3-2.地震・火山現象解明のための観測研究の推進(その2)

(3)地震発生先行・破壊過程と火山噴火過程

(3-1)地震発生先行過程

 地震発生の予測の時間精度を高め,短期予測を可能にするためには,地震発生の直前に発生する非可逆的な物理・化学過程(直前過程)を理解して,予測シミュレーションモデルにそれらの知見を反映させ,直前過程に伴う現象を的確に捕捉(ほそく)して活動の推移を予測する必要がある。これまでの研究によって,地震に先行して発生する現象は多種多様であり,地震発生準備過程から直前過程にまたがって発生する現象の理解を進める必要性が認識されてきた。このために,地震に先行する地殻等における諸過程を地震発生先行過程と位置付けて研究し,そのメカニズムを明らかにして,特定の先行過程が地震準備過程や直前過程のどの段階にあるのか評価することが重要である。

・先行現象の発生機構の解明

 アスペリティのスケール間相互作用が震源核形成を含む地震サイクルにどう影響するかを考察するために,破壊成長抵抗の分布に階層的な不均質を与えた断層のモデルを用いたシミュレーションを行った(図11)。その結果,準静的な大きな震源核形成を経て大地震が発生する場合と,小地震が上位階層のアスペリティの破壊を誘発する場合とが交互に起こることが見いだされた。つまり,たとえ階層構造が存在しても,階層が下位のアスペリティから破壊がいつも始まるわけではなく,最上位のアスペリティ自身の内部でプレスリップを伴いながら震源核が成長して本震に至るケースも可能であることを示した。

 数値シミュレーションによって,深部ゆっくり滑りの伝播(でんぱ)現象については,巨大地震発生前になると,発生間隔が短くなるとともに伝播(でんぱ)速度は速くなり,解放モーメント率が増加する傾向が見られることを昨年度示した。今年度は,さらに,浅部ゆっくり地震も共存させるモデルを構築した。その結果,浅部ゆっくり地震の方が深部よりも時間変化が顕著であることがわかった。このことは,近いうちに発生するとされる東南海地震について,海底観測などによって切迫度を評価する上で活用されることが期待されるものである。

・観測データによる先行現象の評価

 日本のGPS観測データの解析によって,東北地方太平洋沖地震の約40分前から,震源域上空の電離圏で全電子数(TEC)が最大一割近く増大する異常が見つかった。同様の異常変化は2010年2月のチリ地震,2004年12月のスマトラ地震,1994年10月の北海道東方沖地震においても見いだされており,M8を超える巨大地震に普遍的なものかもしれない。

(3-2)地震破壊過程と強震動

 地震や津波の観測データの解析に基づいて,大地震の震源破壊過程を詳しく調べることは,大地震が発生する過程の理解や強震動となる原因の理解を深め,将来の大地震の強震動と津波の発生の迅速で正確な予測につながる。さらに,大地震発生直後に観測データを即時に解析して震源域の広がりと地震の破壊の過程を正確に推定することは,強震動の地域的な広がりと災害の把握に有効である。また,沿岸の津波到達・浸水予測のための手法を,地震津波解析技術,データ流通技術,高速計算技術を駆使して開発することは災害軽減に直接つながる。

・断層面の不均質性と動的破壊過程

 東北地方太平洋沖地震の震源過程解析において,日本の高密度強震観測網で捉えられた強震波形記録や,GPSデータ,遠地実体波記録を統合的に用いたインバージョンに基づく詳細な検討を行った(図3)。その結果,震源の破壊開始点付近でも20~30 m以上の大きな滑りが確認された。この場所では過去に大きなアスペリティは知られておらず,これまで日本海溝周辺域で存在が知られていたアスペリティの複合破壊だけでは今回の地震を説明することはできないことが明らかとなった。また,遠地実体波を用いた経験的グリーン関数法に基づく震源解析からは,震源域の周辺で高い周波数(約1 Hz以上)の強震動が強く放射されたことがわかった。

・強震動・津波の生成過程

 津波波形解析から,海溝寄りの浅部プレート境界で55 mを越える非常に大きな滑りが推定され,この大きな滑りが発生した領域では,1 Hz程度以下の低周波数の地震動が強く放射されたことが示された。これらの結果から,強震動を作り出している領域と大きな津波を生成している領域が異なることが明らかとなった(図3)。津波予測システムの構築に向けた研究として,沖合GPS波浪計や海底ケーブル津波計記録を用いて,津波波源域を即時に推定する手法の有効性が示された。また,地震記録を用いた解析から断層サイズと滑り量を見積り,津波シミュレーションにより沿岸の津波高と津波遡上域の推定をリアルタイムに行う手法や,時間経過とともに新たなデータを取り入ながら予測を修正する手法が検討され,その有効性が示された。さらに,GPSと沖合津波計を併合した津波予測システムとして,まず陸上のGPS観測データ解析から初期断層モデルと震源域直上の初期海面変動を推定し,次に沖合津波観測データを用いて震源モデルの修正と沿岸津波の予測修正を逐次的に行う手法の開発が進められている。

(3-3)火山噴火過程

 噴火規模や様式,噴火推移を支配する要因を理解するためには,火道浅部におけるマグマの挙動や火山体構造の状態を把握し,それらと噴火規模や様式との関係を明らかにすることが必要である。火山噴火過程研究計画では,「ア.噴火機構の解明とモデル化」と「イ.噴火の推移と多様性の把握」の研究を2本の柱とし,両者をあわせて考察することにより噴火シナリオの作成に資することを目的とする。

・噴火機構の解明とモデル化

 繰り返し発生する噴火を対象として集中的な地球物理学・物質科学的観測を行い,爆発的噴火直前の圧力蓄積過程を調べた。諏訪之瀬島では,火道上部で固まったマグマが「キャップ」を形成し,火道最上部に圧力が蓄積されること(図12)が,以下の観測・解析結果から明らかになった。まず,圧力蓄積は山体膨張として観測されるが,その開始が火山灰放出を示す連続微動の停止に同期していること,噴火直前には微小ながら火山ガス放出量も低下することが分かった。また,爆発的噴火に伴う爆発地震を適切に配置した地震計で精密に観測・解析することにより,深さ200~800 mの震源に加え,「キャップ」によって生じた火口直下の圧力源の存在を示す波動成分が認められた。噴火直前の噴出孔閉塞を示唆する山体膨張や噴煙活動の停止は,新燃岳でも確認された。また,そこでは,開発が進められている火山ガスのモニタリングの新手法を用いて,爆発的噴火直前に火山ガス放出率が減少していることが確認された。

 火山ガスの発生と放出・蓄積は,爆発的噴火の鍵となる過程であり,そのモニタリング手法の開発やモデルの構築が進められた。口永良部島(くちのえらぶじま)においては,山頂部の膨脹や地震活動の活発化,消磁と同期した火山ガス組成の変動現象を説明するモデルを構築した。霧島火山では,Multi-GASシステム(多成分センサー噴煙組成観測システム)を用い,連続観測及び無人飛行機による噴火直後の噴煙組成観測に基づいた火山ガス組成の推定を行った。薩摩硫黄島火山を対象としたマグマ-熱水系のシミュレーションの結果と,地表温度分布測定結果との比較から,火山ガスの供給が地下300 m程度の浅所で生じていること,火山ガスが凝縮した酸性熱水の流動と自然電位異常の関連性が明らかになった。また,噴煙の時空間分布のパターンマッチングから噴煙速度の時空間分布を推定し,ガス放出率を決定する新しい方法を考案するとともに,ガス放出率自動測定装置の長期稼働を行った。

 一方,爆発的噴火を引き起こす火道浅部構造を解明するために進めてきた浅間山の観測研究では,雑微動を用いた地震波干渉法により,火山体西部の深さ5~10 kmに,局所的なS波の低速度領域が見出された。S波の速度は,流体の存在により大きく低下することや,地殻変動から推定されるマグマの貫入位置などを考え合わせると,この低速度領域はマグマ溜まりである可能性が高い。さらに,これまでに実施された比抵抗探査や地震波構造探査の結果や,ミューオングラフィーによる密度分布などの各種解析結果と統合することにより,上部地殻から山頂火口に至るマグマの供給経路の全貌が明らかになった。

・噴火の推移と多様性の把握

 浅部噴火発生場の検証研究として有珠山(うすざん)で行われた,地震探査や空中磁気測量及び熱観測の解析が進められた。2000年噴火でできた新山の沈降中心付近では,噴火直後に比べてP波速度が増加しており,陥入したマグマやその周辺領域が押し固められつつあると推定された。2000年噴火新山,山頂火口原及び昭和新山の3地域に,冷却によると思われる帯磁が認められ,新山付近の噴気地からの放熱率も,噴火3~5年後をピークに減少にしていることがわかった。一方,1910年噴火で生じた明治新山付近には有意な帯磁変化は認められず,1977-82年噴火で生じた噴気地帯では噴火30年経った今も高い放熱量が保たれている。2000年噴火とこれらの過去の噴火とでは,貫入マグマ量や熱水循環システムの発達に大きな違いがあると推察された。

 世界全体の火山活動度の経験則(噴火規模が小さくなるにつれて発生頻度が指数関数的に増大する傾向)が,カルデラを作るような超巨大噴火を除いて,個別の火山においても成立することが明らかとなった。すなわち,大噴火と小噴火の発生する割合は,いずれの火山でも大きく違わず,この結果は中長期的な噴火活動の予測に有効であることがわかった。

(4)地震発生・火山噴火の素過程

 より信頼性の高い地震発生モデルを構築するために必要な,地震発生の各過程を支配する破壊・摩擦構成則の素過程を理解するための実験的・理論的研究を行った。時空間的スケールが数桁以上異なる自然地震へ室内実験の知見を適用することの妥当性を検討するために,摩擦・破壊現象の規模依存性を明らかにするための実験・観測を行った。

・破壊現象の規模依存性

 花崗岩試料を用いた一軸圧縮破壊試験において,広帯域センサーを用いてAEの連続計測を実施した。観測されたAEのS波のスペクトルから地震モーメントとコーナー周波数を推定した。得られた地震モーメントはコーナー周波数のマイナス3乗にほぼ比例することがわかった。これは,自然地震において成り立っている関係と同じであり,自然地震と実験室のAEが同じ物理過程に従い発生することを示唆する(図13)。

・掘削試料の解析

 南海トラフ付加体浅部(海底下約1000 m)から採取された2種の泥質堆積物試料について,微細構造観察,粒径・孔隙率計測,粉末X線回折分析,透水実験及び破壊実験,摩擦実験を行った。石英や長石などの砕屑(さいせつ)粒子に富み,粘土鉱物粒子が比較的少ないタービダイト起源泥試料は,孔隙(こうげき)が多く,透水性が高い。対照的に,半遠洋性泥試料は細粒均質で,粘土鉱物粒子に富み,孔隙が少なく,透水性が低い。破壊強度はタービダイト起源泥試料の方が高かった。これらのことは,高速滑り時の摩擦挙動などに制約を与え,付加体浅部における断層滑り様式を推定するうえで有益な情報である。

・摩擦の素過程

 時々刻々と変化する滑り面の状態をモニターすることは,摩擦を理解する上で重要である。高速滑りにおいては,ガウジの生成が摩擦強度の変化に大きな影響を与えており,滑り弱化の主なメカニズムとなっている。室内実験により,人工的に作った断層上で高速滑りを発生させ,断層面を透過する弾性波の振幅及び電気伝導度の連続測定を行った。透過する弾性波の振幅の解析から,滑り面内に形成されるガウジ層の中の空隙と摩擦強度との関係が明らかになった。電気伝導度の解析からは実際の接触面積の時間変化の情報が得られており,これら2つのデータの同時解析から,高速滑り摩擦のより詳細なメカニズムの知見が得られるであろう。

 高速滑り時の強烈な速度強化を説明するために粉体動力学に基づく理論を構築した。この理論では,速度強化は,粒子の微小変形に伴うエネルギー散逸が原因であるとしており,粒子間の摩擦係数には依存しない。この理論を検証するために,滑り速度を変化させて花崗岩試料を用いた摩擦実験を行った。中程度の滑り速度(1mm/sのオーダー)では顕著な速度弱化であるが,地震時滑り程度の高速滑り領域(1 m/sのオーダー)では速度強化に転じるという結果を得た。この強化の度合いは新たに構築した理論と整合的であった。

・火山噴火の素過程

 霧島山新燃岳噴火において,空振と地震波形両方に調和型振動が観測された。室内モデル実験で空振(ガスの流れ)と地震波(地盤振動)の両方の現象を再現し,調和型振動の推移の原因,系の形状変化や励起源の実態を明らかにした。

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