弘前大学理工学研究科

次期計画の構成等について

  1. 実用科学の推進について
     東日本大震災を受けて,これまでの研究計画に対して指摘された最も重要な事項は,「外部評価委員会からの主な指摘事項」(別表1)において改善すべき点とされた「国民の命を守る実用科学としての地震・火山研究の推進」,及び「地震火山部会における次期計画に関する基本的な考え方について」(別紙3)の「地震と火山噴火に関する研究が,どのように社会に役に立つのか,社会の中の科学という観点を強調すること」である。
     これを狭い意味で捉えると,地震火山噴火予知研究によって防災に貢献すべきということになる。しかし,防災は社会のシステムを変えることによって備え,国民が動くことによって初めて実現するものであるので,効果のある防災を実現させるためは,理工学の分野を超えて,人文・社会・経済・教育・医療等の広範な分野にまたがる「防災学」の進展が必要である。そのような観点からすると,地震火山噴火予知研究が防災に対して大きな責任を持つことは確かであっても,地震火山噴火予知研究のみで防災貢献をなすことを目指すべきではない。現計画も基本的には基礎研究と位置づけられて実施されて来たし,例えば5年間の研究計画で「実用科学」になれるほど現在のレベルは高くない,というのが研究者の認識であると考える。
     そうすると,次期計画の目指すべきところは,5年に限らない長期的視野で「防災学」を進展させるべく大きな柱を立て,自分たちができるところから始めていくことであろう。地震及び火山に関する科学研究を発展させることはもちろん必要であるが,これまでに実施されてこなかったことをきちんと柱立てして進める姿勢を示し,具体的な目標と年次計画を立て,人材と資金を投入して行く必要があると考える。
  2. 中・長期的なロードマップについて
     この点もこれまでの計画研究において欠けていた部分である。これまでの研究計画では5か年での具体的到達目標は各課題において設定していたが,計画全体での到達目標が不明確で,5か年でどこまで近づいたのかの評価も甘かったと言わざるを得ない。従って,ロードマップきちんと描いた上で計画を立てる必要がある。また,各課題がロードマップ上でどのような位置づけにあるのかを課題担当者がしっかりと把握する必要がある。さらに,長期的なロードマップは,地震・火山噴火予知への道のりだけではなく,上に述べた「防災学」を進展させ「防災文化」を成熟させるための道のりを示すように作成する必要があるのではないか。 

地震・火山噴火予知研究協議会WGによるたたき台(案)について

 地震発生予測に関しては,物理モデルによる予測を強く意識した内容になっていて,それだけを行うのであれば合理的な計画と考えられる。しかし,物理モデルに基づいて説明できる地震現象はそれほど多くない。計画の精神は,物理モデルに基づくシミュレーションによる予測をやってみて,その結果必要と考えられる研究を推進するということであろう。それは必要なことであるが,物理モデルに乗らない現象の研究も項目に入れておかないと,片手落ちではないだろうか。

 計画の構成は,「予測手法の開発」,「現象の理解の深化」の順になっている。これは,現計画において「予測のための観測研究の推進」を先頭に置き,その中でも「モニタリングシステムの高度化」から始まる構成にしたことが「背伸び」であったと批判を受けた構図と変わらないのではないか。これまでの研究計画との違いを示したいことは理解できるが,社会からの要請は予測を実現することではなく,研究が防災に役立つアウトプットを提供することと,社会と関わって防災貢献することと考えられる。むしろ「教育及び社会への対応」をどれだけ具体的に計画として取り込めるかが問われているのではないか。研究者の数から言っても,1と2は順番を入れ替えてはどうか。

 多くの研究者がいる観測研究が入り込める項目が少なく,研究者の少ない分野が多くの項目を占めているように見える。これは,そのような構成とすることで研究者数のバランスを変えて行こうという意図があるのかもしれないが,それには時間がかかる。また,数少ない研究者が多くの課題を支え,しかも研究計画の先頭の項目に位置づけられていると,責任だけ負わされることにならないだろうか。着実な成果が見込める,観測研究をベースとした項目を増やした方がよいと考える。

 「教育及び社会への対応」の項目は,理工学の分野を超えて,人文・社会・経済・教育・医療等の広範な分野にまたがる「防災学」の進展を目指す項目と位置づけるべきである。ただし,最初の5か年で広範な連携を図ることは困難であるから,当面は,分野的に近い工学分野との連携を進めること,それ以外の分野でどのような貢献が可能かの調査を行い連携の組織作りを進めること,アウトリーチ活動や地域貢献的な活動も研究計画内できちんと位置づけること等が考えられよう。例えば,理学系研究者の少ない地方大学でも,教育や人文系の研究者との連携やアウトリーチ活動は,理学系研究者の多い大学よりはむしろやりやすい面がある。これまでは専ら理学的な研究成果を評価する研究計画であったが,理学的研究以外の取り組みも進めることが,社会からは要請されていると考える。

 研究を進める体制は,これまでは機関が中心となっていた。次期計画検討の議論の中では,科研費的な個人研究をベースにした方がよいとの意見もある。しかし,全てを個人ベースにすると,計画に対する責任の所在がはっきりしなくなる。また,地震火山噴火予知研究の中には,科学研究としての成果は大きくないが防災上必要な研究もある。それは機関が責任を持って進めるべきである。

 観測研究体制については抜本的な改善を望みたい。法人化後,予算及び人員の削減が続き,観測網を維持しつつ研究成果も挙げることは,地方大学では極めて困難になりつつある。また,定常観測網の維持は他分野からは成果とは見なされず,学内での理解も得られにくくなってきている。研究計画において観測網維持のための人的・経済的サポートを希望するが,それが適わないのであれば,大学の将来構想としては観測からの撤退も視野に入れなければならなくなる。 

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研究開発局地震・防災研究課

(研究開発局地震・防災研究課)