別紙2で示された「地震や火山噴火の発生の基本過程を科学的に理解し,適切な防災・減災につなげていくための観測研究は継続すべきである。その上で,外部評価委員から指摘のあった別紙2に記載のある6つの事項について可能な限り取り入れ検討する」という測地学分科会の基本的な方針について賛同し,その事項をふまえ,次期計画では研究を遂行する所存です。本調査に対して次の1~3のコメントを記します。
基本的な考え方の冒頭の二文目「2011年東北地方太平洋沖地震という超巨大地震による被害軽減に貢献できなかったことが大きな課題として指摘され,観測研究の体制や運営方法などの抜本的な見直し,防災・減災に役立つ研究の実施,そして研究成果の社会への発信が強く求められている」の現状認識にたち,二段目「次期計画は,研究のレベルをこれまで以上に高めると同時に,単なる基礎研究ではなく,地震の発生及び地震に伴う現象の予測を実現することによって防災・減災を目指すという位置付けを明確にする」という方針について大局的に同意します。本調査に対して次の(1)~(5)のコメントを記します。
(1) 「現象の予測の実現」と「防災・減災を目指す」という二つの重要な内容を担保する研究分野の間には,研究の歴史や方向性,研究集団,等々,かなり多くの部分で隔たりがあるのではないかと思われ,また同時に,これまでは国や地方公共団体等の防災対策の接点は地震調査研究推進本部が担ってきた歴史があります。次期計画では経験や繫がりに長けた地震調査研究推進本部と本研究計画との間で「防災・減災を目指す」ための具体的な双方向のコミュニケーションを頻繁に円滑に進め,お互いの役割を認識しつつ「防災・減災を目指す」ことが重要になると考えます。
(2) 教育・若手人材の育成としては,高校学校での理科科目の地学履修の必修化を検討する次期ではないかと思われます。高校での地学の受講者の割合は,現時点では数パーセント以下という歴然とした事実があります。小中高の学習内容の中で一貫し地学教育の制度設計をうまく再構築することにより,数多くの地学に興味を持つ若者を育て,その中から地学研究者の卵が育つことが理想です。同時に,地震・火山噴火現象に理解がある国民を育てることに繋がると考えます。
(3) 基礎的な観測研究体制として,次期研究計画全体の意義や方向性を確認・共有しつつ,全国規模での研究推進体制が維持されることが重要であると考えます。これは,日本列島弧は必ずしも一つの島弧で成り立っているわけではなく,各島弧で進行中の現象を理解するために全国規模での調査研究が必要であり,地学研究においては地域性と普遍性の両方に意味があるという認識によります。
(4) 研究基盤の整備としては,地震火山現象の理解を進める上で複合的な視点に立った研究推進計画を進める必要があるが,その際に分野によっては基盤整備が必ずしも十分でないと思われる点があります。地殻流体や構造の不均一性を検討する際に利用することが出来る電磁気研究においては種々の比抵抗構造研究に利用できる参照磁場点の整備が求められ,また,日本全国を同一の方式で網羅するような比抵抗構造研究計画(地震研が主導するネットワークMT法観測計画等はその代表例)は研究基盤的な役割を担えるように整備する必要があります。
(5) 社会への対応として,上の(1)で述べた地震調査研究推進本部の経験と繫がりを生かした行政を通した情報の伝達を構築しつつ,同時に,我々のコミュニティの特徴を生かす試みとしては,国民,地域住民一人ひとりが自ら判断し行動するための啓蒙活動を長いスパンで考えたとき,「研究のレベルを高めること」「現象の予測の実現」により解明されたことを広く全国規模に存在するコミュニティ機関を通して「社会へ発信する」方向に取り組むことが重要ではないかと思われます。この際に防災・減災等教育に関する講習会に関してはこれに特化したものを開催するだけではなく,広く地球科学全般に関するものを継続的に提供する中で実現できることが望ましいと思われます。これは,大地の営みは自然災害という形で我々に襲いかかるだけではなく,同時に恵みも我々にもたらすことを正確に理解してもらうための仕掛けで,風光明媚な自然景観は陸海プレート境界の大地震や火山噴火に付随した地形であり,多くの人々が憩う温泉もしかり。このことを全体として国民・地域住民にわかりやすく伝えることを真剣に考え,実行する時だと考えています。
研究開発局地震・防災研究課