発現象の初期段階に多くの情報が得られ,顕著な変化がさまざまな観測しうるパラメータに現れるため,この段階の極めて迅速な観測体制の整備が必須である。予知・予測へのブレークスルーは,この初動観測を一秒でも早く実施することによって生まれうるし,世界の中で日本が唯一現実的に対応できると考えられる。また,大地震や火山噴火の発生など突発現象の初期段階の観測に基づく正確な状況把握は,防災機関の対応にも役立つと考えられる。このため,現在の大学,気象庁,国土地理院だけでなく防災機関や防衛省などと連携する必要がある。

 社会とのかかわりについては,国が一定の指針を国民に示すということ以外に,全国にある大学やその施設が地方自治体にあらゆる機会を通じて,現状を丁寧に説明する必要がある。同時に,地方自治体のリクエストに応じることによって信頼関係を築くことや地域住民への情報発信を推進する体制を明確に示すべきある。

 

地震・火山噴火予知研究協議会WGによるたたき台(案)について

 サイエンスプランとして,予測を現実に試行し,長期評価に資するアプローチを行う柱,次世代の予測研究へ向けて取り組む柱,実際の防災情報発信に資する研究という3つの組み立ては,現建議はシミュレーションが前面に立ち,観測データや結果のフィードバックが十分でない結果を招いているということが問題となっている。その意味で,現建議よりも退路を断って,予測を志向したものとして明快である。内容についても,アプローチがより明確に示されている。

 ただし,この案ではサイエンスのみについて議論されているため,推進体制についての議論が不十分である。特に,地域社会連携や基本的データの取得,人材育成における大学の役割に対する具体的展望がない。いままでの建議ではこの部分があげられていたものの実効性を発揮していないことが大きな問題である。各大学は地域と密接に連携し,信頼関係の構築・情報発信を積極的に行っていくことが,次期計画への理解を生み,国民の支持を得るために重要な活動である。また,若手研究者の育成についての具体的なアプローチ,たとえば育成教育課程の創設,単位互換,学生,教員交流などが必要だと考える。 また,基本的観測データの取得については,現在のいわゆる準基盤(大学が維持している)観測点の維持管理について,列島全体として品質維持のために必要であるが,維持困難になりつつある。日本の基盤観測は世界への重要な貢献であり,これを堅持する必要がある。一方では,機動的地震・地殻変動観測が現在解明されていない地震・噴火現象の把握に極めて重要なアプローチであることから,これを実施可能である大学の体制を拡充することが必須であると考える。

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研究開発局地震・防災研究課

(研究開発局地震・防災研究課)