名古屋大学大学院環境学研究科

次期計画の構成等について

 次期計画については,以下の点に留意して検討をお願いしたい。

  1. 予測をめざすことを明確に述べること。
     火山噴火については,火山噴火に関する情報を事前に発表して住民の避難を促し,災害軽減につなげることが本質的に重要であることから,噴火の予知を明確に目指した計画となっている。地震については,当面不確実性が大きい予測しかできないことは認めざるを得ないので,不確実性を客観的に示す方法としての確率で予測表現をする手法の開発を目指してほしい。災害を軽減するためには対策の優先順位を判断する必要があり,そのためには定量的なリスク評価を行うことが必要であり,様々なリスク評価を比較して対策をたてることになる。地震の予測についても,そのリスク評価の基礎となる確率表現を明確に目指してほしい。
  2. 10−15年程度の有用なアウトプットが明確にデザインされた計画にすること。
     過去3期の地震予知に関する計画は,それ以前の計画の反省の上にたって,網羅的に基礎研究を推進する構成となっていた。その計画は地震研究の発展上一定の成果があったと考えられるが,一方で,災害軽減のアウトプットを明確にはできていなかった。この研究計画は,基礎研究なのですぐに役立つことにつなげるのは難しいと思われるが,10年後や15年後といった比較的近い将来に実用化されて役に立つアウトプットを目指すことが必要である。火山についても同様に10年から15年をめどとした役立つ成果をアウトプットとして出せるように意識することが必要である。
  3. 国土モニタリング(観測)の意義にきちんと言及すること。
     陸上・海底の高感度や強震動地震観測,GPSによる地殻変動観測,津波観測などは,我が国の安全安心を維持していく上で基盤となる重要な国土モニタリングであるとの認識を打ち出し。そのモニタリングのデータを用い,予測を通じて災害軽減に貢献する研究計画という立場を明確にする必要がある。
  4. 科学計画として夢のある計画にすること。
     地震や火山活動の活発な変動帯に位置する我が国にとって地震や火山噴火に関する研究は特別な科学である。その科学を将来にわたって発展させていくためには,科学そのものが魅力的でなければならない。10年後の確実なアウトプットだけでなく,さらにその先の将来を見越した夢が必要である。
  5. 防災科学として国民が何を求めているかを意識した計画とすること。
     地震や火山の科学が日本で重要な科学であり続けるためには,国民が求めているものを対話を通じて知る必要がある。そのために工学分野や人文社会学分野の研究者の助けを借りるべきである。社会科学分野との具体的な連携は,この言葉が使われてきた割には,なかなか提示されてこなかった。災害軽減のための全体のスキームを学術的に整理し,その中で地震や火山噴火予知の役割を相対化して明確にする必要がある。そのような作業を社会科学の研究者とともに推進すべきである。
  6. 地域性に言及すること
     災害は本質的に地域性を持つものである。防災・減災に貢献する科学を目指すためには,地域性という特色を避けて通ることはできない。地震や火山現象のグローバルな共通性の解明を目指すという学問の指向は重要であるが,現象の地域性を解明していくことは防災に直接役立つ科学につながることを意識する必要がある。

地震・火山噴火予知研究協議会WGによるたたき台(案)について

 提案された「たたき台」について,大筋ではこれで良いと思う。とくに,予測を試行する「1.地震発生・火山噴火予測手法の開発」は挑戦的で大変良いと思う。
 その前提に立って,いくつかの点を指摘したい。

  1. 全体構成について
     たたき台(案)は,「基本的な考え方」によると,1.は「予測を実践しながら予測手法の開発と改良を行う」2.は「次世代の予測モデルの開発につなげる研究を行う」としている。この考え方は非常に良い。しかしながら,項目を実際に見てみると,プレート境界の地震についてはすべて「実践をおこなう」1.に含まれている。プレート境界についても実践だけでなく次世代の予測モデルにつなげる研究もあるはずであるが,たたき台(案)の項目からは読めない。プレート内地震(スラブ内地震と内陸地震)などは次世代の予測モデルにさえもまだまだ路は遠いと思われるが項目として含まれている。趣旨と実際の項目との間に乖離があることは修正すべきであろう。
  2. 強震動・津波予測と地震発生予測との関連性について
     強震動や津波の予測は,リアルタイム情報をのぞけば,震源の不均質性の問題や規模の問題と置き換えることができる。したがって,強震動や津波の予測についても,震源の問題と認識し,1.や2.との連携をしっかりと打ち出すべきである。現時点の案における強震動と津波の予測については,全体の中では非常に唐突な印象を免れない。このままでは社会に役立つ要請から手っ取り早く強震動と津波を研究課題に入れたと見られてもしょうがない。地震の震源を扱う研究に関連して地震発生予測と強震動・津波予測が行われる必要があり,研究の位置づけを明確にしてほしい。
  3. 工学研究者や防災研究者との連携について
     案においては,「組織的に連携を進める」としているが,現場の研究レベルでの連携が進んでいない現状において組織的に進めたとしても,形を整えるだけで内容はバラバラのままになる懸念を払拭できない。むしろ,連携した課題を促進する工夫や,そのような取り組みに対してのインセンティブを与えるようにすべきである。関連する大学には工学や人文・社会科学の研究者がおり,そのような研究者との連携の方策については実際の研究(あるいは教育)の場で探らせることを推進すべきであろう。
  4. 普及・教育・社会対応
     本案では,このような取り組みが各大学や研究機関にまかされてきたことを反省している。しかし,問題は,そのような取り組みを予算面や評価面で重要視してこなかったことが問題である。普及・教育・社会活動を進めていることについても,具体的な計画と進捗状況の検証をし,成果を上げた内容については評価をするという努力が必要である。連携を進めるのならば,予算的裏付けと評価システムが必要である。

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研究開発局地震・防災研究課

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