京都大学防災研究所

次期計画の構成等について

 「測地学分科会における次期計画に関する方針について」および「地震火山部会における次期計画に関する基本的考え方について」において示されているように,地震や火山噴火の発生の基本過程を科学的に理解するために,観測・研究(観測にもとづく基礎研究)を推進することは,地震および火山噴火予知の研究を進める上で本質的に重要と考えます。またこれらの地震や火山噴火に関する観測・研究を防災・減災という観点からどのように社会に役立てるかをこれまで以上に認識することも必要と考えます。したがって,次期研究計画検討委員会で検討されるべき原案としては,このような観点から十分検討されてきた,地震・火山噴火予知研究協議会WGによるたたき台(案)はおおむね適切と考えられます。
 ただし,上記の基礎研究(地震および火山噴火の発生過程の理解)から,防災・減災につなげる研究にどの程度踏み込むか(両者の配分やウェイトの考え方)については,今後の地震・火山噴火予知研究をサイエンスにもとづいて真に発展させるという観点からも,十分に次期研究計画検討委員会において検討していただきたいところです。

 「測地学分科会における次期計画に関する方針について」において「社会科学や工学分野の研究者との強い連携を取り,研究計画を推進すること。」と指摘いただいているように,地震・火山噴火災害軽減のためには,工学や社会科学的な取り組みが必要不可欠であることは言うまでもありません。防災研究所は,地震・火山噴火災害軽減のために,測地学分科会がとりまとめられている次期計画と強く連携して,総合防災学共同利用・共同研究拠点の機能を強化・拡充しようとしています。この取り組みを一層強化し,着実に進展させることが,地震・火山噴火災害軽減のために,極めて重要であると思います。

 なお,防災研究所からは次期研究計画検討委員会に井口委員と宮澤委員が参加しており,特に火山噴火予知に関しては井口委員から既に出されている意見(別紙5)を参照してください。

 

地震・火山噴火予知研究協議会WGによるたたき台(案)について

 地震・火山噴火予知研究協議会WGによるたたき台(案)は次期研究計画で進めるべき研究の内容について,全般的によく練られたものと思われます。
 まず,現在の地震及び火山噴火予知研究は,地震および火山噴火の発生の基本的な過程について観測データにもとづいて理解をさらに深めるべき段階にあると考えます。したがって,観測の継続は海域だけでなく陸域においても依然として重要です。このような観点からの研究計画とすることが必要です。したがって,たたき台案の第2項目「予測をめざした地震・火山噴火現象の理解の深化」のウェイトを高くすべきと考えます。このような地震・火山現象の理解を進めつつ,これまで以上に予測にも踏み込む,という姿勢になるかと思います。したがって,たたき台案のp.4最下行からp.5最初にかけて書かれた,『項目1と2は,地震発生・火山噴火の発生の予測をめざす研究である』という基本姿勢は,『項目1と2は,地震発生・火山噴火の発生の理解と予測をめざす研究である』と修正していただきたい。p.5の2段落目,『地震に関しては,現計画では主に地震発生の予知・予測により防災・減災を目指している』という記述も,『地震に関しては,現計画では主に地震発生の理解と予知・予測により防災・減災を目指している』と修正していただきたい。
 たたき台(案)の構成については,宮澤委員の指摘にもあるように,項目1.と項目2.の記載順を替えた方が分かりやすいと思われる。上記のように次期計画のウェイトを第2項目「予測をめざした地震・火山噴火現象の理解の深化」に置く場合には,なおさら入れ替えるべきです。
また,たたき台(案)にあげられた研究項目(ターゲット)の設定が分かりづらいと思われる。例えば,第2項目では,「2.2火山現象の定量化とモデル化」で火山については研究対象が種類別に分類されて分かりやすいが,「2.1地震現象の定量化とモデル化」では,なぜ2.1.1と2.1.2の2つが研究項目として選ばれているのかが理解できない。

 以下では,主に研究基盤の整備や教育,若手人材の育成に関してのコメントを記します。

 研究基盤の整備に関して(p.7,最終段落の前半部分):
 『地震・火山現象の予測のためには,長期にわたる観測データの蓄積が必要である。「4.研究基盤の整備」では,観測データの取得,流通,蓄積,共有化などのための基盤整備を行う。これまでの研究計画で研究課題間の連携が必ずしも十分でなかった原因の一つとして,現行計画で得られたデータや研究成果が,計画参加者同士でも利用しづらかったことがあげられる。』と書かれている。
 各個別計画においては,特に大規模な合同・集中観測おいては,観測に参加しなくても,解析で貢献する参加者を広く呼びかけており,一般の研究者も研究グループに参加すればデータを利用できる体制がとられています。もう一つの背景は,大学の観測研究においては,伝統的に,与えられた予算以上に,観測に頑張ってしまうという態度があるためであると思います。おそらく,多くの観測計画において,他の経費から補填して計画を遂行していることも多く,「持ち出し分」は与えられた予算より多いこともあると思います。これは,現計画の査定において,個別計画の数を増やすことを優先し,要求額を大幅に削減しても計画数を確保するという方針で進められていたことによります。他予算からの補填が期待されているわけです。このような場合,観測研究ではデータを取ることが優先され,公開のための労力や予算はどうしても後回しになります。特に,地震関係では,データ利用上必要になることが多い,1次処理データ(読み取りデータなど)は,大変な労力と予算をかけて作成したものであり,共同研究者以外の研究者へは,完全公開しにくいところがあります。

 また,「4.研究基盤の整備」に関しては,次期計画では,引き続き,観測に基づいた研究を推進するという観点からは,地震観測網の維持について,例えば,大学と関係機関での役割分担なども検討する必要があります。

教育・若手人材の育成に関して(p.8,第2段落):
 『これまでの計画では,地震火山現象の知識の普及や,次世代の地震・火山研究者の育成など,教育や社会への対応に関することについては,その重要性や実施方法についての言及はあるものの,具体的な対応は各大学や各研究機関,あるいは個別の研究者にゆだねられてきた。その結果として,予知計画全体としての最終的な成果や目標が具体化されていなかった。』と書かれています。「予知計画全体としての最終的な成果や目標が具体化されていなかった。」の部分は,その前の内容と整合していないように思います。意図されているのは,「教育や社会への対応については,予知計画全体として系統的な取り組みが行われていなかった。」ということでしょうか?

 また,p.8,第2段落に,『また,実用的な地震・火山噴火予測を実現させるためには長期間の継続的な観測と研究が必要であるので,これを担う次世代の研究者及び観測技術者を育成するための教育プログラムの構築を進める。』と書かれています。ここで指摘されていることは,極めて重要であり,強く賛同します。ただし,最後の一文,「研究者及び観測技術者を育成する」という文言は大きな誤解を招く可能性があると思います。基盤観測網などの整備により,データは誰かがとってくれるものという風潮が出きることを危惧する問題意識に立ったものであると思いますが,観測技術者という言葉が入っていることにより,「研究者は観測に関する(机上で勉強した)知識に基づきプランニングを行い,実際の観測は観測技術者が担う」という役割分担が進むことを危惧します。先端的な観測研究におけるぎりぎりの状況を体験していない研究者は,不適切な観測計画や,相応しくない観測機器の開発を行ったりする傾向があるからです。例えば,2ヶ月しか電源がもたない機器を用いているため,冬季に積雪の中でメンテナンスを何回も行う必要があるとかいう事例を耳にします。この問題のもう一つの背景には,現在,研究者と観測技術者の上下関係があり,研究者が観測機器の開発や観測計画の方針を決め,基本的には,観測技術者はそれに従うという構図があるためではないかと思います。現場の意見が,研究者の力不足と上下関係のために,意志決定に十分反映されていないのではないかと思います。この部分の趣旨を誤解の無いように伝えるには,『これを担うことができる次世代の研究者を育成するとともに,観測技術者の役割を強化する必要がある。そのための教育プログラムの構築を進めることが重要である。』と修正するのが良いと思います。

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研究開発局地震・防災研究課

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