東北大学大学院理学研究科

次期計画の構成等について

  1.  いろいろと批判はあったにしろ,地震・火山噴火の深い理解に基づき予測研究を進めるという方針そのものは間違っていなかったと思うので,その方針は外すべきではない。
  2.  大風呂敷とならないように,十分注意する必要がある。
  3.  計画である以上,なんらかの約束が必要なことは理解しているが,現時点での観測網と研究の到達点を考えると,5年後の到達目標としては,大したことは書けないと思われる。一方,長期的な目標は掲げる必要があるが,あまり遠すぎてもいけないであろう。15年くらい後の目標を設定し,5年毎に中間評価を受けて継続の是非の判断をあおぐ,というシステムが最も社会に対して説明しやすいし,やりやすいのではないか。
  4.  .社会からの要請にどう応えるのか,という問題は,先日の科学技術・学術審議会の建議でも取り上げられていたが,これは,本研究計画だけで解決すべき問題ではなく,推本や,文科省の委託研究もあわせた全体で考えるべきである。社会に応えるためのシステム作りは重要だが,その作業は本計画だけで閉じないで,推本ともよく協議して進めることが必要である。

地震・火山噴火予知研究協議会WGによるたたき台(案)について

 理解の深化をさらに進めながら,できるところから予測を進めようというWGの考え方は,大枠では支持できるが,以下について検討が必要と思われる。

(1) 「1.地震発生・火山噴火予測手法の開発」について

 1では予測手法の開発を前面に出している。これは,基礎科学だけに留まっていてはいけないという反省からそのようにしたと認識しているが,大風呂敷を広げ過ぎた,というのも現在の反省にあるはずで,1を前面に出すと,それと同じ轍を踏みかねないと危惧する。1と2を入れ替えた方が良いかもしれないが,それができないのであれば,表現に注意する必要がある。
 予測を実施するのではなく「予測手法の開発」ということで和らげたと理解したが,サブ項目に「予測」という用語が並んでいるので,1の題の「手法の開発」が目につかないで「予測を実行するのだ」と誤解される危険性が高い。また,「開発」というのも,すぐにでも実用することを目指した開発と捉えられかねない。特に,同じ「手法」という用語でも3での「推定手法の高度化」での「手法」とはレベルの違う話であり,「手法のプロトタイプの開発」といった,まだ toy model に過ぎないことがわかるような工夫が必要と思われる。
 また,ここでは,これまでの重要課題であった「ポテンシャル評価」といった,時間軸の入らない「規模と場所の予測手法の開発」をどこで行うのか明確ではない。アスペリティモデルにはいろいろと問題があったかもしれないが,一方で,すべての場所で,地震の規模の予測がGR式による確率でしか評価できない,ということはないと考えられるため,そのようなポテンシャル評価の研究は今後も推進すべきである。1.1.1あるいは1.2に組み込むことを想定しているのなら,題名に工夫が必要である。下記の(2)とも関係するが,1.1.1に入れるのなら「標準」を取って「予測のためのモデル構築と長期予測の信頼性向上」とすれば組み入れられるし,1.2に組み込むのなら「歴史・地質・地球物理学的データに基づく地震シナリオの構築」とすれば入れられると思う。

(2) 「標準モデル」について

 1.1.1において,「標準モデル構築」と出てくるが,「標準モデル」はあくまでも reference model であり,1次元構造で言えば気象庁構造やPREM,JBモデルといったようなものであり,絶対的なものではないと理解しているが,実際にはあたかも正しいものかのように独り歩きする可能性がある。「標準モデル」という用語は,特に専門外の人にしてみれば,オーソライズされたモデルと受け止められると危惧する。
 たとえば地震波速度構造の「標準モデル」をシミュレーション等のために必要としている人達はトモグラフィについて詳しくない人が多いと思われるので,得られた構造モデルのうちの特に誤差が大きい部分はどのようなところか十分な注釈が必要である。また,「標準モデル」自身の発展も重要な研究課題であることを強調しておいてほしい。
 また,アスペリティ・モデルのような地震発生モデルの標準化を述べているのであれば,そのような特定のモデルにこだわりすぎたことも今回の反省点であるので,常に alternative なモデルを用意しておく必要がある。

(3) 「2.3 プレート内地震・火山噴火の発生場のモデル化」について

 「プレート内地震・火山噴火の発生場のモデル化」とあるが,これと1を見比べると,プレート境界地震のモデル化は完了しているように読めてしまう。「モデル化」の到達度がプレート境界とプレート内部ではまったく異なることは理解しているが,「プレート境界地震の理解は十分で,あとは予測手法の開発をするだけだ」と読めることを危惧する。2.3の「プレート内」の字句を消去して「地震・火山噴火の発生場のモデル化」とだけにするほうが良いように思われる。
 もし,1のほうでプレート境界地震のモデル化も含めるのであれば,上記の(2)の問題もあるので,1.1.1で「標準モデル」をやめて「予測のためのモデル構築と長期予測の信頼性向上」とし,説明の中で「標準モデル」という用語を注意深く説明を加えながら使った方が良いと思われる。
 また,東北地方で観測研究を実施しようとすると,2.3.1と2.3.3で行うことの切り分けは不可能である。また,東北地方太平洋沖地震だけが固有名詞で出ているが,たとえば東南海・南海地震前に内陸の活動度が上がるという研究もあるので,プレート境界での固着・すべりに対する内陸の応答という意味では,西南日本の研究も重要であろう。したがって,2.3.1は,「プレート境界の固着・すべりと内陸の地殻応答」といったタイトルで一般化したほうがよいのではないか。

(4) 「2.4 観測・解析技術の開発及び継続的高度化」について

 「開発」は2に関する部分だが,「継続的高度化」のほうはすでにモニタリングに使われているという意味であろうから,この部分だけは1のほうに入れた方がスッキリする。技術開発を別の大項目にしない,という考え方には賛成するが,1と2それぞれで必要なのだから,もし,1をプレート境界に限定するのなら,プレート境界をモニタするための観測・解析技術の高度化(たとえば滑り欠損推定法の高度化等)は1に入れるといった切り分けが必要だろう。

(5) 「6.体制整備」について

 推本は内陸の観測に関しては現状維持のように見えるし,WGの計画からはモニタリング観測は基本的に基盤観測にまかせているように見える。その中で,いわゆる「準基盤観測」の将来像が推本からも次期計画からも見えてこない。機器が老朽化し,職員も予算も削減されており,維持は困難となっている。このままでは準基盤は維持できないことは自明であり,各大学にまかせて廃止となってもよいのか,それとも全体で手当てして維持すべきと考えるのか,よく議論して,それをここに盛り込んでほしい。

(6) 全体について

 これについては以下に箇条書きにする。
A)  「萌芽的研究」はボトムアップの研究では絶対に必要だと思うが,それをどこでやるのかが見えない。たとえば公募研究でそのような萌芽的研究を奨励する旨をどこかで書いてほしい。
B)  低頻度大規模災害について,2.2.3に火山噴火はあるが地震は入っていない。1.2に含めるのか?それとも1.1で,低頻度大規模地震まで含めてモデル化して,それすらも予測できる手法のプロトタイプの開発を目標に置くのか?どこに入れても良いが,地震のほうも忘れないで入れてほしい。
C)  国際的連携もキーワードの一つのはずだが,それが見えてこない。現計画では長期広域で周辺国とのGPS共同観測という形で入れていた。今後は超巨大地震の解明は国際連携で進めざるを得ない。項目名としては入っていなくても,必ずどこかで入れるようにしてほしい。
D)  「首都圏」について何も触れなくて良いのか?1.3で取り扱うことになると思うが,東北地方太平洋沖地震の余震の推移予測については,推本だけでなく,本研究でも重要な課題であり,忘れてはならないと思う。
E)  シミュレーションや素過程が独立の項目ではなくなったので,それぞれの計画項目の責任者が詳細を詰める時には,シミュレーションと素過程の研究者とも連絡を取りながら進めてほしい。

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研究開発局地震・防災研究課

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